第20話 協同、ついで協働
《さぁレン、準備はいい?》
《サジタリオ、セルフチェック全てOKです。リベルタはどうですか?》
双子の傭兵姉妹とタッグ——この場合はトリオというべきか——を組み、共同で依頼をこなそうと決めた、その翌日。
事前の取り決め通り、俺はリベルタのコックピットで、さっそくウィスタとティルナへ通信を繋いでいた。
「こっちもオールオッケーだ。改めて、今日からよろしくな」
《こちらこそ、よろしくお願いします。分隊を組むのは久しぶりですけど、頑張りますね》
《それじゃ、あたしたちが見繕ってた依頼の写しを送るわ。約束通り、今日中に全部こなすつもりで行くわよ》
「了解だ。なら、何に手を付けてどこから行くか、しっかり吟味しないとな」
そう返事をすると同時に、ウィスタからいくつもの依頼書の写しが送付されてくる。
依頼の傾向はある程度まとめられてこそいるが、その数はかなりのものだ。すべてこなそうと思えば、それこそ夜――宇宙に朝も夜もないので、あくまでコロニー内の標準時刻に合わせた表現だが――までは確実にかかることだろう。
実はあの後、ウィスタから一つ提案を受けていた。
提案の内容はというと、「『三人と二隻で受けられるだけの依頼を受け、一日でこなせる限界まで消化し続けた場合、どれだけ稼ぐことができるか』というのを、何日かに渡って検証してみないか」……というもの。
金策に精を出しつつ、俺たちに出せる限界点を探ることで、今後仕事をこなす際のペースを調整する目安にしたいというのが、発案者であるウィスタの意見だった。
俺としても、多く稼げるに越したことはなかったので、二つ返事で了承。
結果、目の前のサブモニタには画面を埋め尽くさんばかりの量の依頼が表示されることになったのである。
「これと、これは……長期依頼だからダメだな」
《こっちはどう? 標準時で0時の日付変更まで受け付けてくれるらしいけど》
「ならそれは受けようか。あとは、これも行けるか?」
《えっと……あ、待ってくださいお兄さん。それは歩合制の依頼なんで、時間をかけないと稼ぎにならないと思います》
「ん、本当だ。ならこれは却下と」
送信されてきた依頼の文面と報酬の額を吟味して、姉妹の意見とこちらの意見をすり合わせていく。
……実のところ、俺としてもこうして誰かと協力関係を結ぶのは久しぶりのことだ。
ゲーム時代にもいくらかパーティを組んで遊ぶ機会はあったのだが、そういう時は大抵が大規模な艦隊戦やダンジョンの攻略といった大目標を達成するためのものだった。
ふだんはリベルタの強化に奔走したり、1人気ままに各地の探索へ繰り出していたりしていたので、大きな団体ではない個人と一緒に行動するというのは、ゲーム時代を含めてもかなり久しぶりなのだ。おかげさまで、柄にも無く緊張している自分がいた。
《……お兄さん? なんか、声が固くありませんか?》
——なんてことを思っていると、ティルナにめざとく見抜かれてしまった。
「あ、あぁ大丈夫。……ここに来てから初めての団体行動だからさ。ちょっと緊張しちゃって」
《あら、しっかりしてよね? しゃんとしないと、あたしたちが取り分ぜんぶ貰っていっちゃうわよ》
「ひでぇ。山分けの約束もう反故にするのかよ」
《冗談冗談。……さて、ティル。今日の分の依頼は受注できた?》
《うん、受理されてるよ。お兄さんのほうにも送りますね》
ウィスタの一言に反射で突っ込みを入れたおかげか、凝り固まっていた意識がなんだか自然な形でほぐれるのを感じる。
同時に、ティルナから回されたデータを確認して、選出した依頼群がすべて受注済みとして処理されているのを確認した俺は、ぱしんと手のひらに拳を打ち合わせた。
