第67話 水曜組
水曜組班長カイロは、昔は小さな会社だった場所に暮らしている。
各曜日組の班長は、それぞれ天幕ではなく気に入った建物を選び住んでいて、カイロ班長はこの元会社を家としていた。
そしてケンはカイロ班長の補佐も兼ねて、この同じ建物内に住んでいる。
他の曜日もだが、カイロ班長もミルワームバケツを2杯もらえた。
ショッピングモールの栄養満点の餌を食べた元気な個体だ。
今養殖しているミルワームの幼虫は、元気なのと弱っているのと、子供を産ませる為の成虫も確認しコツコツ分ける。
「成虫のこっちのは産むのも難しくなってきた弱った個体だから、木曜組に渡そう。酢か酒粕辺りと交換してくれると思う」
「了解です」
水曜組のケンが頷いた。
「こっちの弱っているのは白灰にですよね?」
前に占いの相談をしてから手伝いに来ているキジュは、桶の新しい白灰を見せながら訊ね、カイロ班長は頷いた。
「そう、半日前のは、そこのバケツに入っているから、この後に調理して食べようか」
ミルワームは基本的に魚等の餌として用意されているが、弱っている個体は自分達で食べたりもする。
白灰に埋めるのは一次的な絶食で、白灰を食べさせ糞を出さし、人間が食して病気となる可能性を減らす。
そんな白灰の中でミルワームも長くは生きられないので、約半日程で取り出し、料理に使うのだ。
「泥釜の炭の様子見てくるので、何かあったら呼んでください」
「ああ、ありがとう」
キジュの言葉にカイロ班長は、月1のミルワーム箱の掃除を始めるのだった。
ドサッ!
一時程経ち、ソファーに物を置く音がした。
チラッと視線を向ければ、よく知る水曜組のメンバーのトントンが、女性を置いたところだった。
カイロ班長は、養殖しているミルワーム箱の掃除の手を止める。
そして、トントンが持ってきた気絶した女性に目を向けた。
ソファーの上で寝ているボロボロの女性の見た目は、30代過ぎだろうか。
「彼女は……」
「え? 彼女って女性……? わ、女性だ!」
「えっ!」
奥の部屋で、ミルワームの餌であるクッキー生地を作っていたケンとキジュが出て来て、驚愕の表情を見せた。
「トントンが女性を見つけてきたのか! 凄いなトントン!」
ケンが手放しでトントンを褒める。
「この方、気絶してる?」
キジュが綿棒を置いて側に近付き、顔を覗き込んだ。
「煩かったから、絞め技で気絶させたぁ」
「と、トントン……」
「ンン……とりあえず経緯を聞こう」
カイロ班長にそう言われて彼らは頷き、トントンは先程起きた事を全て正直に話したのだった。
***
「なるほど……」
カイロ班長は、ケンがタンポポの根を焙煎して作った、タンポポ茶を飲み込む。
そしてソファーに横にしている女性に視線を向けた。
トントンの話では、彼女は略奪者の中の1人らしい。
他の仲間のように銃を構えてはいなかったが、共に行動していたので、間違えはないだろう。
彼女を縛ってはいない。
この中の誰でも彼女には勝てる余裕があり、起きてもすぐに対応が出来るからだ。
水曜組の人数は少ないが、毎日淡々と仕事を行う中で結晶石をよく拾う。
他の曜日と比べると全体的に結晶石の吸収率が高く、能力も強化されていた。
本人達に全く自覚はないが、彼らは精鋭部隊なのだ。
「起きてから話を伺おうとは思うけどね。その略奪者の仲間を倒した後となると、まともな会話は望めないかもしれない」
「えぁ……ボク間違えたぁ……?」
トントンがタンポポ茶を飲む手を止めて、ショックを受けた表情になった。
「いや、それで良いさ。略奪者は、最初から選べる道を選ばなかった者達だ。しかも改造銃を発砲までした相手と対話は難しい」
カイロ班長は穏やかに微笑んで、そう返答する。
