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手解き

 しばらく歩いてから、俺達はプライベートエリアにいた。

「兄貴プレイヤーネーム何?」

 聞くの忘れてた。

「K」

 圭一から取ってKとは単純な。

 まあ人の事は言えないか。

「じゃあ先ずはここの説明だな。ここはプライベートエリアでギルド、さっき入ったとこな、の受け付けで金を払えば入れる。金額で広さとか色々変わる」

「おお!さっきのがギルドね了解」

 やはり兄貴は根っからのゲーマーで、ゲームらしい用語には反応が強い。

「そうそう、結構お世話になるから覚えとけよ?

 で、プライベートエリアだとここで話した事は誰にもバレない。友達さんも多分みんな使ってる」

 これは事実で、基本的にこの『AW』では自分の装備やレベルなどはパーティメンバー以外には秘密にする。

 理由は追々分かるだろうから今はいい。

「そう言ってたわ」

「聞いてるならOK。じゃあ理由とかは友達から聞いてくれ。

 次に教えるのは職業についてかな」

 そう言って兄貴の顔を見ると兄貴の目が輝いている。

(やっぱりゲーム大好き人間だな)

 そう思うが口にはしない。

 今日のメインイベントが待ち遠しいのは俺も同じだ。

 早く済ませよう。

「取説を読まない兄貴は、説明もスキップしてるだろうからここで説明するぞ。

 先ず職業には下位職、中位職、上位職があって、それぞれレベル上限が50、100、450になってる。

 で同時に就ける職業は下位職5つ、中位職3つ、上位職1つの全9職。職業には実績で就ける様になるヤツもあるしステータスや覚えたスキル、称号なんかで就けるヤツもある」

 ここまではOK?と聞くと、頷きで返される。

 事前に知っているようだ。

「じゃあその上の職業があるのは?」

 そう聞くと今度は横に首が振られる。

「オッケー。まあここからが秘密のお話な訳だけど。

 実は職業レベルが合計1000になると、上位職の更に上の最上位職に就けるようになる」

「1000って簡単に達成出来るのか?」

 まあもっともな疑問だろう。

「簡単な訳がないから、今日の手解きがあるんだよ。まあ今日は兄貴にレベル950くらいまでには成ってもらうし。

 そこは置いとこう、で、最上位職のメリットは就ける職の数に制限が無い事と、レベル上限が無い事」

 そう言うと兄貴はかなり驚いた顔をする。

「まあもっとも、最上位職はレベル上げがゲロ難しいんだけどな。下位職から上位職までのレベルマックスが速くて1日だとしたら、最上位職のレベル1から2までが3日かかるくらい」

 そう言うと、兄貴は息が止まったみたいになっている。

 まあゲーマーだからこそ分かるのだろう。

 実際、地道にレベルマックスまで頑張るとなると、1年かかってもおかしくない。

 それも現実時間で、である。

 まあ今日は俺がパワーレベリングするからそこまではかからないし、友達からの色々な補助もあるだろうから、難しい物ではあっても不可能ではない。

 そう伝えるとあからさまにホッとする兄貴。

「とは言え大変なのは同じだからな?」

 まあそこはわかってるか。

「じゃあ次の話な。

 次はさっきちょっと出たスキルについて。まあ分かってると思うけど、一応説明しとく。

 スキルはパッシブ、アクティブ、スペシャルスキルの3種類でパッシブがSP、MP

消費無しに使えてON、OFFで発動する。アクティブとスペシャルはSPかMP或はその両方を消費して、自分でスキル名を発声する、メニューから操作して起動する、思い浮かべながら動きをトレースする。このどれかで発動する」

 一度ここで言葉を区切る。

 しっかりと兄貴が説明に追いついているのを確認してから説明を再開する。

「パッシブスキルは称号みたいな物で実績解除で追加される。だから寄生プレイばっかりしてるとマジでいらんスキルしかつかなくなる。

 で、ここで間違い易いのがアクティブとスペシャルが名称が違う同じタイプのスキルだと思うこと。実際にはアクティブが職業で習得するスキルで、スペシャルはその人個人が習得するスキルってところ」

 ここで兄貴は不思議そうな顔をする。

 やはり兄貴の友人はこれらの違いが分かっていないらしい。

「同じじゃ無いなら何が違うんだ?」

 まあもっともな疑問だろう。

 ここはしっかりと教えておかなくてはいけない。

「実はアクティブ、スペシャル両方に同じ名前のスキルがあったりする。種別と効果も全く同じやつ。でもアクティブの方は職業を消したり、自身のステータスから外すと消える。

