【176話】魔界教室
ミカに領土内の巡回を言い渡された2人は、主要となる都市を中心に副司令官数名を引き連れ巡回していた。
マキが都市に訪れた際に、万が一にも襲われる事がないように、虹色の髪のかわいらしい女の子が魔界四天王であるマキ様であると、その都市の責任者に通達して回っていた。
各都市では魔界四天王が新たにできた地位である事はすでに伝達されているのだが、ミカにこっぴどく怒られた為、念には念を押して2人の総司令官自らがマキがどのような容姿であり、普段は能力を抑えてとてもかわいらしい女の子にしか見えないなどの情報を各都市の責任者に通達しているのだ。
数日後、ある程度の主要都市を回り、魔王城へ帰還した2人。
「わしら自らこれだけ言えば大丈夫だろう。」
「うむ、マキさんがあちこち行くたびに都市が消滅しても困るしな。」
「それにしても先日のミカ様は、マキさん以上に恐ろしかったの。」
「全くだ。マキさんの事になると天使ではなくってしまわれると噂があったが、本当だったとは。。」
そう話しながら魔王の部屋へ向かう。部屋には魔王ミサだけがいた為、少し驚き跪き尋ねる。
「こ、これは魔王閣下、魔王代理のミカ様はどちらに。」
「ミカなら人間界へ帰ったぞ。」
「そうでございましたか、領土内の巡回を終えましたが故、ご報告に参ったのですが。」
「そんな事いちいち報告にこなくてもよい。」
「はっ、申し訳ございません。」
ミサにくだらない事をいちいち言いにくるなと叱られ、謝罪する2人。いつもならさっさと総司令官室へ戻るのだが、何故かその場に留まり何か言いたそうにしている。
「なんだカオス、なにか用でもあるのか?」
「はっ、実はご相談したい事がございます。」
「ほう、これはめずらしいなお前ほどの魔族がわたしに相談事があるなど、今まで数千年共にいるが初めてだな。」
魔界の事は全てまかせてあるので相談など受けた事がなかった為、ミサは少し嬉しそうだった。
ディオはなんの相談があるのだろうと不思議そうな表情だった。
「はっ、実は我らそろそろ人間界へ見学に行きたいですが。」
「ああ、そういうことか、つまりわたしの許可がほしいのだな。」
「お察しの通りでございます。」
(なるほど、そういうことか。)
ディオは思い出した以前総司令官室で全員集まり人間界へ行きたいと話してたことを。
(そういえばカオスが代表して魔王閣下に許可をもらうとか言っていたな。我らも能力も抑え込め、姿も変えられるようになっているから、魔王閣下も許可してくださるだろう。)と、すでに人間界へ行ける気分になっていたディオ。
だがディオの予想に反する答えが返ってくる。
「だめだ今のままではとてもじゃないが許可はできん。」
「そ、それはどうしてでしょうか?」
「お主ら能力は抑え込め姿も人間となれたのはいいが、人間界の事は何一つ知らぬであろう。」
「ですが都市の構造や社会などは魔界とあまり変わらないとお聞きしております。」
「たしかにそうだが人間は魔族と違い弱く脆い知識が豊富な事以外は魔族より数段劣る。それを理解した上でないと人間界へ行く事は許可できん。」
「ではどのように人間界の事を学べばよろしのでしょうか?」
「そうだな、わたしがお前らに教えてやろう。」
「ま、魔王閣下自らですか!?」
「わたしだと何か不満か?」
「いえ、とんでもございません。是非ご教授よろしくお願い致します。」
「では、部屋を用意し後日改めて連絡する。」
「はっ、ではさっそく全員に伝えてまいります。」
思わぬ展開になってしまったが魔王自ら教えてもらえる事と人間界へ行ける喜びでカオスとディオは笑顔で魔王の部屋をあとにした。
その後、総司令官室へ行くとたまたま全員揃っており先程魔王から言われた事を伝えると全員が喜び笑顔になる。
「ユキ様のいる世界へ行ける。ガイやったな!」
「リード、共に一生懸命覚えよう。」
「メアリー様の人間としての生活がお目にかかれるなんて。」
「ミカ様のお傍に早くいきたい。」
各自それぞれの主の人間界での生活が気になっていた為、とてもわくわくしていた。