「そっかぁ! 良かったぁ〜!」
それを聞いて、トントンはニコニコしながらタンポポ茶を飲んだ。
「これで水曜組も、美味しいご飯が食べられるねぇ!」
トントンの笑顔に、カイロ班長、ケン、キジュはぽかんとして、直ぐに笑った。
「ああ、そうだね。普段より少し良いものが食べられると思うよ。助かるよトントン」
「年齢的に審査があるから、入居しても50倍だろうけど、最初のお祝い品はあるはずだもんな。やるなトントン!」
「トントンが、そんなにオレ達の事も考えてくれてたなんて……ありがとうトントン」
カイロ班長に褒められ、ケンにも褒められ、キジュには感謝された。
トントンは嬉しくて鼻高々だ。
今は夜深まる時間帯なので、連絡は朝日が昇ってからになる。
女性も起きてから対話を試みる。
無駄かもしれないが、一応女性が少しいる木曜組という班もあるのだと、モールの審査に受からなかった場合の話もしておきたい。
「もし木曜組に入らなければ、他の曜日組もあるけどね……月曜、金曜組の下層に捕まると碌なことにはならない話をしないとさ……」
カイロ班長は複雑そうに呟いた。
その言葉にケンは頷く。
「1番はモールに入る事、無難なのは木曜組。幹部は実力的に無理だろうし、それ以外は、まあ……破滅だよな」
「偶にいますもんね……」
キジュも過去を思い出して暗い表情になった。
審査に受からなかった女性は、殆どの場合、木曜組のトマト缶を今後一切無しにして半年に1度の塩を3袋にする契約の元で、木曜組に入る。
その3袋中2袋は、保存食や、大豆から作る味噌、魚から作る魚醤油に使われるようだ。
塩2袋で1キロの塩が手に入る。
あそこは塩が含まれたまかないも出るので、多くは3袋とも出す。
残すのは、自主的に自分で保存食を作る人のようだ。
そうして食堂や店の料理が潤い、店も繁盛し、木曜組は無くしたトマト缶を代金として周りから集めている。
週1の配給でトマト缶が手に入ると、真っ先に日替わり定食を食べにトマト缶を持っていく者は多い。
昔の給料日に奮発して焼肉を食べに行くようなものだ。
トントンもそのタイプで、今回の2倍の配給のトマト缶は、もう定食代として使ってしまった。
本当は1缶残しておきたかったが、土曜、日曜日の食事に我慢できなくて定食を食べたのだ。
ぐうぅぅぅぅ〜!
過去の定食内容を思い出して、トントンの腹が鳴った。
「あ、そうだ。月1の掃除で、せっかくだし死にそうなミルワームを集めて、炒め物を作ったんだ。皆で食べようか」
カイロ班長の提案に、トントンの瞳が期待でキラキラと光る。
「まあ僕らの調理は木曜組の真似なんだけどね」
「それにしても、調味料や冬越しの為の保存食を分けてくれて助かりましたね」
「ああ、本当に良かったよ。今までミルワームを育て続けたかいがある」
カイロ班長はミルワームバケツ20杯分で、木曜組の調味料や、今年から収穫が成功して保存を始めた保存野菜を交換した。
どれもこれも良質なもので助かっている。
例えば、木曜組のナマズ油瓶は、熟練の技術で丁寧に精製している。
非常に良質なものだ。
それに木曜組が密かに育て成功した冬瓜、カボチャ、乾燥させたトウモロコシやエンドウ豆も交換できた。
これだけ大量にあれば、150人しかいない水曜組の冬越しは上手くいくだろう。
カイロ班長達は、ミルワームを配給される度に丁寧に増やしては、こうして木曜組から調味料等を買っている。
特に油分は今では手に入りにくい。
こうして、定期的に水曜組内で脂っこいものを食べさせるようにしているのだ。
油分はそこまで多くはいらないが、全く摂らないと肌荒れの原因になり、また体力も上がりにくい。
せめてもと、月に2回は油料理を振る舞う。
