第七十八話 女神サリの中身は…
私たちは五人で、ランジェリーショップから数分歩いたオープンテラス形式のレストランで昼食を取ることにした。
丸いテーブルを二つくっつけて、私のすぐ隣にパティ、対面にはサリ様。
もう一つのテーブルにエリカさんとエルミラさんが座っている。
パティが何となくサリ様に警戒心を持って私にくっつくような位置になっているが、あなたサリ教の信者だったよね。
神様を警戒してる信者というのもウケるが、サリ様は高校生ぐらいの清楚系ギャルにしか見えないから半信半疑なんだろう。
頼んだメニューは定番の鶏肉パエリアやサラダ、チョリソー、オレンジジュースなど。
お店によって違いが大きいから飽きないんだよね。
この国の食べ物にすっかり馴染んでしまった、というか美味しすぎるんだよ。
食べ物が豊かで美味しい国はその国自体も豊かだという証拠でもある。
女王自身も実に美味しかった。今晩の呼びつけが楽しみになる。
『マヤさん、何を考えているの?』
「ああ、この国の食べ物はみんな美味しくて良かったなと思ってました。」
『そうよそうよ。たまに一人で下界へ降りてこっそり食べてるけれど、こんなふうに人間と一緒に食事をするなんていつ以来かしら。
あなたのいた国のラーメンやカレーライス、牛丼やいろいろ食べたわ。
あそこは食の探究心が宇宙一かも知れないわね。』
「え? サリ様も日本に何度も行ったことがあるんですか?」
『管理は他の神なんだけれど、私もちょっと携わっているからね。』
まだ一年ちょっとしか経っていないのに、すごく懐かしく感じる。
ラーメン、カレーライス、久しぶりにそんな言葉を聞いたら食べたくなってきたなあ。
料理上手だったらこの世界の材料でも何とか作れそうなんだが。
『そこの三人さん、まだ私のことが信じられないのかな。
実感が無いんでしょうね。
うーん…、魔法が使えるんだったら…、パトリシアさんとエリカさん、私にマジックエクスプロレーションを掛けてみなよ。』
三人ともランジェリーショップからずっとしかめっ面やジト目で女神様を見ていたから、女神様がそんなことを言い出した。
「はぁ…はい。それなら、エリカ様やってみましょう…。」
「あぁ…。」
サリ様は座ったまま、パティとエリカさんは立ち上がり両側からサリ様の手を握り、マジックエクスプロレーションをかけた。
「あ… ああああ… うぐっ…」
「パティ! どうしたんだ?」
「パトリシア様!」
「ひっ ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
エリカさんはびっくりして地面に尻餅をつき、ミニスカで大股を広げてるもんだから黒いぱんつが丸出しになっている。
頼むから目立つことはやめてくれ…。周りの人がジロジロ見ている。
それにしても、二人とも何を感じたんだ?
「も、もうこれは絶対に口に出したらいけない気がしますわ…。」
「見てはいけない物を見てしまった気分よ…。」
何だか悪魔の本当の正体を見てしまったかのような反応だが、女神様がそんなことでいいのだろうか。
当の本人は踏ん反り返ってどや顔になっている。
『どう? これが神よ。ふっふっふ』
「あの…、よくわかりました。今度からどんな顔をして教会へ行けば良いのでしょう…。」
「魔女なんて比べものにならないわ。もう忘れよう…、うん。」
「ねえ、パトリシア様もエリカさんもいったい何を見たんですか…。」
おい、魔女と比べてるって、力の差はともかく質的にはどうなのよ。
二人の顔はスッキリしたとはほど遠く、顔が固まってサリ様の顔をあまり見ないようにしている。
楽しい食事しに来たのに、二人とも説教されている子供のようになってしまって、どうしてくれるんだ。
『あ…、ちょっとやり過ぎたようね…。
神様は怖くないからね~ あはははは…
うーん、どうしよっか…
よし! 女神様大サービスで二人にはプレゼントしちゃおう。』
「「大サービス?」」
『エリカさんには、土と火の属性を使えるようにして、念願だった全属性の魔法を使えるようにしてあげるね。
あなたは魔法学者でもあるし、元々素質があるわね。』
「ええ!? ホントですか!?」
サリ様は右の人差し指をエリカさんの額に当てる。
『これで魂に刻み込む! えいっと! ……終わったわ。』
「え? もう?」
『後は魔法書で勉強してね。あなたの魔力量ならほとんど大丈夫じゃないかしら。』
