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リビルド・スターシップ! ~SFゲームの世界に転生したゲーマー男は、初期化されてしまった愛機の理想の姿を取り戻したい~  作者: 矢代大介


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第11話 試験依頼 その3


「おお、見えてきたねルーメンプライムコロニー。いやはや、タスクに忙殺されて定期便を逃した時はどうしようかと思ったよ」


 操縦席でリベルタを駆る俺の横合いで、手でひさしを作りながら遠景を望むイーディスがそう呟く。


「まぁ、こうして珍しい船に乗れた上に、内装まで一通り見させてもらえたんだ。帳尻は充分埋め合わせられたと言うべきかもしれないね」

「って言っても、今のリベルタは出荷段階とそう変わらないですよ。見どころも何もあったもんじゃないですけど」

「まさか。造船所に死蔵された在庫と実際に稼働している船はまるきり別物だよ。試験飛行以外で稼働中の船に触れる機会の少ない身としては、それだけでも充分貴重な経験さ」


 そういうものなのだろうか、と言う疑問が湧くが、他でもない本人がそう言っているのならそうなのだろう、と納得しておくことにした。


「コンペに落ちて民間に流れたのを知った時は頭を抱えたけど……こうしてまともに使われているのを見られるようになったと考えれば、そう悪い話でもないのかもね」

「ですね。まぁ、乗ってる人自体は相当少ないみたいですけど」

「それでも、ずっと倉庫に眠らせるよりは万倍良いさ。大切にしてやっておくれ」

「もちろん」


 そんなやりとりを交わしながら、俺たちを乗せたリベルタはゆったりとルーメンプライムコロニーへ向かっていった。



 *



「では、世話になったね。よければ、メディオの公式サポートに頼りたい時はその連絡先へ繋いでくれ。ワタシなりにサポートさせてもらうよ」


 そう告げたイーディスは、ひらりと手を振りながら、悠然とした足取りで宇宙港の雑踏の中へと消えていく。

 見えないなりに俺から振り返した手と反対の手には、小さなデータチップ。それは、イーディスがいうところの「連絡先」が書き込まれた、チップがわりの謝礼品だった。

 

「まさかこんなところでメディオの人と繋がりができるとはなぁ。辺境っつっても、何が起こるかわからないもんだな」


 ハンガーへ戻るエレベーターの中で、俺は一人ごちる。

 

 メディオ製の船に乗る身としては実際とてもありがたい品――なのだが、これはあくまで「ただのデータ」。活用するには、このデータを使える端末が必要だ。

 そして残念なことに、今の俺の手元にはこれを活かせるガジェットが存在しないのが現状だった。


「……試験を終わらせたら、まずは携帯端末を買わないとな」


 初任給の使い道を定めた俺は、踵を返してハンガーへと戻り、再びリベルタへと乗船。

 入港そうそうでやや気後れしつつも、港湾局へ出航申請を出した。


 最後に残った試験依頼は、パトロール任務。読んで字の如く、割り当てられた宙域を航行し、宙族などの危険因子がないか、あるいは困っている民間の船がいないかを見て回る仕事だ。

 依頼の文面にいわく、数日前に発生した宙族との戦闘で治安維持を担当する星系軍の哨戒船が大ダメージを受けてしまったそうで、その穴埋めを傭兵の船に頼みたい……とのことらしい。

 

 割り当てられた宙域は、このルーメンプライムコロニーからほど近く。いざトラブルに見舞われても、フィックスドライブを起動できれば即座にコロニーへと舞い戻れる程度の場所なのは、試験依頼故の措置なのだろう。


「まずは……星系軍へ連絡か」


 依頼の概要に目を通し直し、必要な手順を確認してから、連絡のために回線を開く。


 出航準備が進む中、しばらくコールを続けていると、やがて微かなノイズ音と共に、サブディスプレイに軍服を纏った男性の姿が映し出された。


《こちらはルーメン星系治安維持部隊だ。貴船の所属と通信の目的を述べよ》

「傭兵ギルドのレンです。パトロール任務の支援依頼を受けて連絡させてもらいました」

《確認する、少し待て》


 モニタの中の男性が顔を逸らし、傍らの端末を確認。

 やや間を置いて、男性はいくらか険の取れた表情で再びこちらへ向き直る


《確認が取れた、協力に感謝する。貴船に割り当てられた宙域の座標を送るので、準備が整い次第すぐに向かってくれ》

「了解です。どのくらいの間パトロールすれば?」

《大きなトラブルがなければ、三時間後に交代の船を派遣する。何か不審なものを見つけた場合は、すぐに報告するように》

「わかりました。それじゃ、今から向かいます」


 なんとなく軍人らしさのある事務的なやり取りを経て通信が切れると同時に、ランディングパッドの展開が完了した旨の通知が入る。


「何事もなく終わりますように、っと」


 口に出してから「フラグくさい願掛けだな」と自分で苦笑しながら、リベルタのエンジンを吹かして離陸。本日3度目の航行を開始した。




 *




「本当に何も起きない」


 割り当てられた宙域を巡回し始めてから、早いもので二時間と少し。

 最初は相応に緊張感を持って臨んでいたのだが、戦闘中でもないのに三時間ずっと気を張り続けるのはなかなか厳しい。

 一時間を超えたあたりでシートベルトを外し、二時間を超えたところで姿勢も崩して、今の俺は完全にだらけモード。コックピットのシートに深々と身体を預け、頭の後ろで手を組みながら自動航行モードに身を任せるだけの置き物状態だった。

