【Cheat Ability No.53】生命前借型・永劫回帰の安眠(デッド・スリープ・エンド)
「日和、今日の予定を変更するわ。……『アフターケア』の時間よ」
フェアカさんが珍しく自らワゴンを押し、天界の端にある「勇者専用療養施設」へと向かいました。そこには、かつて『寝ているだけで世界を救う』チートを購入した勇者が横たわっています。
「フェアカさん、彼……全然起きませんね。魔王を倒して、英雄として迎えられたはずなのに」
日和が覗き込むと、勇者の肌は透き通るほど白く、まるで精巧な蝋人形のようでした。枕元には、彼が眠りながら放った衝撃波で消し飛ばされたはずの「魔王の角」が記念品として飾られています。
「注意したはずよ。このチートは、本人の『未来の寿命』をエネルギーに変えて、眠っている間に最適化された戦闘行動をとるものだって。……彼は魔王を倒すために、本来ならあと50年は生きられたはずの時間を、たった一晩の安眠で使い切ったのよ」
「50年を……一晩で!? じゃあ、彼はもう……」
「ええ。肉体は若いまま固定されているけれど、魂のストックはもう空っぽ。今の彼は、ただ『死ぬために眠っている』だけの空箱よ」
そこへ、豪華な花束を持ったルミナリエ様が華やかに現れました。
「ちょっとぉ! 私のイチオシだった寝顔勇者くん、まだ起きてないの!? これじゃあ勝利のパレードがエモくならないじゃない!」
「ルミナリエ様、静かに。彼はもう二度と起きません。……日和、ネットスーパーで『魂の延命装置(定額制)』を出しなさい。彼をこのまま死なせるのは、うちの商品の品質保証に関わるわ」
フェアカさんは事務的な手つきで、勇者の胸元に奇妙な管を接続しました。
「これは『アフターケア』。彼を生きている体裁にするために、天界が支払う多額の維持費を、彼の遺産から自動で引き落すシステムよ。彼は眠り続け、世界は英雄が健在だと信じ続け、私たちは管理料を稼ぎ続ける。……完璧なビジネスモデルだと思わない?」
「フェアカさん……それ、救いじゃなくて、ただの集金システムになってませんか……?」
「救いなんて、最初から売ってないわ。売ったのは『結果』よ。彼は寝ている間に世界を救いたいという望みを叶えた。その対価を、今も払い続けているだけ」
フェアカさんは、眠る勇者の穏やかな顔を一瞥もせず、ワゴンの帳簿に「維持費回収開始」と書き込みました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。終わらない安眠、前借りした英雄譚、維持される虚像。……寝すぎには注意って、言ったはずなのにね」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
フェアカさんらしい「救いのない、けれど筋の通った」アフターケアとなりました。




