【179話】メアリーの怒り
新学期が始まってから数日が経過した。
朝の正門周辺は相変わらず騒がしく、人間界はいつもと変らず平穏な日々が続いていた。
あの日以来ユキに注意を配る事にしたメアリーもここ数日は特に変った事もなかった為、自分の思い過ごしだったと思い始めていた。
だが、事件は突然起こってしまったのである。
この日2年A組は1時限目から体育の授業だった為、生徒は更衣室で体操服に着替えグラウンドに集合する。
ユキやメアリーも着替えを終えグラウンドに向かっていたのだが。
「ユキさん、はちまき忘れてしまったので取りに戻りますね。先に行っててください。」
「うん、わかったぁ。」
この二人はとても仲がいいため、いつも二人一緒にいる。その為、二人が一緒のときは何故か靴を隠されたりすることはなかった。靴を隠されるのはメアリーが先に帰ったり、休んだりしているときを狙い撃ちしたかのように行われる。
メアリーは更衣室に辿り着く。
(ん?だれか更衣室にいるみたいだ。)
中に入ろうとしたが、中から声がするのでノックをしてから入ろうとすると、中から話し声が聞こえてきた。
「ほんとウケル。氷神のヤツあの日上履きで帰ったんだって、E組の子がみかけたらしいよ。」
「マジで?ばっかじゃないのあははははは。」
「ねえねえ今度は制服に穴開けちゃおっか?」
「それいいね、捨てるだけって面白くないもんね。」
「じゃあ氷神の制服だしてよ、はさみあるし切っちゃうからさ。」
「マジでやっちゃうの?ひどくね?」
「よくいうわよ。靴を川に捨てたりしてんのあんたじゃない。」
「でも自業自得よね、マキ先輩に対してのあの態度ほんと許せない。」
「言えてる。憧れのマキ先輩に暴言吐くのあの子だけだもんね。」
「うんうん、あれだけよくしてもらってるのにさ、ほんと羨ましいくらいなのにあの態度はありえない。」
更衣室前にいたメアリーはドアをノックすることも忘れ、ただひたすら話す声に耳を傾けていた。
(ひどいことを、それにマキ先輩に対する態度って、ユキさんはマキ先輩の事を尊敬しそれにマキ先輩のことが大好きなのに。)
更衣室のドアを開けて文句を言ってやろうと思ったメアリーだったが、中からはまだ話の続きが聞こえてくる。
「でも一番ひどいのは私達じゃなくメアリーよね。これだけの期間、氷神の靴捨てたり教科書隠したりしてんのにさ気づいていないわけないじゃん?」
「そうよね、あれだけ一緒にいて知らないフリしてるなんて鬼だわ鬼。」
「だよね。きっといつも成績で氷神に負けてるからざまあみろって感じじゃないの。あはははははは。」
(一緒にいて全く気が付かなかった…私はいつもユキさんの傍にいながらユキさんがそんな辛い目に遭っているなんて全く気が付かなかった。それなのにユキさんは私や後輩達にいつも気を配り明るく接してくれてた。私はなんて酷く最低な女なんだ。。)
更衣室の中から聞こえてきた会話で、かなり前からユキに対しての嫌がらせが続いていた事を初めて知り愕然とする。
「あっそろそろ授業がはじまっちゃうわ。いきましょう。」
と声が聞こえた為メアリーは慌てて更衣室横の階段の踊り場に隠れる。
(どうすればいいんだろう。)その場で再度思い悩み、もやは授業を受ける気力さえなくっていた。
「あれ?メアリーなにやってんだ。もう授業始まるぞ。」
「どうしたの気分でも悪いの?」
ちょうど生徒会室から教室へ向かう途中さったマキとミカに見つかってしまい、声を掛けられ、メアリーはその場に蹲り泣き出してしまったのだ。
「おい、メアリー。どうしたんだ?なにがあった?」
(メアリーが泣くなんてよほどのことだな。しかし授業が始まっちゃうし。どうしようか。)
「ごめんミカちゃん先生には腹痛で保険室にいったって伝えといてくれるかな?ちょっと生徒会室で話し聞いてみるわ。」
「う、うんわかったわマキちゃん。じゃあメアリーをお願いね。」
ミカはマキにまかせとけば安心だと思い返事をし教室へと向かっていった。
マキは泣いているメアリーを生徒会室に連れて行った。
生徒会室には先生も立ち入らない為、とりあえずメアリーを座らせ泣きやむのを待つ。
「マキ先輩、すいません。とりあえずもう大丈夫ですから。」
