第6話 情報収集と、今後の展望
「――それじゃ、あたしはそろそろ失礼するわ。あなたの動向も気になるけど、明日の仕事のために準備しなきゃいけないからね」
再起の決意表明から、しばらくののち。
開いた船の昇降タラップを下りながら、下船したウィスカがそう言ってひらりと手を振る。
「ああ。何から何まで、本当に助かったよ」
「どういたしまして。さっきも言った通り、あたしたちはしばらくこのコロニー近域で仕事する予定よ。また会うこともあるだろうし、その時はよろしくね」
「こちらこそ。ある程度こっちの基盤が整ったら、その時はよければ一緒に仕事させてくれ」
「いいわね。あなたたちの実力も気になるし、その時を楽しみにしてるわ」
そんなやりとりののち、ウィスタは鮮やかな赤色のポニーテールを翻しながら、足取り軽やかに颯爽と立ち去っていった。
「ふぅ」
大きく息を吐きながら、俺は〈リベルタ〉のリビングルームに設置されたソファへと腰を下ろす。
テーブルの上には、リベルタのコックピットから持ち出してきた金属板状の情報端末。ついついと操作してみれば、船の現状に関する情報がざっくりと視覚化された。
「やると決めたとはいえ、まず何から手をつけるとするかなぁ」
「リベルタの再強化」という目標を掲げたはいいものの、具体的なプランに関しては何も詰められていない。
どうしたものかと考えた俺は、ひとまず記憶の中の最強宇宙船時代に使っていたパーツ群をリストアップすることにした。
リアクター、冷却システム、シールド発生機、星間航行装置といった船内コンポーネント。
大小いくつかの戦闘用火器にミサイルベイ。追加の貨物を運搬する用の外付けカーゴマウントに、長距離航行用の追加燃料タンク。
あとは、各種素材や消耗品のクラフトを行うレプリケーターに加えて、カーゴルームに増設する用のメディカルポッドシステム、素材や廃品サルベージを行うためのドローン、白兵戦と船外作業用に用いる装甲化強化外骨格などなど。
外も中も徹底的にいじり回していただけあって、こうして列記してみると、足りないものの数は実に膨大だった。
「……残念だけど、主砲に関しては妥協して代替品を探すしかなさそうかなぁ」
そんな中、リストアップしたパーツ群に混じる部品の名前を眺めて、俺はため息をつく。
部品名〈STARBOW VLC-Y00〉。
かつて最強装備時代のリベルタに主砲として搭載されていたそれは、火力と取り回しの良さをきわめて高いレベルで両立させた、非常に優秀な装備だった。
だが、その頭ひとつ抜けた性能の代償なのか、ゲーム中においては非売品扱い。入手するには、専用の高難易度ミッションをクリアした際の「低確率なランダム抽選」に頼るしかないという代物だ。
フレーバーテキストに曰く、「次世代の兵装システムを作るための試作装備であり、大きな功績を上げたプレイヤーに特例として融通された」という経緯で入手するアイテムということもあり、その設定がこちらの世界でも反映されていた場合、まず間違いなく入手困難な代物と言えるだろう。
「まぁ、こればっかりは仕方ないか。切り替えないとな」
変えの効かない強力な装備を失うことになったのは惜しいが、いちいち感傷に浸っていては埒が開かない。
入手困難な装備の名前に取り消し線を書いてから、俺は今一度リストアップした装備群の吟味にかかる。
「これと、これもすぐには手に入らないから……まずはこの辺から集め直すのが無難かな」
そうして残ったのは、外付けカーゴマウントや回収用ドローンシステムなど、どれも普通の店で扱っているような代物たち。
他の装備はどれもハイグレードなもので固めていたこともあり、すぐさま再入手するのが不可能なものばかりだったが故の結果となった。
「……なんか、こうしてると乗り初めの頃を思い出すなぁ」
リストを眺めながら思い起こすのは、〈スタユニ〉の中でこのリベルタを手に入れて間もない頃の記憶。
