その1
第二十三艦隊のCW部隊によって旧市街地の量産型MWはあらかた掃討できた。
しかしそれは突然舞い降りた。天を引き裂き、雷鳴と炎を以て万物を蹂躙しながら、金色の衣を纏いし鋼鉄の天使は市街地へと前進を始めたのだ。
ポイントB3―――旧市街地と市街地の境界線に位置するハイウェイ上にて、砲火は開かれていた。ハイウェイ上に展開したCW部隊は搭載している火器の全てを、上空に佇むハスターゼウスに向ける。そして一斉射撃。
銃口が火を噴き、ミサイルが白煙を吐き出しながら軌道を描き、茜色に染まったハイウェイの路面に、熱を帯びた薬莢が落ちていく。
発火、炸裂、そして爆炎。
しかし硝煙の中から現れたハスターゼウスは無傷だった。煌めく金色の追加装甲が外部からの衝撃全てを弾き返したのだ。
『FL粒子によって力場を展開し、その有り余るエネルギーを電磁力に転換した装甲……科学知識に乏しい諸君は、少し特殊な電磁反応装甲と覚えてくれるといい』
一斉射撃が防がれたのを見ると、CW部隊は一斉に後退を開始した。しかしハスターゼウスはそれを見逃すことなく、
『紅蓮魔導術式―――天を貫きし炎槍の舞踏』
本来であればリンネ・アーガルベルトにしか使用できない魔導を発動させた。天に浮かんだ魔導陣から次々と炎の槍がCW部隊めがけて降り注ぎ、激しい爆発を起こした。
超剛性チタン合金の装甲がいとも容易く溶解されていき、ハイウェイは破壊されたCWの残骸の鉄色と、吹き上がる業火の赤色に染まる。
『逃走は好きじゃなくてね。背中を追われているって感覚が単純に不快だ。だから今いる天蓋都市連合軍艦隊は全滅させておこう。それが落ち着く』
余裕の声で語るガラルドに向かって、一発の銃弾が撃ち込まれる。銃弾は力場をすり抜けて、純白の液体金属装甲を掠めた。
『その魔導……テメェのものじゃねぇな?』
キリエのベルカリスは回転式のハンドガンを構え、それをハスターゼウスに向けていた。
『他の残党への手土産さ。〈真空の大火〉をほぼ完璧に再現した生体部品となると、その価値は計り知れないだろう。君が裏切った理由もこれじゃないのかい?』
ハスターゼウスは自らの頭部を右マニピュレーターの人差し指で示す。
『あのガキはそこにいるのか』
『君にはあげられないな。一介の傭兵には過ぎたものだ』
『悪いがそのガキには愛読書を貸してんだ。このままテメェに取られちゃ、借りパクされたも同然なんでなァ……返してもらうぜ』
そんなベルカリスのコックピットに、母艦であるアタゴヤマから通信が入る。
『キリエ』
『エリゼナか。さっきの話聞いてたろ。奴は放ってはおけねぇ』
『ええ。あの技術を帝国残党には渡せない』
『素直じゃねぇなァ……あいよっと』
『CW隊の立て直しまで時間稼げるかしら』
『稼がにゃならん状況なんだろ。遠慮せず命じろよ』
敵は〈真空の大火〉をも破った恐るべき存在だ。ただの傭兵魔導遣いのキリエが勝てるような相手ではなかった。それでも味方との連携でなら、僅かに見えた勝機を掴めるかもしれない。そう、キリエは思うようにした。
絶望的状況に屈するぐらいなら、希望的観測を妄信する性質なのだ。
『わかった。あのクソ野郎をブッ殺してこい』
『あいよォ……ッ!』
ベルカリスは全身のスラスターを全開にさせ、ハスターゼウスに向かった。リボルバーの残弾数は六発。再装填する隙をくれそうな相手でもない。ゆえに六発の銃弾で、敵に致命打を与えなければならなかった。
撃つなら一発ずつ、的確にだ。
『風銃魔導術式―――自動照準弾道制御改!』