「いやいやいや、全然大丈夫じゃないし。なにがあったか全部話してもらえる?」
「はい。」
メアリーは全て包み隠さず打ち明ける。だが途中で思い出しては泣き出し、その度に落ち着かせ話の続きをさせたりの繰り返しで、精神的にメアリーはかなり疲労していた。
(なるほど、ユキと一番近い存在でありながらユキがやられていた嫌がらせに気が付いてあげられなかったことがよほどショックだったんだな。)
「そっか、事情はわかったよメアリー。あとはうちにまかせて今日はもう早退して寮に戻ってなよ。」
「ですが、それではまたユキさんが。」
「その事は全てまかしておきなって、悪いようにはしないからさ。」
「は、はい。ではマキ先輩よろしくお願いします。」
マキはメアリーを早退させ、授業が終わったミカが生徒会室にくると、メアリーから聞いたことを話し出した。
「そんなことが。で、マキちゃんどうするの?それにメアリーちゃんまで早退させたらまた嫌がらせが…」
「うん、もう考えはまとまってるから、それにメアリーを早退させたのは理由があるんだ。」
「そっかあ、まあマキちゃんがそう言うなら間違いないわね。」
「ミカちゃん理由を聞かないの?それにすごい信頼してくれてるんだね。マキはすごく嬉しいよ。」
「だって私の大事なマキちゃんだもん。」
生徒会室はラブラブ室に変っていた。
その日の授業も全て終わり、放課後いつもならマキ、ミカ、ユキ、メアリーの4人が生徒会室に集合するはずだったが、メアリーは早退し、マキは先生に呼ばれていることにしといてほしいと頼まれたので現在ミカとユキの二人だけである。
「ミカせんぱぃ、メアリーったら突然なにもいわずにぃ早退したんですよぉ。どぅおもぃますぅ?」
「そ、そうなの?きっとユキちゃんに心配かけたくなかったからじゃないかな?」
「でもぉ、あんまりぃじゃないですかぁ。それにぃマキせんぱぃは、また何かしでかしたんですかぁ?」
「え?どうして?」
「だってぇ先生に呼び出されてるんでしょ?」
「それは来週開かれる体育祭についての打ち合わせの為だっていってたわよ。」
「そぅなんですかぁ、じゃぁ戻ってくるまでぇ二人きりですね。」
「うん、そうだよね。私とユキちゃんが二人きりになるのってあれ以来だよね。」
「あぁぁぁ!ほんとですぅ。あの保健室いらぃですよねぇ。なんかなつかしぃなぁ。」
ミカが話題を欠かすことなく話しかけたため、ミカとユキは昔話に花を咲かせマキが戻ってくるまでずっと二人で話をしていた。
一方のマキは、授業が終わるとすぐにミカのところへ行き。
「ミカちゃん、先に生徒会室にいってて、ユキには先生に呼ばれて遅くなるとか伝えといて。」
「うん、わかった。マキちゃんくれぐれも暴力だけは振るわないでね。」
「わかってるってミカちゃん、まかせといて。」
かわいらしい笑顔でマキは教室を後にしてどこかへ行ってしまった。
マキが行った場所は生徒が下校する下駄箱のある昇降口付近。
マキは能力を使い姿を消し、誰かが来るのを待っていた。
(たしかメアリーが休んだり、早退した日に限って靴が無くなっているみたいだから、きっと今日もやってくるに違いない。)
メアリーの話を聞き、そう判断したマキはユキに対して嫌がらせをした連中をまっていたのだった。
(メアリーにしても自分のいない所でそんな事が起こっているんだし、気が付くはずがないよ。しかし私のかわいい後輩2人にそんな辛い思いをさせた奴らは絶対に許さない。)
そう思いながら待つこと30分。下校する生徒の数も減りだした頃に4人ほどのグループがやってきた。
「ねえねえ、今日メアリー早退したんだし、やっちゃおうよ。」
「そうね、制服は切り損ねちゃったからね。」
「今度は2足とも捨てちゃおっか。」
「だね、あいつ勉強だけでなく体育でもめっちゃ足速かったしさ、ほんと嫌な奴だよね。」
(こいつらか、つかなんだこいつらただ単にユキを妬んでるだけじゃん。ユキもきばき倒してやりゃあいいのに。)
その4人は下駄箱に向かい、そしてユキの下駄箱から靴を取り出した。
その頃を見計らいマキが姿を現し、偶然を装い通りかかる。
「じゃあコレこの袋に入れてよ。」
「買ったばかりみたいね、まだ新しいな。」
