たえこママの、生姜焼き
(舞台説明)
ここは、メタバース空間のとあるバー、切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。
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昼もひなかの『The Wallet』
噺は、遡って
「ねえママ、最近メタバースの白山も昼間っから人が増えてきたじゃない? お昼のランチ営業とか、やってみない?」
夜の営業中、常連の男がハイボールを片手にそんなリクエストを出した。
すると、周りの常連たちも「それいい!」「ママの手料理が昼から食べられるなんて最高!」と大賛成の嵐。
「ランチぇ? めんどくさいねぇ……」
たえこママは口ではそう言いながらも、翌朝、さっそく行動に移していた。
やってきたのは、メタバース空間の片隅にある、いつものディスカウントスーパー『ビッグ・エー(Big-A)』。
「お、今日は豚こま肉が特売じゃないの。それに玉ねぎも安いねぇ。よし、これできまりさ」
手際よく食材をカゴに放り込み、お店に戻ったたえこママは、仕込みを開始した。
メニュー名は、なぜか『豚の生姜焼き亭主』。
昨日、三人の元夫(亭主)たちがゾロゾロと押し寄せてきた余韻が、こんなところに生々しく残っていた。
そして、記念すべきランチ営業の初日――。
「お待ちどおさま! ランチ限定『豚の生姜焼き亭主』だよ!」
カウンターに並べられたのは、ツヤツヤと輝くタレがしっかりと絡んだ、ボリューム満点の生姜焼き。
香ばしいお肉と玉ねぎの匂いが、そば屋の居抜きバー『The Wallet』の店内にブワッと広がっていく。
「うわあ、めちゃくちゃ美味そう!」
お昼休みにログインしてきた常連の面々が、一斉に箸を伸ばした。
パクッ、と一口食べた瞬間、常連の男が目を見開いた。
「な、なんだこれ……! 肉がめちゃくちゃ柔らかくて、タレのコクが深すぎる! プロの隠し味だ!」
「本当ね!」
常連の女性も、ご飯をハグハグと口に放り込みながら感動している。
「甘みと旨みのバランスが絶妙! ママ、これ一体どうやって味付けしたの!? すりおろしたリンゴとか、秘伝のスパイスでも入ってるんでしょう!?」
あまりの美味さにびっくり仰天し、熱弁を振るう常連の面々。
そんな彼らを前に、たえこママはフッと不敵な笑みを浮かべ、カウンターの下から「二つのボトル」をポン、ポンと取り出して見せた。
「隠し味も何も、味付けはこれだけだよ。『エバラ焼肉のタレ』と、イオングループが誇る『トップバリュ(TOPVALU)の生姜チューブ』さ!」
「えええええええーーーっ!?」
バーの店内に、常連たちの驚愕の叫びが響き渡った。
「エ、エバラ!? 焼肉のタレで生姜焼き作ったの!?」
「そうだよ」
たえこママはあっけらかんと言い放つ。
「エバラのタレにはね、最初から果物や野菜の旨みがこれでもかってくらい詰まってんだよ。
そこにトップバリュの生姜チューブをこれでもかとブチ込めば、誰が作ったって極上の生姜焼きになるのさ。
名付けて『豚の生姜焼き亭主』! 手抜きなのに、男(亭主)の胃袋をガッチリ掴む悪魔のメニューだよ!」
あまりにも堂々とした種明かしに、常連たちは唖然としながらも、再び生姜焼きを口に運ぶ。
「……悔しいけど、めちゃくちゃ美味い。エバラとトップバリュ、恐るべしだわ」
「ママの手にかかれば、市販のタレも魔法の調味料になっちゃうんだな」
「だろ? ほら、ご飯のおかわりならいくらでもあるからね、たくさんおあがりよ!」
たえこママの威勢のよい声に見送られながら、常連たちは大満足でランチを平らげていく。
メタバース白山のお財布(The Wallet)は、お昼時も、お腹を空かせた常連たちの笑顔と温かい熱気で満ち溢れているのだった。




