↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/77

たえこママの、デカ文字 取説

(舞台説明)

ここは、メタバース空間のとあるバー、切り盛りしているのは、雇われママの、たえこママであった。


—————————————————————-


深夜の『The Wallet』


たみこママが新調したドコモの「らくらくホン」の画面を真剣な顔でポチポチと押している。


しかし、文字サイズが「極大」になっているため、カウンターの端にいるSuicaくんにまで、その内容がハッキリと見えてしまっていた。


「……おい、PayPay。ちょっとママの画面を見てみろ」


Suicaくん(東京)がモスコミュールを片手に、隣のPayPayくんに目配せする。


「え? なになに……うわ、文字がデカすぎて僕の席からでも読めるよ!


【コキャク・カルテ】って書いてある!」


PayPayくん(バーコード)が身を乗り出す。気づけば、カウンターの面々(au PAYくん、nanacoさん、WAONさん、JCB氏)も全員、ママの画面をじーっと凝視していた。


画面には、スクロールするたびに巨大な文字で、バーの常連たちの「営業用マル秘データ」が映し出されていく。



【カルテNO.1:PayPayペイペイちゃん】

押しに弱く、お祭り(キャンペーン)を始めるとすぐ財布がガバガバになる。


夕方、学生の割り勘で凹む癖あり。その夜は「レモンサワー・メガサイズ」を出すと一発で機嫌が直る。

営業メールのコツ:『今夜は来店ポイント2倍だよ♪』と送ると秒速で飛んでくる。チョロい。


「ちょ、ちょっとママ!? チョロいって何さ!?」

M

PayPayくんが真っ赤になって叫ぶが、たみこママは物理キーの押し込みに夢中で気づかない。画面は次に進む。



【カルテNO.2:Suicaスイカくん】

0.1秒の男とか言ってるけど、実は超寂しがり屋。いつも一番奥の暗い席に座るのは、みんなに声をかけてほしい裏返し。

ペンギンのグッズを褒めると、トレンチコートの襟を立てて照れる。可愛いところがある。

営業メールのコツ:『たまには2秒くらい立ち止まりなさい』と送ると、愚痴を言いながらバーボンを飲みに来る。



「……っ!?」


Suicaくんがモスコミュールを吹き出しそうになり、慌ててトレンチコートの襟を立てて顔を隠した。隣でICOCAくん(大阪)が「ヒューヒュー! 寂しがり屋のスピードスターやんけ!」と爆笑している。




【カルテNO.3:銀聯ユニオンペイの姉さん】

ビンテージの白酒を飲むと微博ウェイボーの投稿が止まらなくなる。


寂しくなると息子のユニオンペイくんを連れてくるが、ママの『うまい棒コーンポタージュ味』で息子共々簡単に手懐けられる。

営業メールのコツ:『ビッグ・エーのポテサラ入ったよ』で爆買いの波が来る。




「ハオラー、ハオラー! ママ、私の取扱説明書マニュアルを完全に暗号化トークンしてるアルね!」


ソファー席で白酒を飲む銀聯先生も、タラモサラダを突きながら大爆笑。


さらに画面は、


JCB氏のカルテ【海外帰りの客に優しくするとすぐひびきをサービスしてくれる】や、


Apple Payさんのカルテ【スタイリッシュに見えて、おでんのちくわぶをハメ込むとFace IDがフリーズする】など、


バーの全員の弱点と営業ルートが、らくらくホンの巨大文字で次々と白日の下に晒されていく。


「──ちょっとあんたたち、さっきから何を見てるんだい!?」


パカァァァン!!!


たみこママが、ついにみんなの視線に気づき、らくらくホンを本日一番の力強さで閉じた。

一瞬で静まり返る店内。


「ママ……あの巨大な文字のカルテは一体……」

au PAYくんが恐る恐る尋ねる。


「何さ、見られちゃったならしょうがないねぇ」

たみこママはフッ、とベテランの不敵な笑みを浮かべると、割烹着のポッケにらくらくホンを仕舞い、カウンターに両手を突いた。


「これがないとね、毎日の営業メールも打てやしないのさ。


あんたたちが reality の世界でどれだけ意地を張って、スピードだの、ポイントだの、セキュリティだので競い合っていてもね。


この白山の居抜きバーに来たときは、みんな等しくお腹を空かせて、愚痴を言いたい『可愛いお財布の迷子たち』なんだよ。


あたしが一人ひとりの癖をこうしてらくらくホン(手帳)にメモして、お酒を合わせて、居心地を良くしてあげなきゃ、誰があんたたちのギスギスした心をマルチ決済(一括チャージ)してあげるって言うんだい?」


ママの、らくらくホンの文字サイズよりもさらに巨大な「愛の営業戦略」に、PayPayくんもSuicaくんも、今度は感動の涙を流した。


「ママ……やっぱりママは、僕たちの最高のメイン端末だよ……!」


「フッ……完敗だな。僕の0.1秒のシステムでも、ママの愛のカルテの深さは読み取れなかった」


「分かればいいんだよ、分かれば!」


たみこママはガハハと笑うと、大鍋から熱々のおでんの大根をみんなに配った。


「さあ! 営業秘密を覗き見た罰として、今夜は全員、あたしのらくらくホンから送る『今夜の裏メニュー・明太チーズたこ焼き』のメールに、全員『了解』のボタンを押して、朝まで飲み明かすんだよ!」


「イエス、マーム!」

「了解だワン!」


白山の古びたそば屋の夜は、ママのらくらくホンの明るいバックライトと、常連たちの温かい笑い声に包まれて、どこまでも優しく更けていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。