 つまり使えなくなる。

 逆にスペシャルなら職業を何にしようが残るし、パッシブと同じスキルも習得可能。

 正直に言ってスペシャルで全てスキルを覚えられるならそっちの方がいい」

 しかも最上位職と同じで覚えられる数に限りがない。

「じゃあ全部スペシャルで覚えた方がいいのか?」

 兄貴の疑問に対しての答えは、

「違う」

 そう、決してそうでは無いのだ。

「先ず、覚えられる迄に時間がかかる。それも絶望的に」

「またかよ、、、」

「当たり前だろ?まあ覚えた後は使いまくってりゃ簡単に上がるけどな」

 しかし問題は時間では無い。

「でも本当の問題はそこじゃ無い。本当の問題はスキルでやってた動きを、システムのアシスト無しで、自分の技量だけでやらなきゃならないことだ」

 そう、それこそが問題なのである。

 いかにシステムのアシストを感じさせないとは言っても、スキルには確実にアシストがついているし、それ無しでは不可能な動きが存在する。

 それを何十、プレイヤーによっては何百個も覚えるのだ。

 その全てのスキルを自分の技量だけで再現することは、それこそ不可能に他ならない。

 幸いにもその模倣は一度成功すれば、習得はされる。

 しかしその難易度故にたった一度の模倣にも膨大な時間がかかるのである。

「まあスペシャルスキルならアシストが

かなり無くなる分、威力を高めたり、次の行動に移りやすかったり、そもそも違う動きが出来たりして自由度が上がる」

 まあだからこその難易度だろう。

 もしくは難易度故の自由度かもしれないが。

 そこで、黙って聞いていた兄貴が質問してきた。

「なあ、その場合魔法とか、〇〇倍の攻撃みたいなのはどうなるんだ?」

「流石兄貴、分かってるねぇ」

 そう。

 魔法の無い世界の住人である俺達はシステムのアシスト無しに魔法は使えない。

 もう一つの問題は大変だが、逆に簡単でもある。

「魔法に関しては運営が解決策をリークしててな、〇〇の魔塔って所に行って、覚えたい魔法を言えば、その魔法を『決められた時間内に』、『決められた出力で』、『決められた大きさで』作成すれば覚えられる」

