【Cheat Ability No.64】純血回帰型・精霊の拒絶(スピリット・エクソシズム)
「決めたのね。……後悔しても知らないわよ」
フェアカさんが『鉄の戒め』を少年の細い手首にはめようとしたその時、ワゴンの周囲に突風が吹き荒れました。新緑の香りが立ち込め、幾人もの精霊たちが光の粒子と共に姿を現します。
「待ちたまえ! その純潔なる精霊の種を、穢らわしい人間の鉄などで封じることは許されない!」
現れたのは、自然の摂理を絶対視する精霊の守護者たちでした。彼らは少年を囲み、フェアカさんに鋭い視線を向けます。
「その子は我ら精霊の宝。村を森に変えたのは、この地が浄化を望んでいる証拠だ。それを人間の矮小な生活に合わせるなど、自然への冒涜だわ!」
「……うるさいわね。誰が私の客に指図していいと言ったのかしら」
フェアカさんは、三日間の自堕落生活で溜まったストレスを吐き出すように、冷ややかな、けれど激しい威圧感を放ちました。手にした帳簿をパチンと閉じ、精霊たちを一瞥します。
「宝? 浄化? 笑わせないで。あなたたちは、この子が流した孤独な涙を一度でも拭ってあげたことがあるの? 自分の都合のいいように世界を塗り替えるのが精霊の愛だというなら、そんなもの、ただの『呪い』よ」
「なんだと……! 卑しきチート売りが!」
精霊たちが一斉に魔力を高めますが、フェアカさんは動じません。彼女は少年の震える手を引き、一気にブレスレットを嵌め込みました。
「発動なさい。……【属性沈殿】」
カチリ、という硬質な音が響くと同時に、少年の体から溢れていた虹色の光が鉄の輪に吸い込まれていきました。背中の翼が霧散し、彼の足がしっかりと「大地」を踏みしめます。
「あああああ!」
精霊たちが叫び、フェアカさんに襲いかかろうとしましたが、彼女が指をパチンと鳴らすと、ワゴンの防衛機構が作動し、強力な不可視の障壁が彼らを弾き飛ばしました。
「さあ、代償をいただくわよ。……泣きなさい、坊や。それがあなたの『精霊として流す最後の涙』になるわ」
少年は、力が抜けていく喪失感と、ようやく「人間」として認められた安堵感が混ざり合い、一粒の輝く涙をこぼしました。それは地面に落ちる前にフェアカさんの指先に止まり、小さな青い宝石へと結晶化します。
「……精霊の純粋な涙、確かに回収したわ。これで精霊たちはもう、あなたを同胞とは認識できない。……ただの人間として、精霊の加護もない過酷な世界へ行きなさい」
精霊たちは、魔力を失い「ただの子供」になった少年を見て、忌々しげに姿を消していきました。少年は、自分の普通の肌を、普通の手を、愛おしそうに抱きしめています。
「……フェアカさん。ありがとうございます。僕、この足で家に帰ります」
少年が去った後、手の中の青い宝石を眺め、ふと独り言を漏らしました。
「……日和、見てたかしら。これが私のやり方よ。エモくもなんともない、ただの残酷な救済」
そう呟く彼女の横顔には、少しだけ、いつもの仕事師の情熱が戻っているように見えました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。守護者の傲慢、決別の涙、そして手に入れた不自由な幸福。……特別な存在でいるより、愛する人の隣にいたい。……ま、その気持ちだけは、私にも理解できるわね」
ご拝読ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
精霊のハーフだった少年は、「特別」を捨て、人間として歩み始めました。




