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たえこママと、フレネミー


(舞台説明)

ここはメタバース空間にある、とあるバー、店を切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。


————————————————————————-


深夜の『The Wallet』


カウンターでは、銀聯先生がファーウェイのスマホを片手に「大家好ダージャパオ!」と微博ウェイボーの生配信中。


その横で、小麦色に日焼けした紫式部さんが十二単の袖から最新のiPhoneを覗かせ、静かに画面をタップしている。


一見、国際的なインバウンド同盟を結んだ仲良しコンビ。しかし、バーの平和は長続きしなかった。


「ちょっとみんな、スマホ(端末)を見てごらんよ……!」


PayPayくんが、青ざめた顔でレモンサワーのメガジョッキを落としそうになった。


「X(旧Twitter)で、白山の居抜きバーを発信源にした、ものすごい毒舌の『裏アカ』が10万リツイートされて大炎上してるんだ!」


「なんだって?」Suicaくん(東京)がモスコミュールを止める。


PayPayくんが震える手で、その裏アカの投稿をホログラムで空間に映し出した。

アカウント名は【@akazome_diary(あかぞめ日記)】。


【@akazome_diary の投稿】

『隣のチャイナドレスの人、微博ウェイボーの生配信で「日本のポテサラ最高アル!」とか言いつつ、私のお土産の紅芋タルトを一口で3個もバクバク食べてて、いとあさまし。


だいたい、白酒パイチュウの度数が高すぎて、口から八角の匂いがするぞよ。


源氏物語の頭中将かしらのちゅうじょうでも、もうちょっと上品に酒を飲むわ。

ハオラーハオラーうるさいぞよ。#白山居抜き #インバウンドのリアル』


「……あ、あれ?」

ユニオンペイくんがうつむく。


「な、何アルとーーーーっ!!!???」


それを見た銀聯先生のチャイナドレスが、怒りで真っ赤に燃え上がった。


「私のことを『あさまし』『八角うるさい』って書いたのは誰アルか!?


微博のフォロワーが1億人いる私への国際的な侮辱アル! 犯人をチャイナ・バスター(経済制裁)する!!」


店中が蜂の巣をつついたような大騒ぎに。JCB氏(京都弁)も「これは、平安時代の宮廷の陰口いんぐちよりおそろしおすな……」と狼狽している。


犯人を探して荒れ狂う銀聯先生。


その横で、

紫式部さんは「ふ、フッ……誰が書いたのかのぅ。いと恐ろしきネット社会ぞよ……」と、iPhoneを背中に隠して完全に目が泳いでいる。Face IDが「動揺」でロック解除できない状態だ。


「──いい加減に隠すんじゃないよ、紫式部さん!!」


パカァァァン!!!


たみこママが、ドコモのらくらくホンをカウンターに叩きつけた。

液晶には、文字サイズ「極大」で【裏アカ・即・バレ】と表示されている。


「ママ……」紫式部さんが十二単の襟を正して震える。


「あんたねぇ! 文字サイズが最大になったあたしのらくらくホンの画面の横で、そんな分かりやすい裏アカをポチポチ打ってたらね、タイムラインが丸見えなんだよ!」


たみこママは割烹着のポッケにガラホを仕舞うと、紫式部さんの前に、ビッグ・エーの特売タマゴで作った熱々の『ウナ巻き』を突き出した。


「いいかい?

あんたが現実世界の平安時代に、日記で清少納言のことを『大したことないのに偉そうに漢字を書き散らしてあさましい』ってボロクソに書いた歴史はね、あたしのらくらくホンの顧客カルテに全部登録されてるんだよ!


デジタルになろうがメタバースだろうが、面と向かって言えない愚痴を裏でチクチク書き散らす……そのひねくれた性格、千年前からちっとも変わってないじゃないのさ!」


「う、ううっ……図星ぞよ……! 我、物語作家ゆえ、人のアラ探し(人間観察)をせずにはいられぬ呪いをかけられているのじゃ……!」


紫式部さんが日焼けした顔を両手で覆ってシクシクと泣き崩れた。


「でもね、銀聯の姉さん」


たみこママは、今度は怒り狂う銀聯先生の手を優しく握った。


「紫式部さんがこんな裏アカを書いたのはね、あんたの圧倒的なフォロワー数と、世界一の決済ボリューム(資金力)が、羨ましくて羨ましくて、嫉妬しちゃったからさ。


レガシーの彼女はね、デジタル化する世界に置いていかれるのが本当は怖くて寂しいのさ。だから、あんたみたいに豪快にお酒を飲んで、みんなに愛されてる姿が眩しかったんだよ」


銀聯先生がハッとして、白酒のグラスを止める。


「……そうアルか。二千円札の姉さん、寂しかったアルね。……好了ハオラー、好了! 私は心が広いから、裏アカくらい笑って許すアル! その代わり、今夜は私の微博の生配信に出て、一緒にポテサラ食べるよろし!」


「え……? 我のような日陰の者を、ユーの生配信に……? いとエモき慈悲ぞよ……!」


紫式部さんが涙を拭い、銀聯先生とガシッと抱き合った。


「フッ……最高の炎上対策セキュリティだ。ママのらくらくホンは、人間の歪んだ承認欲求まで一瞬で中和(マルチ決済)する」


Apple Payさんも深く感銘を受けて深く頷いた。


「よし! 和解の印に、今夜はママ特製のウナ巻きを世界中に生配信バズらせるさ! JCBさん、お詫びの『紅芋タルト割りの白酒』をみんなに出しなさいな!


今夜も朝まで、表アカで仲良く大宴会だよ! 乾杯かんぱい!!」


「イエス、マーム!」

「ハオラー、ハオラー!」


たみこママの一喝によってネットの炎上は一瞬で消火され、白山の居抜きバーは、生配信のカメラに向かって「ダージャパオ!」と十二単を揺らす小麦色の平安美人と、チャイナドレスの笑顔で、どこまでも温かくバズっていくのだった。

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