【Cheat Ability No.49】魂魄保存型・千年結晶食(エターナル・プロビジョン)
「文明の奴隷にするのが交流だなんて、片腹痛いわね」
フェアカさんは、日和が広げた段ボール箱を端に寄せると、ワゴンの奥から一つの小さな、透き通った琥珀色の塊を取り出しました。それは宝石のようにも見えますが、内側で微かな光が脈動しています。
「フェアカさん、それ……お菓子ですか? すごく綺麗ですけど」
「これは、私がいた世界に伝わっていた『非常食』よ。日和、あなたが持ってきた数年で期限が切れる保存食と一緒にしないで」
フェアカさんがその結晶を少しだけ削り、お湯に溶かすと、テラスいっぱいに懐かしくも力強い、大地の香りが広がりました。
「これは『千年結晶食』。高度な魔法技術で、食材の栄養だけでなく、それを作った者の『祈り』と『時間』を固定化したものよ。一度口にすれば、三日三晩は空腹を感じず、精神的な疲労すらも癒やされる。何千年経とうと、この味と効果は変わらないわ」
日和はそのスープを一口啜り、あまりの滋味深さに言葉を失いました。現代の化学調味料が束になっても敵わない、生命そのものを補給するような感覚。
「すごい……。これこそ、本当のチートじゃないですか! これをネットスーパーで売れば、世界中の飢えがなくなりますよ!」
「……売らないわよ。だってこれ、作るのに一人の魔導師が一生を捧げる必要があるもの」
日和の手が、ピタリと止まりました。
「この結晶には、作り手の『明日も誰かが生きていてほしい』という執念が詰まっているのよ。文明の階段を一段ずつ登って、土を耕し、試行錯誤の末に辿り着いた結晶。……日和、あなたの持ってきた便利なものは、誰かが苦労して積み上げた『過程』を全部すっ飛ばして、結果だけを横取りするものよ。それを交流なんて呼ぶのは、この結晶を編み出した人たちへの侮辱だわ」
フェアカさんは、結晶を愛おしそうに布で包み、再びワゴンの奥へと仕舞いました。
「本当の交流っていうのは、相手が積み上げてきた時間に敬意を払うこと。物珍しい調味料で味覚を塗りつぶすことじゃないわ」
「……。…………。」
日和は、自分の足元にある段ボール箱が、急にひどく空虚なものに見えてきました。ルミナリエ様も、珍しく静かにそのスープの余韻に浸っています。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。積み上げられた時間、重すぎる一口、神の知らない祈り、なんでもござれ」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
便利さの裏側にある「過程」の重要性を、フェアカさんが自身の出自に絡めて説く回となりました。




