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リビルド・スターシップ! ~SFゲームの世界に転生したゲーマー男は、初期化されてしまった愛機の理想の姿を取り戻したい~  作者: 矢代大介


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第27話 交わる路


「リベルタの……?」

「クルーに……ですか?」


 目を丸くして、双子姉妹がそれぞれに驚きの声をこぼす。


「ああ。——もちろん、タダでとは言わない。仕事の報酬は公正に5:5で割り振るつもりだ。依頼の数と質には左右されるとしても、少なくともレンタル用の安くて小さな船で仕事するよりは稼げるだろうし、仮に新しい船を工面するにしても、二人だけで進めるよりはずっと早くできると思うぞ」

「まぁ、それはあたし達としても助かるけど……なんで急に?」


 問い返してくるウィスタはもちろん、隣に座るティルナも当惑気味だ。まぁ、唐突な誘いだった以上無理もない話だろう。


「……ウィスタはああ言ってくれたけどさ。やっぱり俺、どうしても気に病む性質みたいなんだ。こうして二人が困ってるのを見てると、どうも黙っていられなくて」


 いくら自分のせいではない、と言われようが、それは結局自分じゃない誰かの言葉であって、自分自身の心から出たものじゃない。

 我ながら面倒臭い奴だとは思うが、あんな結末に終わってしまった以上、どうしても「何か自分にしてやれることはないか」と考えてしまうのだ。今回の提案は、そんな胸中に燻った思いの吐露でもあった。

 


 それに——ウィスタも、ティルナも、俺にとっては困っているところを幾度も助けてくれた、いわば「恩人」である。

 そんな恩人たちが、今まさに目の前で困っている。なら——今度は俺が、二人に手を差し伸べる番だと、そう思うのだ。


 

「……傷心に漬け込むような真似をしてるのはわかってる。だから無理強いはしないし、二人がここで首を横に振ったとしても、俺はこれからも、傭兵仲間として変わらず二人に手を貸すつもりだ」


 念を押すように説明しつつ、真っ直ぐに姉妹を見つめる。


「どっちに転んでも、さっき言ってた『サジタリオの仇討ち』だって、できる限り手伝う。だから、その……もしよければ、考えるだけ考えてみてくれないか?」


 自分で言っておいて尻すぼみになってしまったことを恥じつつ、姉妹の様子を伺う。

 その顔には、先の言葉に対する驚きが張りついたままで、その胸の奥で何を思っているのかはまだ読み取れなかった。





 

 ——が。


 ふと、姉妹がちらりとお互いの顔を見合わせる。


 かと思えば——どちらからともなく、おかしそうにくすくすと忍び笑いを漏らし始めた。



「……えっと? 俺、なんか変なこと言ったか?」

「あぁ、違うのよ。別にあんたのことを笑ったわけじゃないの」


 ひらひらと手を振り、ウィスタが俺の方へ向き直る。


「——実はね。あたし達も、同じようなことを考えてたのよ」


 直後、ウィスタの口から繰り出された衝撃の発言に、今度は俺が目を丸くすることになった。



「同じ……? って、リベルタのクルーにってことか?」

「はい。コロニー(ここ)へ戻ってくるまでの間、お姉ちゃんと似たような話をしてたんです」

「そうね。いろいろこの後を考えて、『もし立ち行かなくなりそうなら、最悪の場合レンに頼み込もう』って、二人でそう結論を出してたのよ」


 驚く俺をよそに、ウィスタは肩をすくめて見せる。

 

「押しかけるのも迷惑だと思いますし、あくまで最終手段のつもりでした。……それがまさか、お兄さんの方から同じような提案をされるとは思わなくて」

「そうね。まぁ、こうなる可能性は考えなくもなかったけど……それでももっとこう、『お前の力が欲しい』的な感じで誘われるもんだと思ってたわ」


 確かに、見方を変えれば、今のこの状況は「優秀なサブパイロットと優秀なメカニックが一度に手に入る機会」とも言える。

 リベルタの戦力増強を考えれば、ウィスタがいう路線での勧誘も——人心を加味せずに考えるなら、充分ありえた話だろう。


「まぁ、そういう下心もなくはないさ。――でも、それを抜きにしても、俺は二人に手を貸したい。余計なおせっかいだとは思うけど、サジタリオを失わせてしまった原因の一端として、何かできることをしたいんだ」

 

 そう言うと、ウィスタがまたくすりと笑う。


「前にも思ったけど、ほんとあんたって殊勝よね。そんな調子じゃ、そのうちタチの悪い奴に騙されてひどい目に遭うわよ?」

「そんなことは……まぁ、ないとも言えないけど。でも、残念ながら俺はこういう人間なんだよ」

「お兄さん、胸を張って言うことじゃないと思いますよ?」


 ウィスタに続き、ティルナも苦笑混じりに突っ込みを入れてくる。

 ――俺に対する呆れこそ含まれているが、その表情は間違いなく笑顔。思い過ごしかもしれないが、ずっと顔にかかったままだった陰りが、ほんの少しだけ晴れてくれたように見えた。


