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第62話 曜日組・中編


 最初に塩500グラムと基本配給品。

 また基本生活用品も配給される。


 週に1回の配給は、栄養剤7粒、蜜柑缶800グラム、トマト缶400グラム、魚缶3個、乾燥大豆500グラム、米か乾麺を選べて3キロ、角砂糖1粒。(中にアレルギーや宗教的問題で食べられない物があるなら、最初の申告で他に変更可能)


 塩は半年に1回500グラム支給。

 モール内で育てている生のミルワームは、バケツ1杯が月に1回、曜日組の班長に渡される。


 食べても良いし、泥川の魚釣りに使っても良いし、増やしてみても良い。

 そこは、それぞれの曜日組の自由だ。


 生活用品は初回に丸い天幕(人2人が寝れる広さ)、1人用マットレス、枕、毛布、ゴーグル、小鍋、スプーン、フォーク、箸、コップが配給される。

 他にもハンドタオル3枚、バスタオル2枚、下着7枚、ジャージセット3枚、厚手のマスク3枚、石鹸、歯ブラシ、歯磨き粉、シングルトイレットペーパー1個、木炭が基本セットで渡される。


 他の備品も欲しければ申込みが行える。

 通るかは人や内容によるが、耐熱手袋、フライパン、台車、桶、空タンク、すり鉢、すりこぎ棒は承諾されるのが簡単だった。


 これらの消耗品は申込みが通れば、食糧配給とは別の部署で受け取り可能だ。

 消耗品である石鹸と木炭は自由に貰える専用場所があり、各自自由に貰っている。


 トイレットペーパーは週1の申込みで受け取れるが、水洗ボットンの方で詰まらせた報告が上がっていると厳重に注意され、場合によっては最悪な指導を受けるらしい。

 本来の大用水洗ボットンは、尻を拭いたトイレットペーパーを専用の箱に捨て、まとまったら燃やす事になっている。


 トイレ事情は少々大変で、水洗用の水は各自、水バケツを用意して行う。

 流す用は川水を組み上げた最低限のゴミが取り除かれた、濾過途中の水が使える。

 また、それとは別に浄水後の水を貰い、尻を洗う。


 尻を洗う場合、病気にならない為に必ず浄水の水を使うよう指示されており、もしも感染する病気になった場合、感染源は処分すると言われている。

 病気で死ぬか主の判断で死ぬか。

 恐ろしい結果になる事は間違いないので、今のところ川水で直接洗う無法者は出ていない。


 ただし、それ以前に流さない者、紙を流すなというのに流す者はいた。

 そうして詰まらせ、その区域の全トイレが使えなくなると、3度目で罰が発生する。


 水洗ボットントイレを頻繁に詰まらせる区域は、改善が見られない場合のみ全体で強い指導を受け、別のボットントイレ用穴を掘らされ小屋の組み立てが行われる。

 そして、今後はその臭いが常にキツい、砂かけボットントイレを使う事になるのだ。


 水より比較的早く用意出来る砂をバケツ1杯用意して、排泄後に砂を落とすのがルールだ。

 本来は木炭の削りや白灰も混ぜた砂が良いとされている。


 しかし、それ以前にトイレを詰まらす者達が、そこまで丁寧に行う事は、ほぼない。

 しているのは元から丁寧で、巻き込まれた哀れな区域住まいの者達だけだ。

 そうしてする者が少なく、その区域の臭いは日頃大変な事になっている。


 個人で水が欲しければ、各自浄水を桶やペットボトルに貰える。

 シャワーは別に用意されている施設にて、週1で自分の曜日に浴びられ、むしろ浴びに行かないと指導が行われているようだ。


 週1シャワー以外にも、浄水を煮沸消毒してから身を拭く者もいて、自分と祖父はそのタイプだ。

 幾つもある浄水場の1箇所が近いので、そうしている。


 祖父はこの地区に来る際に脚を痛めてしまったので、普段の仕事はしていない。

 その代わり生活用水を用意してくれたり、掃除や調理をしてくれる。


 自分達は、これらの配給で生きていく事は可能だ。

 外から命懸けで傘下になりに来ている者が多いのは、やはり餓死寸前の生活を経験してきたからだろう。


 しかし、最低限の生活を知れば過去の喜びを思い出す。

 最初は泣いて喜んだ者達も、時間が経つと、同じ内容の食糧配給に飽きてくる。

 飽きは恐ろしい。


