第21話 星系外縁部での仕事
「……よし、ちゃんと注文通りに取り付けてもらえてるな」
ヘビロテガン稼ぎ作戦の華々しい終了から、一日ぶんの休暇を挟んで、二日後の朝。
リベルタのコックピットに腰を下ろした俺は、出航準備を整える傍らで、サブモニタに投影した「船の管理画面」へと目を走らせていた。
《おはよ、レン》
《おはようございます。お兄さん、そっちはどんな感じですか?》
「ああ、おはよう二人とも。おかげさまで、新しい艤装はばっちり取り付け完了だ。シールドゲージの横に、知ってるカウンターが増えてるよ」
《よかったです。〈シールドセルチャンバー〉があれば安心感が違いますもんね》
通信機越しに顔を見せた双子姉妹のうち、我が事のように安堵の息を漏らすティルナに「だな」と返しながら、俺はサブモニタの表示を指で撫でる。
何百時間とかけて増設してきたリベルタの装備群は、現在そのすべてがEMPTY……要するにそのすべてが失われた状態にあった。
だが、そんなEMPTYまみれの管理画面にひとつだけ、昨日まで存在しなかった「MODULE ON-LINE」の文字が緑色の光を放っている。
リベルタ再建計画の第一歩となったそれこそは、失われたリベルタの装備群のひとつにして、宇宙船の守りを固める重要なピースとして数えられる追加装備――〈シールドセルチャンバー〉だった。
機能としては単純明快。起動することでシールドエネルギーを即座に一定値ぶん回復させる「シールドセル」というアイテムを使えるようにする……という装備だ。
消耗したぶんを再充填できるのはもちろん、小惑星帯で宙賊に襲われた際に遭遇した「散発的な攻撃でシールドの自動回復が阻害されているような状況」でも、それを踏み倒して回復するのにも使うことができる。
これがひとつついているだけで、シールドの持ち具合は天と地ほどに変わってくる。戦闘を嗜む船乗りならば、必須級とも言える装備だった。
「ま、セルがふたつしか入らない最低グレードの上に、だいぶ割高な買い物ではあったけどな」
《25万のうち9万が吹っ飛んだのよね? ほんと、ここらは仕事よりも買い物に困るわよねぇ》
《あはは……でも、9万ユニットで命の危機を遠ざけられると考えると、少なくとも損ではないと思いますよ?》
「まぁ、それは確かにな。……それに、最低グレードとはいえ、元の姿に少しだけ近づけられたんだ。そういう意味でも、喜ばしい一歩だと思わないとな」
そう、これは俺とリベルタにとって大きな一歩なのだ。
確かに、取り戻せた機能は全盛期の頃と比べればあまりにも小さい。だがそれでも、「失われた機能の一端が取り戻せた」という事実は、俺の心に――「本当にリベルタを元に戻せるのか」というひそかな不安に揺れていた俺の心に、小さくとも確かな自信を与えてくれていた。
《そうね、前向きに考えるのが一番よ。……何はともあれ、今日の仕事は予定通りこっちで見繕っておいたわ。確認しといてちょうだい》
他愛もない雑談を交わしつつ、サブモニタの画面を切り替え。
船の管理画面を閉じてから、俺は姉妹から送られてきた新たな依頼——こちらが船の確認をしている間に見繕ってもらったものだ——の文面に目を通した。
依頼書に書かれているのは、「密輸船と思われる座礁船の調査」について。
依頼文に曰く、ルーメン星系の外縁部付近にて、未登録の船舶IDが付与された所属不明の宇宙船が、救難信号も発さないまま漂流しているらしい。
船影解析の結果「小型の輸送船」と推定され、よその星系から流れてきた密輸船の疑いが強まったため、船の調査とサルベージの仕事が傭兵ギルドに張り出されることとなったのだそうだ。
「今日の仕事は……調査とサルベージでいいのか?」
《はい。星系外縁部で座礁した所属不明船の調査と、積荷のサルベージになります。密輸船の疑いが出てるので、警戒はしておいた方がいいですね》
《航行ルートの予測データを見るに、〈エレボス帝国〉方面から来た船みたいね。おおかた、こっちの国で禁制品扱いされてるものを持ち込もうとして、宙賊にでも目をつけられたんでしょう》
「ありそうだな。もしくは、ベルメリアでなにか破壊工作でもしようとしてたのかもしれないけど……宙賊に目をつけられたのが運の尽きだったな」
《まったくね。ま、おかげで罪のない人たちが工作活動に傷つけられず済んだと考えれば、ちょっとは宙賊も役に立ったのかしら》
「どうだかなぁ」
肩をすくめるウィスタに苦笑を返していると、ハンガーの天井隔壁が重々しく口を開け始め、ランディングパッドがゆっくりと上昇を始める。
「しかし、サルベージの依頼なら、余計に船外作業ドローンが欲しかったなぁ」
《売り切れてたなら仕方ないわよ。工業星系ならどこでもドローンの需要は多いもの》
《じゃあ、サルベージ品はこの前みたいにわたしたちでリベルタに運び込む感じになりますね》
「そうなりそうだ。危険な仕事ばっかり任せて悪いけど、2人に頼むよ」
《任せときなさい。船外作業はあたしたちも嫌いじゃないからね》
船外作業をするなら俺も出たほうが効率的だとは思うのだが、ガン稼ぎ作戦中にそれを指摘した際、「いざという時に二隻とも動けないのはマズイ」という意見を姉妹から受けていた。
