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チート売りの少女/女神は最近の転生者が「普通すぎるチート」に飽きていると嘆き、斬新なアイデアを求めて私のところにやってくる!  作者: 弌黑流人


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【Cheat Ability No.77】断罪の境界・強制執行(ジャッジメント・パス)

ご拝読ありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?

勇者のループを実力で行使し、14日目を手繰り寄せたフェアカさん。自らの商売(仕入れ)を守るためとはいえ、彼に「今」を生きる覚悟を叩き込みましたね。


世界の端が、まるで古びた映像のようにノイズを刻み始めている。13日目の夕刻。燃えるような茜空の下、一人の勇者が震える手で砂時計を握りしめていた。彼の足元には、100回目となる「救えなかった悲劇」が転がっている。


「……まただ。また間違えた。どうして、何が悪いんだ……っ!」


記憶が消去されている彼は、自分が同じ過ちを百回繰り返していることさえ自覚していない。ただ、魂が悲鳴を上げ、喉の奥からせり上がる絶望感だけが、彼を「巻き戻し」へと駆り立てる。彼が再び砂時計を引っくり返そうとした、その瞬間。


「いい加減になさい。見ていて退屈極まりないわ」


空間が紙を切り裂くようにして左右に割れ、そこから一台のワゴンが静かに出現した。カウンターの小窓から身を乗り出したフェアカさんは、驚愕に目を見開く勇者の眉間を、手近にあった厚い帳簿の角で正確に打ち抜く。


「ごふっ!? ……ふ、フェアカ、さん……? なぜここに」


「商売の邪魔だからに決まっているでしょう。あなたが今日という日に執着しすぎるせいで、カレンダーの数字が糊付けされたように動かないのよ。おかげで明日の仕入れ予定が台無しだわ」


フェアカさんはワゴンから飛び降りると、地面にへたり込む勇者の胸ぐらを掴み、その顔を「救えなかった現実」へと無理やり向けさせた。


「いい? あなたの失敗は、選択肢を間違えたことじゃない。……『過去の自分』が、未来の自分より賢いと信じ込んでいるその傲慢さが原因よ。記憶を捨ててやり直すたびに、あなたは前回の反省すら投げ捨て、同じ穴に落ち続けている」


「でも、俺は……あいつを助けたくて……!」


「助けたいなら、その砂時計を叩き割りなさい。不確定な明日を恐れて時間を止める人間に、誰かを救う資格なんてないわ」


フェアカさんの指先が、勇者の心臓付近に触れる。そこには『どこでも講習』の強制執行プログラムが流し込まれた。


「これは物理的な痛覚じゃないわ。あなたがこれまで『なかったこと』にして捨ててきた、九十九回分の絶望の総和よ。……一気に味わいなさい」


勇者の絶叫が、ループの結節点に響き渡る。一〇〇回分の「死」と「後悔」が、濁流となって彼の脳内に強制インストールされていく。脳が焼き切れるような苦悶の中で、彼は初めて、自分がどれほど無意味な足掻きを続けていたのかを理解した。


「……あ、あぁ……。俺は、俺自身から逃げていただけだったんだな……」


「ようやく正気に戻ったかしら。さあ、一〇一回目はないわよ。今この瞬間、あなたの『不老』のスキルは代償として完全に消失した。……命を削って、泥を這って、その手で14日の太陽を掴み取りなさい」


フェアカさんが指を鳴らすと、亀裂の入っていた世界が音を立てて修復されていく。砂時計は砂となって消え、勇者の瞳には、ループの安寧ではない、死に物狂いの覚悟が宿っていた。


フェアカさんはワゴンに戻り、再びカウンターの小窓から、走り出す勇者の背中を眺める。


「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。蓄積された絶望、強制的な自覚、そして一回限りの現在。……次に会うときは、せめて寿命を全うした老人の面構えで来ることね。まあ、返品は受け付けないけれど」


夕闇が消え、東の空が白み始める。一〇〇日ぶりに、世界に「明日」という名の風が吹き抜けた。


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