「っしゃ。それじゃあ気合い入れて行くとしますか」
《ええ。稼がせてもらうとしましょう》
《はい! 頑張りましょう!》
モニタ越しにお互いへ気合を入れたタイミングで、港湾局へ提出した出港申請が受理されたという文面がサブモニタへ出現。
俺とリベルタを乗せたランディングパッドが、ゆっくりとハンガーの外へ移動し始めた。
***
そんなわけで始まった共同作戦、こと「ヘビロテガン稼ぎ作戦(ウィスタ命名)」はどうなったかというと――
正直言えば、俺の想定を超える大成功を収めることとなった。
商船護衛の仕事から始まり、物資の輸送や資源の採掘。サルベージ作業や立ち往生した船の曳航に、宙賊が敷設した機雷やタレットの破壊や、星系各地のパトロールなどなど。
受けられる依頼は文字通りなんでも受けてこなしてみたのだが、意外なことにどの仕事も驚くほどすんなりと対応ができたのだ。
《傭兵さんたち、賊が来やがったぞ! なかなかの数だ……!》
例えば、商船護衛の仕事。
「任しといてください! 二人とも、俺とリベルタが先行して囮になる!」
《オーケー、こっちは後方から援護射撃するわ!》
《サジタリオのレーダー情報と、射撃予測地点をリアルタイム共有しますね! お気をつけて!》
襲ってきた宙賊を相手取る際には、俺のリベルタが撹乱して姉妹のサジタリオが無防備な相手の腹を射抜くという、小惑星帯での戦いを彷彿とさせる連携プレーが光った。
《レンー、カーゴベイ開けてちょうだい!》
例えば、資源採掘の仕事。
《こっちもひとコンテナ詰め終わりました。カーゴルームに積み込みますね》
「了解。……サジタリオに採掘用の艤装が使えないからって、まさか宇宙服で手掘りに出るとは思わなかったよ」
《あたしたちのやり方はこうなのよ。サジタリオに乗り換えた当初はずっと同じことしてたわ》
レンタル艤装で採掘作業を行うリベルタと並行する形で、双子姉妹はなんと手持ちドリル——回転するアレではなくレーザーカッターのようなものだが——を担ぎ、船外作業服を駆使して鉱石を採掘。
予定していた時間を三割近く短縮して、余裕を持った納品ができた。
「くっそ、荷物のせいで船が重い……」
例えば、貨物輸送の仕事。
《依頼三つ分のコンテナ、全部詰め込んでもらったものねぇ。そりゃ重くもなるわ》
《お兄さん、私たちの船で牽引します。アンカーを照射しますね》
カーゴベイがパンパンになるまで積み込んだせいで恐ろしく鈍重になったリベルタめがけて、姉妹のサジタリオから二筋のレーザーが照射される。
「おぉ、動いてる動いてる。こりゃ快適だ」
《問題なさそうね。サジタリオのエンジン出力もなかなかのものでしょう?》
《このまま星間跳躍しましょう。お兄さん、そっちの跳躍装置も同期させてください》
単騎ならまともに動けなさそうな局面を、姉妹とサジタリオの協力でやや力技気味に解決したりもした。
そんな感じで、あれやこれやと仕事を受けまくり、朝から晩まで働き詰めの日々を送ること、はや3日。
大量の依頼を捌きに捌き、最終的に稼いだ金額は、おおよそ50万ユニット。
俺と姉妹で山分けしても、その報酬額は実に25万ユニットになる。
初仕事で得た金額が、宙賊の賞金込みでも約2万ユニットだったことを考えると相当な金額だ。
ひたすら最大効率を目指したが故の結果であり、毎回できる作戦ではないのだが、この稼ぎは文字通り、目を見張るほどの成果だといえた。
*
「んん〜〜っ……はぁぁー。疲れたぁ……」
対面のソファで、ウィスタがグッと伸びをしたあと、ぐんにゃりと背もたれに沈み込む。
その隣では、姿勢こそ崩さないがティルナもくたびれた様子を見せていた。
