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第1章 そして、降臨 第1話 社畜だった男を起こしに来た老人

新しい物語を始めました。

「転生よりも天国に連れて行ってくだせぇ。そんなくそ魔法よりも火属性魔法を教えろよぉ。仕事より休みくれぇ。俺はスローライフを送るんだぁ。」

よろしかったらご一読ください。



「お~い、起きろぉぉぉぉ。

出発の時間じゃぞぉ。」


耳元で誰かが俺を起こす声が聞こえる。


「早く起きないと何も持たずに出発することになるぞぉぉぉぉい。」


早く起きろって、言われてもなぁ、今日は日曜だろ。

それに溜まっている仕事もなくなったし。

昨日の土曜はいつものように休日出勤して、その上、残業。

漸く納期に間に合ったというお祝いを兼ねて、休出残業した同僚たちと終電まで痛飲。


久しぶりの休みなんだから昼まで寝かせいくれよ。

二日酔いで頭がガンガンするしさ。


「二日酔い?

そんなはずはないのじゃが・・・・・・

気のせいではないかのぉ。」


いやいや確実に二日酔いだって。

昨晩、あんなに飲んだんだから。

何せ会社の近くの飲み屋からどうやって家に帰ってきたかなんて全く覚えていないぐらいだからな。


「だからぁ、家にも帰ってないし、二日酔いでもないのじゃ。

えぇぇぇぇぇい、いい加減起きんかぁぁぁぁい。

本気でこのまま出発させるからのぉ。」


家にも帰ってない?