数日後、ミサから準備ができたと連絡が入る。カオスは総司令官全員を招集し魔王自らが用意した部屋にいくことを告げる。
「全員揃っておるな、では魔王閣下がご用意してくださった部屋へ参るぞ。」
総司令官全員は、魔王ミサが指定した部屋の前に辿り着いた。部屋の入り口にはかわいらしいメイドが2人立っている。
「皆様、魔王閣下よりお部屋に入る前に能力を抑え人間の姿で入室されるようご指示がございました。」
「なるほど、この部屋に入った時点ですでに人間界についての勉強が始まっているってことか。」
「はい、ですが能力を完全に抑え切れておられない場合は入室を許可することができませんのでご了承くださいませ。」
「しかしそれは誰が判断するのだ?」
「はい。わたくし共2人が皆さまが能力を抑えられているか審査致しますのでご安心くださいませ。」
「なんだと!貴様、メイドの分際で!」
「ガイやめんか!このメイドも魔王閣下の指示でここにいることを忘れるでない。」
「ぐっ。わかった言う通りにしよう。」
(しかしこのメイド2人は総司令官を前にしても全く微動だにせんな、このような魔族がいたとは。)度胸の据わったメイドにカオスは感心していた。
それもそのはず実はこのメイドはマキとユキだったのだが完全に能力を抑え込み変装している為、総司令官は誰一人として気が付いていない。
ミサから以来を受けたミカ、マキ、ユキ、メアリーの4人は喜んで引き受け、入念な打ち合わせをした後、魔界へやってきて直接この部屋に集合しそしてミサキ以外は誰かわからないように変装していたのだ。
「お時間もあまりございませんので、皆様人間の姿に変身し能力を完全に抑え込んでくださいませ。」
再度同じ口調で変身を促されると総司令官全員はそれに従った。
女子高生くらいのリリィとメディ、若くイケメンのガイとリード、美人のお姉さんのミリア、ミーナ、アイリ。カオスとディオはおじさんだった。
片方のメイドはガイとリードに見蕩れて茫然としていたが、もう一人のメイドに足を踏まれると我に返る。
「み、皆様完全に能力を抑え込むことができておりますのでこれより部屋の扉を開きます。」
メイド2人は魔王が用意した部屋の扉を開く。
総司令官全員が中に入り目の前に映し出された光景はまさに人間界の都市が丸ごとその部屋の中にあったのだ。
カオス以外は人間界の風景を知らなかったがカオスは何度か訪れた人間界と全く同じ風景に驚いていた。
(魔王閣下の再現力はものすごいな。わしが見たあの街並みとまったく同じではないか。)
とても部屋の中とは思えないほど見事な都市が作られている為、総司令官全員が見蕩れていると同じように部屋に入ってきたメイドが説明を始める。
「これより魔王閣下がいらっしゃいます学校へご案内いたします。学校に到着なさいましたら魔王閣下により人間界についての講習が執り行われます。」
「すでにこの室内は人間界と同じですので皆様くれぐれも能力を出さないようにお気をつけくださいませ。もし能力を抑えられず微量でも察知した場合はその時点で終了となりますので予めご了承くださいませ。」
(これは魔王閣下がすでにここは魔界ではなく人間界であることを自覚さす為にメイドにこのような言い方をするように言われておるのだろう。)カオスはそう受け取る。
「お前らここはすでに人間界だ、決して魔界だと思わんようにな、それに総司令官としての地位も全てないものだと思え。」
「ああ、カオスわかってるって。」
「心配しなくても大丈夫よ。ミカ様と人間界でもお会いできるチャンスなんだから。」
(どうやら要らぬ心配だったようだな。)カオスは安心した。
そしてメイドの案内の元、後ろからゾロゾロと総司令官が後を着いて行く。
「これが人間界か、空は青く雲は白いんだな。」
「家も小さいんだな。」
「移動手段は徒歩しかないのか。」
「まあ、学校へ着けば解るだろうまずは知識を得ないとな。」
数キロ歩かされ、やっとついた場所は真欧学園と書かれた学校であった。
「こちらが本日魔王閣下が講習を行う学校でございます。」
「ほう、ずいぶん小さい建物だな。」
「そういえばここに来るまでずいぶん歩いてきたけど、小さな建物ばかりだったわね。」
