第2話 社畜だった男をどこに送り込むか悩む老人
「かめだじゃないとすると、じゃぁ、あんたはいったい・・・・・・」
「かみだぁぁぁぁぁぁ。」
えっ、かめだ、だってぇ。
「だからぁ、亀田じゃなくて、神だって言っておるのじゃ。
まだ若いのに聴覚が老化を始めておるようじゃな。」
あきれ顔の、かめだじいさん。
「だからぁぁぁ、亀田じゃなくて神だって、何度言ったら。
ちゃんヒトの話を聞くのだぞ。」
あぁ、そのかみださんは俺に何用ですか。
さっきも言ったように、俺は二日酔いで今日一日寝ている予定だったんですけど。
見ず知らずのかみださんがそんな俺をむりやり起こすなんて、よほどの急用なんですよね。
俺はキッとかみださんを睨んだ。
「だからぁ、儂は神なの、かみだじゃないの。」
何か必死に俺に訴えて来る、かみださん。
はいはい、わかっていますよ、あなたはかみださんというのは十分に理解しましたから。
それでその見ず知らずのかみださんが俺に何用ですか。
「あぁぁぁもう良いのじゃ、それで。
とにかく今はもう時間がないのじゃ。
用件を伝えるぞ。」
何を焦ってんだ、かみださんは。
「さっきも言った通りに、昨日貴様は飲んだ帰り道にマンホールに落ちて、汚物の中に沈んで溺死したのじゃ。
まぁ、汚物まみれでこと切れるとは実に貴様らしい死に様と言えようのぉ。」
かなりとげのある話し方をしてきた、かみださん。
いやぁぁぁぁ、そんなに褒めないでよ。
こんな年で顔が赤くなったら恥ずかしいから。
「誰も褒めとらんわぁぁぁぁぁ、このボケがぁぁぁぁぁ。」
顔を真っ赤にして、プンスカするかみださん。
そんなに興奮すると脳の血管キレるよ、年なんだからさぁ。
「余計なお世話だ。
貴様が儂の話をちっとも聞こうとしないのが悪いのじゃ。」
だからぁ、さっきから何の御用ですかと聞いていますが。
「だからぁ、ちゃんと聞け・・・・・・
もういいわぁ。
用件だけ伝えるぞ、
端的に言うとお前は昨日の夜中に死んだ。
ただ、予定ではお前ではなく別の者が死ぬはずだったのだ。
まったく、余計なことをしおって。
あぁ、だから特別にお前を生き返らせて、儂はその生をまっとうさせてやることにしたんだが。
はっきり言って、このまま地獄に送った方が世のため人のためじゃったと思っておるところなのじゃ。」
そう言い終わるとどっと疲れた顔を向けてきた、かみださん。
だからぁ、そんなに興奮すんなって言ったのにぃ、年なんだからさぁ。
「だれのせいじゃぁぁぁぁ。」
どうどう、落ち着きなって。
ところで、俺は死んじゃったの、それも手違いで。
それを生き返らせてくれるっていうのぉ。
「今はやめたくなってきたのじゃ。
貴様を生き返らせたら後々何かとてつもなく後悔することになる気がするのじゃが。」
いやいや、ひとを勝手に死なせておいて、そのまま天国行きってのはひどいじゃなの。
「なんで天国に行く前提なんじゃ。
貴様は地獄一択、閻魔宛てに無間地獄行きの推薦状を付けてやるわ。」
いやいや、そこは天国でたのみますよ。
そうでなかったら、生き返らせてくだせぇ。
あぁ、できれば二日酔いが治まった状態でおねげぇしますだ。
あと、昨日の朝に時間を逆戻りっていうのはなしでね。
あの納期地獄に逆戻りだけは勘弁してくださいまし、かみだお代官様。
「おぉ、その手があったか。
昨日と言わず、三日前でどうじゃ。」
ニヤリとする、かみだじいさん。
あぁぁっ、それだけはなしで。
もう決して、嘘はつきませんから。
納期前の戦時にトイレに行って来ると言って席を離れて、休憩室で仮眠を2時間取るようなことは決してしませんから
