第17話 小惑星帯の遭遇
2027/08/25…更新内容が丸ごと誤っていたため全面差し替えを行いました。
ご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございません!
「ッ……ロックオン警告?!」
サブモニタの警告文に目を走らせた俺は、驚愕に目を見開く。
何者か――おそらくは小惑星帯に潜んでいた宙族であろう相手から、ロックオン警告を受けている。
それそのものは、さして驚くことでもない。〈スタユニ〉の時も、平和な採掘ミッションで不意の遭遇戦に発展することは珍しくなかったのだ。
問題なのは、リベルタへ向けられた照準の数だ。
その数、実に8つ。これだけの大群に狙われるなど、ゲームでもそうそう経験のない出来事だった。
《よう、そこの傭兵! こんなシケた場所でお仕事とはご苦労なこったなぁ!》
驚きもつかの間、広域回線に乗せてこちらへにらみを利かせる船から声が届く。
ホロウィンドウに表示されたその容貌は、やはりいかにもな姿の宙族。ニヤついた笑みと粗野な服装が特徴的なそいつは――どういうわけか、ひどく見覚えのある面構えをしているような気がした。
「……お前、まさか昨日の?」
そう、昨日戦ったあの宙族とまるで同じ風貌をしている。
そのことに思い当たった俺が言葉をこぼすと、相手はどこかしてやったりと言いたげな表情で笑みを深めて見せた。
《クハハッ、傭兵風情にしちゃあ頭が回るじゃねえか。昨日はよくも、オレ様の大切な〈インターピッド〉をオシャカにしてくれたなぁ?》
やはり、相手は昨日の宙族で間違いないようだ。
奴の乗機であったインターピッドは確実に破壊したはず。ということは、運よく生き延びたか、あるいは爆散に巻き込まれる寸前で緊急脱出を成功させていたのだろう。悪運の強い奴だ。
「その節はどうも。……まさか、また会うなんて思いもしなかったよ」
《ハ、奇遇だな。オレ様も同じ意見だ。テメェの面なんぞ二度と見たくもなかったが……こうして広い宇宙で鉢合わせたんなら、やることはひとつだよなぁ?》
その言葉を合図にして、小惑星たちの陰から、こちらへロックオンしていた複数の宇宙船が飛び出してくる。
大半は全長30mにも満たない小型の戦闘艇だが、その中に一隻だけ、ひと回り体格の大きな船の姿があった。
「スキュラガンシップ……!」
「〈Scylla〉Gun-Ship」。
数ある船舶メーカーのひとつに名を連ねる〈エリシオン・インダストリー〉が手掛ける商品にして、50m弱のコンパクトな船体に不釣り合いな大型船用の大口径砲を搭載した、正しく砲撃艦にふさわしい強力な船だ。
民間にはめったに出回らず、主に星系軍で運用されているような機体。
それがよもや、こんな辺境の小惑星帯にいて、しかもそれを宙族が乗り回しているとは。
「宙族の装備にしちゃあずいぶん豪華だな……!」
そんな事実に、俺の口からは思わず羨望とも嫉妬とも取れない言葉が零れ落ちる。
こちらの反応に気をよくしたのか、宙族はゲラゲラと下卑た哄笑を上げた。
《これもちょっとしたツテってやつさ! 試運転中だったが――ちょうどいい。コイツでお前をグチャグチャのスクラップにしてやるぜェ!!》
宣言とともに、スキュラがスラスター炎の輝きとともに動き出し、その大口径砲から光を放つ。
「くっ……!」
間違いなく仕掛けてくると踏み、先んじて回避行動を選択していたことで、一射目はシールドをかすめて彼方へ飛翔。はるか後方の小惑星に突き刺さり、その表面を大きく抉り取っていった。
「ッ……掠めただけでこの火力かよ!」
安堵の息をつきたいところだったが、掠めていっただけにも関わらずシールドゲージが一割も減衰している。