教室まで案内され室内に入ると、人間の姿になった魔王がいた。
案内を終えたメイド2人は一旦引き揚げた。
「私が先生よ。みんなどこでもいいから席に座って。」
赤いスーツ姿でなぜかメガネをかけたミサキがそこにいた。
「みんなうまく人間になれてるわね。これならどこから見たって魔族には見えないわね。」
生徒である総司令官を見渡しとても満足そうなミサキ。
(カオスとディオはおじさんにしか見えないわね。。。)
「では授業を始めます。72時間ほどぶっとおしでやるから、その後は実際街に出て試験を行います。それで合格したら終了です。」
「はっ、よろしくお願い致します。魔王閣下!」
「魔王閣下はダメよ。ここではミサキ先生なんだからね。」
「はい!ミサキ先生よろしくおねがい致します。」
各自にメモを取らせるためのノートを配り、授業は開始された。72時間という長時間に渡り執り行われた授業だったが誰一人苦痛に感じた者はおらずみんな真剣だった。
治安を維持するための警察組織や一般の魔族の生活環境は人間界とほぼ同じだった為おおまかな説明だけに留まり、会話の仕方や魔界には存在しない電化製品などについての勉強などがメインである。
「魔界では遠くにいても瞬間移動できるから、すぐにその場に行く事ができますが、人間界ではそれなりに時間がかかります。でもどうしても大事な用件があるときはこれを使用します。」
ミサキはそう説明し、携帯電話を取り出した。
「これは電話という機器です。これを使用すればどんなに遠く離れていても会話をすることができます。」
(なんと、あのような小さな板で会話ができるのか。)
(えっと…でんわっと。で、あれで遠くにいる人と会話ができるっと…。)必死にメモを取るリリイやメディ。
このようにミサキが実際に電化製品やその他機器を目の前で見せ、そして使い方などを詳しく教えるといった授業だった為、理解もすぐにでき総司令官の勉強意欲は尽きる事がなかった。
ひとつひとつ説明を受けそれをメモに書いていき渡されたノートはメモでぎっしり埋めつくされた。
その後も人間界での日常会話など多岐に渡り説明は続き授業は72時間みっちり行われ終了した。
質問はないか尋ねた所、一斉に質問責めに遭ってしまい結局質問は24時間に及んだ。
「じゃあそろそろ最後の仕上げとして試験を行います。それに無事合格する事ができればいつでも人間界に行く事ができますから皆さん今日覚えた事をしっかり守れば問題なく合格できますから頑張ってくださいね。」
ミサキがそう告げると各総司令官にプリントが配られた。
「今渡したプリントにそれぞれが今から行うことを書いてあります。それが実行できれば試験は終了です。」
ミサキ先生にそう言われ、全員がプリントに目を通す。
「えっと、①駅前の喫茶店でコーヒーを注文し領収書をもらう。②コンビニへ行き食べ物を購入し領収書をもらう。③タクシーに乗りこの教室へ戻ってくる。って書いてあるわ。」
(駅前ってなにかしら?それにコンビニ?タクシ?-?もうわけがわからないわ。)プリントに書いてある事がまるで理解できないミリアはパニックに陥っていた。
「おそらく書いてある事が理解できないと思うけど、それは街にいる人に尋ねると丁寧に教えてもらえると思うから、まあとりあえずやってみてね。それと人間界で使う通貨だけ渡しときますね。」
ミサキは各自に1万円づつ渡した後、教室を後にした。
「と、とりあえずやってみるか!」
「そ、そうね。」
「いきましょう。」
「で、では行ってまいります。」
こうして試験は執り行われた。
それぞれの総司令官に異なる内容が書かれて会った為、学園を出た後は各自バラバラで街中を移動することになった。
他の総司令官と同じように学園を出たミリアは駅がどこにあるのか全く解らない為、歩きながら考える。
(たしか道を尋ねるには、交番て所へ行けばいいのよね。でも交番てどこにあるのかしら。)駅もさることながら交番の場所さえ解らない。
するとミリアの近く数名の通行人が歩いているのが目に入った。
(そっか、道を尋ねればいいんだわ。)
