第22話 密輸船サルベージ
《通信つないだわ。聞こえてる?》
「ああ、良好だ」
船外作業服の通信機から、やや音質の悪くなったウィスタの声が聞こえてくる。
少し遅れてティルナ側の通信も繋がったのを確認すると、双子姉妹は船外作業服の姿勢制御スラスターを吹かしつつ移動を開始。トラクタービームをワイヤーアンカー代わりにして、ゆっくりと座礁したG-8へ向かっていった。
《お兄さん、サジタリオのデータリンクはつながってますか?》
「ああ、ばっちりだ。……改めて思うけど、サジタリオのレーダーシステムはかなりハイグレードだな」
リベルタに起きた初期化の影響は当然レーダーシステムにも及んでおり、その性能は下手をすればそこらの戦闘船にも負けるくらい貧弱になっている。
通常航行程度なら問題ないが、今回のように周辺警戒を行う際はさすがに性能不足感は否めない。なので、強力なレーダーシステムを積んでいるサジタリオとデータを同期させることで、簡易的にスキャン可能な範囲を増大させてもらっているのだ。
その恩恵は彼我の性能差を鑑みてもすさまじいものであり、スキャン範囲、精度ともにリベルタ単騎の時から5倍近く広がっている。得意の長距離砲撃を活かすためなのか、レーダーシステムはかなり高品質なものを使っているのが見て取れた。
《そりゃそうよ。なにしろうちのティルが手を加えた謹製の一品だからね》
「なるほどなぁ…………ん? 手を加えたってことは、コンポーネントを改造したのか?! そんなことできるのか!?」
何気ない雑談に挟まれた衝撃の情報に、俺は思わず背もたれに預けた身体を跳ねさせる。
スタユニ世界において、コンポーネントの強化とはすなわち「グレードの高い品を手に入れて換装すること」であり、コンポーネントそのものに何かしらの改造を施すということはできなかった。
ゲーム中のフレーバーテキストにも「コンポーネントの開発は専門性の高い技術によって行われている」という文言が記されている通り、コンポーネントへ手を加えられるのはそれだけで「特別な人材」ということになる。それを実際にやってのけられるティルナの存在がどれだけ貴重かなど、言葉にするまでもなかった。
《ふふん、ティルの実力を見くびってもらっちゃ困るわ。うちの専属メカニックの肩書きは伊達じゃないのよ》
《い、言い過ぎだよお姉ちゃん。もともとそれなりに高性能なものだったし、手を加えたぶん発熱量も上がっちゃったから、あんまり自慢できるものじゃないのに……》
「いやいや、十分どころか十五分ぐらい凄いことだろ。コンポーネントを弄れる傭兵なんて、それこそ大きめの傭兵団にだっているかどうか。とんでもない才能だよ」
《そ、そんなに言わないでくださいぃ……!》
褒められなれてないのか、リベルタのコックピット越しに、船外作業服姿のティルナがわたわたしながら宇宙空間を流されていく。
おかげで姿勢制御スラスターが暴発し、あやうく目的地を通り過ぎそうになったのを見て、俺とウィスタは揃って忍び笑いを漏らした。
《こら、うちのティルをいじめないでよね。……っと、とりあえずまずは基幹ユニットを引っこ抜いてくるわね》
《あぁっ、待ってよお姉ちゃーん!》
そんな調子で、推定密輸船のサルベージ作業は幕を開けることとなった。
*
《よいしょ、っと……はぁ、やっと引っこ抜けたわ》
「了解、リベルタのカーゴは開けてあるぞ」
通信機越しに格闘する声を聞くことしばし、ようやっと基幹ユニットを引っ張り出したらしい姉妹が、そろってG-8の残骸から宇宙空間へ脱出してくる。
「にしても、かなりてこずってたな? ガーランド社の船なら楽に引っこ抜けるはずだけど」
《それが、船の内装まで思いっきり改造されてて、かなりごちゃごちゃだったのよ。基幹ユニットのハッチなんてべったり溶接されてたわ》
《どこにも繋がずむき出しの部品に、何のために増設したのかわからないパーツに……こんな改造をされた船が可哀想です……》
ほかならぬ姉妹が――特に腕のいいメカニックであるティルナがそんな嘆きの声を漏らすあたり、相当な魔改造が施されていたらしい。
以前戦った頭目の魔改造インターピッドといい、こちらの世界における無法者どもは、船をいじめるような改造が好きなようだ。
《……よし、電磁ロック完了。とりあえず基幹ユニットは回収できたわ》
「お疲れ、二人とも。他はどうする?」
《一応、残骸のカーゴにいくつかの積み荷を確認してるので、そっちも見回ってきます。お兄さんは、引き続き警戒をお願いします》
そう言って、二人は再びリベルタを飛び出し、G-8の残骸へと向かっていく。
「……任せっきりにすると、どうしてもそわそわするんだよなぁ」