任せきりにするのももどかしいのだが、たしかに理論としては至極理にかなっている。なので、今回の仕事でも俺とリベルタは警戒体制で待機することになりそうだった。
《さて、外縁部での仕事は久しぶりね。張り切って行くわよ!》
《サジタリオ、離陸します!》
「OK、こっちも続く。——リベルタ、テイクオフ!」
駐機ロックを解除し、姿勢制御スラスターを駆使してリベルタを真空の宇宙へ浮かび上がらせる。
ちらりと伺ったレーダーに映る、「友軍機」の存在を示す緑色の光点。
それを頼りにコックピット越しの外界を眺めれば、そこには大きな2本腕を抱えた銀色の小型船、こと〈サジタリオ〉の姿があった。
《星間跳躍航行の座標をセットしました。お兄さん、リベルタをサジタリオに追従させてください》
「了解」
サジタリオから発された誘導ビーコンに従うよう設定すると、リベルタの船体が自動で動き、サジタリオのすぐ斜め後ろをぴたりと追従するように動き始める。
《隊列構築、オッケー。間違ってもジャンプ中に——》
「操縦桿を倒すんじゃないわよ、だろ? さすがに覚えたよ」
《なら問題ないわね。うっかり吹っ飛ばされて漂流されるなんてヘマはやらかさないでよね?》
隊列を組んで追従飛行している間は、中核となる船以外はオートパイロット操縦となる。
その状態で操縦桿を動かした場合、隊列を離脱したとみなされ追従が解除されてしまう上、それが星間跳躍航行中ならあらぬ方向へ吹っ飛ばされてしまう危険もあるのだ。ゲーム中ならともかく、漂流すれば命に関わるこの世界では、まかり間違ってもやりたくないことの一つだ。
《じゃ、いくわよ!》
ウィスタの掛け声とともに、姉妹の乗るサジタリオと、それに続く形でリベルタが移動を開始。
程なくして起動した星間航行装置が、俺たちの船を目的地まで飛翔する光の矢へと変え、その場を飛び去っていった。
***
20分ほど操縦席で2人と駄弁っていると、ようやくサブモニタに「もうすぐ目的地に到着します」という旨のメッセージがポップアップ。
体制を整え、シートベルトを締め直していると、コックピット越しに見えていたサイケデリックな光が収まり、引き伸ばされていた星々が小さな光点へ戻っていく。
やがて、ドォン! という特有の衝撃音が真空の宇宙へ響くと、リベルタとサジタリオは目的座標の近傍へと到着した。
《星間航行終了。各部異常ありません》
「こっちも問題なし。システムをクルーズモードから通常モードへ移行する」
セルフチェックプログラムが異常なしと判断したのを確認してから、リベルタの航行システムを切り替える。
《レーダーに座礁船の反応があったわ。そっちにも共有するから、ついてきて》
次いで送られてきた広域スキャン情報に従い、サジタリオに追走する形で前進すると、やがて漆黒の宇宙空間にポツンと浮かぶ船の残骸が姿を現した。
《あれは……ガーランド製の装甲輸送船ですね。装甲の形状から見て、間違いないです》
「だな、間違いなくG-8だ。いかにも密輸船らしいというかなんというか」
バラバラに破断していて原型は大きく損なわれているが、無数の装甲が貼り付けられた長方形の船体と、申し訳程度の小さな翼が生えたそのビジュアルは、〈G-8 Metal Hauler〉と呼ばれる小型輸送船で間違いない。
ティルナの指摘通り、あの船は俺がかつて試験依頼でサルベージした〈G-5 TransPorter〉と同じ〈ガーランド・スターヤード〉製の船だ。
その特徴は何といっても、船体を満遍なく覆うマットブラックの装甲だろう。
ステルス性に優れた特殊素材製の装甲はレーダーの目をかいくぐりやすいという特性を有しており、「宙賊の監視の目を逃れながら安全な輸送ができる」という謳い文句で売り出されている。……が、その特性はどう考えても「カタギ」の運用を想定していないと、スタユニのプレイヤー界隈ではもっぱらの評判だった。
《星系外縁部に漂う、撃墜されたステルス輸送船。どう考えても、密輸以外の運用目的が思い浮かばないわね》
「だな。……とりあえず、今のところ周辺に別の機影は見当たらなさそうだ」
《わかったわ。なら、基幹ユニットを引っこ抜きに行ってくるとしましょう》
《お兄さん、カーゴベイを開けておいてもらえませんか? 禁制品が見つかったら、提出して追加報酬をもらいましょう》
「そうするか。2人とも、気をつけてな」
姉妹それぞれに、映像越しのサムズアップが送られてくると、それきり映像通信はぷつりと途切れる。
しばらくサジタリオの方を眺めていると、サジタリオのエアロックが、白く煙る圧縮空気を吹き出しながら展開。
同時に、サブモニタに音声通信が開始された旨のメッセージが出現すると、エアロックの向こう側からは、船外作業服を纏ったふたつの人影が出現。こちらへ向けて軽く手を振って合図してから、ふたつの作業服――ウィスタとティルナは、それぞれ宇宙空間へ飛び出していった。
皆様のたくさんの声援を頂きまして、なんとなんと
・【[週間]宇宙〔SF〕 - すべて】 1位
・総合評価1000p突破
という栄誉を賜ることとなりました!!
週間一位という栄誉に加え、かつて達成した最高得点である710pを大きく上回り、あまつさえ4桁の大台を踏むことができたのは、ひとえに皆様のおかげです!
この場をお借りして、深くお礼申し上げます!




