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リビルド・スターシップ! ~SFゲームの世界に転生したゲーマー男は、初期化されてしまった愛機の理想の姿を取り戻したい~  作者: 矢代大介


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第31話 舞い込む一報




 総合商店での買い物を経て、リベルタの居住空間に大幅な改革を行ってから、早いもので5日ほど。

 

 その間俺たちは、新しくリベルタに実装されたコンポーネントや武装の慣らしと、想定以上に浪費してしまった分のお金を補填するべく、ひたすらに傭兵家業に励んでいた。


 何かあった時――例えばリベルタが致命的なダメージを受けた時のメンテナンス費用や、宇宙空間の環境に影響されて動くに動けなくなった時など、有事のために懐は可能な限り温めておきたいというのもあるし、「次に装備を更新する機会が訪れた時、金に糸目をつけずに選別を行いたい」という理由もある。

 それに、サジタリオを失って事実上戦力が半減しているために、前回のガン稼ぎ作戦のような感じで一挙に金を稼ぐという芸当もできない。なので、当面の目的として「サジタリオの仇討ちの機会を窺いつつ、ひとまずは地道に金を稼いで今後に備えよう」という方針を立て、しばしの時を過ごしていた。



 

 *


 

 

 「お。おはよう、二人とも」

 

 起き抜けの寝巻き姿——Tシャツにスウェットズボンというラフなスタイルのまま、圧縮空気の抜ける音と共に開いた扉の先へ足を踏み入れた俺は、そこにあった人陰へと声をかける。


 大改装と言って差し支えない改修を遂げたリビングルームの光景は、以前の武骨で殺風景な内装とはまるで別物だ。

 モデルルームと見紛うほどの清潔感とモダンさを兼ね備えた内装に進化を遂げたラグジュアリーな空間は、取り替えから5日という時間を経てなお、驚くほどの快適さを提供してくれていた。

 


「おはようございます、お兄さん」

「おはよ、レン。先に頂いてるわよ」

 

 そんなリビングへ設置されたダイニングテーブルに着いていた二人の少女――ウィスタとティルナは、俺の声に気づいてそれぞれこちらへ顔を向ける。

 テーブルには、これまた新設された自動調理機製と思しき料理が乗っていて、丁度二人で朝食を摂っているところであることがうかがえた。


「今日は何食べてるんだ?」

「久しぶりにガッツリ系です! 本当に、何を食べても美味しくて幸せです……」


 テーブルの上の料理——本人の言うとおり、匂いからしてガーリックライス的なものだろう——を口にしながら、ティルナが表情を緩める。その顔はなんとも幸せそうだ。


「ティルが即決した時はびっくりしたけど、いい買い物になったわよねぇ。……おかげで、ここ最近ちょっと食べ過ぎな気がしてくるわ」

「あはは……料理が美味いとそれもそれで困りものだな。カーゴベイにランニングマシンでも設置するか?」

「……アリかもね。いつかメディカルポッドを買う時、一緒に仕入れるとしましょうか」


 真面目な顔で考慮を始めたウィスタに苦笑しつつ、俺もまたテーブルへ着き、自動調理機にこさえてもらった朝食の前で両手を合わせる。

 今日のランダムメニューは、トーストとスクランブルエッグ、それに刻み野菜をたっぷり入れたコンソメスープだ。

 

 毎度思う話だが、この目の前にある料理は全て、養殖藻と人工プランクトンで作られたものである。

 これだけバリエーション豊かなメニューにもかかわらず、作成に使われている素材は全部同じものだということを考えると、つくづく俺の知る時代のテクノロジーとは隔絶したものを感じざるを得なかった。


 