「いいんじゃないまた新品買えるし。」
そんな会話をしていると4人の一人がマキに気が付いた。
「あっ!し、城間会長。」
4人の表情は紅潮し、緊張のあまり袋に入れたユキの靴を持ったままで、さらにはユキの下駄箱もあいたままになっていた。
「ねえ、あんたらなにやってんの?」
「え?」
「え?じゃねえよ。その靴ユキのじゃねえのか?」
「そ、それは…。」
「あ?聞いてんだよ。答えろよ!嘘ついたらわかってんだろうなおい!」
「そ、そうです。これはその…。そう、この子が隠そうって言い出して。」
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ。なんで私のせいにするのよ。」
「だって川に捨ててるのあなたでしょ!」
「はあ?あんたも一緒になってやってんじゃん!」
4人は憧れの先輩であるマキに嫌われたくないが為、仲間割れを始めてしまう。
それにマキの噂は2年生3年生の間で知らない生徒はいない、そうあの不良のカリスマ鬼畜のマキである。
「おいお前らいいかげんにしろよ!靴を隠しただの捨てただのどういうことだ?」
大声でマキが話す為、下校途中だった生徒まで集まり、さらにマキ先輩が怒っていると部活中の生徒まで噂が流れ、4人とマキの周りにはもはや野次馬の生徒で埋め尽くされていた。
『なんなの?なんの騒ぎ?』
『城間先輩キレてるよ。でもかっこいい。』
『なんかさ、あの4人が誰かの靴を盗もうとしてたらしいよ。』
『なにそれ?マジ?しかもA組じゃん。』
『で、それを城間先輩が見つけたらしいわ。』
『さすが城間生徒会長、益々惚れちゃう。』
取り囲む生徒のこそこそ話す声が聞こえるがマキは気にせず続ける。
「で、どうすんの?それって窃盗だよ犯罪だよ?」
「ぬ、盗むとかじゃなく、ちょっと嫌いな子がいて、それでちょっと嫌がらせをしてやるつもりだったんです。」
「はあ?あんたら高校二年生にもなって何言ってるんだ?とにかくこれは犯罪だから職員室に一緒にきな!」
マキはこの4人を退学に追い込むつもりだったのだ。かわいい後輩であるユキとメアリーに辛い思いをさせた償いは退学程度では許せるものではないのだが、人間界である以上、この世界の裁きをお受けることによって償わせる事にした。
「ちょっとそこどいて、通してくれる?」
取り囲む生徒の後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「マキ会長なんの騒ぎですか!それにうちのクラスの子がなにかしたんですか?」
物凄い剣幕で現れたユキは、クラスメイトがマキに何か言われていると思い取り囲む生徒を掻き分けマキの前にやってくる。
「いや、こいつらがさあんたの靴盗もうとしてたから今から職員室へ連れて行くつもりだったんだ。それに今まででも隠したり、捨てたりしてたって認めたし。」
「で、それを報告しに職員室ですか?そんなことをしたら、その子達は間違いなく退学になってしまいますよ。それでも連れて行くんですか?」
「そりゃそうだろ、盗んだ証拠は目の前にあるんだし、当然だろ」
「あなた生徒会長でしょ?だったら生徒間で起こってる事は生徒だけで解決するのが会長の務めじゃないんですか?それに私は靴くらい無くなろうがなんともおもってません!」
「これは生徒で解決する問題じゃないと思うんだけどな。」
「この子達にしても一生懸命がんばってAクラスに入ったのに、それをたかが靴くらいで。それにそんなことも考えられない会長ならさっさと会長なんかやめたらどうですか!」
その場にいた生徒全員が静まり返る。あのマキに食って掛かるユキに誰もが驚いている。ユキの靴を捨てようとしていた4人組さえも驚いていた。
「な、なんで氷神さん。私達をかばうの?城間先輩のおしゃる通り私達のしたことは犯罪ですから、退学も仕方ないのに。」
「いいえ、あなたたちは私と共にA組で頑張ってきたクラスメイトです。こんなことくらいでいなくなってもらっては私も張り合いがなくなり困りますから。」
「氷神さん。。。本当にごめんなさい。」
「私も本当にすいませんでした。成績もよくて城間会長と仲がいいあなたが羨ましくて、それでこんなことをしてしまい…。」
