【Cheat Ability No.52】無償奉仕型・献身の伴侶(セルフレス・パートナー)
「恋愛、ねぇ……。日和、あなたは相変わらずおめでたいことを言うわね」
フェアカは、信者に囲まれて泣き笑いのような表情を浮かべる魔王を見つめ、溜め息をつきました。
「彼が必要としているのは、彼の『不幸』を幸運の資源として消費する信者じゃない。彼の『不幸』そのものを、ただの『日常のドジ』として笑い飛ばし、一緒に泥を拭ってくれる存在よ。……でも、そんな物好きな女がこの天界にいるかしら?」
「いますわよ! ここに!」
威勢よく手を上げたのは、ルミナリエ様……ではなく、彼女が連れてきた一人の下級女神でした。地味な法衣を纏い、手にはバケツと雑巾を持った「掃除の女神」です。
「私は彼が魔王だった頃から、彼が掃除した後にすぐ汚してしまう不器用な姿を見て、放っておけないと思っていました! 彼の不幸を利益に変えるなんて最低です。私は、彼が転んだら一緒に転んで、二人で痛いねって笑いたいんです!」
「……日和、聞きなさい。これこそが最悪のチートよ」
フェアカは眉間を押さえながら、一本の赤い糸のような指輪を取り出しました。
「これは『献身の伴侶』。一人の対象に人生のすべてを捧げることを誓う契約。……でもね、魔王。彼女と結ばれた瞬間、あなたの『不幸が生み出す幸運』はすべて彼女に吸い取られ、相殺されるわ。あなたはただの『運の悪い一般人』に戻り、信者たちは一斉にあなたを見捨てるでしょうね。それでもいいのかしら?」
魔王は、黄金の玉座から転げ落ちるようにして、掃除の女神の元へ駆け寄りました。
「……お願いします。神様なんて、もう嫌だ。僕はただ、誰かに『大丈夫?』って言ってもらえる、ただの男になりたいんです……!」
二人が指輪を交わした瞬間、魔王から放たれていた黄金のオーラが霧散しました。周囲の勇者たちは「なんだ、ただの不器用な男じゃないか」「もうレアドロップは期待できないな」と、蜘蛛の子を散らすように去っていきます。
「……行っちゃった。フェアカさん、これで良かったんですよね?」
「ええ。地位も名誉も、利用価値もなくなった彼に残ったのは、自分を愛してくれる一人の女性と、相変わらず続く不運な日常だけ。……ま、究極の贅沢なんじゃない?」
二人が手を取り合って、誰もいなくなった広場の隅で仲良く躓いて転ぶのを見て、フェアカは静かにワゴンのカーテンを閉めました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。すべてを捨てた純愛、利用価値のない幸福、そして二人だけの不運な明日。……ご馳走様、ってところね」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
魔王は教祖という名の檻から脱出し、一人の女性と「不運だけど幸せな」第二の人生を歩み始めました。