「わぁぁー! 凄いぃ!」
トントンは大喜びだ。
今回は珍しくミルワーム、タンポポ茎と葉、おからをナマズ油で炒めている。
味付けは塩だけで、タンポポに少し苦味があるが、普段の飽きた食事と違い美味い。
これと米を蒸して乾燥ヨモギと混ぜた餅のような物に、粉にした大豆と塩、砂糖のオヤツも付けた。
正直、そこまで上手な見た目はしていないが、一口食べてトントンは甘じょっぱい半餅に瞳を潤ませる。
「お、美味しいぃぃ〜!」
「そうか、そうか。豆乳のスープもあるんだ。これも飲むと良いよ」
「ありがとぉ〜!」
カイロ班長が作った豆乳スープは、焼いたザリガニ甲羅の粉末と塩のみのシンプルなものだが風味があり、旨味の満足感がある。
「木曜組の捨てるザリガニ甲羅をミルワームの餌材料として貰うんだけどさ、僕らの食事の調味料にもなると思ってね」
「凄い……こんな使い方があったんだ……」
「おれらは、木曜組の厨房覗いて全部真似ただけだけどな」
カイロ班長とケンの言葉に、キジュは頬を軽く染めながら言う。
「豆乳とおからって、オレでも作れますかね?」
「作れるよ」
「乾燥大豆と綺麗な水があれば作れるから、後でおれが教えるぜ」
「わあ! ありがとうございます! 爺ちゃんも新しい調理に悩んでたから、嬉しい!」
水曜組は和気あいあいと食事を進めていく。
「あ、半餅ならもう少しあるよ食べるかい?」
トントンが半餅を食べ終わって、器に残っている甘じょっぱいきな粉を食べようとしたので、カイロ班長がそう訊いた。
「食べるぅ~!」
トントンはウキウキだ。
「この粉、砂糖多く使われてますけど2人の角砂糖を使ったの?」
キジュがケンに訊くと、半餅が乗っている皿を持ってきたカイロ班長が笑顔で答えた。
「実は今回、班長だけ別枠で好きな物を1つ貰えるとなって、僕はできるだけ大量の砂糖をお願いしたんだ」
「え! あ、2倍の時のですか?」
「そう。皆にヨモギを美味しく食べさせたいのもあってさ。ヨモギはちょっと苦いけど栄養素が高いんだ」
カイロ班長はニコニコしている。
ぐうぅぅぅぅ……。
談笑していた彼らの言葉がピタッと止まって、ソファーの上で横になっている女性に視線が向いた。
毛布をモゾモゾしている。
どうやら起きたようだ。
「お嬢さんも食べるかい?」
カイロ班長が声をかけると、ピクッと毛布下の身体が動き、不貞腐れた様子の女性が起き上がった。
「……」
女性と彼らの視線が合う。
「……あ、アンタっ!」
トントンに気が付いて、女性は毛布を握りしめて震えながら、ギロっと睨んだ。
「ボクはぁ、トントンだよぉ」
「うっ、な、名前なんて訊いてないし……」
女性はそう怯みながら喋り、青い顔をしている。
ぐうぅぅぅぅ……。
彼女の腹は再度鳴った。
「……おれ、茶を入れてくるよ」
ケンが立ち上がり台所へ向かう。
温かいタンポポ茶をコップに入れるようだ。
妙な沈黙が流れ、トントンはきな粉が入っている器に半餅を入れると、器を傾けて転がしだした。
どうやら満遍なくきな粉をつけるようだ。
「はい。どうぞ」
「……どうも」
ケンが戻ってきて、彼女にお茶を差し出した。
震えながらも警戒の表情は消さず、彼女はお茶を受け取った。
「……コーヒー?」
一口飲んで驚いたのか、熱いのを無視して一気に飲み干す。
「タンポポ茶だよ。ちょっと薄いコーヒーに似てるよな」
ケンが軽く笑った。
「……タンポポ茶」
「お代わりするか?」
「します……」
ケンが手を差し出して、そう言うので彼女は空になったコップを渡した。
「スープも飲めそうかな?」
カイロ班長も立ち上がって、入れに行く。
彼女が返事をする前に動いて、彼女の側にオボンに乗った豆乳スープ、タンポポ茶、スプーンが差し出された。