「そういえば、今日はどうする?」


 コンソメスープを啜りながら、ふと姉妹に問いかける。


「そうね……ここ最近ずっと依頼で駆けずり回ってたし、たまには休んでもバチは当たらないんじゃない?」

「わたしも、そう思います。買い物のぶんは充分補填できましたからね」


 どうやら、双子姉妹の投票はどちらも休暇に入っているようだ。

 俺としても、「5日働いたのなら休みでいいだろう」という現代的な感覚が抜けていないので、姉妹の意見には大いに賛成だった。


「わかった。なら、いっそ今日と明日の2日くらい休みにして、思いっきり羽を伸ばしても——」


 そう告げようとした瞬間、ズボンのポケットに突っ込んでいた携帯端末が、控えめな電子音と共にバイブレートで何かを知らせてくる。


 現状、俺の端末に登録されている連絡先といえば、ギルドの直通回線と姉妹のアドレスくらいだ。

 そして、その数少ない連絡相手である姉妹が目の前にいるとなると——端末にかけて来た連絡先は、自ずとひとつに絞られる。


 取り出した携帯端末のホロディスプレイを確認し、姉妹にチラリと目配せをしてから、俺は連絡を寄越して来た相手——傭兵ギルドの連絡用回線を開き、通話を開始した。


「はい、こちらレンです」

《おはようございます、こちらは傭兵ギルドのサリアです。突然のご連絡申し訳ありません》


 ホログラムの向こうに映る顔は、何度か支部で応対をしてくれた受付の職員さんのものだ。


「大丈夫です。そちらこそ、朝からお疲れ様です。……わざわざ連絡していただいたってことは、何か火急の用件でもありましたか?」

 

 折目正しく一礼する職員、ことサリアさんに対して、こちらも礼を返しながら問いかける。


《火急、というわけではないのですが……少し、皆さんに相談させていただきたい案件がありまして。通信越しでは伝わらないものもありますので、もしお時間がありましたら、ギルドまでご足労いただけないでしょうか?》


 直後、サリアさんの口から帰ってきた答えに、俺と姉妹たちは揃って顔を見合わせることとなった。




 *




「お越しいただきありがとうございます。わざわざお呼び立てしてすみません」


 ところ変わって、傭兵ギルド支部の建物内。


 要請に応じ、ギルド支部へと訪れた俺たちは、入り口の扉をくぐるや否や、待ち構えていたサリアさんと合流。

 案内に従い、建物の上階に誂えられた部屋——おそらく依頼人用の応接室と思しき場所へと連れてこられていた。


「ギルドからわざわざ呼び出されるなんて……わ、わたしたち、何か良くないことでもやらかしました……?」

「いえいえ、そういうわけでは。今回はむしろ、あなた方の依頼達成率の高さを鑑みての相談なんです」


 ソファに座らされた俺たちの対面に座りながら、サリアさんはそう語る。


「それに……今回の件は、以前ご相談いただいた『ウィスタさんたちの船を罠にかけた犯人』へ繋がるかもしれない内容なのです。ほんのわずかですが、支部長から開示の許可を頂いた情報がありますので、お話だけでも聞いてもらえませんか?」

「……わかったわ。良いわよね、レン?」


 ウィスタに問われ、俺もまたノータイムで首を縦に振る。

 罠にかけた犯人とは、つまるところサジタリオの仇。それに繋がるかもしれないとなれば、俺たちとしては話を聞かない理由もない。わざわざ情報開示の許可まで取ってくれたサリアさんへの感謝も込めて、一通りの話は聞いておくべきだろう。


「ありがとうございます。……ひとまず、まずはご相談したい依頼の内容に関して説明いたしますね」


 どこかホッとしたように胸を撫で下ろしたサリアさんが手元の端末を操作すると、向かい合ったソファの間に配置されたテーブルの上に設置されていた装置が起動。テーブル上に、ホログラムで構築された星系マップが投影される。


「今回皆さんにお願いしたいのは、『古い研究プラットフォームの調査』となります」


 説明と共に、星系マップがぐっと拡大され、一地点を大きく映し出す。

 場所は、資源惑星として扱われているルーメン星系の第二惑星、その軌道上だ。


「当該施設は、かつて複数の企業が合同で出資して建造されたもので、当時は艦船用ウェポンシステムの研究開発が行われていました。事業撤退に伴い無人となり、解体の目途が立つまでの間、周辺宙域への立ち入りは禁じられていたのですが……最近になって、近域で『宙賊のものと思しき船』が多く見かけられるようになったそうです」


