第12話 試験依頼 その4
漆黒の闇を、無数の光条が鮮やかに切り裂いていく。
駆け抜ける光――指向性を与えられ撃ち放たれた「レーザー」は、俺、ひいては俺が乗るリベルタめがけて飛来。
ブーストを吹かし、全速力の飛翔によって回避するが、3機から同時に叩き込まれる弾幕は分厚く、全てを避けるのは難しい。
リベルタの至近で弾けたレーザーが、光の膜――防御用のシールドをわずかに削るのを確認しながら、俺はひたすらに宇宙空間を飛び回っていた。
「〈オストリッチ〉はともかく、〈インターピッド〉がめんどくさいな……というか、あんな風に無理やり砲台を括り付けられたらもはや別の船じゃねーか」
おそらく宙族であろう奴らが乗り回している宇宙船のスキャン情報を見て、驚きと面倒臭さの混じった嘆息を漏らす。
〈オストリッチ〉はハコフグのような小型輸送船で、〈インターピッド〉は平べったい全翼機型の汎用船。いずれも、「スタユニ」の世界にあった船だ。
「安価なぶん生産数が多く使いやすいことから、宇宙全域で広く運用されている」……という設定があり、実際にゲーム中でもプレイヤー機、NPC機を問わず頻繁に見かける船だった。
そんな二隻のうち、リーダー格の船と思しき〈インターピッド〉に関しては、もはや原型をとどめていないレベルで改装されている。
本来の〈インターピッド〉は、ステルス戦闘機の翼を縮めたような、あるいは車に貼る若葉マークを上下逆さまにしたようなシルエットの船だ。
だが、凹凸が目立たないデザインだった船体は、つぎはぎに増設された部品でごちゃごちゃ。さらに、船体下部には開け放たれたドロップダウン式カーゴスペースに無理やり詰め込む形で、オーバーサイズな砲身が括り付けられている有様だ。
ゲーム中でもある程度船の強化改装はできたが、アレほど無法な改造はシステム的に見てもまず不可能なはず。やはりというか、ゲーム時代の常識をそのまま適用するのはやめておいた方がいいらしい。
「っと」
なんてことを考えていると、俺の耳にロックオンされた旨の警告音が響く。
コンソール中央のレーダーへ視線を向けると、リベルタの上方へ抜けた機体――二隻いる〈オストリッチ〉の片割れが、反転してこちらへ高速で接近してきている様子が見えた。
《ヒャハハァ! さっさと落ちやがれェ!!》
無線越しに響くのは、粗暴さの透ける男の声。
頭上からさらにレーザーが飛来する中、俺はとっさに手元の操縦桿を動かし、フットペダルを強く蹴り込む。
操縦系による動作指示を受けたことで、リベルタもまた大きく回頭。機体の向きを変えることで被弾面積を狭めつつ、頭上の敵――全体的に四角いシルエットが特徴的なオストリッチと真正面から相対した。
「何はともあれ、まずはこいつらを落とさないと始まらないか!」
迫るオストリッチを睨みながら、俺は速度調整用のスロットルを限界まで押し上げ、リベルタを増速させる。
同時に、操縦桿のトリガーを引き絞り、正面に捉えたオストリッチめがけて攻撃を仕掛けた。
リベルタのウェポンベイに取り付けられた砲身から、緑色に光り輝くレーザーがほとばしる。
断続的に連射されるレーザー弾の光は、狙い違わず敵の宇宙船へ直撃。船の周囲に発生した光の膜――防御用のエネルギーシールドを、確実に削り取っていく。
《度胸試ししようってかぁ? やってやんよぉ!!》
「こっちのセリフだ!」
オープンチャンネルで繋がったままの無線にそう返しつつ、俺は一度エンジンの出力を絞り、操縦桿とフットペダルを目一杯に動かす。
操作系の指示を受けたリベルタは、その場で急速に速度を落としつつ、縦方向にぐるりと転回。
突然減速した俺の動きに対応できなかった敵の宇宙船は、俺の至近を通過。
