第32話 数奇な因縁
「宙賊に、帝国からの支援……ですか? な、何かの冗談ですよね……?」
目を丸くして問うティルナに、サリアさんは小さく首を横に振って返答する。
「帝国そのものからの支援か、あるいは帝国と内通している何者かによる謀略か……どちらにせよ、この情報を見た当ギルドの支部長や星系軍の高官の方々は、『何かしらの形で帝国と宙賊に繋がりがある可能性は非常に高い』という結論を出しているそうです」
軍の上層部までもがそう言っているとなれば、いよいよ事は深刻だ。
宙賊どもの気まぐれに左右されるとはいえ、その実態は帝国による浸透攻撃と言っても差し支えない。いや、ともすれば奴らは「宙賊を騙っているだけの帝国軍人」かもしれない可能性だってあるのだ。そんな事実を目の当たりにすれば、さぞかし偉い人は大騒ぎしていた事だろう。
「宙賊の戦力規模から計算したところ、帝国からの密輸品は一度に持ち込まれたのではなく、宙賊の星系入り後、複数回に渡って星系内へ持ち込まれている疑いが持たれています。そして、それらを受け渡すために用いられていたと思われる場所のひとつが——」
「さっきの依頼にあった、古いプラットフォームってことですか」
結論を引き継ぐと、サリアさんは真剣な顔で頷いてみせる。
相手の動きがよほど巧妙だった、ということもあるのだろうが、星系軍からしても、まさかわざわざ巡視の目がある場所で取引をするなどつゆほども思っていなかったはず。灯台下暗しとはよく言ったものだ。
「また、皆さんが提供してくださった航行ログと映像記録を洗いなおし、外縁に残されていた難破船の残骸も調査したところ、『間違いなくトラップとして誂えられたものだろう』という結果を頂いています。状況を鑑みれば――仕掛けたのは、件の宙賊で間違いないと思われます」
「でしょうね。……はぁ。帝国の兵器を使ったトラップだったとはいえ、まさか宙賊に一杯食わされるなんて。ムカつくったらありゃしないわ」
吐き捨てるように、ウィスタがそう口走る。その瞳には、サジタリオを嵌めた相手である宙賊への怒りが燃え盛っていた。
「ギルド側としても、これらの事態は看過できません。なので、星系軍と連携していくつかの線を追い、徹底的に宙賊を撃滅するべし……という結論が出ました。今回の調査依頼は、それらの一環であるとお考えください」
「なるほど……わかりました。二人とも、いいよな?」
隣へ問うと、姉妹は揃って強く頷く。
「その依頼、引き受けます。俺たちとしても、このままやられっぱなしで終わらせるつもりはありませんから」
「了解しました。引き受けていただき、ありがとうございます」
了承の言葉と共に深く一礼したサリアさんは、顔を上げると共に再び端末の操作を始めた。
「依頼の報酬に関してですが……今回はあくまでも偵察調査であるため、基本報酬は少なめに設定されています。代わりに、この依頼中に主犯格である宙賊たちと遭遇する機会があった場合、討伐できた暁には元々の賞金に追加で上乗せした額を支払う、とのことです」
説明を続けながら、サリアさんはホログラムを再び切り替える。
「加えて、プラットフォーム内でもしも『事業撤退前の残留品』を発見したら、そちらも自由に使用して構わないとのことです。運用していた諸企業側の了解も得ていますので、気兼ねなく利用してください」
自由に使っていい、とは何とも気前の良い話だ。
企業側が了解しているあたり、おそらく……というか確実に大したものは残っていないだろう。だが、かつて船舶用の武器を開発していた場所なら、探せば何かしらの火砲の試作品が見つかる可能性もなくはない。
些細なものであったとしても、見つけることができれば、今のリベルタには戦力の足しになる。何かあったときは、言質通り気兼ねなく活用させてもらおう。
「プラットフォーム近傍で、宙賊との戦闘が発生する可能性は高いと思われます。充分な準備をお願いしますね」
