ドッペルゲンガー6-2
6-2.
「大丈夫、弘くん? 」
そう尋ねる沙織の顔はどこか悲し気で、心配で仕方ないというようなものだった。
「あっ、うん。ドッペルゲンガーなんているわけ、ないじゃないか。」
そう言い切る弘の声にはいつもの陽気さなど微塵も感じられない。誰がどう見ても空元気そのものである。
二人は弘の家の近くにあるファミリーレストランへと来ていた。店に入って頼んだハンバーグステーキは半分だけ残っていて白い油の塊が表面にまばらに浮いている。
フォークを握ったままの弘は目の前に沙織がいるというのに、どこか上の空である。
「そうだよ、きっと私や瞳が見た人は弘くんによく似た誰かなんだよ。ドッペルゲンガーなんておとぎ話の存在なんだから。」
そう言いながら沙織が弘の不安を解いてあげようとするも弘の耳には届いてはいても右から左へと流れてしまっているように彼の脳までは届かないでいる。
もうこの話はやめようと大学であった面白い話や、昨日見たテレビの話、それから夏休みにどこに行こうかと沙織が話を変えては見る者の沙織の声は心ここにあらずな弘の脳まで届くことなくまたしても浮かない返事が返ってくるばかり。
「もう帰ろうか。」
抑揚のない声で弘がそういうと伝票を手に取り立ち上がった。
そういってレジへと歩く彼の背中があまりにも小さく見えて沙織は何も声をかけることができなかった。