ガン稼ぎ作戦中に請け負ったいくつかの依頼の時も同じことを思ったのだが、やはり仕事のキモとなる部分を姉妹へ任せっぱなしにしているという状況はどうにも落ち着かない。
むろん、船外作業中の姉妹へ危険が及ばないよう、周辺警戒に努めるのも立派な仕事だ。だが、船の外へ飛び出すという危険の多い仕事を二人に押し付けて、自分だけ船の中でふんぞり返っているという状況は、言葉にできないもどかしさのようなものがあった。
《……ん? ティル、ちょっとこれ見て》
――なんてことを思っていたところで、通信機がウィスタの怪訝な声を拾う。
《どうしたの、お姉ちゃん?》
《弾薬用の輸送コンテナよ。形状からして……たぶんミサイルか何かじゃないかしら》
何事かと思った矢先、ウィスタの返答が、弛緩気味だったその場の空気を一気に引き締めた。
「ミサイルって……大丈夫なのか?」
《コンテナ入りだから、ただちに危険はないと思うけど……なるほどね、船の持ち主はこれを輸送しようとしてたんだわ》
「……マズい装備だったってことか?」
《装備が、というより、これの送り主がマズいのよ。――この弾薬コンテナ、〈エレボス帝国〉のものよ》
ウィスタの言葉に、思わず目を見開く。
エレボス帝国――俺たちが活動しているベルメリア皇国と敵対関係にある星間国家。そこから流れてきたコンテナの中身はおそらくミサイルで、おまけにそれを運んでいたのは密輸船。
どう都合よく解釈を広げようとしたところで、その意図は悪意的なものにしかならないような代物だった。
「……いくら密輸船とはいえ、コンテナの偽装もせずに航行か。大胆な真似をするもんだな」
《密輸船なんて、星系軍に見つかればそこでおしまいだからね。偽装にかかる時間で素早く運んだほうが得だと思ってたんでしょ。……ティル、スキャンはどう?》
問いかけからやや遅れて、ティルナが少し真剣みを帯びた声で報告を上げる。
《……うん、お姉ちゃんの言う通り。スキャン妨害用の内壁で型番はわからないけど、中身は間違いなくミサイルだよ》
《やっぱりね。動かしても問題はない?》
《うん。少なくとも、動かしたり衝撃で発動するトラップはなさそう》
《わかったわ。なら、ひとまずこいつはリベルタに積み込みましょう。押収品タグをつけておかないと》
そんなやり取りを経て、G-8の残骸から、一台のコンテナがずるりと引きずり出されてくる。
ミサイルを収めたコンテナというだけあって、そのサイズはかなり大きい。
そして、人間二人半ほどの長さを誇るコンテナには、赤黒い塗装とともにエレボス帝国の国章がでかでかと刻まれているのが見えた。
「二人とも、気をつけろよ。艤装されてるわけじゃないとはいえ、ミサイルが入ったコンテナだからな」
《心得てるわ。――ティル、向きを変えるわよ。せーので右に回してちょうだい》
《うん。いつでもいいよ》
せーの、という無線越しの掛け声とともに、宇宙空間で長いコンテナがゆっくりと回転を始める。
——その時、リベルタのレーダーがけたたましいアラートを鳴らした。
レーダーが示す熱源の位置は、リベルタのすぐ目の前。
より具体的に言うならば――今しがた双子姉妹が運んでいた、ミサイルコンテナの中からだった。
「ッ、二人とも離れろ! 中のミサイルが起動した!!」
こちらが指示を飛ばすよりも早く、ウィスタとティルナもそれぞれ異変に気付いたらしい。
《ブービートラップ?! 嘘でしょ!?》
《そんな、衝撃感知センサーの反応はなかったのに!》
口々に驚きつつ、姿勢制御スラスターを全開で吹かし、それぞれに離脱していく。
直後、ミサイルコンテナの外装がばらりと剥離。
内部に仕込まれていたミサイルが、推進炎をまばゆくたなびかせ、急速に前進を開始する。
向かう先には————操縦者を欠いたまま、その場に停泊する〈サジタリオ〉の姿があった。
《まさか、サジタリオの熱源を感知して?!》
《レン、お願い! 撃ち落として!》
「任せろ!!」
ウィスタの嘆願とほぼ同時に、姿勢制御スラスターを唸らせて、リベルタがその場で回頭。
「やらせるかぁッ!!」
速やかに火器のセーフティを外し、飛翔するミサイルに照準を合わせてトリガーを引き絞れば、リベルタのレーザーリピーターが断続的に光の弾丸を吐き出す。
狙いたがわず、ミサイルの進路上めがけてばらまかれたレーザーは――
ミサイルがひとりでに回避機動を取ったことにより、虚空を切って彼方へ溶けて行った。
「――避けられた?! ミサイルに!?」
ミサイルが弾を避けるという、ありえない現象。
《そんな……まさか、自立巡航魚雷?!》
驚きと、絶望が入り混じったティルナの悲痛な叫びとともに――
〈サジタリオ〉のコックピットブロックに、ミサイルの先端が深々と突き刺さった。




