第68話 ランズ
最期の時、兄は私を探さなかった。
終末が始まった時の島は、住民達が島を護って、外からの魔物を防ぎ、1か月は比較的平和な場所だったと思う。
バイク乗りやフェリーに乗って逃げてきた観光客を受け入れて、それぞれの家が人々を受け入れていた。
空き家も全部埋まって、兄夫婦の家は外から来た義姉の兄と友達が占領し、私の家には兄夫婦、可愛い姪っ子が来て4人で暮らす。
兄夫婦と姪っ子は大好きだから良いけれど、義姉の兄と友達は苦手だと思っていた。
私が老け顔の歳下と分かっていても『おばさん』呼びや『ブス』と笑いながら言ってくる。
本人達曰く冗談らしい。
兄夫婦は、それでよく怒っていて私より険悪な雰囲気だった。
兄夫婦も姪っ子も大好きで、世界が終末になったと言われようと、島民なら生きていけると私は思い込んでいた。
私が唯一誇れるのは猟の腕だ。
ライフル銃で500メートル先の、飛んでいる鴨の頭部を撃ち抜く事が出来る。
この事を知っているのは、時折一緒に狩りをする兄だけだった。
兄の本業は猟船でのイカ釣りだ。
美味しいイカを大量釣りして本土の方に売っている。
私達兄妹は、少し島民から嫌われていて、壁を感じていた。
嫌われている理由は私が学校卒業後、女なのに誰かの嫁ではなく、男がするとされている猟師の道を選んだ事がひとつ。
兄がわざわざ本土の契約店に行って高くイカを売り、金を稼ぐ姿がいやらしく映るらしい。
本土で売れば島で売る値段の十倍にもなる。
契約店は兄が地道に挨拶をして信頼を得た相手だ。
いやらしいと言われる筋合いはなかった。
その関係で、契約店の知り合い(後の義姉)を紹介され婚姻し、身内で参加したのは私ぐらいだったので、本土で結婚式を行って陰口は増える。
島の事は好きだけれど、閉鎖された空間の人間関係は少し良くないものだった。
終末が始まって、フェリーで観光に来たバイク乗り達の方が信頼関係を築いていたのは、皮肉なものだろう。
ギィギィ、ギャギャギャと荒い甲高い声が響いている。
こんな離れた場所からでも、忌まわしい猿の魔物の甲高い笑い声は耳に入り込んだ。
建物の屋上で寝そべり、ライフル銃のスコープを覗き込んで、その騒ぎの中心部を見つめる。
息が荒くなるが何とか抑えながら、奥歯を噛みしめた。
猿の魔物は義姉と赤ん坊を弄び、憤怒した兄が猟銃や火炎瓶で応戦したが、四肢を折られて、それを眺める事を強要されている。
その地獄を離れた建物の上から見ていた私は、先ずは義姉の頭を撃ち抜いて、猿の魔物が戸惑っている間に赤ん坊を撃ち抜く。
兄だけは私の猟銃の腕前を知っていたから、あの瞬間に気づいたと思う。
あの時に兄がどう考えていたのか、正確な事は分からない。
ただ私は、大好きな人達がこれ以上屈辱の中で生きているのを見逃す事は出来なかった。
そうして、誰よりも大好きな、私を育ててくれた愛情深い兄の頭を撃ち抜いた。
狡猾で頑丈な猿の魔物は、数発の銃弾ぐらいじゃ死なない。
島を捨て逃げる準備を終えて、兄の相棒の猟船に乗って出発しようとしたら、義姉の兄と友達が無理やり乗り込んだ。
彼らは魔物が各地で増えて、前まで安全だった島に来た都会かぶれの男達だった。
義姉が素敵な人だから我慢していたが、正直下品で人を見下すのが当たり前な雰囲気が大嫌いだと思う。
私は気が立っていて、コイツらを捨て置きたいと思った。
けれど、義姉の兄と友達だ。
我慢して船に乗せた。
それから長い間、共に過ごす事になって、寝ている間に犯された。
人を散々下に見るだけでなく、下衆なクソ野郎達だった。
性処理を強要され島民に助けを求めたが、皆自分の事で精一杯で、バイク乗り達は逆に襲われそうな気がして何も言えない。
兄夫婦がいれば、絶対に怒ってくれただろう。
でも、善良な彼らを撃ち殺したのは私だ。
もう自分でどうにかするしかなかった。
それからバイク乗り達が別の集団と交流を始め、気がついたら共に過ごす集団となる。
合流した集団の半数は、とてもとても強かった。
美しい聖女達と違い私は穢れた存在だ。
出会った時から馬が合わず。
何度も犯されている場面を見られて、『下品だ』という視線が幾つも向いていて、誰も助けようとはしてくれない。
いや、殴られている時に見かねた守護者の1人が止めてくれた事もあったが、勘違いしたマガリに彼との性行為を注意された。
犯されている時は傍観していた癖に、これが神聖な精神だというのだろうか。
誰も味方がいない。
これは私の所為だと神が言っているの?