そのままこちらが回頭を終えると――俺たちは相手の無防備な背中を正面に捉えていた。
《何っ?! コイツ、ひっくり返ってオレの後ろを――》
「まずはお前からだ!」
無線の向こうから響く驚きの声に構うことなく、俺はトリガーを引き絞り、レーザーを連射する。
当然、その大半は防御用のシールドに無力化されるが、無法者故に充分な整備を受けられてない発生装置が発するシールドでは、次々に着弾する光の弾丸をいなしきることはできない。
見る間に飽和したシールドは、一際強く明滅した直後に霧散。その勢いのまま、なおも連射されるレーザー弾は、狙い違わず船のエンジンブロックへ次々に突き刺さっていき――
《うぎゃああぁぁぁ――!?!》
やがて、しゃがれた断末魔の悲鳴に合わせて、漆黒の宇宙空間にオレンジ色の花が咲いた。
《テメェ、やりやがったな!》
《生きて帰れると思うんじゃねぇぞ!!》
直後、撃墜確認の暇もなく、別方向からレーザーが飛来する。
攻撃の出所は当然、こちらへ突っ込んでくる二隻の宇宙船だ。
「チッ、流石に初期シールドと初期リアクターじゃ受けきれないか!」
光の雨にさらされたリベルタのシールドが明滅し、サブモニタのシールドゲージがあっという間に70%を下回る。
このまま何もせず受け続けるのはマズイと判断して、一度エネルギー配分を調整。船体の冷却に使っていたエネルギーの半分をシールドシステムへ回して充填速度を上げながら、再び回避機動をとった。
宙族たちはこちらを挟撃するつもりなのか、真っ直ぐにこちらへ向かうことはせず、軌道をそらして散開していく。
――だが、その動きは非常に大回りだ。おかげさまで、相手は背中がガラ空きの状態だった。
「こういうとき、シーカーミサイルがあれば手っ取り早いんだけどなぁ」
無防備な敵の様子を見ながらそうぼやくが、それで船に新しい武器が生えてくるわけでもない。
現有戦力でなんとかしなければいけないもどかしさを飲み下しながら、俺はペダルを蹴り込みブースト。もう一隻の〈オストリッチ〉めがけて船を突撃させる。
《チィッ、ついてくんじゃねぇ!》
無線越しの悪態と共に、正面に捉えたオストリッチが、ふらふらと軌道を揺らす。
どちらへ回頭するかを読めなくするための戦術、なのだろうが――その動きはどうにも緩慢だった。
「残念だけど、その船でその動きは的でしかないんだよ」
〈オストリッチ〉は本来貨物輸送用の船であり、戦闘機動は想定していない。
姿勢制御スラスターの推力も通常航行速度も平凡の域を出ない船が不規則な飛行をしようが、それはただ隙を晒すことになるだけ――というのが、〈スタユニ〉のプレイヤーにとっては周知の事実だった。
対して、俺が乗っているリベルタは軍用モデル。
「コンペ落ち」だの「器用貧乏」だのいろいろ言われてこそいるが、その性能は初期状態であっても軍用機としての最低水準はきちんと満たしている。相手の貨物船がいくら改造されていたところで、戦闘機動を取らせればその性能差は歴然だった。
「お前で二機目!」
完全に背後を取った状態で、再びレーザーを連射。
相手のシールドは瞬く間にはぎ取られ、無防備になった相手の船体を、レーザーの雨が容赦なくブチ抜いていく。
《い、イヤだああああ!!?》
断末魔の声と共に、爆炎が再び漆黒の宇宙を照らした。
レーダーに残る敵は、あと一機。
再び船を回頭――させようとしたところで、コクピット内にけたたましいアラートが鳴り響いた。
「げっ、ミサイル?!」
レーダーに目を落とせば、そこには確かに接近する熱源反応が映っている。出所は間違いなく、最後に残った〈インターピッド〉からだ。