「そうね……その誘い、受けてもいいわ。ただし、条件がある」

「ああ。叶えられる範疇なら受け付けるよ」

「別に大したことを押し付ける気はないわよ。――まずひとつ。サジタリオを罠に嵌めた奴は、あたしたちにやらせてほしいの」


 ぴし、と、ウィスタが人差し指を立てると、ティルナがそれに同調して続きを引き継ぐ。


「わたしたち姉妹にとって、サジタリオはとても大切な船でした。取り戻せないことは頑張って飲み込みますけど……こうなることを仕組んだ元凶には、しっかりと、"報い"を受けさせたいんです」

「ま、遭えるかどうかもわからないけどね。それでも、サジタリオの持ち主として、仇討ちは自分たちの手で成し遂げたいの」


 それはそうだろう、と、納得に頷く。

 きっと、俺が姉妹の立場であったとすれば、まったく同じことを思ったはずだ。それをわざわざ止める理由はないし、むしろ俺としてもかなえてやりたい所存だった。


「もちろんだ。その時が来たら、派手にやってくれ」

「ありがとうございます。絶対に、サジタリオの無念は晴らして見せます」


 丁寧に頭を下げるティルナの横で、ウィスタがもう二本目の指を立てる。


「それともうひとつ。報酬の配分は山分けじゃなくて、8:2。あんたが8で、あたしたちが2よ」

「え? でも、それだと二人が損じゃないのか?」

「いえ、傭兵ギルドではそのくらいの割り振りが推奨されてます。その代わり、船の持ち主は係留費用や修理代みたいな『船の維持管理』にかかる支払いを一手に担うことが望ましい……っていうのが、ギルド側の見解ですね」


 なるほど、確かにそのやり方が理にかなっているだろう。

 わざわざ全員で計算して出し合うよりは、諸経費を船主が一手に担うほうが効率的だ。

 

「その人その人のやり方はあるみたいだから、一概には言えないけどね。とりあえず、まずは8:2であんたに経費を任せる形にして、変えたほうがいい部分があれば後から調整する、って感じでいいんじゃないかしら」

「だな。それじゃ、報酬の取り分に関してはその方向で行こうか。……他には何かあるか?」

「そうね……」


 おとがいに手を当てるウィスタの隣で、ティルナが遠慮がちに手を上げる。


「あの……もしよければ、リビングルーム(このへや)の内装に手を加えてもいいですか?」

「あ、そうね。それも条件に加えさせてちょうだい。あたしたちも経費は半分出すから」


 たしかに、リベルタのリビングルームはだいぶ物寂しいというか、良くも悪くも必要最低限の機能しか存在しない殺風景な内装だ。

 資金繰りに夢中であまり気に留めてもいなかったが、改めて見ると軍用の武骨な装いは「住み心地が良い」とはお世辞でも言いにくい。こちらとしても、生活水準の向上は喜ばしいことなので、断る理由はどこにもなかった。


「ああ、もちろんいいぞ。いい機会だし、いくらか模様替えするとするか」

「助かるわ。もうちょっと柔らかいソファが良いなって思ってたのよ」

「せっかくですから、自動調理器なんかも取り替えたいですね。この前頂いた食べ物、正直言うとあんまり口に合わなくて……」

「備え付けの安物だからなぁ。俺も正直物足りないとは思ってたし、ティルナがそう言うなら、予算の範疇で取り替えようか」


 同意を示すと、「ありがとうございます!」とティルナが笑って見せる。


 そこに浮かぶ笑顔は、喪失の痛みを抱えつつも、それでも「これから」に目を向けたが故に垣間見えた、明るい笑顔だった。

 


「とりあえず、要求はこんなところかしら」

「要求って言いつつ、半分くらいは俺の得になることばっかりだったけどな」

「そりゃ、これからしばらく一緒に生活することになるんだもの。お互いに得しあうほうが良いでしょ?」

「まぁ、それもそうだな」


 納得のつぶやきを漏らすと、ウィスタとティルナが目くばせをして、同時に立ち上がる。


「何はともあれ、話は纏まったってことで。――いつまでの付き合いになるかはわからないけど、よろしくね、レン」

「わたしからも。改めて、よろしくお願いしますね、お兄さん」


 一歩踏み出し、俺に向けてそれぞれの片手を差し出してくる双子姉妹。

 その瞳に宿るのは、悲しみや絶望ではなく――失ったものを忘れないまま、再起に燃える熱を孕んだ、強く輝く光だった。



「あぁ、よろしく。――歓迎するよ。ウィスタ、ティルナ」


 同じように立ち上がった俺は、差し出されたそれぞれの手を取り、手のひらに宿った確かな熱を感じ取りながら、心からの言葉を贈った。

 

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