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たえこママの、特製トマトおでん


(舞台説明)

深夜の『The Wallet』。


ここは、メタバース空間の、とあるバー、切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。


————————————————————————-


カウンターの中央には、QVCの傑作『千代の一番』の深い旨味と、ビッグ・エーの『うすくち醤油』のキレが合わさった黄金色の出汁が並んでいる。


そこに浮かぶのは、たみこママが丁寧に湯むきした、お箸で崩れるほど柔らかい真っ赤な、特売トマトで、こしらえたトマトおでんだった。


常連の交通系ICカードたちは、この見たこともないハイカラなトマトおでんと、


それぞれの地元の「おでんの常識」を巡って、早くも熱い議論を交わし始めていた。


「素晴らしい……!」

Suicaくん(東京)がモスコミュールを置き、トマトおでんを一口食べてFace IDの瞳(スリープ画面)を潤ませた。


「千代の一番の出汁が、トマトの酸味を完全に暗号化ホールドしている。江戸前の洗練された味だ……」


「何言うてんねんSuica! おでんの出汁ちゅうたら、もっと薄味の関西風に決まっとろうが!」

ICOCAくん(大阪)が、麦焼酎の水割りをグイッと煽る。


「いや、ママのこのトマトおでんもめちゃくちゃ美味いけどな! でもな、ワイの地元エリア(姫路)のおでんは、上からドバッと**『生姜醤油しょうがじょうゆ』**をかけて食べるんや! これがピリッと辛くて、お酒がナンボでも進むんやがな!」


「生姜醤油? なんですの、せっかちなお食べ方は」

PiTaPaさん(兵庫・京都)が米焼酎のロックを傾ける。


「京都のおでんは、お豆腐や京生麩を、お出汁の旨味だけで静かにいただくのがお上品どすえ」


「のんびりしとるだに!」


TOICAくん(静岡)が『緑茶ハイ』のグラスをドンと叩いて立ち上がった。


「おでんと言ったら、静岡の『しぞーかおでん』だら! 出汁は真っ黒、青のりとだし粉をたっぷりかけて、具材にはあの**『黒はんぺん』**が絶対に入ってなきゃいかんもんで!」


「黒いはんぺん!? はんぺんは白くてフカフカしてるワン!」


ソファー席でnanacoさんと女子会をしていたWAONさんが驚いて犬耳をピコピコさせる。


「なまら贅沢言うなべさ!」


Kitacaくん(北海道)がレッドアイを飲みながら参戦する。


「おでんの主役は練り物じゃないべさ! ホクホクの**『じゃがいも(男爵いも)』**に、マフラーコーン(タコ足)やツブ貝が入ってなきゃ、おでんとは認めないべさ!」


「九州だって負けんばい!」



SUGOCAくん(福岡)が『芋焼酎のお湯割り』の湯気の中で拳を握る。


「博多のおでんは、鶏ガラ出汁に大きな『餃子巻き』を入れるとたい! これを食べんと、お祭り(お花見)の夜は越せんばい!」


カウンターの上は、生姜醤油、黒はんぺん、じゃがいも、餃子巻きと、

全国の「おでんのアイデンティティ」が入り乱れて大混乱。

せっかくのママのトマトおでんが、地方のプライドの影に隠れそうになってしまった。


「──はいはい、みんなそこまでだよ!!」


パカァァァン!!!


たみこママが、お馴染みのドコモの「らくらくホン」をカウンターに叩きつけた。

液晶には、これでもかと巨大な文字で【おでんは地球を救う】と表示されている。


一瞬で静まり返る居抜きバー。


「ママ……」TOICAくんが黒はんぺんを箸に挟んだまま固まる。


「あんたたちねぇ、おでんの具が何だの、タレがどうだので揉めてんじゃないよ!」


たみこママは割烹着のポッケにらくらくホンを仕舞うと、黄金色の出汁が優しく染みたトマトを、みんなの小皿に綺麗に取り分けた。


「いいかい? あたしがQVCで『千代の一番』を買って、ビッグ・エーの『うすくち醤油』でこの出汁を作ったのはね、どんな具材だって、この出汁に入ればみーんな美味しく、ひとつにまとまるからさ。


静岡の黒はんぺんだって、北海道のじゃがいもだって、この出汁を吸えば、お互いの旨味を引き立て合う最高の仲間(マルチ決済)になるんだよ。


明日の商店街のお祭り(日常)だって同じさ。


色んな地方から来た人間たちが、色んなお財布(決済)を持って白山に集まる。それを『うちは生姜醤油だ』『うちは黒はんぺんだ』って拒絶しちゃいけない。

どんな決済(具材)だって、あたしたちがこの出汁みたいに優しく包み込んで、『ピッ』と笑顔でさばいていく。それこそが、この店のプライドじゃないのさ!」


ママの、千代の一番よりも深く、うすくち醤油よりもキレのあるお説教に、TOICAくんもKitacaくんも、涙を流して深く頭を垂れた。


「ママ……さすがどす。うち、このトマトおでんの優しさに、またシステムがアップデートされそうですわ」


PiTaPaさんがハンカチで目を押さえる。


「分かればいいんだよ、分かれば!」


たみこママはガハハと笑うと、今度はカウンターの下から、別の特売品を取り出した。


「さあ! 涙を拭いたら、今夜はこのトマトおでんの出汁に、JCBさんが仕込んでくれた『手打ち蕎麦』を入れて、居抜きの締め(年越しそば風)にするよ!


どんな具材も、今夜はみんなであたしの出汁の中にドボンさ! 乾杯かんぱい!!」


「イエス、マーム!」

「ハオラー、ハオラー!」


たみこママの温かい掛け声とともに、全国の交通系たちがそれぞれの具材を鍋に投入し、白山の夜は、世界一美味しくて優しいマルチおでんの湯気に包まれて、どこまでも温かく更けていくのだった。

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