【160話】地底都市のその後
*****地底都市*****
地底都市はミリア領土内にある数千キロにもにも及ぶ砂漠の地下と同じ広さがある。帝王アーサーのいた要塞はその都市内のほんの一部に過ぎなかった。
「なんだと!アーサーが赤い魔族に倒されただと!」
地底都市の中心部にある結晶を加工して作られた巨大な城内の皇帝の部屋に声が響き渡る。
地底都市はこの城を中心に都市があり、数億の青い魔族が住んでいるのだ。
マキ達が侵入した要塞は、外敵から地底都市を守るために作られた要塞であり、過去に赤い魔族が侵入してきた場所に設置してあるのだ。
要塞には提督クラスが常時待機し、外敵の侵入を防いできたが、アーサーのいた要塞に限り帝王自らが侵入を防いでいた。帝王のいた要塞の場所が一番侵入者が多い為であると同時に魔物まで侵入していたからである。
数千年にも渡り要塞により守られてきたはずの侵入をあっさりと突破され、現在アーサーがいた要塞には大きな能力を保持した魔族はいない。
「提督と帝王共に倒され、現在魔物の群れにより要塞は壊滅状態にあります。」
要塞から一番近い都市を束ねる帝王により皇帝に報告がなされる。
この地底都市で皇帝と呼ばれるものが地上でいう魔王であり、帝王は総司令官、提督は副司令官といったところだろう。
「すぐに要塞を取り戻し、代わりにお前があの要塞の任務にあたれ。」
「ははっ!」
帝王が何人いるのかは不明だが、皇帝に報告にきた帝王シルクは、新たに要塞の任務に着くよう命令された。
(赤い魔族にあのアーサーが倒されるなんて考えられんな。)皇帝は青い魔族は絶対に赤い魔族に負ける事はないと思っていたので、今回、報告を受けアーサーが倒された事が信じられなかった。
皇帝自身、本来なら地上に出て赤い魔族を根絶やしにしたいくらいだったが、青い魔族にとってはこの地下から出る事は自殺行為そのものなのだ。
赤い魔族がこの地下都市に侵入すれば魔力は徐々に吸いつくされ、やがてなくなり死に至る。
青い魔族はその逆で、地上に出た時点で魔力を吸収してしまう為、体内に魔力が溜まりそして破裂してしまうのだ。
呼吸で例えれば、赤い魔族は地下では息を吐き続けることしかできない、青い魔族は地上では息を吸い続けるしかできないと言ったところだろう。なのでどちらの魔族にとっても生存不可能なのである。
ならばなぜ赤い魔族が侵入してきたかと言うと、勢力の大きな魔族が領土拡大の為に攻め入ったり、調査の為に訪れて戦闘になったりしたためである。
現在の魔界では地底都市のことはほんとんど知られてはいないが、数千年前の魔界では結構知られていたのだ。
なので大々的に赤い魔族が攻め込んできていたのは数千年前の事であり、現在ではユキのようにたまたま地底都市に辿り着いてしまった魔族がほとんどである。
要塞があちこちに建てられていることから、地底都市へ入るのはユキ達が通った洞窟だけではないらしい。
アーサーの要塞へ向かう帝王シルク。皇帝の城からは数百キロも離れた場所に要塞はあり、青い結晶と石で作られた乗り物で移動をするが数時間はかかる。
数千の魔族は武器を手にし、帝王の後に続く。地上の魔族と違い文明は古代的だった。
皇帝の城を中心とし、都市が展開されていた為、要塞に行く為にはその都市を通過する。帝王シルクが通ると魔族は敬礼し、そして剣を天にかざす。
城はもちろん、建物はすべて石でできている。ユキが氷でなんでも作れてしまうのと同じで、青い魔族は石でなんでも作ってしまうのだ。
(しかし提督やアーサーが倒されたのに、私が代わりに任務についたところで同じ結果なんだけどな。)
乗り物内で帝王シルクはそう思っていた。皇帝の命令なので仕方なく要塞に向かってはいるが内心は嫌だった。
そして帝王シルクは、アーサーの要塞に辿り着く、しかし要塞はすでに別の青い魔族の兵士が魔物を討伐し、要塞は元の姿に戻っていた。
「シルクなにをやっていた!来るのが遅すぎるだろ。」