「こんなにたくさん働いたのって、サジタリオの主砲を買う時に足りないお金をかき集めた時以来だね」
「そーねぇ。でも、おかげさまで予定を遥かに超えた稼ぎが出たわ。レンに感謝しないとね」
そう言って笑う姉妹の顔に浮かぶのは、疲労感と達成感がないまぜになった表情。
姿勢を戻したウィスタはそのままテーブルに置いてあったカップを手に取り、俺に向けて乾杯のジェスチャーを送ってから、注がれていた中身——祝杯と称して2人が買い付けてきた清酒を、ぐいっと煽ってみせた。
「そう言ってもらえると嬉しいけどさ…………華々しい成功の打ち上げなのに、それをする場所は本当に『俺の船』でよかったのか?」
同じように飲み物——双子の呑んでいる清酒とは違い、こちらは甘めのカクテルだが——入りのコップをかしげながら、俺はずっと抱いていた疑問を口にする。
——そう、俺の船。
ウィスタとティルナは現在、どういうわけか俺の船、ことリベルタの船内リビングルームにいるのだ。
「なに? ダメなところでもあった?」
「いやそういうわけじゃないけどさ……もっとこう、打ち上げっていえばこの前のヤキトリモドキの店みたいな『外で食えるところ』の方がよかったんじゃないか? って思ってさ」
俺の言葉に、ウィスタはひらひらと手を振って答える。
「ああいうところも悪くはないけど、今日は邪魔の入らない"ホームパーティ"で一杯やりたい気分だったのよ。生活スペースのないあたし達の船では、こういうことなかなかできないからね」
「そうだね、お姉ちゃん。……あ、でも、お邪魔でしたら場所を変えましょうか?」
「いや、そんな意地悪言うつもりはないよ。上がりこんでいいって許可出したのは俺だからな。単純に、2人はここで良かったのかって思っただけさ」
言っちゃなんだが、リベルタの生活スペースは本当に「最低限生活できる」程度のものしか置いていない。
更新する資金がそもそもないというのもあるが、備え付けのウォーターサーバーやフードカートリッジで料理を精製する自動調理器はどちらも最低グレード。内装や調度品も軍用機らしさ全開の装いなので、打ち上げの場としてはいささか「無骨さ」が否めないのだ。
そんな場所に女の子2人を押し込めるのは少し憚られる……というニュアンスを含めた発言だったのだが、当の姉妹はカケラも気にした様子を見せていなかった。
「わたしは、全然構いませんよ。むしろ、いつも使ってる宿泊施設よりゆったりできる気がします」
「わかる。まぁ、あたしはもう少しソファが柔らかいほうが好みではあるけどね」
「それは流石に対応外だ。取り替えたいなら、うちのクルーにでもなってから言ってくれ」
冗談めかして肩をすくめると、姉妹は揃って笑いをこぼす。
「クルーねぇ。確か、リベルタは三人で運用できるんだっけ?」
「ああ。ま、サブシートが埋まった経験はほとんどないけどな」
「そうなんですね? ……サジタリオを捨てる気はありませんけど、リベルタの居住性は羨ましいですね」
「ねー。船乗り用のホテルって割高だし狭いしで居心地悪いのよ。正直、サジタリオに乗る前だったら二つ返事でOKしたいくらいよ」
「一応ここ俺の家みたいなもんだぞ? 仮定の話とはいえ、男の家に住まないかって誘いをそんな軽く了承していいのか??」
「あたしたちは構いやしないわよ。ね、ティル?」
「そうですね。他の人ならともかく、お兄さんの船なら歓迎です」
形ばかり釘を刺してみるが、本人達はどこ吹く風だ。顔からして酒が回っているような様子もないし、2人からすれば本心から「そういう認識」が当たり前のもののようだった。
……俺が考えすぎなだけなのだろうか?




