第4話 再会の愛機と
「リベルタって、あのリベルタ? ずいぶん変わった船に乗ってたのねぇ」
俺のつぶやきを拾ったウィスタが、興味深そうに眼前の船、こと〈リベルタ〉の姿を見やる。
「……あぁ、間違いない。こいつは、間違いなく俺の相棒だ」
「でしょうね、あなたすごい顔してたもの。まるで会えないはずの人に会ったみたいな顔だったわよ」
「あ、はは……お見苦しいものをお見せして申し訳ない……」
ドンピシャな表現に返答を詰まらせつつも、俺は改めて、〈リベルタ〉の下へと歩み寄っていった。
リベルタ。正式名称を〈MTS-07 Liberta〉。
〈スタユニ〉における代表的なシップメーカーの一社であるメディオテクノロジーズが開発したこの船は、かつて「次世代の軍用マルチロール機」として開発された、全長おおよそ80m強の小型船だ。
この船が持つ最大の特徴は、なんといっても「大量の拡張スロットからなる高い汎用性」に尽きるだろう。
リベルタの船体には、追加の武装だったり追加の輸送用カーゴといった「後付けの装備」を組み込めるスロットが、これでもかというほど――それこそ初見のプレイヤーなら「なんだこのスロット数?!」と思うレベルで大量に設置されている。
加えて、その大量の拡張スロットがほぼすべての追加モジュールを装着できる設計になっていて、文字通り「なんでも積める」と表現できるほどの高い自由度を有しているのが特徴だった。
火砲と増加シールドを積めば戦闘に特化させることもできるし、補給装置やジャマーを載せれば後方支援にも対応可能。
カーゴベイと追加エンジンで長距離輸送もこなせるうえに、採掘レーザーと貯蔵槽を装備すれば資源採掘もお手の物。
様々な追加装備を自由に組み合わせることで、特化型から万能型まで、あらゆる用途に合わせた運用ができる。自由の名に違わぬ汎用性の高さこそ、リベルタがリベルタたる所以なのだ。
――ただ、機体性能の大半を外付けの装備に依存している都合上、船の基本性能そのものは平凡の一言に尽きるという欠点がある。
加えて、しっかりと構築を見極めなければ何もかもが中途半端な船になりさがるという点もあって、最終的には単純かつ高性能な別の船にコンペ負け。
「なんでもできるが、何にも成れない器用貧乏」という烙印を押されたのち、実戦を一度も経験せず民間に払い下げられた……という大変悲しい逸話もある、そんな癖の強い船だった。
*
「へぇー……噂には聞いてたけど、噂になるだけはある機体なのねぇ」
「まぁな。でも、そういうところがこの船のいいところなんだよ」
ざっくりとした俺の説明を聞かされ、関心とも呆れともつかない表情を見せるウィスタに、俺は苦笑しながらそう返す。
当然というか、プレイヤーたちの間でもこの船に対する意見は紛糾していて、大半の人は「特化型に及ばない中途半端な船」としてみなしていた。
そしてどうやら、この世界でもリベルタの評価はおおむね同じようなものらしい。本来なら嘆くべきところなのだが、俺としてはそれが少しだけ嬉しくもあった。
――どんなキワモノにも好事家が現れるように、リベルタを支持する少数派の中には、「この船の万能性は他に代えがたい」と言ってはばからない人種……言ってしまえば「ひねくれもの」な奴らもいる。
そして何を隠そう、俺自身もそんな「ひねくれもの」の一人なのだ。
この船に出会ったのは、ほんの偶然だった。
〈スタユニ〉を初めて間もないころ、物の試しに参加した期間限定イベント。そこで偶然の連続から手に入れたのが、ほかでもないこのリベルタなのである。
先述した利点と欠点もあって、初めて乗ったときの俺はさぞ困惑したものだ。
だが、「せっかく手に入れた船だから」とムキになって使い続けるうち、俺はこの船の魅力にどんどん取りつかれていった。
コンポーネントや武器の構成、追加モジュールをどう配置し、どんな役割を持たせるか。
「自分だけの正解」を好きなだけ追い求めることができると気づいてからは、この船とともに冒険するのが、何よりも楽しい時間になっていったのだ。
思い描いた理想の姿を体現するため、ゲーム内の各地を駆けずり回り、困難なミッションへ何度も挑み、リアル・ゲーム内を問わず少なくない持ち金をつぎ込んだ、俺の象徴ともいえる船。