救う価値がないと言っているの?
キンキン、キンキンと耳鳴りがする。
また耳がおかしくなりそうな程にリリンを褒め称え、私を犯す男達の言葉が、心底不愉快だった。
美しい、愛らしい、天と地ほどの差がある。
ブスは穴の価値しかない。
能力のない無能。
まるで猿の魔物みたいな笑い声で、私を罵り犯し、リリンを抱く日を夢見る男達。
皆、皆、大嫌いだ。
隠している猟銃で、何度も何度も自分の頭を撃ち抜くことを考えたか分からない。
だけれど、私達は人を食う食人鬼の集団だ。
死んでコイツらの命の糧になるなど、虫唾が走る。
私は誰にも言ってはいないが、猿の魔物を偶然一匹だけ倒した時に結晶石を手に入れて、能力が芽生えていた。
悔しい事にリリンの劣化版、小さな収納空間を持つ能力だった。
リリンみたいに優秀な収納能力じゃないけれど、空間の中には薬、ナタ、ナイフ、猟銃、銃弾、兄が作った火炎瓶、未開封の胡麻油缶、マッチを残しておいた。
私の小さな空間内には、常に自分を守る物がある。
そして何時でも命を終える事が出来る。
死ねないくせに、これだけが心のよりどころなのだから笑えてしまう。
マガリ達の特別待遇と正論は、島民達やバイク乗り達を怒らせる。
あの時の私は、何処に行こうがこの苦痛が終わるとは思えずに、怒る集団を眺めていた。
皆空腹で怒りっぽい。
結局はマガリとリリンが手に入れた食糧に頼って、空腹を紛らわす。
長い間、半分すら腹を膨らませていない。
私のヒエラルキーは下なので、人肉も食べにくい誰かが食べた後の、骨に残った欠片が投げ置かれていた。
ただでさえ老け顔が、よりブスになったと殴られて、ストレス発散に使われる日々にウンザリしている。
そんな中で、フラワーホテルで起きた騒動だ。
確かに腹が立った。
食べたくもない人肉を食べた事を、建前上は『罪じゃない』と言いながら、まるで悲劇だと憐れむ態度に心底腹が立った。
もう皆殺し合うなら、私の肉が食べられる事はない。
これで気にせずに自分の頭を撃ち抜こう。
そう思った時、義姉の兄達は私を連れて早々に逃げ出した。
考えてみると彼らは島民ともバイク乗りとも違う。
与えられた仕事もサボりがちな、大して鍛えてもいない存在なのだ。
植物魔物を避けて、結局は最初のショッピングモールに向かい命令される。
「ブスでも穴があれば飢えてる奴らだ。誘われるだろ、一匹呼んでこい」
人を食うことがあたり前になりすぎて麻痺している。
けれど私にだって分かる。
こんな場所で、そんな事を一度でもすれば死ぬのは自分達だ。
死を覚悟したが、それより前により美味しそうな香りが私達の鼻腔を擽った。
フラフラと近付けば、トマト缶を持っている男達が何か店のような場所に並んでいるのが見えた。
トマト缶を、どこから手に入れているのか分からない。
彼らはそのトマト缶と交換で、信じられないが定食のような物を食べている。
大量に積み重なっていくトマト缶。
遠くからでも分かる、オボンに乗った美味しそうな食事。
誰かが目の前で美味しそうな物を食べるという行為は、仕方なしに食べる人肉と比べると、非常に羨ましいものだ。
もう義姉の兄と友達は、人肉に拘らなくなった。
代わりに普通の食事を奪ってこいと命令されたが、そんなの無理な話だ。
たとえトマト缶ひとつでも、あんな楽しみに食事を待って並ぶ集団に声をかけて奪うなんて馬鹿げている。
私は座り込み、顔を横に振ると『助けてやった恩も忘れたのか』『身勝手なクソ野郎』と罵られ蹴られた。
一度だって助けられた記憶はない。
私は彼らに尊厳を奪われ続けたのだ。
彼らの中で一体どんな物語が生まれているのだろうか。
気がついたら私は気を失っていて、起きれば夜だった。
周りを見れば変わらない建物の物陰で、羨ましそうに店を見つめている彼らの後ろ姿。
結局、口先ばかりで何も出来ないのだ。