「貴様、なんて非道な奴なんじゃ。
よくそんなんで天国行きを希望したな。
やっぱり三日前に・・・・・・」
「ぎゃぁぁぁぁぁ、それだけはやめてぇ。
何でもしますからぁ。」
「まぁ、はっきりいって、お前の肉体は早くも腐敗してきたからのぉ。
生き返らせると言っても元の世界では無理じゃな、残念なことに。
ゾンビ仕様でよかったら、元の世界でも復活できんこともないがのぉ。」
なぜかやれやれと言う顔のかみだざいさん。
「あぁ、ゾンビ仕様はご遠慮しておきます。
この世界以外で生き返るんだったら、そうだなぁ、できれば納期に縛られない世界、社畜が自然発生しない世界にお願いします。」
「なにぃ、社畜が世界を席巻している世界に行きたいとはのぉ。」
「誰もそんなこと言っとらんわぁ。
何だ、その社畜がうじゃうじゃ湧いている世界は。
ありえねぇだろ。」
「一昔前の日本の姿かのぉ。
24時間戦うとか言う・・・・・・」
「あぁ、そっかぁ、あったのかぁ・・・・・・・」
俺とかみだじいさんはなぜか遠い目をして黙ってしまった。
「ということでじゃ。
儂の権限で貴様を別の世界に社畜として送り込むことにしたわけじゃが。」
「がぁぁぁぁぁ、それだけは、社畜だけはやめてぇ。
そんなんだったら、もうゾンビ仕様でもいいからこのまま生き返らせてぇ。」
「冗談じゃ。ププププフッ
黄色いビンの何とか液を片手にリーマンが跋扈していた時代に貴様を送り込むのは残念ながら無理じゃ。
とにかく、ゾンビで元の世界に戻るか、まったく別の世界で生きていくかどちらかじゃな。」
にやにや顔が止まらない、かみだじいさん。
「あぁ、ここは是非とも別の世界でお願いします。
できれば社畜という言葉というか、概念が存在しない世界でおねげぇしますだ。」
俺はしょうがなく布団の上? 雲の上で土下座をした。
社畜の世界に行かされるぐらいなら土下座なんてやっすいものだ。
「よしよし、漸く別の世界で生きて行く決心がついたようじゃな。
そうそう、このまま別の世界に送り込むのはさすがに申し訳ないからのぉ。
何か生きていく上で必要なスキルぐらいは渡してやらんとのぉ。
ちなみに何がほしいものはあるか。」
俺が別の世界に行ってもいいという返答を聞いて、機嫌が直ったようにうんうん頷く、かみだじいさん。
もう別世界に行くしかねぇか。
行くんだったら、面白おかしく気楽に暮らせるのがいいよな。
そうすっと、まずはどんな世界に転移させられるかだな。
ラノベ鉄板の魔法と剣の世界か。
それとも科学技術が今の世界よりも発展したところか。
まさか恐竜が跋扈している世界じゃないよな。
そんなところじゃ、着いた瞬間に餌認定だしな。
「あぁ、ほしいスキルを考える前に、俺はどんな世界に送られる予定なんだ、かみだじいさん。
それによってほしいものも変わって来るってもんでしょ。」
「う~ん、そうじゃなぁ。」
難しい顔をして考え込む、かみだじいさん
「なんだ決めてなかったのかよぉ。
そんなの決めてから二日酔いの俺を起こせよなぁ。」
「いちおう決めては折ったのじゃが。
うん、社畜が溢れかえっている別の世界とかのぉ。」
なにやら真剣に考え込むふりをしていながら、一瞬だけにやついたのを俺は見逃さなかったからな。
「いやいや、それはなしでって言ったよねぇ。
この世界の過去以外にもそんな世界があったのか、信じらんねぇ。」
俺が慌てるのを見て、ざまぁという顔を隠しもしない、かみだじいさん。
ここはもう俺の希望をはっきりと言った方が良いか。




