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第8話 猫干支占い

 和宮国、八百万山の裾、敷地は広いが近所は遠い車移動が基本の田舎の一軒家。


 白い朝日が古い民家を、ぼんやりと照らしている。

 ユノは左瞼をゆるゆる動かして薄く開け、足先まで猫のように伸びをし、軽く欠伸をしながら痛まない脚に、思わず口端がニヤッと上がった。


 前は毎日憂鬱な気持ちで朝を迎えていたのに、不思議と朝起きるのが良い感じでニコニコしてしまう。


 カタンッ。


「さてと……!」

 今朝は昨日想像したサツマイモ入り蒸しパンを作る事にした。

 手順は昨日と同じだけど、中に小さく刻んだサツマイモを入れて混ぜ混ぜしよう。


「多分、ペーストにした方が綺麗に混ざるけど……それは、また今度挑戦だね」

 その後はスプーンでぽんぽんッと、クッキングシートの器へ入れて、さらに上にサイコロ状の角切り芋を乗せて蒸していく。


「麦茶も沸かそう〜。あ、ヤカン帰ってきてる軽く洗って……」

 お湯を沸かして麦茶を作ろう。

「ん〜」

 サツマイモ蒸しパンを蒸してお湯を沸かしている間に、何をしようかと何も考えず、とりあえず冷蔵庫を開けた。


 カパッ。


 冷蔵庫の扉を開けて、ヨーグルト漬けで寝かせておいた雄臭猪肉をフードパックの上から無闇にツンツンする。

 そろそろヨーグルトが染み込んだだろうか。

「何なら雄臭の誤魔化し効くかな……うーん。ヨーグルトとトマト缶……酸味の強さで、どうだろう? 騙せる……?」

 初めてパターンの料理はいつも試行錯誤だ。

 失敗も多い。


 ユノは悩みつつも食糧庫から玉ねぎを8玉、人参を3本、サツマイモを3本出した。


 ジャー……! じゃばじゃばッ!


 水でしっかりと洗っていく。

 土がついている方が長持ちはするが農家買い付け分は土が多めだ。


 パリパリ、シャリシャリと玉ねぎと人参は皮を剥いて、タンタンと包丁で四等分にして圧力鍋へ入れた。

 サツマイモは先っぽを切って、そのまま圧力鍋へ入れる。

 あえて大型のまま入れていった。


 ヨーグルトに漬けた猪肉をフードパックから取り出して、パック内のヨーグルトは捨てず、肉の周りだけキッチンペーパーで拭き取り圧力鍋へ入れる。

「臭み消しは定番のローリエかな……期待してるよ圧力鍋君ッ!」

 上にローリエを乗せて水を入れグツグツさせる。


 ゴトッ。


「次は……」

 寸胴鍋にトマト缶の中身を入れて、フードパックの残しておいたヨーグルトを入れ、鶏ガラの出汁とコンソメを濃い目に入れる。

 弱くクツクツさせて、煮込みすぎない程度にしておく。


 そうこうしている間に甘い良い香りが漂った。

 サツマイモ蒸しパンの香りだ。


 カポッ。


 蓋を開ければ美味しそうな、サツマイモ蒸しパン。今回も良い蜜が出ている。

「蒸しパンできた〜。今日も1個残して収納っと」

 蒸しパンは出来立ても美味しいけれど、あえて少し寝かせるのも美味しい。

 生地が落ち着いてしっとりするのだ。


 プシューッ! シュポシュポッ!


 圧力鍋は、軽快な汽車の蒸気音を連想させる。

 想像の汽車なので本来の音をユノは知らないけれども、そんな気がした。


 圧力鍋の火を止めて寝かす作業に入る。

 冷めるまで待ちなので、少しの間放置だ。


「久々にテレビを点けて、占いでも観ようかな」

 部屋の時計を見上げる。

 朝のニュース番組が占いをしている時間なので、久々にサブスク以外の映像を観る事にした。


 ピコンッ。


『猫の干支の貴方! のんびり気ままな貴方にとって今日は棚からぼた餅! これは……一攫千金のチャンスかもッ!? この期を逃さないで!』

 ユノは13月生まれ、猫干支だ。


「あはは。猫干支が皆で一攫千金に走ったら大変だ〜」

 1人笑い、長ソファーの上でだらんと伸びる。

 今まで出来なかった身体の自由な動き、気持ち良すぎて癖になるなっとユノは思った。



 カポ……ッ!