私はあえて収納空間から逃げる前に拾った改造銃や武器を取り出して、置いた。
物音に振り返る男達。
「武器ならあるよ」
彼らは急に現れた武器に疑問を抱くより前に、食糧に意識が囚われていた。
こんな美味しそうな匂いを嗅いで見続けたのだ。
思考もおかしくなる。
──……もともとおかしいっけ……
改造銃なんて撃てば、敵と見なされ袋叩きにあって死ぬのは確定だろう。
尋常じゃない数の男達の中に向かって行こうとした時、奥の方で女性達が何か大皿を持って歩いていた。
思わず足が向けば、それは妙に良い匂いを感じるもので、女性達なら弱いと思ったのか、後をつける彼らに続いて私も歩く。
私はどうせ死ぬなら、どうしようもないコイツら諸共と思い、武器を渡したのだ。
この心境は妙なもので、言葉にして一番近いのは『責任』だろうか。
どちらかといえば敵の部類なのだが、親戚でもあり、同郷のような存在が厄介なまま生きていくのを放置するのも胸糞悪い。
だから、まとめて片付く方が良いと思う。
この状況なら、それが叶う筈だ。
私は、もう二度と自分以外の人を撃ちたくはないが、コイツらは死んだ方が良い。
性根が腐っている彼らは、何度だってやらかして、長くは生きれないだろうし、周りにも迷惑だ。
──……引き金を一度でも引けば終わり、ようやく終われる……
食事は全部プレハブに運び込まれ、中には男性が2人いるようだった。
2人なら倒せると思ったのだろう。
マガリのように強い相手と考えずに進み出て、何かに阻まれた。
透明な何かに彼らは拒まれている。
私は普通に通れそうだったので慌てて、通れないフリをした。
どうやら護る系統の能力者がいるようだ。
能力者は、能力者の存在を感じやすい。
何の能力までかは分からないが、プレハブの中には2人の能力者がいる事が分かっていた。
そして物陰で私達を見張る能力者が1人。
我慢できなくなった義姉の兄が改造銃を撃ち、驚くほど直ぐに物陰にいた能力者が彼らを燃やした。
彼らは赤い炎に包まれて叫び、息ができなくなって転げ回っている。
意味が分からなかった。
どうして私を燃やさないのか。
慌てて煽って、燃やさせようとして首に腕をかけられ世界は暗転する。
これで死んだのだと、その瞬間安心したはずなのに、何故だろう。
私は生きていて、ソファーの上に横になって毛布をかけられて、近くでは良い匂い。
息を潜めても腹の音は消せなかった。
食事を食べさせてくれた彼らは、失礼な態度の私相手に優しかった。
何時でも殺される準備をしていたのに、結局は温かい美味しい食事をし終えて、何だか生きたくなってしまう。
食べると憂鬱な気分が減るみたいだ。
こんなに甘くて美味しいもの自体、2年ぶりに食べた気がする。
終末1年めは探せば何か見つけられていたので、最後に食べたのはあの頃だ。
彼らは私をショッピングモールの主の所に連れて行きたいらしい。
どうやら連れて行くと良い食事が食べられるとの事で、その理由を聞いて何だかホッとした。
表面上の善意なんて何時、騙している顔が剥がれるか分からない。
理由がある方が安心する。
「ボクを呼んでたのはぁ……お母さんかぁ……」
私が洗った皿を拭きながら、隣でトントンが感慨深そうに呟いている。
トントンに嫌な態度をとっていたけれど、何だか今まで出会った誰よりも純粋な雰囲気に絆されてしまった。
アイツらを燃やしてくれたのも、好感度が高い。
「……ありがとねトントン」
「?」
「アイツらを燃やしてくれて」
「嬉しいのぉ?」
「うん。スカッとした」
「ふぅん?」
トントンは不思議そうだったけど、直ぐに褒められたと、ニコニコしている。
「ねえ……水曜組に入るのはダメなのかな?」
「んぇ? 不人気な水曜組にぃ〜?」
「不人気なの? どうして?」
「水曜組は皆真面目に仕事をする堅物の集まりだから不人気なんだぁ……」