魔導陣を抜けた銃弾はハスターゼウスの直上へと放たれると直角に軌道を曲げて、積載されていた二機の量産型MW―――二基の人工魔力器官と本体との接続部位に炸裂した。右側に接続されていた量産型MWがハイウェイに落下していく。
『テメェが背負っていたMWは、おそらく外部のエネルギー供給手段なんだろうよ。そこさえ狙い撃てば、テメェはただの案山子だ。どうだ、違うか!?』
『厄介な魔導だな。着弾部位も操作しているのか』
『あのガキどもに一杯食わされたからなァ……失敗は成功のもとだぜ! 反省点は活かすしかねぇ!』
前回のアグニヴァール戦において、キリエはアシュレイの奇策に負かされた。その時の反省から、自動照準弾道制御の魔導に術式内容を書き加えて、どのような障害があろうとも必ず狙った部位に命中するように改良したのだ。銃弾そのものが、対象部位に命中することを運命づけれているかのように、確実に、正確に。
無論、それにより発動までの時間が若干長くなったので、改良前のものと使い分ける必要が出てくるが。
『まぁちょうどいい。電池交換をしたかったところなんだ』
ハスターゼウスは左側の量産型MWもパージすると、それをベルカリスめがけて特攻させてきた。内部の温度が急速に上昇を始め、機体が赤く発光を始める。自爆する気だ。
『風銃魔導術式―――衝撃弾丸!』
迎撃するべく至近距離で銃口を構えて、暴風を纏った銃弾で自爆特攻してくる量産型MWを吹っ飛ばす。直撃は防いだものの、爆風と衝撃がベルカリスに襲い来る。
その瞬間、キリエは量産型MWの中にあった魔力器官の感触―――人の命がそこにあった感覚を直に味わった。
『いい趣味してンじゃねぇか、このド外道が』
『外道とは侵害だな。使い道の無くなった生肉を焼却していると言いたまえ』
『外道じゃねぇ、ド外道ッたんだよ。耳の穴にハナクソでも詰まってんのかよ』
『品性に欠ける女は嫌いだ』
ハスターゼウスは量産型MWを二機呼び寄せて、背部に再接続した。そして人工魔力器官のリミッターを解除し、巨大な魔導陣を刻み始める。
それをチャンスと見たキリエは、ベルカリスを疾駆させた。
『風銃魔導術式―――自動照準弾道制御改!』
先ほどと同じく背部の量産型MWを狙っていく。弱点を見つければ、迷うことなくそこを狙い続ける。それがキリエの戦闘スタイルだった。
『何を仕込んでいるのか知らねぇが、使わせる前にブッ殺す!』
『雷鳴魔導術式―――感雷』
ハスターゼウスは背中に刻んだ魔導陣を消して、全身に感知能力を付与した特殊な電流を流した。これにより、ベルカリスの銃弾がどのような軌道を描いて向かってくるのか正確に認識できるようになる。
『雷鳴魔導術式―――蒼雷』
そしてベルカリスの放った銃弾を認識したガラルドは蒼い雷をそこに向けて放ち、銃弾を消し去った。銃弾自体に絶対命中する力が付与されていたとしても、銃弾それ自体が消されれば意味はない。
ハスターゼウスの全身に流れている特殊な電流は健在だ。胸部を中心に魔導陣が刻まれていることから、常に発動し続けていることで効果を発揮する魔導なのだろう。
『野蛮な女は大嫌いだ』
『そりゃどうも! 人生で男に股を開くことは一生ねぇって思うぐらい、オレは恋愛と無縁なんでなァ! そう言われても』
次弾は早かった。蒼い雷に銃弾が消えても、その次が撃たれる。だが、ハスターゼウスの全身に特殊な電流が流れ続けている限り、銃弾は正確に迎撃されてしまう。
『痛くも! 痒くも! ねぇなァ!』
対処に追われたハスターゼウスは、背部の巨大な魔導陣を刻み切れないまま、ベルカリスの接近を許してしまった。
『処女か、君は!』
『悪いか、ド外道!』
『いいや、素晴らしい!』