「じゃあ… 火の魔法は簡単のなら覚えてるから…」
エリカさんは右手の平を出して、精神を集中させる。
すると拳ほどの炎がぼわっと現れた。
「おおおおお!! とうとう私も火の魔法がぁぁぁぁ!!」
「エリカさん声が大きいよ。」
『それからっと…、パティちゃんにはマヤさん限定だけれど、念話が出来るようにしてあげるわ。』
「ええ!? ほんとですか!?」
パティは目をキラキラさせながら手を組んで拝む格好をしている。
緊急時にはありがたいけれど、エッチなことをしてる時だろうがいつでも話しかけられると困るなあ。
サリ様は、パティと私の額へ同時に両手の人差し指を当てる。
『んーーー、よっと。終わりよ。
パティちゃん。精神を集中させて、マヤさんの名前を呼んでご覧なさい。』
「はい、わかりました。」
パティは目を瞑ってまた手を組んで精神を集中させる。
(んんん~ マヤ様… マヤ様…)
「マヤ様、どうでしたか?」
「何も聞こえてこないなあ。」
『今の五倍くらいは集中しないとダメよ。
そんなにぽんぽん念話が出来たら、話しかけられる方は大変じゃない。
自分が死にそうになったときは案外集中出来るから繋がったりするのよ。』
「ええ? そんなあ~」
「パティ、もう一回やってみようよ。」
「わかりましたわ…」
(………マヤ様… マヤ様… マヤ様…)
「お! パティ、一言だけだったけれど、聞こえたよ!」
「ぷわぁぁぁ! 念話ってこんなに集中しなければいけないものでしたの?
これじゃあマヤ様にも気軽に話しかけられませんわね…。」
『だから言ったでしょ。本当に困ったときに使う魔法だから。
精神集中の修行をするか、愛し合っている者同士ならばより効果があるわ。』
「そうなんですの!? それならマヤ様と私にぴったりですわ!」
「あー、それなら私もそっちがよかったかなあ。うひひ」
パティってあんなに単純だったっけ?
エリカさんまで念話で話しかけてくるようになったらうるさいだけじゃないか。
『マヤさんからも、私へ念話が出来るようにしてあるわ。
さっきも言った通り、本当に困ったときだけにしてちょーだいね。』
「それは助かります。ありがとうございます。」
「えー、みんな女神様パワーを貰っていいなあ。」
エルミラさんが羨ましそうに二人を見ている。
そりゃ目の前で不思議なことが起こって自分だけ除け者みたいになっていたらそう思うだろう。
『そうねえ、エルミラさんだけ何も無しじゃかわいそうね。
うん。あなたには動体視力を少し強化してあげようかしら。』
「え? そんなことも出来るんですか?」
『サリ様にまかせなさ~い。』
サリ様は両手指の腹をエルミラさんの両目に当てる。
『実はこれが一番難しいのよねえ。調整間違えると目ん玉潰れちゃうから。』
「ちょっと、サラッととんでもないこと言わないで下さいよお。」
『ふーん…えいっと。終わったわ。』
エルミラさんの目は無事のようだ。サリ様はエルミラさんの目から両手を離した。
『ゆっくり目を開けてご覧なさい。』
「あっ いつも通りに見えます!」
『これは慣れが必要ですぐ効果はないんだけれど、あくまで人間の限界まで力を引き出しただけだから魔族みたいに目がよく見えるわけじゃないし、個人差もあるからどのくらいよく見えるようになるかはあなた次第ね。』
「あ、ありがとうございます!」
ふー、これで落ち着いたかな。
これで魔物との戦いも強力になって私も助かる。
『あまり下界の人間には干渉できないことになってるから、これで許してね。』
干渉できないと言っているわりに、私は女神様に遊ばれている気がしないでもない。
「あのー、失礼ですがお客様。もうよろしいでしょうか?」
後ろを振り返ると、綺麗なウェイトレスのお姉さんがパエリアの大皿を持ったまま苦笑いをしていた。
「ああ! すみません。どうぞこちらに置いて下さい。あははは…」
いかんいかん。レストランで食事をしようとしていたところだったのに、すっかり忘れてしまっていた。
その後、続々と食事が運ばれてきて、美味しく頂いた。
『いやあ~ こにょ国のたべもにょ(食べ物)はひゃいこう(最高)ねぇ~』
サリ様は食べ物を口いっぱいに頬張って何か言ってるが、天界の時に見た尊厳などどこに行ったかという姿だ。
パティもいつも以上にムシャムシャ旺盛に食べていて、この二人の胃は異次元に繋がっているのかと思ってしまう。