まともに食らえば、おそらく3発と持たずにシールドが破壊されてしまうだろう。直視したくない事実に、俺の背中を冷や汗が伝っていくのが感じ取れた。
《カシラばっかりずるいぜ! 俺らにも仲間の仇を討たせてくださいやぁ!!》
《ヒャハハァ! よそ見厳禁だぜぇーッ!!》
さらに面倒なことに、相手は件の宙族――呼び方しておそらく頭目であろう男が駆るスキュラだけではない。周囲に散開していた小型戦闘艇たちが、我先にとこちらへ攻撃を浴びせかけてくるのだ。
頭目を除いた7機の小型艇による、捌ききるには難しい波状攻撃。一発一発の火力こそ微々たるものだが、絶えず着弾する攻撃でシールドが明滅することによる視界への影響は、鬱陶しいことこの上ない。
「この……っ!」
回避行動の傍ら、小型艇を撃ち落とすためにレーザーを撃つ。
小型艇特有の機敏な軌道と的の小ささ故に補足は難しいが、彼我のサイズ差がもたらす火力を計算すれば、特に苦も無く落とせる――はずだった。
《おっとあぶねぇ!》
《ざーんねんでしたぁ~!》
シールドを剥がれた敵の小型艇が、素早く小惑星の陰へと逃げ込んでいく。
そして、少ししてからシールドを再展開した小型艇が、再び万全の状態でこちらへ攻撃を仕掛けてくるのだ。
周囲に浮かぶ小惑星が、相手にとって絶妙な遮蔽物になると同時に、こちらの自由な機動を阻む障害物となっている。
小型艇たちのよどみない動きを見るに、この展開は偶然ではないのだろう。
小惑星帯で動きを封じ、絶え間ない波状攻撃によって相手をねじ伏せる。小型艇の利点を最大限に生かした、非常にいやらしくも効果的な戦術だった。
「あぁくそっ! 〈|スターボウ《いつも使ってたレーザー砲》〉があれば小惑星ごとぶち抜けるのに!!」
リベルタに施していた強化が失われた影響が、よもやこんな形で降りかかってくるとは。
思わず吐き捨てるように毒づくが、それで状況が好転するわけでもない。
《ハッハァ! よそ見してる暇ぁねぇぞ!》
さらにそこへ、頭目が駆るスキュラの超高火力砲撃まで飛んでくる始末。
当たればマズいのでどうにか回避するが、無理な機動を取ったせいで小惑星がシールドに接触。青白いスパークを散らして、シールドゲージがまた少し減っていく。
「ぐっ……クソっ!!」
衝撃にうめくが、それでも操縦桿を動かす手は止めない。
とはいえ、どうにかしてこの場で雑魚を落とすか、小惑星帯を脱出してこちらが自由に動ける領域を確保しなければ、勝機はないだろう。
唇を噛みつつ、どうにかこの状況を打開する術を見つけるべく、遮二無二操縦桿を振り回す。
――と、その時。
船のエネルギー配分を表示していたサブモニタが、突如として「文章」に上書きされるのが見えた。
「ん……?」
ちらりとそちらへ視線をよこしてみれば、それはどうやら何者かが俺、というかリベルタへ向けて送信した、メッセージ形式の通信だったらしい。
内容は――「指定のポイントへ来れば援護射撃を行う」というものだった。
「誰だ、こんな時にこんなんを寄越すのは……!」
怪訝な表情が、抑えきれず顔に出る。
好意的に解釈するなら、この状況を打開してくれる救援。悪意的に解釈するなら、仲間を装った卑劣な罠の待ち伏せだ。
状況を鑑みればすぐにでも飛びつきたい申し出ではあるが、さりとてこんなタイミングで救援が来るのもタイミングが良すぎる。正直なところ、どちらかと言えば罠であると考えるほうが自然だろう。
受けるか、蹴るか。どうするべきか悩みつつも、最終的に俺は――
《送信元不明:罠じゃないから大丈夫 ウィスタより》
続いて届いたメッセージに記されていた送り主の名を見て、リベルタを転進させることを選択した。