「おい、貴様。駅はどこに行けばあるのだ?」
いきなり高圧的に話しかけたせいか通行人は逃げ出した。
最初にいたメイド役はユキとマキだったが、街にいる住民は普通の魔族にマキが魔法で能力を抑え込んでメアリーが呪文で操りミカとユキが人間の姿に変装させていたのだった。
さらにミサキからは『丁寧な言葉で質問される以外は、一切相手にせず逃げなさい。』と告げられていた為、それを実行しているにすぎなかった。
(なぜ逃げるのだ。ああそっか、人間は弱く脆いって習ったんだわ。言い方を変えないとだめね。)
再び通行人を見つけると今度は丁寧に道を尋ねるミリア。
「すいません、駅へはどのようにして行けばよろしいでしょうか?」
「駅ですか、それでしたらバスに乗ればよろしいかと。あちらにバス停がありますので。」
(やはりそうか、魔界と違い話し方も変えなければ答えてもらえないのだわ。)
「そうですか、ありがとうございます。」
(で、バスに乗るって、たしか人間界で結構頻繁に乗る乗り物だったわね。)
ミリアは授業で習ったバスの乗り方でなんとか駅に辿り着いた。
「駅前でコーヒーだったわね。飲むってことは飲食店よね。」
(飲食店は魔界と同じなのね、これなら楽勝だわ。)
駅前周辺にあった喫茶店に入る。
「いらっしゃいませ。」
笑顔でミリアを出迎えるウエイトレスにはミカが変装していた。
「え、えっとコーヒーお願いできるかしら。」
「はい、ホットでしょうか?アイスでしょうか?」
「じゃ、じゃあホットで。」
(なるほど、人間界では同じ飲み物でも熱いのと冷たいのがあるのね。)間違ってはいないが全ての飲み物には該当しないことをミリアは知らない為勘違いしてしまう。
そして先程頼んだコーヒーが来るのを待つ。
(コーヒーってどのような味なのかしら。たしか人間界では大半がこの飲み物を飲んでいるっておっしゃってたわね。)
「お待たせいたしました。」
ウエイトレスがコーヒーを持ってくると、ミリアはカップに注がれた黒い液体を覗きこむように見る。
「な、なにこの色。」
(黒い飲み物って。人間て変わってるわね、でも香りはいいかも。)
コーヒーカップを片手に持ち、香りを楽しむ姿はとても気品溢れる美しい女性にしか見えない。数万年生きてきたミリアが初めて口にするコーヒーの味はどんなのだろうと口に含む。
『ブッ』
(な、なにこれ!)
口に含んだ途端、コーヒーを吹き出してしまう。
あまりの不味さにブチキレそうになるが、ここは人間界だと自分に言い聞かせ落ち着く。
(しかしとんでもない飲み物だわ。)そう思いながらもなんと飲み干したミリアだった。
魔界でも飲食店はある為、支払いを済ませるが魔界には領収書というものは存在しない。
「あの、りょうしゅうしょっていうのはどちらに?」
「ああ、領収書ですね、少々お待ち下さいませ。」
ウエイトレスは金額の書かれた紙をミリアに手渡す。
「こちらが領収書になります。お客様からいただいた料金が記載されている用紙ですお確かめ下さい。」
(なるほど、支払った金額を受け取った証明するためのようなものか。それにちゃんと支払ったという証明にもなるな。これは魔界でも役に立ちそうだ。)ミリアは人間界で得た知識をそのまま領土にも取り入れようと考えた。
その後も、通行人などにやさしく話しかけコンビニの場所を尋ねたり、コンビニには無事立ち寄ることができ食べ物を購入し喫茶店同様に領収書を受け取り、そして帰りはタクシーを使用し学園に戻ってくることができた。
「ミ、ミサキ先生、ミリア只今戻りました。」
「おかえりなさいミリアさん。完璧でしたね。一番最初の合格者よおめでとう。」
ミサキは店員やバス、タクシーの運転手に変装していたミカ達から連絡を受けていた為、すべて解っていた。
「あ、ありがとうございます。」
嬉しそうなミリアは、これでメアリー様の人間生活も見る事が出来ると思い喜んだ。
その後、続々と帰ってくる総司令官達、リリイが途中迷子になったり、ガイやリードが数回に渡りキレそうになったり、ミーナが予定になかった服を購入していたりといろいろあったが無事全員が合格する事が出来た。