慣熟飛行と爆散を幾度となく繰り返した末、「この船、ひょっとして徹底的に手を入れれば強くないか?」という気づきを得た俺は、まさしく今のように使えそうなパーツをリストアップして入手の段取りを組んでいたのだ。
当時とは状況こそ違うが、やっていることに変わりはない。それが妙に懐かしく感じて、俺は思わず口元が緩んでしまうのを感じていた。
「――あ、そういえば」
それから少しして、リストアップと入手先の再確認を終えた俺は、そこで今更な気づきに声を上げる。
気になったのは、「今俺が逗留しているコロニーがどこにあるのか」という点だ。
店売りのアイテムを買い集めるにしても、地域によって工業・商業のレベルが違えば取り扱う品も変わってくる。目当てのパーツがここに売っているのか、それとも別の星系に移動しなければならないのかは、先にしっかり調べておく必要があるのだ。
それに、この星系に関して調べておけばどういう仕事があるのかという事前リサーチにもなるし、そこからどうやってお金を稼ぐかという筋道の目星も立てられる。
先にやっておくべきだったか、と頭をかきつつも、俺は改めてタブレットから港湾局に問い合わせ。「このコロニーの設備を使って、船を|GALNET《銀河間ネットワークシステム》に接続したい」という旨の要請が通ったのを確認してから、俺は情報収集のため再びタブレットへ向き直った。
*
現在地となる〈ルーメン星系〉は、銀河に連なる国々のひとつである〈ベルメリア皇国〉の統治下にある星系だ。
特徴としては鉱物資源の産出に特化した工業星系であり、星系は3つの資源惑星と小規模な小惑星帯から構成されている。居住可能な環境も少ないようで、俺とリベルタが停泊している〈ルーメンプライムコロニー〉が、唯一にして最大の居住圏となっているようだ。
皇国の領地的に見れば辺境の星系であり、あまり技術レベルは高くないようだが、辺境ゆえか宙族の目撃情報もそれなりに多いらしい。
ミッションボードにはしばしば護衛やら討伐やらの仕事が舞い込むそうなので、傭兵目線から見れば、「買い物には不向きだが仕事には事欠かなさそうな場所」だと言えた。
ちなみに、〈ベルメリア皇国〉というのは〈スタユニ〉の中でも名の知れていた星間国家のひとつである。
〈エレボス帝国〉〈クルーシル同盟〉と並んで「三大勢力圏」に名を連ねる国であり、前身となる原始国家が宇宙へ進出する以前から続く血筋である「皇王」をトップに据え、その皇王によって選出された貴族たちが各々に割り振られた領域の統治を行う……という貴族制度で成り立っているのが特徴だ。
三大勢力圏のうち、クルーシル同盟とは付かず離れずな関係性を築いている一方で、「自分たちこそが銀河の支配者たるべき」というスタンスのエレボス帝国とは折り合いが悪く、長い間戦争状態にある。
ゲーム内でも国境近辺で起きる小競り合いにちなんだ突発イベントがよく発生していたので、プレイヤーから見た二つの国は稼ぎの場を提供してくれるありがたい存在でもあった。
「とはいえ、こうなった以上戦争に巻き込まれたくはないよなぁ」
今まではゲームの中の出来事だったので積極的に参加していたが、ここが現実に人の生きる世界というのなら話は別である。
向こうから殴りかかってきたのを振り払うならともかく、自分から事を構えたり無辜の人々に手を挙げるような事態はできるだけ避けたい……というのが、俺の正直な気持ちだった。
「今は大丈夫そうだけど……いざとなったら逃げの一手だな」
幸か不幸か、現在地であるルーメン星系から見れば、エレボス帝国領はどこの国も保有していない空白星系をいくつか隔てた向こう側だ。
今すぐに影響が及んでくる可能性は低そうだが、逆に言えば何かしら理由があればここが戦場になるという可能性もゼロとは言い切れない。いざとなればとっとと避難することも視野に入れるべきだろう。
そんな感じで、今後の展望を大まかに定めながら、宇宙暮らしの1日目は過ぎていった。




