【Cheat Ability No.51】偶像崇拝型・逆説的福音(パラドキシカル・ゴスペル)
「……そういえば日和。あのシュレッダー係、どこへ行ったかしら?」
祭りの後片付けをしながら、フェアカがふと思い出したように呟きました。ワゴンの隅にいたはずの薄幸魔王の姿が、いつの間にか消えています。
「あ! そういえば、さっき勇者たちが『救世主様はこちらだ!』って担いでどこかへ……」
日和が指差した先、広場の中央では、神殿のような豪華な神輿に乗せられた魔王が、数千人の勇者や神々に拝み倒されていました。
「おお、幸運の御仏よ! あなたが転ぶたびに我らにレアドロップが舞い降りる!」
「もっと……もっと不幸になってください! 私たちのガチャ運のために!」
魔王は装置の影響で、自分が不幸になればなるほど、周囲に莫大な「おこぼれの幸運」を撒き散らす歩くパワースポットと化していたのです。
「や、やめてください……。僕はただの魔王で、不幸なだけで……ああっ、神輿の棒が折れた! 痛いっ!」
魔王が地面に叩きつけられた瞬間、空から金貨の雨が降り注ぎました。勇者たちは狂喜乱舞し、魔王を「不運を一身に背負いし黄金の教祖」として崇拝する新興宗教を爆誕させてしまったのです。
「……最悪ね。救いが必要なのはあの魔王の方なのに、周囲の欲望が彼を『神』という檻に閉じ込めたわ」
フェアカが冷めた目で見つめる中、ルミナリエ様が目を輝かせて駆け寄ってきました。
「日和ちゃん! 見た!? あの『不幸萌え』という新しいエモいジャンル! 彼の涙一滴につき、信者が一万人増えてるわよ!」
「ルミナリエ様、笑い事じゃないですよ! 魔王さん、もう泣きすぎて干からびそうです!」
日和がネットスーパーで「超吸収・速乾タオル」と「教祖用・高級目薬」を注文しようとした時、フェアカがその手を押さえました。
「無駄よ。今の彼は『逆説的福音』というチートそのもの。彼が幸せにならない限り、周囲の強欲な幸運は止まらない。……そして彼は、自分が不幸であることで誰かが喜ぶ現状に、絶望的な『やりがい』を感じ始めているわ」
モニターの中、魔王は涙を流しながらも、自分を拝む群衆に向けて弱々しく手を振っていました。その姿は、かつての魔王としての威厳を完全に失い、人々の欲望を維持するためだけに存在する生贄のようでした。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。望まぬ神格化、生贄の福音、終わらない不幸の再生産、なんでもござれ」