「マキ会長、この子達も謝ってますし、それにマキ会長にも責任があるんですからね!それでも退学に持ち込みたいんですか?」
「いやあ、私は関係ないと思うんだけど…でも、ユキがそれでいいなら職員室に連れて行くことはやめておくわ。でもこいつらは人間として許せないけどね、こんな姑息なことするのは大嫌いだから!」
「会長が嫌いかどうかはどうでもいいです。じゃあもういいでしょ!これ以上騒ぎが大きくなると先生まできてしまいますから。」
「わかったよ。つかお前ら二度とこんな真似するんじゃねえぞ、わかったらさっさと帰れ!」
「は、はい、城間会長すいませんでした。」
「もう二度としません、すいませんでした。」
4人は泣きながら逃げるように帰っていった。
「みんなも解散してね。それと今あったことは忘れてね。わかった?」
『はい城間会長わすれました。』
『今の事は忘れましたが会長のかっこいい姿は忘れません。』
『城間会長の言う事でしたら、受け入れます。』
周囲にいた生徒はそう告げると何事もなかったかのように帰宅していった。
ユキは普段冷静なのだが、今回かなり興奮していた為、倒れそうになったが、後から駆けつけたミカが支え生徒会室へと連れて行った。
「ごめんねマキちゃん、生徒の一人がマキちゃんが昇降口でブチキレてるって報告にきて、それを聞いたユキちゃんが飛び出しちゃって。」
「ああ、やっぱり。こっちこそごめん。少々手荒だったけどあれしか方法がなくてさ。」
「てゆうか、なんであんことになったんですか!」
「ユキちゃん落ち着いて、ちゃんと話すから。それに黙っててごめんなさい。」
「なんでミカ先輩が謝るんですか?悪いのはこの会長ですよ!」
「だから、ユキちゃん話を聞いてマキちゃんは悪くないから。」
「は、はあ。じゃあ聞かせてください。」
ミカはその後、メアリーから聞いたことを全て打ち明ける。そしてそれを聞いたマキが策を練り、先ほどの事件に至った事を聞かされる。
「そ、そうだったんですか。メアリーがそんな事を…。」
「うん、でねマキちゃんがメアリーちゃんになんとかするからまかせろって言ってくれて。そのやり方まではわたしも聞いてなかったんだけど。」
「マキせんぱい。ごめんなさい。そんなこととは知らずにあんな言い方をしてしまって。」
「いやいや、うちのほうこそやりすぎたかもしれないよ。ごめんねユキ。」
「いえ、そんな…わたしは正直嬉しかったです。マキせんぱいがそこまで私やメアリーのことを思ってくれてたなんて。」
「ユキちゃんマキちゃんは二人のこと大好きなんだよ。それは私も同意見だからね。だからこれからはどんな些細な事でも教えてね。」
「はい、隠してたわけじゃないんですが、あの子達もA組で生き残る為に必死で頑張ってるわけですから、靴を隠したのもきっと頑張りすぎてストレス発散のためにやっているんだと思ってましたし、そんな気にはしてなかったのですが、まさかメアリーがその事で悩んでいたなんて。」
「ユキちゃんは大人よね、器が大きいわ。でもねユキちゃんがそうでも周りの友達や私達はそうは思わないこともあるからね。」
「はい。今回の件でよくわかりました。もっと私もそのあたり気を配れるようにします。本当にご迷惑をおかけしました。」
「つか、ユキ。今日は普通に会話してるし。それにさっきめっちゃ怖かったし。もう私のほうが泣きたいくらいだわ。」
「あははは、だって。。。マキ先輩の事大好きですから。」
「いや意味わかんないし。まったく。。。」
その後ユキも完全に落ち着いた為、生徒会室を後にし三人は帰宅する。
ユキは学生寮に着くと真っ先にメアリーの部屋に行き、その日は朝方まで学園で起こった出来事や、今まであったことや、今後そのような事があればなんでも相談する事を告げた。
翌日、退学を間逃れた4人の生徒はユキに謝罪し、その後生徒会室を訪れ、マキにも謝罪し問題は解決した。
だがユキがマキに対してはっきり言い返したことが生徒間で噂になり、下級生からは頼れるユキお姉様と呼ばれ、同級生からは見た目と反し仲間思いのとてもいい人だと思われることとなった。
この事件が次期生徒会長にユキが推薦される要因にもなるのであった。