ミサイルの回避に有効なオプション装備のフレアランチャーは積んでいないし、回頭のために減速をかけている以上、ここからの回避は間違いなく間に合わないだろう。
下手に進路を変えれば、無防備な土手っ腹に攻撃が突き刺さる。それだけは避けなければいけない。
「だったら――敢えて受ける!」
現状のシールド残量なら、至近で爆発しても受け切れる。
ならば、と腹を括った俺は、そのまま回頭を続行。残る最後の敵機と、その手前を飛翔するミサイルを真正面に捉えた直後、スロットルをべた踏みして船を加速させた。
瞬く間に距離が縮まるミサイル目掛けてレーザーを乱射すれば、眩い閃光と共に生じた爆発が、発動したシールドの光を交え、視界を白く塗りつぶす。
眩さに目をそむけつつ、操縦席のインターフェースを確認。七割がた残っていたシールドの残量は、炸裂したミサイルの衝撃によって三割を下回っていたが、計算通り飽和には至らなかったようだった。
《死にぞこないがァ!》
安堵もつかの間、真正面から相対する形となった〈インターピッド〉が間近へ迫る。
トドメとばかりに無理やり括り付けられた大型レーザーを打ち込まれ、危険域に差し掛かったシールドがさらに削れていくが――俺とリベルタは止まらない!
「うおおぉぉぉッ!!」
ブーストによる加速を続けることで、彼我の距離は一気に縮まっていき――
スレスレの距離を飛んだ俺の船と相手の〈オストリッチ〉、両者のシールドがお互いのシールドに激突。
衝突のダメージをいなそうとしたお互いのシールドは瞬時に限界を迎えて飽和し、同時にお互いの機体が大きく弾き飛ばされた。
《ぐおぁッ?!》
「ぐぅッ!!」
強烈な衝撃に呻きながら、俺はすかさずコクピット内のコンソールへ手を伸ばす。
タッチパネルの一角、「フライトアシスト」と書かれた文字列に触れると、コンソールの全面に「flight assist OFF」という赤い警告表示がポップアップ。一拍置いて、船が急激に安定性を失い、無軌道に暴れ始める。
「ぬ、おりゃあぁッ!!」
おぼつかない機首を細かい操縦桿さばきでねじ伏せ、思い切り縦方向へ回転。
同時に、オフにしたばかりのフライトアシストを再び有効化し、どうにか船を安定させると――
そこには、今まさに体勢を立て直そうとしている〈オストリッチ〉の、無防備な背中があった。
《反転、しやがっただとォ!?》
相手のパイロットが驚いている間に、俺は再び機体のエネルギー配分を調整。
飽和して消失したシールドの分を注ぎ込めるだけ火器へと回し、限界まで火力を増強。しかるのち、操縦桿のトリガーを目いっぱい引き絞り、ありったけのレーザーを叩き込む。
放たれたレーザーは、狙い違わず〈インターピッド〉の船体へ着弾。増設された装甲を赤熱化させ、次々に食い破っていった。
《星系軍の数合わせ風情がぁ!!》
〈インターピッド〉のパイロットが忌々しげに叫ぶが、こちらへ再回頭を試みるその動きは鈍く、遅い。
もともと機動性の抑えめな機体である上に、そこへ追加装甲と無理やり括り付けた規格オーバーの砲台が加わり、さらに重量を増やしているのだ。いくら戦闘に適性を持つマルチロール機といえど、その動きに支障が出るのは無理からぬ話だった。
「悪いな! お前に恨みはないけど、こんなところで出会った不幸を呪え!!」
こうなれば、決着の形はひとつだけ。
餞別の言葉を投げつけつつ、俺は再充填を終えたレーザーを再び斉射。
断続的に煌めく光の雨は、〈インターピッド〉の回避を許す事なく、その装甲を突き破り――
《クソがあぁぁぁ!!!》
怨嗟の声を響かせながら、眩く輝くオレンジ色の花を咲かせ、宇宙の闇へ散っていった。