そんな、苦楽を共にしてきた長年の相棒が、今目の前に鎮座している。これでテンションを上げるなというほうが無理な話で。
そう思うと、どうしても口元が緩んでしまうのを抑えることができなかった。
「確かここに……っと、あったあった」
船の間近へやってきた俺は、記憶を頼りに昇降ハッチの開閉パネルを探し当てる。
パネルに触れると、すぐそばで圧縮空気の抜ける音が響き、〈リベルタ〉の側面装甲の一部分がスライドして展開。折り畳まれていたタラップが駆動音とともに展開され、人一人が通れる昇降口を形成した。
「おぉ……なんかちょっと感動の光景過ぎるな……」
「そんなに? まぁ、あたしもこの船の実物は初めて見るから、ちょっと感動ではあるけど」
ウィスタに苦笑されるが、感動の理由を不用意に話すこともできず、頭を掻きながら乾いた笑いだけを漏らす。
ともあれ、中へ踏み込んでみれば、そこにあるのはさんざっぱら眺めてきたなじみのある内装だ。そこにあるすべてに自分の手で触れられるという違いはあるが、長い年月を共に過ごしてきた船の中は、まるで実家のような安心感があった。
「あら、意外と快適そうな船じゃない。この船って何人用なの?」
「カタログ上では、たしか三~四人用だったかな。コックピットのシートはサブ席含めて三人だから、実際はクルー三人と乗客一人って具合だったはずだ」
「へぇー、小型船にしては乗れるのねぇ。あたしの船は純戦闘用な上にこれより小さいから、この居住性はうらやましいわ」
そんな雑談をはさみつつ、船の中をずんずん突き進んでいく。
〈リベルタ〉の内部区画は上下二層で構成されており、下層には船の機関室とカーゴルームが、上層にはクルー用のリビングと居住区画が配置されている。
そんな上層区画、船体前方の区画へ繋がる自動扉を開けば、そこにあるのはこれまたなじみ深いコックピット内の風景だった。
自動開閉する扉の先、〈リベルタ〉のコックピットに入ると、これまたなじみ深い光景が視界に写り込む。
吸い込まれるようにメインの操縦席へ腰を下ろせば、着座を確認したシートが自動で前にスライド。折りたたまれていたサブモニタが跳ね上がり、ロックされていた操縦桿が駆動音とともにせり出してきた。
「悪いウィスタ、ちょっと船の始動だけしてみてもいいか?」
「ええ、構わないわよ。うっかりスラスター吹かさないようにね」
「了解」
ウィスタに断りを入れてから、俺は興奮に震える指で、指船の始動スイッチを深く押し込む。
すると、俺の操作を受け取った〈リベルタ〉の操縦系が、一斉に光をともし始める。
同時に、船内にリアクターの始動する低い駆動音が反響。しばらくののち、点灯したモニタとHUDに、船の電源がすべてオンになった旨のメッセージが表示された。
「乗ってるんだ……俺、リベルタに……」
仮想の宇宙を何百時間もともに駆け抜け、心血を注いで育て上げてきた相棒。
モニタの中にしか存在しえなかったはずの光景が、感触が、今まさに俺の目の前にあり、手の中にある。遅れてやってきた今更な実感が、俺の身体を芯から震わせた。
「……へぇ、なるほどね。こりゃ微妙って言われるのも納得だわ」
そんな折、背後のウィスタから発されたつぶやきが、奇妙な引っ掛かりを持って耳に入る。
振り返ってみれば、そこにあったのはいつの間にかサブシートへ腰かけていたウィスタの姿。眼前のモニタに表示された情報へ目を落としているらしい彼女は、神妙そうな表情を見せていた。
「そうか? 俺にとっては最高の船なんだけどな」
「まぁ、基礎性能は確かに悪くなさそうだけども……」
自信をもってそう返答してみるが、どうにもウィスタの歯切れが悪い。
「ま、あくまで基礎性能は平凡の域を出ないからな。でも、俺のリベルタはばっちり強化を施してある。そんじょそこらの船に遅れはとらないぞ」
自分でもわかるレベルのドヤ顔で、そう宣言する。
だが、当のウィスタは、なぜか怪訝そうな表情を見せて――
「いや……強化も何も、あなたのこの船、追加モジュールも内装もほとんど弄ってないじゃない」
「………………へ?」
続く言葉に、今度は俺があっけにとられることとなった。