「あ、ありがとう……」
彼女は視線を少しキョドキョドさせながら、気まずそうにそれを受け取った。
お茶をもう一口飲んでから、スプーンを持ち豆乳スープをすくって飲み込む。
目が見開き、慌てるようにスープを飲み干した。
「美味しい……クリームスープ? 海鮮の味もする……」
「豆乳に焼いたザリガニの甲羅を削って入れたんだ」
「ザリガニ……そっか、ザリガニ……そういえば泥川でも取れたっけ……」
彼女の瞳が懐かしそうに緩んだ。
「食べるぅ?」
トントンは、器の中で綺麗にきな粉に包まれた半餅を彼女に差し出した。
「うぐ……た、食べる……」
彼女はトントンに対して何か言いたそうな素振りを見せたが、言葉を飲み込んで器を受け取った。
怒りよりも食欲が勝ったらしい。
「これ……草餅だ……すごい……」
彼女は夢中で半餅を食べて、その様子を彼らは静かに見守る。
器の中のきな粉まで顔を入れて舐めきって、残さず食べてから彼女は、また不貞腐れたような顔で呟いた。
「……と、トントンはアイツらのこと殺したクセに、なんで私を殺さなかったのよ」
「ボクはぁ、女性を探してたからぁ~。そしたら略奪者だし、良いかなぁってぇ……ごめんねぇ……」
「は? あ、謝っても……まあ、アイツらのこと嫌いだし別にどうでも良いけどさ……」
その言葉に、トントン以外の男性達は意外そうに彼女を見る。
「君の仲間や身内ではない感じかい?」
カイロ班長が軽く訊くと、彼女は視線を向けた。
「ランズよ」
「そうか、ランズ君。僕はカイロ、こっちのはケン、そこのはキジュ」
「私、名前覚えるの下手だから期待しないでね」
「その度に答えよう」
「……まーなんていうか、兄嫁の……兄と友達らかな。兄夫婦は死んじゃったし、仲間……というよりは、アイツらにとって性処理道具ってやつ。まあ、次は……アイツらからアンタらになる感じ?」
「そうか。なら焼いて良かったようだね。そしてランズ君に、そのような事をするつもりはないよ」
カイロ班長は穏やかな笑みでそう答えた。
ランズは少し嫌そうに眉をひそめて言う。
「じゃあ何で飯食わしてくれたのよ? 他に意味ない方が怖いよ」
「あるさぁ~。ボクら水曜組がランズを見付けたからねぇ、明日モールに連れて行ったら、ちょっと良い食糧が貰えるんだぁ~」
その言葉にランズは目を見開き、軽く微笑んで息を吐いた。
「ああ……じゃあモールの方で……まって、モール? フラワー地区のショッピングモールのこと?」
「そうだよぉ~」
「……それって断れないよね?」
「いや断れるよ」
彼女の不安そうな言葉にカイロ班長は返答し、しかし更なる言葉を被せる。
「断っても傘下に入って、僕達のように、どこかの曜日組に入る事になる。その場合、週に1回配給があり、それを食べて生きていく事が出来るようになるよ」
「え……配給……? あ……へえ……配給されるのか……はは、なんだ……そっか……」
急に肩の力が抜けたのか、ランズはソファーに沈み込んだ。
「なんかさー、周りの奴らがまるで死ぬ選択みたいにキレてるからさー……なんだ……そっか……マガリが言ってた方が合ってるじゃん……でも、あれはムカつくな……」
「マガリ? マガリさんの事を言ってるのかい? もしかして仲間なのかな……?」
カイロ班長が驚いて言い、ランズの顔が彼に向いた。
「まあ、同じ名前じゃなきゃマガリじゃない? でも、今は仲間じゃないし答えは微妙なところね」
「仲間じゃない? 縁が切れたのかな?」
「うん。今日、もう昨日かな? 殺し合いしたばっかだよ。まあ私らはすぐに逃げたけどね」
「そうか……じゃあ規定内と言える」
カイロ班長は1人納得したようだ。