 そして、その魔塔は比較的簡単に行けるうえ、特に入るための制限なども無い。

 一応面倒なのは火の魔塔なら火属性の魔法しか習得出来ないなどで、習得の難易度は他のアクティブスキルと対して変わらない。

「で、倍率が変化するタイプのスキルは『そのスキルを入手した時』の、『その職のレベル時点でのステータスの』、『n倍』。

 例えば、『素早さが2倍になって切りつけられる』スキルだった場合、入手時点のその職業のみの素早さが100なら、素早さが200になれば簡単に覚えられる」

「それ簡単なのか?」

 簡単かどうか、ねぇ。

 決まっている。

「簡単な訳がない。

 まあ、それ系は正直プレイスタイルに大分左右されるけど」

 ここまで聞くと中々クソゲー臭が凄いが、まあいいかな。

「正直コレ系の話は次のイベントが始まるまで兄貴には関係無いから、次に行こう」

 兄貴もメインが待ち遠しいだろうし。

「じゃあ最後はレベルについてだな」

「ん?さっき聞いたくないか?」

 ちっちっち、少し違うんだなこれが。

「実はプレイヤーそのものにもレベルがあるんだよ」

 そして、それは職業のレベルとはまた別のものだ。

「ステータスを開けば、そこにプレイヤーレベルって欄があるんだが、それが上がるとPPって言うのが増える。そいつは1ポイントにつきステータスを10あげられる。

 まああんまり使うのはオススメしないけどな。使わなくてもプレイヤーレベルが上がればステータスも伸びるからオマケみたいな物だ」

 そう、本当にオマケ程度でしか無い。

「へぇ、どんくらいで上がんの?」

「そこは個人差がデカい。何で上がってるかわからないからな」

 これは本当の話で、今まで全く上がっていない初期プレイヤーも多く、逆に凄い勢いで上がっている新規プレイヤーも居るらしい。

「クソ仕様じゃねぇか」

 気持ちはわからないでも無い。

「まあ何するも自由ってコンセプトだし、より自由に過ごしてる奴が伸びるとは言われてんな」

「まあそんなもんか」

「そうそう」

 さてこれで俺がするべき説明は終わったし、メインイベントに移ろうか。








 それから俺達はプライベートエリアを出て、兄貴の職業を選択しに[協会]にやってきた。

「ここが協会ねぇ」

 台詞では分からないが、目が輝いている。

 ファンタジー感あふれる場所だからなぁ。

「職業変更は本人しか出来ないから、自分で場所聞いて回るのもありじゃね?」

 俺がそう伝えると、聞いているのか居ないのかわからないが、

「じゃあ行ってくる!」

 と言いながら足速に目の前の女性NPCに話しかけに行った。

 しばらくすると若干焦った兄貴が戻ってきた。

「・・・・なんか夜のお誘いされたんだけど」

 どうやら[アタリ]を引いたらしい。

「流石兄貴、運が良いなぁ」

 そういったプレイヤー同士の[行為]もNPCとプレイヤーとの[行為]もなんでも自由。

 それこそがこのゲーム『AW』の売りでもある。

 それゆえに子供だとそういった台詞などは規制がかかる仕組みもあったりする。

「どこがアタリなんだよ!?びびったわ!」

「いやいや、普通ああいうのは出くわさないから」

 それこそ、1000人のNPCに話しかけても一回もヒットしない位。

「ちゃんと連絡先教えてもらったか?」

「気付いたらステータスカード交換してたわ!」

 ステータスカードとはプレイヤー専用の名刺の様なもので、NPCも持ってはいるが、公式な書類等とは格が劣る物である。

 しかし、持っているだけで交換した相手に連絡が取れる様になる便利なアイテムである。

「てか、お前のやつ貰ってないんだけど」

 気づかんでいいことに気付いた様だ。

「まあ後であげるから、取り敢えずあっちの受付行ってこい」

 そう言いながら、初期装備のプレイヤーがたむろしている辺りのカウンターを指差す。

「あいよ、じゃあ行ってくるわ」

「終わったらすぐレベリング行くからな」

 そう言うと兄貴は一枚のメモを片手にカウンターに向かっていった。



 数分後、俺と兄貴は森の中に居た。

「ここ何処?」

 まあ兄貴の疑問はもっともだろう。

 ここは上位職プレイヤーでも滅多に来ない、不人気の狩場である。

「名前とかは今は伏せとく、自分で来れる様になったら分かるし」

 そう言いながら俺は手元のボードを操作して兄貴に2つのステータスカードを渡す。

「『韋駄天』の方が公の俺のステータスとかで、文字化けしてんのが秘密にしてある俺のステータス。両方俺に連絡がつくけど基本『韋駄天』の方で連絡よろしく」

 兄貴は不審がりながら、それらを受け取る。

「何で文字化けしてんの?てか、何で2つ?」

「まあ俺には秘密が多いってことで」

 本当に多過ぎるくらいにな。

「まあまあ、早速レベル上げちゃいましょうか」

「・・・あいよ」

 じゃあサクッと行きましょうか。



 10分後。

「下位職全部50になったわ」

 あの後パーティーを組んでモンスターを狩まくって戻った俺に、兄貴が報告してきた。

「じゃあ中位職も行くか」

 それから一度協会に戻り、兄貴に中位職を就けて森へ。

「次からラストアタックは兄貴がよろしく」

 と俺が告げると、兄貴が武器を手に持つ。

「あいよ」

 質問が無いのは、まあ余計な面倒がなくて良い。




 20分後。

「レベルマックス」

 これで中位職もマックスと。

「じゃあ今度は上位職だな」

 また協会に戻り、再び森。

「さっきよりも奥に来てないか?」

 それは正解である。

「まあな、こっちの方が経験値稼ぎがいい」

「オッケー」

 本当に質問が来なくて助かる。

「じゃあ行くぞ」

 それから15分程。

 戦闘が終了すると俺は武器をしまった。

「これでレベル400にはなっただろ」

「ん?ああたしかになってるわ」

 じゃあ後は友達とかがなんとかしてくれんだろ。

「じゃあこれで今日のイベントは終了な。後はフレンドと一緒に頑張ってくれ」

 そう言って兄貴を街まで送り届け解散する。

 最後に兄貴にいくつかのアイテムを渡して今日はお開きとなった。


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