ドッペルゲンガー7
7.
弘はアパートの近くで沙織と別れふらふらしながら自分の部屋の前までやってきたところで違和感を覚えた。
部屋の明かりがついている。
家を出るときに電気をつけたままでたのかとも思ったが変だ。鍵を回すと何の抵抗もなく鍵が回る。もともと鍵が開いていたかのように。不審に思いながらドアノブを回す弘。
水の流れる音がする。
誰かいるのか。
びくびくしながらも扉を引くがそこに人の気配を感じることはできない。玄関で靴を脱ぎ部屋の中へ入るがそこには明かりがついていること以外何ら変わらない弘の部屋があった。
水の流れる音がする。
風呂場からだ。浴室の戸を開けるとむっとするような熱気と湿気が彼を襲う。風呂に張られたお湯が浴槽から零れ落ちていたのだ。
いつからこのお湯は出ていたのだと恐怖が襲う。この部屋に俺以外の誰かがいたのかと思うと、居ても立っても居られなくなる。
弘は携帯電話をパンツのポケットから取り出すと悟に電話をかけていた。
「もしもし。」
悟の声が携帯電話の向こうから聞こえる。悟の声を聞いただけで急に安ど感が体の奥から零れ落ちてしまいそうになる。だが、弘は言葉を発することができず無言電話のような状況である。何か話さないと、と思うがうまく口が動かない。
「弘か?どうした、大丈夫か? 」
弘を心配する悟の声が聞こえる。その刹那、ドアノブがぎーっと音を立てて回される音がした。誰かが部屋へと入ってこようとする。弘は携帯電話を握りしめたまま玄関へと視線を向け微動だにしない。
ゆっくりとドアが開かれるのを目線をそらすことができず、弘の目は玄関ドアへとくぎ付けとなってしまった。
そこに現れた人間を見た弘は、
「お前・・・ 」
と言ったのを最後に携帯電話は手からするりと落ちてしまった。
そして、玄関から入ってきた人間は何もなかったかのようにその携帯電話を手に取ると通話を切った。
そして、玄関の扉を閉め、鍵をかけ、部屋の奥へと入っていくのだった。




