第24話 リベルタ VS サジタリオ
「跳躍終了! クルーズモードディアクティブ!」
「各部異常ありません! お兄さん、いつでもどうぞ!」
「おうよ!!」
サブシートから飛んでくる報告を受け、俺はフットペダルを蹴り込み、リベルタを全速力で発進させる。
遠景には、暗い星の海にポツンと浮かぶ、人々の居住圏たる〈ルーメンプライムコロニー〉の姿。
そしてその手前には、今まさにコロニーへ向けて加速を始めようとした目標——自立巡行魚雷によって暴走したサジタリオの船影があった。
「まずはシールドを剥ぐ!」
宣言に合わせ、操縦桿のトリガーを引き絞り、レーザーリピーターから断続的に光の弾丸を撃ち放つ。
できることなら奇襲を仕掛けて速攻で畳みたかったところだが、サジタリオ本体へダメージを通すには、まずシールドをダウンさせる必要があるため、どうやっても初撃による決着は望めない。
高火力な武器——かつてのリベルタが積んでいた主砲や、それこそサジタリオの長距離砲があれば強引にシールドを剥げたのだが、ないものねだりをしても仕方がない以上、今は採れる手段を確実にこなすのがいちばんの近道だと言えた。
ばら撒かれたレーザー弾がサジタリオに着弾し、船体の周囲に青白い光が——ダメージによってシールドの防御機構が発動した証となる光が発生する。
同時に、レーダーに映っていた緑色の光点が、白い明滅を経て赤色へ変化。
お互いの自動判別システムが、お互いを敵対勢力だと認識した瞬間、眼前のサジタリオがぐるりとこちらめがけて回頭を行った。
「ッ——高エネルギー反応! サジタリオが撃ってくる!!」
サジタリオの回頭が終わるよりも早く、ウィスタが鋭く報告を飛ばす。
一瞬遅れて、ホログラム表示されたHUDにも攻撃予告が出現。向こう側では、サジタリオがその特徴的な両腕の砲口に、ギラリと輝く殺意を抱えていた。
「舌を噛むなよ!」
操縦桿をめいっぱいに倒し、リベルタに急速旋回の指示を出す。
バレルロールの要領で、リベルタがその軌道を逸らした――直後、船体底面スレスレを薙ぐような形で、極太のレーザーが宇宙空間を鮮烈に切り裂いていった。
「ぐッ……!」
だが、スラスターの推力不足が祟ったのか、わずかに掠めた衝撃がリベルタのコックピットを揺らす。
「シールド、残67%! ……直撃したら到底保たなさそうね」
「残念ながら、こっちのシールドは安物の初期装備だからな。ウィスタ、シールドセルのタイミングは任せる! ヤバそうなら遠慮せず使ってくれ!」
「了解、任されたわ!」
導入したばかりのシールドセルチャンバーだったが、どうやら思惑とは違う形で役に立つことになりそうだ。
事実上の同士討ちで使うことになるとは思ってもみなかったが、今は四の五の言っていられない。割高を承知で導入を選択した昨日の自分に感謝しつつ、俺とリベルタは攻撃を再開した。
「2人とも、サジタリオの射撃インターバルは?」
「えっと……今の最大火力をもう一度撃つなら、冷却とチャージで6.8秒のインターバルが必要です」
「あとはロックオンもね。一応、手動で出力を調整すればそこそこ連射もできるけど……見た感じ、そこまで器用なウィルスではなさそうね」
ウィスタの言う通り、サジタリオは次弾を急いで放とうというそぶりを見せてこない。
チラリと見えた砲口には、冷却を終えてチャージを開始した証拠である紫電がバチバチとくすぶり始めている。どうやらサジタリオを乗っ取ったプログラムは、あくまでも最大出力でこちらを迎え撃つつもりのようだ。
「何とかして相手の射角の外に回り込まないとな、っと!」
ぼやいていたところに、チャージを終えたサジタリオの長距離砲が再び火を吹く。
多少の偏差は入っているが、避けられない範囲ではない。だが、初期化された影響で推進系の装備が貧弱になっている以上、最小限の回避ではサジタリオの火力を「いなす」ことはできないのが現状だ。
