たえこママと、メカ子さん
(舞台説明)
ここは、メタバース空間のとあるバー、切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。
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昼もひなかの『The Wallet』
「いやぁ、ebayの奴まで一瞬でフッ飛ばすなんて、ママのセキュリティは世界一だね」
常連の男が、温め直してもらった『豚の生姜焼き亭主』を器用に口に運びながら感心していた。
たえこママは「海外発送なんて面倒なだけさ」と鼻で笑いながら、お玉をカウンターに置いた。
その時、バーの扉が、凄まじいシステム起動音と共に開いた。
『ウィーン――システム起動。対象、そば屋の居抜きバー「The Wallet」のたえこをロックオン』
入ってきたのは、頭部にパナソニック製の最新液晶ディスプレイ、胴体に東芝テック製のスマートなPOSレジ、そして両腕にJRメカトロニクスのIC改札エラー解除アームを装備した、サイバー感全開の女性型アバターだった。
アバター名にはハッキリと【メカ子】の文字が輝いている。
「メタバース新宿から、はるばる御足労してあげたわよ、たえこ!」
メカ子さんは、カツカツとヒール(という名の端子)を鳴らしてカウンターに歩み寄る。
常連の面々は、そのあまりにもガチすぎるマルチ決済Terminal(端末)の威容に驚愕し、またまた唖然として大騒ぎを始めた。
「ちょ、ちょっとママ! 今度は国際ロマンス詐欺でも元カレでもなくて、ガチの業務用決済端末のバケモノが来たんだけど!?」
「パナソニックに東芝テックにJRメカトロニクスって、日本の社会インフラを牛耳る最強の組み合わせじゃないのよ!?」
メカ子さんはフッと液晶画面を明滅させ、高笑いした。
「フフン、相変わらず古臭いそば屋の居抜きで、泥臭い人情なんか売ってるのね。今のトレンドはメタバース新宿の超高速ノンストップ・マルチ決済よ! あなたのその『お財布(The Wallet)』、私が最新のシステムで完全統合して、新宿の駅ビルに強制出店させてあげましょうか?」
かつてのライバルからの、まさかの宣戦布告。
しかし、たえこママは動じない。
「相変わらずご大層なメカを身に纏ってるねぇ、メカ子。新宿の改札やレジで何万回決済されようが、あんたのその冷たい基盤じゃ、お客の本当の『心のお財布』は開けやしないんだよ」
「な、なんですって!? 私の処理速度を舐めないで!」
怒ったメカ子さんが、JRメカトロニクス製のアームを振り上げ、エラーコードを放とうとした。
だが、たえこママの動きの方が一瞬早かった。
カウンターの下から、今日一番の鋭さで使い込まれた「お玉」が引き抜かれる。
コン、と、お玉の底でカウンターを叩く音が、メカ子さんの最新集音マイクを振動させた。
「いいかい、メカ子」
「よく、おきき!」
「な、何よ……」
メカ子さんの画面に、一瞬「処理遅延」のエフェクトが走る。
「あんたさぁ、新宿からわざわざマウントを取りに来たのか知らないけどね。
ウチの常連はね、あんたの超高速決済じゃなくて、ビッグ・エーの特売玉ねぎをエバラのタレで炒めた、この生姜焼きを食べに来てんだよ!」
たえこママの、威勢のよい、ゲキが飛んだ。
「だいたいねぇ! 起動音からして機械臭くて五月蝿いんだよ! お客の体温も知らないような冷たい Terminal(端末)はね、あたしの『特製トマトおでん』の出汁にもなりゃしないんだよ! エラーコード:404でも吐き出して、とっとと新宿へ強制シャットダウン(退店)しな!」
「キャーッ! 圧倒的な人情出力で、システムがオーバーヒート(熱暴走)するーー!?」
メカ子さんは、
たえこママの放つ凄まじい威圧感に耐えきれず、液晶画面に「システムエラー」の文字を点滅させながら、慌ててログアウト(強制終了)し、火花のような光の粒子となってメタバース新宿へ送還されていった。
「やれやれ、お昼の営業が終わったと思ったら、今度は新宿の精密機械かい。人使いの荒いこったねぇ」
たえこママがやれやれと首を振ると、常連たちは割れんばかりの拍手と歓声を上げた。
「ママ、最高!! 最新の業務用端末すら一言でバグらせるなんて!」
「さすが白山の守護神だ! 新宿の最新メカなんて、お玉一本で十分だね!」
「当たり前さ。機械に頼ってばかりじゃ、人間錆びついちゃうからね。ほら、お礼に余ったタラモサラダもつけちゃうよ、みんなたくさんおあがり!」
「やったーー!」
国際ロマンス詐欺、3人の元夫、海外の元カレ、そして新宿の最新ライバルメカまでをも退けた、そば屋の居抜きバー『The Wallet』。
メタバース白山のお財布は、今日もどんな最新テクノロジーより温かい、人の笑顔と美味しい匂いで満ち満ちているのだった。