「アハハ、なにそれウケるね」
「んぇ~?」
トントンが少し悲しそうな顔をした。
「そっか……真面目に仕事をするから不人気かあ……へー」
その後は、温かい湯を何杯もタライに用意してくれて全身を洗う。
カイロ班長達は、何処からか新しい服まで用意してくれて朝日が昇った。
***
私はカイロ班長達の言葉を聞き、マガリ達の事は黙っている方が無難と判断した。
最初からマガリ達とは何も関係ない者として審査を受ける。
私は審査に受かりはしたけれど自ら辞退して、外の班に混ざる事を希望した。
「オススメは木曜組です。そちらは女性がいて、さらにまかないも出ますの」
カリンと名乗る女性は、とても親切だった。
マガリ達がいなければ、私はモール内に入っていただろう。
「ありがとうございます。あの……アレルギーの品は変えられるんですよね?」
「ええ。もちろんです。どれを変えますか?」
「トマトがアレルギーなので、これを出来れば栄養がある小豆缶にしてほしくて……」
「まあまあ! 小豆缶に変えるのは良いのですけど、木曜組に入るルールはそのトマト缶を無しにして、半年に1回の塩に変えなくてはならないんですよ」
私は頷いた。
「入るのは水曜組にしようと思っています」
「まあ! 水曜組に?」
「はい。私を助けてくれた水曜組のトントンを気に入ったので、水曜組で一緒に仕事をしたいなと思いまして……」
「あら〜! そうなんですね! ウフフ! わかりました。そうそう、女性限定なのですが月1回で化粧水と布の生理用品をお渡ししますね」
カリンの言葉に驚いた。
そもそもアレルギーの事も驚いたし、柔軟に小豆缶に変えてくれたのにも驚いた。
「あ……そうでした。あの、実は私、物資を十倍にしてもらいたいのがありまして……」
「あらあら?」
「小さい収納空間で大した物は無いんですけど……机の上、失礼します。ライフル、銃弾、胡麻油缶です」
「あら!」
出した物は何処かに持って行かれて、ライフル銃、銃弾、胡麻油缶が十倍になって帰ってきた。
「わあ……傷の跡まで同じ……」
長年愛用していたライフル銃は完全に同じ物が増えていて、感心する。
「良いものを貰ったとして、主であるラッセル様が何か好きな願いをひとつ聞くそうです。何がよろしいですか?」
「え……願い? あ、じゃあ、水曜組にちょっと良い食糧をくれると思うんですけど、もっと良い食糧を渡して、お腹いっぱい食べさせてあげてほしいです!」
「あら〜! なんて素敵なお願いなのかしら! ウフフ、承知しました♡」
カリンはにこやかに頷いて承諾してくれた。
私は収納空間に入り切らなかった胡麻油3缶を、善意でくれた台車に乗せて、出入口から出る。
出入口先にはトントン達が砂糖湯を飲みながら待っていた。
「わ、油缶? 凄いね」
「木曜組まで案内するよ」
「ありがとうございます」
「ボクが押すよぉ~」
「アハハ、ありがとうトントン」
優しい人達だ。
短い間でも、身に染み込むような優しさを感じる。
彼らは全然似てはいないけど、優しい兄夫婦達との時間を思い出させてくれた。
***
「はい。入居ではなく交換です。水曜組に良い食糧が来るので、胡麻油1缶で料理を作ってほしいと思いまして……残り2缶はそちらで作られている調味料、または保存食との交換です。もし良ければ、水耕栽培用の種も欲しいです」
「ウハハハハ! 良い交換だね! あい分かったよ!」
木曜組の班長らしい、ムキムキのお婆ちゃんが頷いて、交換が完了した。
かめに入った味噌と小瓶に入った魚醤油、小袋に入っているのは乾燥唐辛子、オレンジの葉。
白灰が埋まっている大かめには、燻製の魚が入っているらしい。
「すごい、こんな保存方法が……」
「わしの小さい頃に曾祖母さんがしてたんさあ。冬越ぐらいは余裕で出来るから、安心してお食べ。ああ、周りを包んでいる大葉は食えるが香り落ちのだからね」