少し手間はかかることになるが、大回りに回避軌道を取ることで、ゆっくりとだが被弾を抑えて着実に近づくほうが得策だろう。
「そこッ!」
再度のインターバルを経て、3度放たれる長距離砲。
大きく動いて躱したところで、こちらもレーザーリピーターで反撃に打って出た。
先ほどよりも近い距離でばらまかれたレーザー弾の雨は、サジタリオの周囲を取り囲むシールドに突き刺さり、エネルギーを削り取っていく。
青白かったシールドの光が、ゆっくりと橙色を帯び始めたその様は、レーザーリピーターによる攻撃が確実に効いているという何よりの証拠だった。
「お兄さん! サジタリオは左右への水平回転がすこし鈍いので、側面を取るように動いてください!」
「側面だな、わかった!」
アドバイスを受けた俺は、リベルタをサジタリオの側面を突く形で飛行させる。
ティルナの言う通り、サジタリオは左右への振り向き能力がやや弱いらしい。横っ飛びの動きを見せるリベルタを追いかけるように船首を回しているが、その動きは微妙にリベルタに追いついていなかった。
さらにレーザーリピーターを叩き込み、シールドへのダメージを累積させていく。橙色に輝いていたシールドの光は、ついに濃い赤――もうじき飽和してダウンするという領域に差し掛かった。
……だが、こちらの動きと被弾の向きから、サジタリオのウィルスも、俺たちが何を企んでいるのかある程度理解したらしい。
突然リベルタへ船首を向ける動きを止めたかと思うと、サジタリオはメインエンジンを唸らせて全速前進。
リベルタが通り過ぎた後の、何もない空間を突っ切っていったかと思うと、オーバーシュートの勢いを保ったままこちらへ向けて回頭する。
――かと思えば、長距離砲から放たれた光の帯を、まるでビームソードのようにリベルタめがけて叩きつけるような攻撃を仕掛けてきた。
「うぐッ!?」
長い照射時間を活かした、おおよそ宇宙船の戦い方とは思えない奇策。
とっさに対応を試みるものの、不意を突かれたおかげで回避機動が数瞬遅れてしまい、リベルタの船体をサジタリオの長距離砲が袈裟懸けに切り裂いていく。
強烈な振動にうめきつつ見やったサブモニタのシールドゲージは、瞬く間に10%を下回り――すぐさま急上昇して、70%台の数値を取り戻した。
「ッ……セルのおかげか。助かったよ、ウィスタ」
「どういたしまして。とはいえ、セルはあと一本よ。何とかして主砲を使わせないようにしないと、サジタリオを止めるより前にあたしたちがやられるわ」
「わかってるさ。何とかして側面に回り込みたいところだけど……!」
再び接近を仕掛け、レーザーリピーターを射掛けながら、サジタリオの側面を突くように動きまわる。
だが、既にこちらの思惑は向こうにも知れている。先ほどのリプレイを再生するがごとく、リベルタが通った後の空間を全力で通り抜けたかと思うと、チャージを済ませた長距離砲を、振り回すように照射してきた。
「くっ……!」
こちらとて同じ手を二度食うつもりはないので、サジタリオの回頭方向から軌道を予測し、射線から大きく外れるようにリベルタを飛ばす。
おかげで長距離砲は何もない空間を切り裂くだけに終わったが――このままではいたちごっこだ。
彼我のスペック差を埋める手段がない以上、同じように接近して攻撃を仕掛けても効果は出ない。
かといって愚直に真正面からシールドを削ろうにも、火力差で強引に押し切られる。射程も負けているため、後退しながらの攻撃などもってのほかだ。
「このままじゃジリ貧ね……ねえレン、何か使える装備はないの?」
「……ないな。今のリベルタに使えるのはレーザーリピーター1基だけだ。くそ、こんなことになるなら割高を承知でミサイルも補充しておくべきだった」
シールドセルチャンバーに想定以上の費用を持っていかれたこともあり、万一の備えも兼ねてそれ以上の出費は抑えるようにしていたのだが、その結果がこのままならない現状である。