 

「さすがに腹減ったなぁ」


 物を買うお金がない以上仕方ないとはいえ、起きてからなにも食べてない状態で仕事に奔走していれば、流石に空腹感は無視できなくなってくる。

 携帯端末を買うのもいいが、それよりもまずは何か腹に入れたいところ――




 なんて思っていたその矢先、レーダーが突然アラート音を響かせた。


「ぬぁっ!? なんだ?!」


 椅子からずり落ちそうになっていた姿勢を慌てて引き戻し、サブディスプレイにかじりつく。

 

 表示されていた文言は「近域へ星間跳躍航行(フィックスジャンプ)で何かが出現する」という警告。

 いったい何が、と考える猶予もなく、直後にリベルタの進行方向にある星々が歪曲。炸裂音と共に、光の尾を引く「宇宙船」が姿を現した。



 《よお、そこのアンタ! こんなところで鉢合わせるなんて奇遇だなぁ?》


 突然の闖入者に驚いていると、不意に通信が入ってくる。

 

 コックピットの傍へ空中投影されたホロウィンドウに映るのは、どこか粗野な顔つきをした男性だ。

 ニヤニヤとした笑みに、宇宙空間にそぐわないアウトロー感を醸し出す服装。そして、望遠ズームで捉えた宇宙船の、つぎはぎだらけの船体。

 服装だけアウトローを気取るならまだしも、命を預ける船をあんな有り様で飛ばすような奴は、どう考えても「カタギ」のそれではない。


「どうも。まさかこんなド辺境で人に会うなんて思ってもみなかったよ」

《へっ、そいつぁお互い様だ。……にしても、いい船乗ってるじゃねえか。どこの船か知らんが、新品同然たぁ羨ましい限りだなぁ?》


 ちらりとサブディスプレイを見やると、そこに映っているのは「スキャンを受けている」という警告文。

 どうやら、今のわずかな会話の間に、抜け目なくスキャナーを起動してこちらの船を調査していたようだ。


「いろいろあってね。……んで、そういうあんたは案の定なご身分らしいな」


 だが、それはこちらも同じこと。もう一方のサブディスプレイには、逆に相手の船へスキャンをかけた結果が表示されている。

 データ照合の結果は、やはりというかなんというかお尋ね者。GALNET(ガルネット)――銀河間広域ネットワークの情報網を経由して回ってきた手配情報によれば、およそ5000ユニットほどの安い賞金がかかっているようだった。


《おいおい、人様のプライバシーを勝手に覗き見とは行儀の悪いやつだなぁ》

「それはこっちのセリフだよ。あんたみたいな行儀の悪い奴に、俺のリベルタをジロジロ見られるのはごめんだ」

《はっ、言うじゃねえか。――ま、見られたからにゃあ生きて返すわけにもいかねぇなぁ?》


 絶妙にムカつくニヤケ面でそうのたまった直後、さらにリベルタの船内で警告音が響く。

 内容は、確認するまでもない。眼前のつぎはぎ宇宙船のすぐ後ろでさらに二つ、星間跳躍航行の軌跡と共に宇宙船が現れたからだ。


《お頭ぁ! なんだか生きの良さそうな獲物っすねぇ!》

《うひょー、新品同然じゃないですか! ポンコツメカニックどもも喜びますよありゃ!》


 新たに現れた宇宙船のパイロットと思しき声が、広域回線を通じてこちらにも聞こえてくる。

 下卑た笑いを隠そうともしないその振る舞いは、自分たちの勝利が揺るがないことを信じ切ったものだった。


《言ったろう、星系軍の考える手口なんぞお見通しだってな。――さぁ野郎ども、狩りの時間だァ!》


 通信越しの雄叫び。それを皮切りに、船内にロックオンを受けた旨のアラート音が響き、三隻の宇宙船が一斉にこちら目掛けて突っ込んでくる。


「――やる時か」

 

 本物のリベルタに乗船してから、初めての宇宙戦。

 戦いによってもたらされる結果を予測して、葛藤している暇は、ない。故に俺は、大きく深呼吸をして――覚悟を決める。


「リアクター出力、戦闘モード! 火器管制、全機オンライン!」


 音声コマンドを駆使して、リベルタを戦闘体制に移行。

 唸りを上げるエンジンの振動をシート越しに感じながら、操縦桿を一際強く握りしめて。


「行くぞ!!」


 動き出した三隻の敵船を睨みつけながら、俺はフットペダルを踏み締め、リベルタを勢いよくブーストさせた。

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