「ご丁寧に……ありがとうございます」
そして何種類かの苗を貰った。
苗なので、種より早く育てられる。
「えっと……ランズさん?」
近くで眺めていたキジュがもの凄く戸惑っていた。
ランズは今までの口調を改めて言う。
「今まで生意気な態度をとってすみません。私は水曜組になりました。どうか宜しくお願いします」
「「えッ!」」
キジュとケンが身を仰け反らして驚いている。
「カイロ班長」
「はい」
「こちらの調味料や保存食は、水曜組の皆さんと共同で使いたいので、預かってもらって良いですか?」
「それは嬉しいね。でも良いのかい?」
「はい。皆で美味しいの食べましょ」
ランズは穏やかな笑みでそう言った。
「これは、これは……とてもありがたいね」
ランズは色々と交換したが、カイロ班長の視線は大かめに向く。
大かめに入っている魚は、木曜日が独自で捕まえた汽水域の魚だ。
汽水域の魚は脂が多く、それを燻製にしている為に油分も塩分も摂れる。
これなら、冬は水曜組の炊き出しの回数を増やせるだろう。
ガラゴロ……ガラゴロ……。
歩き出し、ふと住む場所を考え、ランズはトントンに声をかける。
「ねえ、トントンって何処に住んでるの? 私、隣に住もうと思う」
「ボクの隣にぃ〜?」
「「!?」」
その言葉を聞いて、キジュとケンが慌てだした。
「トントン! 今すぐカイロ班長の所の隣を綺麗にするから、そっちに住もう!」
「そうだよな、住もうトントン!」
「んぇ~? わかったぁ〜」
トントンは不思議そうに2人を見て素直に頷いた。
「お引越しするの?」
「するぅ〜」
「半分空いてるから、台車使う?」
「良いのぉ?」
「うん、使って」
貰ったばかりの台車が活躍しそうで嬉しい。
「カイロ班長、おれ達は隣接するあそこを綺麗にしに行きます!」
「ああ、頼んだよ」
先にトントンの住んでいる場所に行くと、少し離れた場所にトイレがあるらしい。
臭いがキツかった。
「ここ金曜組の近くでさぁ〜。あれは金曜組用のトイレだよぉ」
「ちゃんとトイレ作ってるんだ……凄いなあ」
「水曜組トイレは別の場所にあるよぉ」
「カイロ班長の家のトイレは水が使えたけれど、あれは特別仕様なんですか?」
トントンの荷物整理の手伝いをしていたカイロ班長は頷く。
「元々、僕の仕事は配管を扱う事が多かったからね。トイレも川水を流して使えるように変えたんだ」
「凄い……」
「少し時間をくれたら、ランズ君の所も使えるようにしよう」
「私の所? テント暮らしでは……」
「今、隣の元団子屋の掃除をしに行ってるだろうから、そこにトントンとランズ君は住んでもらおうと思う」
「団子屋……!」
それを聞いて嬉しくなった。
別にアレルギーではないのにトマト缶を小豆缶に変えたのは、あの半餅の草餅を美味しく食べる為だ。
あれも美味しかったけれど、さらに真ん中にアンコを入れたら最高だと思った。
──……これだけ人数いるなら誰か冷やす能力者いないかな……豆乳と小豆を混ぜてアイスキャンデー作りたいなあ……
「カイロ班長」
「はい、ランズ君」
「実は私、そんなに量は入れられないんですけど収納能力を持っています」
「おや、言って良かったのかい?」
「今までは言いたくなかったんですけど、良いかなって思いました」
「そうか……それは光栄だ」
カイロ班長は嬉しそうに頷いて言う。
「それなら僕の能力も教えよう。僕の能力は回復能力だよ」
「え、すごい……」
「フフ、でも最近はあまり使ってないかな。怪我する人が滅多にいないからね」
「怪我しない方が良いですし、というか安心感凄いですね。それに、カイロ班長の優しい雰囲気にも合ってる能力なんですね」
「そうかな?」
カイロ班長はニコニコだ。
トントンは一瞬不思議そうに2人を見て、まとめ終えた荷物を台車の上に置いたのだった。