いやいや、俺の帰巣本能をなめちゃいけねぇぜ。

学生時代からどんなに飲んで記憶がなくしても、次の日は必ずアパートの布団に潜り込んでいるという、のん兵衛になくてはならない必須スキルを持っているからな、俺は。

まして、大学4年間と大学を卒業してから6年間、同じアパートの同じ部屋に住み続けているんだからな。

家に帰れねぇなんてありえないのだぁ。


あぁぁぁ、ところで、立派な二日酔いの俺の耳元で朝っぱらから大声で呼びかけんのは誰だ。

あぁ、学生時代からの腐れ縁で近くに住む亀田か。

何しに来たんだ。

今日、出かける約束なんてしていないよな。

あの仕事がいつ終わるかわかんない状況で遊びに行く約束なんてするはずもないからな。

とにかく、俺は二日酔いなんだ。

今日はおとなしく寝てるんだ。

邪魔しないでくれよ。


「いいから早く起きるのじゃ。

もう時間がないぞ。

本当にこのまま出発してもいいのか。」


だからぁ、出かける約束なんてしてねぇよな。

しつこいぞ、亀田。


「もうめんどうじゃ、このまま追い出してやるからな。

後で後悔しても知らんからな。」


だからぁ、ここは俺の部屋だって。

何で家主の俺がおまえに追い出されなくちゃなんねぇんだ。


「わかったのじゃ、このまま下界にいけぇぇぇぇ。」


亀田の声がそう聞こえたか聞こえないかの間に俺の体がふわりと浮いた。


おいマジで俺を部屋から追い出すつもりか。

ちょっと、まて。

何でそんなことをするんだ。

だいたいもやし体形の亀田が業務のストレスからポテチを食いまくって、ちょっと腹のあたりが気になる体形の俺を持ち上げられるはずはないよな。

いつの間に細マッチョに変身したんだ、亀田。

俺もジムに誘ってくれよなぁ。

ひとりだけモテようなんてずるいぞ、裏切り者の亀田めぇぇぇぇ。


俺が焦ってそう言っている間にも体がゆっくりと浮いたまま移動しているのがわかった。


「わっ、わかった、わかった。

今起きるから外に放り出すのはやめてくれぇ、かめだぁぁぁぁ。」


俺はそう叫んで仕方なく目を開けた。


「えっ。」


俺は目を開けてそこに飛び込んできた光景に思わず絶句した。

俺は雲の上に浮かんでいた。

あぁ、これは完全に夢だな。

おかしいと思ったんだよ。

亀田が突然家に来て、寝ている俺をもやし体形のくせに軽く持ち上げて外に放り出そうとするなんてな。

これは夢だ、夢なんだ。

酒がぜんぜん抜けてないな、酔っ払ったままだ。

あぁ、昼までなんてあまかったぁ、今日は夕方まで寝て過ごそう。

こんな幻覚と幻聴があるなんて、よっぽど飲んだんだな。

酔いがまわったままだ。


「幻覚でも、幻聴でもなく、これが貴様が置かれた現状じゃぁぁぁぁ。」


んっ、まだ亀田の幻聴が聞こえる。

仕事の疲れと酒で頭が壊れちまったかな、重傷だな。

俺はやれやれと思って再び重たい目を開けた。


がぁぁぁぁ、やっぱり雲の上だ。

あれっ、雲の中に亀田・・・・・、じゃない、知らない爺さんが浮かんで俺の方を見ているぞ。


夢の中の亀田はジジィになったな。


何年後の夢を見てんだ、俺は。

浦島太郎気分だ。


「だからこれは現実なのじゃ。」


亀田じいさんが呆れたような表情でそう言ってきた。


「いい加減に目を覚まして、現実を直視するのじゃな。」


やれやれと言わんばかりの、亀田じいさん。


「亀田、これが現実って有り得ないだろ。

俺たちが生身で雲の上に浮かんでいでいるんだぞ。

それにお前が爺さんになったなんてな。

これが現実だとしたら、何年後だってぇの。」

「いや、昨日貴様は確かに休出残業して、そして、夜中まで飲んでおったぞ。」

「だろぉ、だから俺は今日は二日酔いで家で寝ているんだって。

そして、今見えていることは夢だ、キッパリ」

「だからぁ、昨日飲んでおったところまでは間違いない。

しかし、その後、貴様自慢のスキルは発動することはなく・・・・・

いや、発動はしたのだが半ば成功しなかったのじゃ。」


意味深気に語る、亀田じいさん。


「へっ、俺の帰巣本能スキルが失敗したってぇ。

有り得ねぇ。」

「有り得ないと言ってものぉ。

現実にここにおるのじゃからな。」


やれやれと言った、亀田じいさん。


「確かに貴様自慢のスキルはちゃんと発動はしたのじゃがな。

帰り道、手違いで工事中のマンホールに落ちて・・・・・・」

「えっ、マンホールに落ちたの。

じゃぁ、ここは下水の中。

俺が寝ているこの布団のような柔らかい者は、汚物・・・・・・

がぁぁぁぁぁ、俺はなんというところで寝ているんだぁ。

二日酔いで五感が鈍って、汚水もくさくねぇなんて。

とっ、とにかく早く地上に出ねば。」


俺は地上に戻るためのはしごを探したが、見えるのは雲と亀田じいさんだけだった。


「マンホールの中ってこんな雲の中ようになっていて、爺さんが住んでいるのかぁ。」


マンホールなど入ったことなどない俺は新たな発見に感動を覚えずにはいられなかった。

マンホールなんて覗いたことはあっても暗くて何も見えなかったしな。


「っん、なわけないじゃろうがぁぁぁ。

ここはマンホールではないぞ。

マンホールに落ちたおまえは運悪く首の骨を折って、一発でち~んじゃ。

まだ、発見されておらず、いまだ汚水の中に漬け込まれたままじゃ。」


やれやれと言う顔のまま亀田じいさんは言葉を続けた。


「マンホールに落ちたままなのか。

そうすっとこれは現実・・・・・

やはりマンホールの中には雲が漂って、亀田じいさんが生息していたんだな。」

「そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁい。」


なぜかプンスカし出した、亀田じいさん。


「だから、マンホールに落ちた貴様はち~んしたと言ったじゃろうに。

ここは神の住まう場所の入り口じゃて。」


今度は疲れたような言葉に変わった、亀田じいさん。


「えっ、俺って死んじゃったのぉぉぉぉぉぉぉ。」

「ようやくわかったか。」

「じゃぁ、ここは天国かぁ。

よかったぁ、俺は地獄じゃなく天国に来れたんだ。

パワハラ、カスハラの嵐に耐え抜いて必死に働いて納期をほとんど守ったかいがあったぁぁぁぁ。」

「死んだことよりも納期を守れたことに感動するとは、貴様さては令和の世には珍しくなった社畜だったのじゃな、」

「何とでも言え。

だいたい亀田の方が俺以上の社畜だったくせに。

ほれ忙しさで髪と髭は伸び放題、その上ストレスで真っ白じゃないか。

そして、胃潰瘍による胃痛を押さえるために前かがみになって、ろくに食事を取る時間もないから頬がげそっとして、シワわだらけじゃないか。

なぁ、超老化が加速した亀田くん。」


そう言って、俺は亀田じいさんの方に視線を投げた。


「儂は亀田じゃないと言っておろうに。」

「亀田じゃない。

仕事のストレスで大学時代の面影などみじんもなく、枯れ老人と化してしまった亀田じゃないというのか。」

「誰が枯れ老人じゃぁ、儂はこの通りピンピンしておるわぁ。」

「かめだじゃないとすると、じゃぁ、あんたはいったい・・・・・・」

「かみだぁぁぁぁぁぁ。」



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