ベルカリスは弾数がゼロになったハンドガンを投げ捨て、両手でハスタークロノスの装甲を掴んだ。
『僕がリンネを製造するときに、とても嫌だったことは相手が経験済みだったということだ。不潔極まりないし、気分が悪くなった! でも僕は乗り越えたよ。僕の目指す最高傑作の製造のために!』
『そうかい。オレも同じだぜ! 目の前で人の性癖タラタラと語られると、マジで気分が悪くなったぞ、クソッタレ!』
両手で掴んだのはハスターゼウスの金色の追加装甲だった。魔導で強化した両腕の万力で強引にそれを引き剥がしていく。特殊な電磁反応装甲さえ無効化できれば、CW部隊の一斉射撃が通る。
『その服、センス最悪だな』
それを狙っての猛攻。
『取り替えてやるよ!』
ベルカリスはハスターゼウスの金色の追加装甲を無理やり剥がすと、その内側にある純白の液体金属装甲を露わにさせた。
『今だ!』
『でもそれじゃ、あなたも巻き込まれるわ!』
エリゼナの言葉に、キリエは怒鳴りつけるように言葉を吐き出す。
『チャンスは今しかねぇ、やれぇッ!』
『ッ……CW部隊、目標に向かって一斉射撃!』
運が良ければ生き残れるか、とキリエは静かな笑みを浮かべる。
次の瞬間、ハイウェイに展開していたCW部隊から、二機に向かって砲火が注ぎ込まれる。圧倒的物量のそれは、たとえMWの液体金属装甲であってもタダでは済まないほどの火力であった。
だが、同時にハスターゼウスの背部にて魔導陣は刻まれていく。そして頭頂部の光輪が激しい光を放った。
『無意味だ。今しがた、魔導陣は刻まれた』
『この状況で余裕出してンじゃねぇぜ!』
迫りくる集中砲火。逃れる術はないはずだった。
『いや、出させてもらおう! 零の魔導術式―――』
――――――――――――――――――――――――――――――
『―――時空支配!』
ベルカリスの動き、迫り来る集中砲火、その中の弾丸、ミサイル、その白煙、叫び声を上げるキリエ、歯を食いしばって引き金を引く兵士、頬を伝う汗、その全てが停止した。
まるで再生中の動画を一時停止するかのように。
『はははははっ! 間に合った! この魔導術式が発動した瞬間、僕の勝利は確定したも同然さ!』
ハスターゼウスと、それに搭乗するガラルドのみが、全てが停止した世界で動けた。
『一〇秒間、周囲のあらゆる物体の運動、そして生物の精神活動を停止するこの魔導……出力の問題で普通の魔導遣いには発動すらもできない禁忌の力。人工魔力器官という人類の叡智を完成させた僕に相応しい無敵の魔導だ。そうは思わんかね』
停止したベルカリスの肩にハスターゼウスの右手が乗る。
『キリエ! おい、クソ傭兵! 返事をしなさい! ねぇってば!』
接触回線で聞こえてきたのは、アタゴヤマのエリゼナからの通信だった。彼女はこちらの状況すらも把握できず、焦燥に駆られている。その光景が如何にも滑稽で、ガラルドは微笑みを顔に浮かべて、ベルカリスを追い抜かす。
そしてCW部隊の背後に降り立つと、集中砲火の先で停止しているベルカリスのほうへ振り返り、指をパチンと鳴らす。
『そろそろ動き出す頃だ。さよなら、名も知らぬ処女よ』
――――――――――――――――――――――――――――――
読んでくださり、誠にありがとうございます!
少しでも「面白い!」や「続きを読ませて!」と思いましたら、
《ブックマーク》と、広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、どうか応援よろしくお願いします!
また作品に対するご意見、ご感想もお待ちしております!