要塞の前で止まっていたシルク達に、同じく帝王であるカルマが声をかける。
「なぜカルマがここにいるんだ?」
「皇帝から至急ここの任務に就くようにと指令がきたからだ!」
皇帝はアーサーがやられたため、帝王を2名要塞に派遣したのだった。
(なるほど、2人で要塞を固めろってことか。しかしついてないな、よりによってカルマがくるなんて。)
シルクは平和主義なのだが、カルマは闘いを好む帝王であったため、何度か皇帝に赤い魔族を討伐したいと申し出ていた、だが先述のように、地上に出れば青い魔族はやがて滅びると聞かされ思いとどまっていた。
2人の帝王は要塞に入り、帝王専用の部屋に入り話をする。
「ここはカルマが責任者としていてくれればいいよ、私はそれに従うから。」
「お前は俺より強いのに、なぜそんな弱腰なんだ?」
「ただ争いが嫌いなだけ、でも侵略は許せないけどね。」
カルマが言う通り、数名いると思われる帝王の中でシルクの能力はズバ抜けて強かった。
「皇帝もそうだ、侵入者を防ぐだけで、こちらから打って出ようとはしない。これではいつまでたっても我ら一族は…。」
「ここで暮らす分には問題ないのにわざわざこちらから争いを起こさなくても。」
カルマはこの地下都市だけではなく領土拡大の為、地上に侵攻すべきだ、と何度も皇帝に掛けあっているがその度に却下されていた。
「だが実際、赤い魔族はこうやって攻めてきているではないか!我らがなにもしなくとも向こうはやってきているのだぞ。」
「うん、たしかにそうだけど、昔みたいに何万もの魔族が襲来したって報告はないし、それに数名の魔族なら迷い込んできた可能性だってあるはずだし。」
「なにを言うか!そいつらはきっとこの地底都市の視察にきたに違いない!」
「視察ねえ、まあそれも考えられないことではないけど、赤い魔族を見ただけで話も聞かずにすぐに石化してしまうこちらのやり方にも問題があると思うんだけど。」
「お前とは話すだけ無駄なようだ。ここは俺がやりたいようにやるから、それでいいな。」
「うん、まかせるよ。私にできることがあるなら言ってね。」
シルクは帝王の部屋を出て、提督が使っていた部屋へ向かった。
要塞はかなり広く、数万人の兵が待機している。帝王と提督の2人で管理しているが、現在は帝王が2名と数万の兵により固められている。
シルクは数千の兵しか連れてきてないが、シルクは帝王で一番強い為、その配下の兵も特別に強化された兵だった。
シルクが部屋を出たあと一人残された帝王カルマは、やはり打って出たい気持ちが抑えられず、一人考え事をしていた。
(あのシルクの兵さえ動かす事ができれば、地上に打って出るのは容易いのだが。)
こうしてマキ達が訪れた地底都市の要塞には2人の帝王がその任務にあたることとなったのだ。その後カルマが地上へ打って出るのは、もう少し先の話になる。
*****魔王城(魔王の部屋)*****
地底都市で帝王が新たに派遣された頃、ミサキ達5人は魔王の部屋で会話していた。5人勢揃いするのは久々だった為、少し会話をしてから帰還することになっていたユキとメアリー。
5人は人間の姿なので、女子会にしか見えないのだが、魔界では魔王と魔界四天王の立場にある。
「ユキ、メアリーは人間界に帰ったら罰として学生寮の掃除だね。」
マキが今回の件で迷惑をかけた2人に罰を言い渡す。
「ふぁい、わかりましたぁ。こんかいばかりはぁ、いいわけできませんしぃ。」
「本当に皆様にご迷惑をおかけいたしました。そのような罰で許される事でもありませんが…。」
「マキちゃん、かわいそうだよー罰なんて。2人共無事帰ってきたんだしー、許してあげてよー。」
「そぅだそぅだぁぁ、ミカねえちゃんはやさしぃなぁ。それにくらべどこかのおちびさんはぁ。」
「ミカちゃん!甘やかしちゃだめ。ユキなんて反省の欠片もないんだから。」
「そうみたいだね、ユキちゃん、マキちゃんの言う通りお掃除頑張ってね。」