 圧力鍋の蓋を開けた。

 中の猪肉を取り出し、適当な一口サイズに切って味見してみた。

「……ヨーグルト良いかも? あ、まって、まって……後から奥に……生き残ってるッ!」


 発情期な猪肉の雄臭を消す為の調理だけれど、寧ろ雄臭を探すゲーム状態だ。

 『君を見つけた』とかロマンスキャラが言いそうな台詞が頭の中に浮かびながら、次の作業へと入る。


 適当にサイコロ状に切った肉をトマト&ヨーグルト煮込の中に入れる。

 圧力鍋の中のは1回上から棍棒で潰して混ぜて、トマトの方に入れて胡椒を振りかけながらヘラで混ぜ混ぜした。


「食べてみよう……お〜野菜たっぷり……ざらざら……肉どころじゃない食感で、酸味の強い味、一応は旨味もある。向こうの人は酸味ありかな?」

 祖母が亡くなってから独り言が増えた。

「うーん……どうする? カレー粉入れたら全部がカレー味にはなるけど、パンと一緒に食べたらアリな気も……まあ、冷める前に鍋ごと収納!」


 鍋用のお玉、器4つ、スプーン4つも入れておいた。

 ユノは、異世界のミラン達が4人で調達中だと思い込んでいる。


「私も自分の分を食べよう」

 朝食は牛乳、サツマイモ蒸しパン、トマト&ヨーグルト野菜煮込みだ。


 先ずはサツマイモ蒸しパンを一口かじる。

 冷まして水分を持ったしっとり蒸しパンだ。

「昨日のより甘じょっぱいね〜向こうの人の口に合えば良いけど……」


 冷たい牛乳を飲んでからトマト&ヨーグルト野菜煮込みを一口食べる。

 さきほど味見したから知っているが、物凄く野菜だ。

 ザリザリ感がスープではなく歯を無意識に動かしてしまう感覚で、飲もうと思えば飲めるオカズだろうか。


 ペースト野菜を僅かな酸味トマトが包み、時折肉が『やぁ!』と顔を見せる。

「食べれる……かな?」

 ユノは辛いのも好きなので途中でタバスコを入れて味変しながら残りを食べ切ったのだった。



 カチャン……ッ。


 水切りカゴにグラスを置いた。

 食べ終わって洗い物を終えて、今日はどうするかと考えながら椅子に座る。

 徐に収納空間に集中し相手の日誌帳を取り出した。


「よっこいしょ」

 最近は自然と交換日記みたいになっているミランの日誌を開いてみる。

 続きが書いてあれば読んでおこうと思ったのだ。


「え……え!?」

 日誌の言葉に戸惑いの声がユノから漏れ出た。

 《まだ見ぬ君が気に入ってくれたらと思う》で何の事かと思えば、包装されたプレゼントらしき物を空間に発見した。


 慌ててプレゼントらしき物を取り出して見つめる。

 ちょっと不格好な包装紙だ。

 多分だが、どこかのお店のだろう。


 パリッ。ガサガサ……。


 包装紙を開けた。

「……こ、これは、か、可愛い」

 包装紙を外して箱を開けると、ミントグリーンのネックレスが出てきた。

 可愛い、お洒落なネックレスだ。

 雑貨店とかで発見したのだろうか。


「く、くれるって事ですかね? 勘違い?」

 日誌帳の文面を読み直す。

 多分、そうだとは思う。

 それとも違うだろうか。

 いや、そんな気がする。

 そうじゃなきゃ変な文面だ。


 何度も思考して自分を納得させると深呼吸をして、ネックレスをしっかりと見直す。


 ちゃらり……ッ。


 ミントグリーンのネックレスを手で掲げて、光に照らして眺めると、キラキラして綺麗だ。

「おわ……大人の男性からプレゼントとか……初すぎて……あッ、ダメッ、ちょろい自分が……こわぁ~……ふぅ……」

 鏡の前でネックレスを着ける。

 雑貨店で自分の事を考えて選んでくれたのか、照れてしまう。

「えへへ……」


 彼の日誌の方に敢えて《ありがとう。好きな色なので嬉しいです》と書いておいた。


「よーし、今日はちょっとお洒落して病院に診察しに行こう!」

 ユノはウキウキしながら出かける準備をしたのだった。


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