第10話 試験依頼 その2
《こちらはルーメン第七中継ステーション管制局だ。貴船の入港申請を受理した。ビーコンの誘導に従い、指定のハンガーへドッキングしてくれ》
サルベージの仕事を終えた俺とリベルタは、次の目的地である宇宙ステーションにやってきていた。
目の前に浮かぶ〈ルーメン第七中継ステーション〉は、その名の通りルーメン星系に数多く建設された宇宙ステーションのうちの一つだ。
星から星への船旅はどうしても長くなりがちで、その道筋にあるのは基本的に何もない宇宙空間だけ。長旅になれば、そのぶんだけ船員の健康状態や燃料の総残数といった心配事が増えてくる。
そういった長旅につきまとう問題を解決するべく、休憩施設や補給所を備えた「宇宙のサービスエリア」として建造されたのが、目の前にある中継ステーションなのだ。
「よ、っと」
スロットルと操縦桿を細かく動かして、リベルタをランディングパッドの上に着地させる。
サブモニタに「ランディング完了」「駐機ロック オンライン」の文言が表示され、ランディングパッドがステーション内へ降下していくのを確認した俺は、詰めていた息を細く吐き出した。
ゲーム時代は何百回とこなしてきたマニュアル着陸だったが、やはり画面越しの操作と実際の操作は大きく勝手が異なる。
それに、失敗してもリスポーンできるゲームとは違い、こちらでは一度の失敗が最悪命に関わる恐れがあるのだ。いくら身体に染みついた操作といっても、及び腰になってしまうのは仕方ないことだろう。
「いい練習にはなるけど……次からはなるべくオートパイロットに頼りたいな」
一人ごちながら、リベルタの主機を停止。
外の景色に目を向けて、ランディングパッドがハンガーへの格納を完了しているかどうかを確認してから、俺はシートベルトを外し、うんと伸びをしながらコックピットを退室した。
*
昇降タラップを下ろし、ハンガーへと降りた俺は、先ほどサルベージしてきた機械を抱えながら、ハンガーの一角へと足を運ぶ。
そこにあるのは、締め切られたシャッターと、その隣に併設された一台の据え置き型端末。
端末の方へ手を触れれば、画面には「港湾局」や「配送サービス」といった、いくつかの連絡先がリストになって表示される。その中に混ざって記載されている「傭兵ギルド」の名前をタップすれば、しばらくの間ののち、スピーカーがかすかな電子音を鳴らし、ついで落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
《こちら傭兵ギルド、ルーメン第七中継ステーション支部です。ご用件をお伺いします》
「仮登録メンバーのレンです。試験で受けた依頼の収集物の引き取りをお願いします」
《わかりました。照会を行うので少々お待ちください》
そう言い残して、スピーカーはしばし沈黙。やや間をおいて、ふたたび男性の声が響く。
《はい、確認完了しました。搬送エレベーターに指定の物品の積み込みをお願いします》
同時に、端末の隣にあった大きなシャッターの向こう側で、重々しい駆動音が鳴り響く。
しばらく待っていると、やがてシャッターがゆっくりとその口を開け、向こう側にある箱型の空間――貨物搬送用のエレベーターをあらわにした。
「よいせっと」
傍らに置いておいた依頼の品、こと座礁船の基幹ユニットを拾い上げ、エレベーターの中心へどんと配置。
踵を返して端末へ戻り、画面に表示されていた「移送開始」のボタンをタップすれば、再びシャッターの口が閉じ、エレベーターの駆動音が遠く離れていくのが聞こえた。
《納品を確認しました。完了判定は検品が終わり次第になりますので、あらかじめご了承ください》
「了解です。……と、それともう一つ。別の依頼でタクシーを頼まれてるんですが、そっちの依頼人と連絡は取れますか?」
《輸送依頼のクライアントでしたら、宇宙港のロビーでお待ちいただいています。レン様のご準備がよろしければ、そちらのハンガーへ向かって頂くようお伝えしますが、いかがいたしますか?》
「よろしくお願いします」
続けて次の仕事を受けることを伝えると、了承の返事と共にぷつりと通話が途切れた。
*
「やあやあ、君が私を乗せてくれる運び屋さんだね」
ハンガーと宇宙港のロビーを繋ぐエレベーターの近く、ベンチだけで作られた簡易的な休憩所で暇を潰していると、不意に開いたエレベーターの奥から、そんな声が聞こえてくる。
顔を上げた先にいたのは、白衣を纏った女性。
片目を隠すレベルで無造作に伸び切った黒髪をなびかせながら、件の人物はなんだか大仰に両腕を開き、にこやかな笑みを浮かべて見せた。
「どうも、レンです。プライムコロニーまで乗せてほしいっていうのはあなたですね」
「いかにも。ワタシはイーディス、しがない開発者さ」
イーディスと名乗った女性は、自己紹介もそぞろに船へ視線を向け、口元をだらしなく緩ませる。
「あぁ、ギルドから聞かされていたけど本当にお目にかかれるなんてね! まさかこのご時世に〈リベルタ〉を乗り回している傭兵に出会えるなんて、長生きするもんだ!」
「その容姿で長生きって言われても説得力ないですよ……っていうか、リベルタのこと知ってるんですね?」
「もちろんだとも。こう見えて、ワタシは〈メディオテクノロジーズ〉の技術者だからね。リベルタのことも、一通り知っているよ」
「えぇ?!」
イーディスの口から飛び出したのは、まさかのカミングアウト。
代表的なシップメーカーの一社として名高いメディオテクノロジーズは、他でもないリベルタの製造元である。そんな製造元のスタッフに、よもやこんな場所で出会うとは思ってもよらず、俺は思わずベンチから腰を浮かせた。
「ま、まさかメディオの人をリベルタに乗せることになるなんて……」
「驚いてもらえて光栄だよ。ま、こんな僻地まではるばる出張させられるような輩なのはちょっと申し訳ないけどね」
「まさか。きっとリベルタも喜びますよ」
忌憚なくそう言って見せると、イーディスはぱちくりと目を瞬かせ、それから感心したように微笑を漏らす。
「船が喜ぶ、か。あの船に乗る人は押し並べて変わり者だと言われがちだけど、あながち間違ってないのかもしれないね」
「…………え? 俺変なこと言いました?」
「いいや、嬉しいことを言ってくれただけだよ。さ、改めてワタシの送迎をお願いするよ」
「は、はい!」
なんだか腑に落ちない気持ちになりつつも、イーディスの依頼を遂行するために、俺は彼女の背を追い、リベルタの昇降口へと急いだ。




