【Cheat Ability No.54】因果強制型・全伏線完全回収(フルコンプリート・レコニング)
療養施設の次の扉には、重々しい鎖と「入室厳禁」の札が掲げられていました。中からは、何十人もの女性たちが泣き叫ぶ声と、男の絶望的な悲鳴が漏れ聞こえてきます。
「次はここね。……日和、耳栓の準備はいいかしら?」
フェアカさんがドアを開けると、そこにはかつて『伏線を100%回収する』チートを手に入れ、魔王軍の隠された弱点をすべて暴いて勝利した勇者が、ボロボロになって床に伏していました。
「フェアカさん! 助けてくれ! 魔王は倒した、世界は救った! なのに、どうして幼馴染との約束や、酒場でついた嘘、十年前の浮気まで全部今の嫁にバレてるんだ! 伏線って、物語上の重要な要素だけじゃないのかよ!」
勇者の周りには、彼が過去に関係を持った女性たちや、彼に嘘をつかれた村人たちが「回収」されるべき伏線として一堂に会し、恐ろしい形相で彼を囲んでいます。
「言ったはずよ。このチートは『すべての』伏線を回収するって。……あなたが魔王を倒すために使った鋭い洞察力は、そのままあなたの人生の暗部にも向けられた。物語を完結させるためには、あなたが隠していた後ろ暗い過去もすべて清算されなきゃいけないのよ」
「そんなのあんまりだ! 返品させてくれ! この力さえなければ、俺は英雄として幸せになれたのに!」
「返品不可。これも契約書の第一条に書いてあるわ。……日和、ネットスーパーで『円満解決用・記憶の部分的忘却スプレー(特大)』を出して」
日和が慌ててスプレーを渡すと、フェアカさんはそれを勇者ではなく、周囲の女性たちに向けて噴射しようとしました。
「これで彼女たちの記憶を一時的に飛ばせば、修羅場は収まるわ。……ただし、これのアフターケア代金として、あなたが魔王討伐で得た報奨金の9割を徴収するけれど。いいわね?」
「払う、払うよ! 命には代えられない!」
フェアカさんが淡々とスプレーを撒くと、広場のような騒乱は静まり、女性たちは不思議そうな顔で去っていきました。一人残された勇者は、もぬけの殻のように虚空を見つめています。
「……助かりました。でもフェアカさん、これで彼は本当に救われたんでしょうか? 報奨金もほとんどなくなっちゃいましたし……」
「救い? 違うわよ、日和。これは単なる『支払いの先送り』。彼がまた新しい嘘をつけば、それは再び伏線となって、より残酷な形で回収されるでしょうね」
フェアカさんは、財布の紐を締め直す勇者を冷ややかな目で見送りながら、帳簿の「回収済み」の欄にチェックを入れました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。暴かれる真実、清算される過去、終わらない修羅場。……隠し事があるなら、物語は完結させない方が賢明よ」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
『伏線回収』という言葉の恐ろしさを身をもって知ることになった勇者のアフターケアでした。