サリアさんの念押しに揃って頷きながら、俺たちは席を立ち、ギルドを後にした。
*
「にしても……予想外なところから因縁が繋がるものなのね」
出航準備を進めるリベルタのコックピット内。
この数日間ですっかり定位置となったサブシートに背を預けながら、ウィスタがふとそんなことを呟いたのが聞こえてくる。
「まったくだ。……でも、思い返せば、最初に遭遇した時からそれっぽいことは言ってたんだよな」
脳裏に蘇るのは、俺が初めて奴と出会った時のことだ。
宙賊の頭目、ことダグラスと呼ばれる男は、最初の邂逅の時「星系軍の考えていることなどお見通し」だと言っていた。
あのときは気にも留めるほどでもない戯言だと思っていたが——思い返せば、あれは「星系軍の動きを把握できるような何か」……例えばリークされた情報や、それを流す間者の存在を匂わせた一言だったのだろう。
それに、撃墜した翌日に五体満足で略奪行為にいそしんでいたあたり、奴が乗り回していた魔改造インターピッドには「まともに動く脱出装置」がついていたと見ていい。
宙賊の船にそんなものが搭載されているのはかなり希少な例だが、それも例の「後ろ盾」から提供されたのだろう。考えれば考えるほど、符合点は浮き彫りになるばかりだった。
「なるほどね……ただの『どこの星系にもよくいる宙賊』だと思ってたけど、思ってたより厄介な手合いだったのね」
思い出した出来事を打ち明けると、姉妹は揃って難しい顔を見せる。
「そういえば、あの宙賊が乗ってたスキュラは、略奪品に思えないくらい状態の良い船でした。相手の雇った闇メカニックが腕利きだったのか、って思ってましたけど……」
「たぶん、完成品をまるまるそのまま横流しされてたんだろう。アレも、思えばアイツの背後にいる存在の証明だったんだろうな……」
よくよく考えればもう少し早く気づけたのだろうが、ゲーム時代の常識――「原型を壊すレベルの改造ができないため、敵も味方も船の外見は正規品と変わらなかった」という経験が、余計な先入観を生んでいたのだろう。
いまさら言っても詮無きことだし、気づいたところで何が変わったわけでもないかもしれない。だが、注意を向けられなかった自分の迂闊さは恥じるべきところだと痛感していた。
「……ともかく。奴のことはひとまず置いといて、まずは依頼に集中しよう。もしも向かった先で出くわしたなら、今度こそケリをつけてやろう」
姉妹が同調すると共に、サイドパネルのモニターに出航申請が受理された旨のメッセージが出現。
駐機していたランディングパッドが、ハンガー内をゆっくりと上昇していく。
「ウィスタ、ティルナ。いざという時は二人に任せる。『アレ』のことも頼んだぞ」
「ええ、任されたわ。そのために温めてきた虎の子だものね」
「任されました。今度は、前のように脱出なんてさせませんから」
呼びかけに応じる二人の表情は、強気な笑みと、真剣に引き締められた顔。
方向性は違うが、どちらも強い決意を秘めていることはありありと見て取れた。
「よし。――発進するぞ!」
宣言と共に、ランディングギアの駐機ロックを解除。フットペダルを踏みこみ、上昇用スラスタを吹かして宇宙空間へリベルタを浮かび上がらせる。
「離陸確認。全システム異常ありません」
「星間跳躍装置、スプール始めるわよ。ミッションビーコンをレーダーへ投影」
ルーメンプライムコロニーから離脱しつつ、ホログラム製のHUDに表示されたビーコンのマークを頼りに、リベルタを回頭させる。
姿勢制御スラスタを細かく吹かし、HUD上のマーキングを真正面に捉えるように回頭。ほどなくして船のコンピュータが航路の補正を終え、星間跳躍の準備に入る。
「スタンバイ完了。星間跳躍航行――開始!」
号令と共にサブモニタのタッチパネルを叩けば、船外の景色が歪み、俺たちを乗せたリベルタは、駆け抜ける一条の光線のように宇宙空間を飛翔し始めた。