マキに口答えしたユキに同情の余地はないと判断したミカは、マキの意見に賛成し、ユキとメアリーはこの後人間界に戻り、学生寮を掃除をすることが決定した。
「わたしも人間界に戻るから2人がちゃんと罰を受けているか監視しとくわね。」
ミサキが笑顔でそう告げる。
「はい、お姉様よろしくお願いします。」
ユキは、あちゃーといった表情だが、ミサキが大の苦手であり、逆らう事など死を意味する為、黙って頷く。メアリーは最初から罰を受けるのは当然だと思っていたので、元気よく返事をしていた。
ユキ達のおかげで、2日間を無駄に過ごしたマキは、明日から新たに魔界で何をするか考える。
ミカは地底都市や青い魔族を見た事もかなかったので、いろいろミサキに質問していた。
「お姉様、青い魔族の方達は、地上に攻めてきたりしないのでしょうか?」
「それはないわよ、それならとっくに攻めにきてるわ。」
「なにか理由でもあるのでしょうか?」
「理由ね、なんだろう。地上に出たら生きていけないとかかも。」
「ですが、青い魔族は魔力を吸収してしまうのですよね、ならば地上に出た方が生活もしやすいのではないのでしょうか?」
ミカは魔力を吸収してまうのであれば、魔力を食べる魔物と同じではないかと推測する。だがマキは違う見方をしていた為、ミカに話す。
「ミカちゃん、赤い魔族が地底へいったら魔力を吸収され死んじゃうでしょ?それとは逆に青い魔族が地上に出ると魔力を吸収しすぎて死んじゃうんじゃないかな?」
「なるほど、そうかもね。さすがだわマキ。」
「吸収しすぎて耐えきれなくなるってことかしら。」
「うん、実際に地底都市に落ちてた魔力を吸収する青い結晶を持って帰ってきたんだけど、破裂してしまったから。」
「そうなんだー。じゃあそれが理由で地底からは攻めてこないってことかー。」
「ミカ、地底の話はしばらくしないほうがいいかも。」
ミサキがそう告げ、ユキとメアリーの方に視線を向けると、よほど怖かったのか表情は青ざめて震えていた。
「なんで石になったくらいで、そんなに恐怖を感じたの?」
恐ろしく冷酷なユキや、冷静沈着なメアリーが石化されたくらいで怯えているのが不思議でしょうがなかった。それはミカやミサキも同じ考えだった。
「石になったくらいって!マキねえちゃのばかばかばかばか!」
ユキはマキの頭をポカポカ叩く。
「だってユキは私を凍らせるじゃん、それと同じじゃないのかなって。」
スネるユキとは対象的なメアリー。
(そういわれればそうだ、なんで石化されたくらいであんな恐怖を感じたんだろう。)恐怖を植え付けられていた為、思いだそうとはしたくなかったが、冷静になり考える。
「あの、マキさん。石化された時、人間の姿でしかも能力を全て吸い取られた感覚に陥ったのです。さらに息もできず、自らの能力だけで意識を維持していたので、それでだと思います。」
「うんうん、そぅだよねぇ、ユキもぉどんどん気が遠くなっていったけどぉ、なんとかがんばろうっておもってたからぁ。」
「だとしたら、あと数時間でも救出が遅れていたら、ユキもメアリーもここにはいなかったかもしれないわね。」
青い光は相手の能力を利用し石化し、相手の動きを完全に封じ込める。さらに地底都市内自体が能力を吸い取ってしまう効果がある為、石化され身動きが取れないまま能力を吸い取られ死に至らせる。
石化された3人の能力は恐ろしいほど大きかった為、石化された後でも生命を維持することができたのだった。
「しかしぃ、能力を抑えるだけで防ぐ事ができたなんてぇ、そんな簡単だったことがぁすっごいショックですぅ。」
「ユキ、簡単だけどなかなかできることじゃないわよ。戦闘の最中に全ての武器や防具を捨てるのと同じ事なんだから。」
ミサキが武力の将であるならば、マキは智略の将だなとミカは思った。
ミカの疑問も解決したところでミサキ、ユキ、メアリーの3人は人間界へ戻ることとなった。




