第8話 リベルタ出撃
傭兵ギルドから課された試験をこなすべく、俺はさっそく宇宙港に係留したリベルタの元へ帰投した。
本当なら先に腹ごしらえやら必需品の買い出しをしたかったところなのだが、現在の俺に買い物するための電子マネー口座は存在しないので、所持金はゼロ。病院代のツケもあるので、それを加味すればマイナスだ。
一刻も早く金を稼げるようにならなければ、リベルタの再建よりも先に自分が野垂れ死にしかねない。なので、残念ながら今の俺に寄り道の余地は存在しないのだ。
「ま、本登録が済めばライセンスに紐づいた口座にこの依頼の報酬が入るらしいからな。それまで辛抱と行きますか」
肩をすくめてそうぼやきながら、俺はコックピットの操縦席へ着座。リベルタの管理端末を経由して、試験用にあてがわれた依頼の内容を改めて確認する。
試験用の依頼は、「座礁した船のサルベージ任務」「ごく小規模の輸送任務」「パトロール任務」の三つだ。
座礁した船のサルベージは、航行不能になって破棄された船舶から、指定された物品や部品を回収する仕事。
輸送任務は読んで字の如く、目的地へ貨物や人員といった届け物を船で運ぶ仕事。今回は、足を必要としている人間を届けるタクシー業となる。
そしてパトロール任務は、民間の船が通過するエリアの哨戒を行い、宙族などの脅威を探知・迎撃する仕事だ。
仕事内容としては極めて基礎的なもので、新人傭兵の依頼遂行能力を測るためにはうってつけなラインナップと言えた。
「懐かしいなぁ、この感じ」
眼前のコンソールに表示される文言は、どれも〈スタユニ〉の世界で遊んできたミッションとほぼ相違ない内容で、思わず懐かしさを覚えてしまう。
リベルタに乗り始めた頃、いろんな理由で爆散したリベルタを保険で買い戻すために、この手のミッションは飽きるほど回しまくっていたものだ。あの時と違って一度撃墜されれば(よほどの豪運でもない限りは)終わりという違いこそあるが、強い既視感はどこか郷愁の念にも似た感覚を俺に与えてくれた。
「座標と目的地からすると……サルベージ、輸送、パトロールの順で行くのが手っ取り早いかな」
サルベージで回収する荷物の届け先がちょうどタクシー依頼の待ち合わせ先になっているので、まずはサルベージポイントに向かい、放棄された荷物を回収。
その後、届け先へ運び込むと同時に依頼人を迎え入れ、目的地であるこのルーメンプライムコロニーへ帰還。
しかるのち、コロニー近傍に指定されたパトロールポイントへ向かい、哨戒の仕事に従事する。
今回の依頼を最大効率でこなすならば、このルートで回るのが最も早くなる計算だ。
より多くのお金を稼げるよう、うまくルートを構築し、効率的に依頼をこなす。
スタユニ時代でもそうだったが、「複数の依頼を受けた時、特有の効率化」は、あまり語られないがこれはこれで楽しいところでもあった。
「よし、そうと決まれば行きますか!」
ルート構築を完了させた俺は、サブモニタを操作してコロニーの管制室へと出航申請を提出。
同時に、セルフチェックプログラムを走らせて、出航に不備がないか最終確認を行う。
「リアクター出力正常値。エンジンシステム、メインサブ全てヨシ。シールドジェネレーター正常に稼働、ウェポンシステムはロック状態でオンライン。……数値は物足りないけど、そこは仕方なし、と」
取り付けていたあらゆる装備を失ってしまったので、モニタ内に表示されるリベルタのスペックは完全に初期状態のそれまで落ち込んでいる。
限界まで強化した時代のことを思うと弱体ぶりは悲惨の一言に尽きるが、それでもパイロットの腕次第では新米向けの依頼程度なら楽にこなせる実力はあるのだ。なら、長年この船を乗り回してきたユーザーとして、その性能をフルに引き出してやるのが俺の役目だろう。
《管制局より、32番ハンガーの出航申請を承認。ランディングパッドを開放する》
なんてことを思っていると、サブモニタに映った通信画面から、管制官の声が響く。
直後、リベルタが駐機しているハンガー内の床が、重々しい駆動音と共に上昇を開始。それに合わせて、頭上にあった隔壁扉がゆっくりとその口を開け、その向こう側に広がる漆黒の宇宙をあらわにした。
開いた隔壁の向こうに張られた与圧用のエネルギーシールドをゆっくりとくぐり抜け、リベルタを乗せたランディングパッドはコロニーの外へ到着する。
サブモニタに「Launch Ready」の文言が表示されたのを確認してから、俺はコンソールを弄り、メインエンジンに火を入れた。
「エンジン始動。慣性ダンパー、レビテーター正常。――出航準備、よし」
船の航行を司るシステムをチェックする俺の声は、少しだけうわずって、震えている。
なにせ、こうして「本物の船」を動かすのは初めてなのだ。
ゲームの中でなら散々乗り回してきたが、今は視点から操縦方法まで何もかもが別物に近い。「リベルタを動かしている」という興奮もあるが、それ以上に「本当にうまく動かせるのか」という不安が、俺の心に拭いきれない緊張感を与えていた。
「スラスター点火! 駐機ロック、解除!」
不安に揺れる心を諌めるように、腹に力を入れて声を張る。
操縦桿とフットペダルを駆使して、船体底面にある上昇用スラスタを点火。同時に、着陸用のランディングギアに備わった船体固定用の電磁石の電源を切れば、リベルタはその船体をふわりと宇宙空間へ浮かばせた。
「メインスラスター点火! ――〈リベルタ〉、テイクオフ!」
声高に宣言しながら、フットペダルを踏み込む。
俺の操縦を受けた相棒は、船体後部のメインスラスターから青白い光を瞬かせ、ゆっくりと前進。
漆黒の中に浮かぶルーメンプライムコロニーを背に、まばらに煌めく星々めがけて飛翔を開始した。




