【Cheat Ability No.47】確率事象型・負債反転回路(マイナス・ベクター・コンバーター)
「見苦しいわね。不運だの羞恥だの、不確定要素に振り回されて商機を逃すなんて、天界の損失よ」
メトリー様が取り出したのは、無数の光ファイバーが脈動する、幾何学的な形状の装置でした。
「メトリー様! これは何ですか? 装置から不思議な数式が溢れ出してますけど!」
日和が身を乗り出すと、メトリー様は眼鏡のブリッジを指で押し上げました。
「これは『負債反転回路』。周囲に漂う不運エネルギーや精神的苦痛を、そのまま『幸運の物理量』へと変換する装置よ。……そこの薄幸魔王、これを頭に乗せなさい」
「え、僕ですか? ……ああっ、頭に乗せようとしたら角に引っかかって、さらに静電気が……!」
魔王が装置を装着した瞬間、装置が激しくアラートを鳴らしました。
彼の持つ「不幸」と、フェアカさんが撒き散らされている「羞恥心」が、装置の中で凄まじい計算速度で処理されていきます。
すると、どうでしょう。
ワゴンに近づこうとしてバナナの皮で滑ったはずの勇者が、滑った勢いで空中のコインを拾い、そのまま華麗に一回転してワゴンの前に着地したではありませんか。
「……お、俺、バナナで滑ったのに、なぜかレベルアップした!? しかも地面に落ちてたレアアイテムまで拾ったぞ!」
次々と勇者たちが「不自然な幸運」に導かれ、吸い寄せられるようにワゴンへ集まってきます。ベルゼ様の暴露ソングも、装置の影響で「なぜか心に染みる癒やしのBGM」に変換され、広場は平和な活気を取り戻しました。
「……効率的ね。これでお客さんは戻ってきたわよ、フェアカ」
メトリー様が勝ち誇ったように言いましたが、フェアカさんは装置の計器をじっと見つめて冷たく言い放ちました。
「そうね。でもメトリー様、貴女の計算には致命的な欠陥があるわ。マイナスをプラスに反転させているだけなら、その『反転の歪み』はどこへ行くのかしら?」
その直後、装置が過負荷で真っ赤に発光しました。
変換しきれなかった「羞恥と不幸の凝縮体」が、反動で装置から一本のビームとなって空へ放たれ、不運にも上空を優雅に飛んでいたルミナリエ様の羽根をピンポイントで焼き払いました。
「あちちちっ!? ちょっと、誰よ! 私のメインビジュアルを台無しにしたのはぁー!」
「……不運の総量は変わらない。ただ、向かう先が変わっただけよ。ま、売上は戻ったからいいけれど」
フェアカさんは、戻ってきた客たちにいつも通りのボッタクリ価格でチートを売りつけ始めました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。計算された幸運、転嫁される災厄、歪んだ反転、なんでもござれ」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
メトリー様の装置により営業危機は脱しましたが、不運の矛先がルミナリエ様に向かうという、安定の結末になりました。