 サリアさんの説明に、俺たちはそろって唸る。

 放棄されたプラットフォームに集まる宙賊の影など、どう考えてもロクなものではない。


「星系軍が近隣を不定期に巡視しているので、内部に宙賊が根を張っている可能性は低いと思われるものの、不審な行動が目立つことは事実です。そのため、皆さんには当該プラットフォームの調査を行っていただき、宙賊が確認された時はこれを排除していただきたい……というのが、今回の依頼の概要となります」


 要するに、戦闘が発生する可能性があるので、荒事に慣れた傭兵たちを使って安全を確保したい、ということだろう。

 やることそのものは至極単純だ。だが、引っかかる点を感じた俺は、片手をあげてから口を開く。


「依頼の内容は分かりましたけど、この件とサジタリオ撃沈事件に何のつながりがあるんです? まさか、あの自律巡航魚雷を仕込んだのがその宙賊だ……とでもいうんですか?」


 せせら笑うように口走った、冗談半分の問いかけ。

 だが――質問された当のサリアさんは、神妙な表情を崩さない。


「そう……ですね。補足事項はありますが、上層部は概ねレンさんと同じ予測を立てているそうです」

「……ウソでしょ? 奪うことしか能のないような宙賊風情が、どうやってパイプも何もない帝国の兵器を仕入れられるっていうのよ?」


 返答の代わりに、サリアさんは端末を操作し、卓上のホログラム装置を操作する。

 

 星系マップを上書きするように表示されたのは、数人の顔写真だ。

 望遠撮影したものやブレの激しいもの、あるいは通信履歴に残っていた映像を無理やり補正して仕立てているようで、人相書きとしてはいささか頼りない。だが――表示された顔写真のうちの一枚は、俺にとってひどく見覚えのあるものだった。


「——コイツは!」


 〈ダグラス〉という名前と共に描かれているそいつの顔は――ニヤケた笑みの張り付いた顔と、いかにもな雰囲気の粗野な風貌は、見間違いようもない。俺が二度にわたってやり合った、あの「宙賊の頭目」だ。


「レンさんには以前説明したと思いますが、彼らはしばらく前にルーメン星系内で目撃情報が上がり始めた宙賊の一党です。他星系で活動していたものが、獲物を求めてこちらへ流れてきたものだと推測されていたのですが……目撃情報や使用していた装備の情報を照らし合わせたところ、いくらか不自然な内情が散見されることが確認されました」


 顔写真を避ける形で、宙賊の頭目、ことダグラスの一党が使っていたと思しき兵力の一覧が表示される。その中には、かつて俺が姉妹との連携で撃破した〈スキュラ〉の姿もあった。

 宙賊が手にするには豪勢すぎる船だと思っていたが――その隣に目を向けてみると、それ以外にも宙賊の装備とはとうてい思えないようなハイグレードな艦船やウェポンシステムの名前が、ずらりと並んでいる。

 宙賊と知らない人間が見れば「軍の遊撃部隊か?」と勘違いしてしまいそうなレベルの規模に、俺たちは揃って目を見開いた。

 

「皆さんにはお察しいただけると思いますが、いち宙賊がこれほどの装備をそろえているのは異常なことです。加えて、いくつかの装備品は我がベルメリア皇国ではなく、エレボス帝国でのみ製造されているものであるということも発覚しています」


 エレボス帝国でのみ製造されている武器を、宙賊が持っている。

 その事実にどういうからくりがあるのかは、現時点ではわからない。だが――それでも、ひとつだけ確実に言えることがある。


 

「あくまで未確定情報である、ということを念頭に置いていただきたいのですが……この宙賊たちには、どうやら秘密裏に、帝国からの支援が入っている疑いが上がっているのです」


 俺の胸中を見透かすかのように告げられた言葉は、応接室に嫌な沈黙をもたらした。



 


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