「逃げたは良いけど腹減っててさ。良い匂いがするから、そっち行って殺して奪おうってなったの」
「あー……それで略奪者か」
ケンが複雑そうに呟いた。
「ランズさんがモールに入らないとしたら、オレ達のオススメとしては木曜組を勧めるよ」
今まで黙って眺めていたキジュが声をかけた。
「木曜組? ふぅん? なぜ?」
「30代以上の女性で審査に受からなかった女性達は、大抵木曜組に行くんだ。木曜組は独自に食堂とか店を開いていて、忙しいけど他の組より安全だと思うよ」
「食堂……へえ……」
ランズは興味が出たのか身を少し乗り出した。
「今日、ランズがいた場所だよ」
「え、マジ? なんだ……あんなことしなくても入れば食えた感じ?」
「まかないは出るみたいだね」
「うわー……マジで考える頭無さすぎたわ……はぁ……食事食えないと、本当頭バカになる……」
ランズはソファーにボスッと倒れた。
「あと木曜組に入るにはトマト缶を止めにして、半年に1回の塩袋を3袋に変更し、木曜組に2袋上納する必要があるんだ」
「塩? あーまあ、良いけど……あ、ちなみにさ、30以下だとなんかあるの?」
「30歳以下は無条件でモールに入居出来るみたいだよ。身体を効率良く鍛えられる年齢の範囲だとか……あ、オレの妹が入ってるんだ」
「……それって強制?」
「え?」
キジュは不思議そうな表情になった。
「強制ではないと思うが、今まで入らなかった人はいなかったからね……」
カイロ班長がじっとランズを見つめて、そう答えた。
「じゃあ、30歳いくわ」
「……あ、あー!」
ケンが慌てたように声が喉から出て、思わず自身の口を手で塞いだ。
「良いよ良いよ慣れてる。私、昔からさ……中学の頃には兄貴の母親ですかとか言われてるし」
「……え、あ、あ!」
キジュも気づいたのか、慌てて自分の手で口を塞いだ。
ケンとキジュは気まずそうに互いの視線を交差させる。
「……失礼ながらお歳を訊いても?」
カイロ班長の質問にランズは答える。
「今秋だよね? 23歳になったと思う」
「「!?」」
ケンとキジュの瞳が見開いた。
「でも、30歳でいく。どうせ、身分証明とか、もうないし」
「モールに入った方が安全は高いが、良いのかい?」
「うん。明日入るだろうマガリもリリンも、聖女共もクソ嫌いだから、もう一緒の空間にいる方が苦痛だしさ。あ……でも、アンタらも嫌だってなるか」
ランズの少し投げやりな様子にカイロ班長は訊ねる。
「嫌とは?」
「私さ、別に食いたくて食ったわけじゃないけど、人を食ってるんだ」
彼女の言葉にトントン以外の目が見開いた。
「人って食べられるのぉ?」
「食えるよ。不味くてきしょいけどね。私、虫嫌いだけど虫食った方がマシではある。でも食うしかなかった」
トントンは同意するように頷く。
「トントンも虫何度か食ったけどぉ~ミルワーム以外は不味かったなぁ……もう食べたくないやぁ……」
「アハハ、トントンってウケる。名前可愛いよね」
「え? ぁ……ボクさ、名前覚えてなくてぇ……昔こう呼ばれてた気がして……」
トントンの言葉に周りの男性達は驚きの目を向けた。
彼らはトントンが本名だと思っていたのだ。
「トントンって呼ばれる? もしかして……あれかな? 赤ちゃんあやす時に、トントンってするやつ。義姉が声出してしてたよ」
「トントン……あぁ……あー……そっかぁ……」
トントンは何かを思い出そうとしているのか、瞼を閉じて軽く揺れた。
「私も今日から30歳で生きていくし、まあ過去は過去ってやつだよね。ご飯ごちそうさまでした。皿洗いぐらいしようかな」
ランズが腕を捲くりながら立ち上がる。
彼女の腕はガリガリで骨みたいだった。