どうしてミサイルを買っておかなかったんだ、と昨日の自分を責めたいところだったが、そんなことをしても何の解決にもならないので、俺は深いため息をつくだけにとどめておいた。
「…………はぁ、仕方ない。できればしたくない戦い方だけど、やるしかないか」
片手でわしわしと頭を掻いてから、操縦桿を握りなおす。
「何か、方法があるんですか?」
「一応な。だいぶ危険なやり方だから、二人が乗ってるこの状況でやりたくはなかったんだけど……」
「レン、構わないわ。思いっきりやっちゃって」
ためらいがちにこぼすと、ウィスタが間髪を入れずそう返してくる。
振り向けば、ウィスタだけでなく、ティルナも同じように、覚悟を決めたまなざしでこちらを見つめていた。
「わかった。――相手の懐へ真正面から飛び込む。ウィスタ、シールドセルを準備しておいてくれ!」
宣言とともに、俺はリベルタを増速させる。
先ほどまでの回り込むような挙動とは違い、今度はサジタリオへまっすぐに突っ込む動きだ。
当然、向こうもそんな無防備な戦術を仕掛けてくる相手をみすみす放置するほど阿呆でもない。サジタリオの両腕に眩いスパークが走ったかと思うと、必殺の長距離砲を見舞ってきた。
「ぬ、ぐっ!!」
最小限のバレルロールで、直撃をいなす。
初撃を躱した時以上に小さな動きは、勢いを殺さない反面、回避と呼ぶには程遠い。リベルタのシールドは長距離砲に容赦なく焼かれ、瞬く間に飽和半歩手前へと追い込まれるが――ウィスタが投入したシールドセルにより、ギリギリのところで息を吹き返した。
「セル投入! シールド残量66%!」
「サジタリオ側のシールドは?!」
「少し回復してます、残37%!」
「よし、許容範囲だ!!」
彼我のシールド残量差を確認してから、サジタリオめがけてまっすぐに突っ込んでいく。
その動きは、突撃というよりは特攻と言ったほうが近い。
こちらの意図を悟ったのか、サジタリオが次弾をチャージし始めるが――
「――ぶつけるぞ! つかまれッ!!」
その両腕が閃光を撃ち放つよりも早く、リベルタとサジタリオのシールドが衝突。
熾烈に咲き乱れる青白い火花が宇宙空間に瞬いたかと思うと、衝突のダメージを受け止めようとした両機のシールドが、同時に臨界を迎え、消失した。
「くぅっ!?」
「きゃぁっ?!」
衝突によってリベルタの船体が弾かれ、再びの衝撃に揺れるリベルタのコックピットで、双子姉妹の悲鳴がこだまする。
いくばくかののち、姿勢を取り戻させたリベルタの目の前にあったのは、シールドが剥げ落ち、衝突による無軌道化によって無防備になったサジタリオの姿。
「これで――ッ!」
千載一遇。リベルタめがけて、前進の指示を出す。
「そこだぁぁッ!!」
レーザーリピーターを射掛ける先は、サジタリオの突き出した両腕。
ばらまかれた光の雨は、長距離砲を抱え込んだ両腕へ突き刺さり、その装甲を赤熱化させ、剥離させていく。
やや遅れて、サジタリオ側もコントロールを取り戻したようだが――安定を取り戻して船体を静止させたその瞬間こそが、こちらにとってはまたとない好機だった。
「その腕――貰ったぞ!!」
レーザーリピーターの雨で焼けたサジタリオの長距離砲めがけて――リベルタの船体をぶつけに行く。
攻撃手段に乏しいが故の、苦肉の策。だが、シールドという守りを失った船へダメージを与える手段としては、リベルタの船体が持つ質量はこれ以上ないほど有効なのだ。
一泊遅れて響く、ゴガシャア!! という強烈な衝撃音。
次いでコックピットを揺らす衝撃と、衝突を検知した旨のけたたましいアラート。
「ッ……!」
そのままの勢いで離脱し、反転させたリベルタが一瞥したその先には――
両の腕が完全に圧潰し、唯一にして最大の攻撃手段を失った、サジタリオの姿があった。