 外の世界の残酷さを知っていても、より魅力的なものを欲しがる思考が生まれるのだ。


 真面目で堅物な組。

 中途半端な組。

 不憫な組。

 水曜組。


 色々な名前で呼ばれているが、その水曜組のキジュは、移動すべきかという自分の迷いに悩んでいた。

 そんな中で、元占い師の祖父が奇妙な事を言ったものだから、頭が大混乱中である。


──……欲が出てバチが当たった……? 普段と違うものが食べたいって思ったから……


 この生活は食に飽きても、餓死で死ぬ事はない。

 なのに欲を出して他の曜日組に移り、配給に期待しようとした。


──……どうせ、チョコレートやハンバーガー、ドーナツ、アイス……あんなの食えるわけないんだからさ……似たり寄ったりだろうに……


 結局、誰かが植物魔物を間引きして辺りを整え、掃除を行わなければ後々で問題になる。

「それよりも……爺ちゃんの占いだよな……」


 終末手前で祖父が学校に休みの電話を入れ、急に3人で買い出しに出かけた。

 妹と一緒に朝は戸惑ったが、3人でお出かけなんて久々で嬉しかったので、学校も1日ぐらい休もうと思った。


 まさか、あの行動のおかげで何処かに属する事なく、1年も普通に生き延びる事が出来るとは思いもしなかった。

「絶対、当たってるんだよな……でも……」


 もし祖父が言っている通りならば、最近の新しい相手は、土曜と日曜組が見付けたグループだ。

 百人規模のグループで、占いの流れとして考えるならば、そのグループが原因なのだ。


「もう新しいのが食べたい問題じゃないよね……」

 うーん、うーんと悩んだ結果、キジュは水曜組のカイロ班長に相談する事にした。



 ***


 女を1人連れてくる。

 30歳未満なら1人入居で百倍の食糧配給。

 また別の祝い品も貰える。

 見付けた事自体に対する労いを込めた品だ。


 30歳以上で40歳未満でも、見付け連れて行っただけで軽い品は貰える。

 モール側が審査して、入居となれば50倍の食糧配給だ。


 その百倍の配給も、千人規模の月曜、金曜組にとっては少ないので、更に内側で功績を上げた順で配給を分配する。

 量が増えるのも嬉しいが、その時の配給は普段よりグレードが高い品で、それが食いたいばかりに女を血眼になって探す。


 ドォンッ!


 拳が植物魔物に侵食されている壁を砕いた。

「ぁあクソッ! アイツら休日だからって、天幕にいただけじゃねえかッ!」

 月曜組の班長が、イライラしながら目の前の植物魔物を拳で弾き飛ばす。


「アニキ〜。でも全員2倍の配給になったからオトクじゃないですか〜」

 ぽっちゃりした男が、ニコニコしながら蜜柑缶詰を食べている。


「おバカッ! あのな、それ程の相手だって事だぞ! 入居前だってのに関係ねえ全員に配給! んで祝いの品も豪華でよ! なら、ならッ! 入居したら、どれ程だってんだッ! ぁあああ! クソッ!」

「流石アニキ……頭良い〜!」

 ぽっちゃりは瞳をキラキラさせて拍手した。


「ハァ……」

 アニキと呼ばれた月曜組班長は、あまりの悔しさにイライラが止まらない。


 毎日、毎日、女を探し回り最初の頃は多く見付けられたが、今じゃ滅多に見付からない。

 そんな中で探していない時の、土曜、日曜組が見付けて仲良く配給も分けるとしたらしい。


「アイツら何を仲良しこよししてんだよ! ぁあ! マジで気持ち悪いなッ!」

「オイラもアニキと仲良しこよし〜」

「おバカッ! それとこれとは違うだろうがッ! ハァ……まあ金曜組じゃないだけ百倍マシだけどよ……」

 仲が悪すぎる金曜組を思い出して、イライラする。


 ボロ建物内に向かい、中に置いてある鉄カゴから、前に見付けて残しておいた小鬼を引きずり出し、殴る月曜組班長。

「ギャッ!」

「ぁあ……肉が食いてえ……この魔物共は砂になって食えやしねえし……」


「げふぅ〜……今回のミルワームとフルコース料理交換しやすか?」

 アニキの言葉に、蜜柑缶詰のシロップを飲みきったぽっちゃりがゲップをしながら訊いた。


 木曜組のフルコース料理は高級料理で、なんと1人前を貴重なミルワームバケツ1杯でしか食べられない。

 その代わり、とてつもなく美味い。


「あー……そうだな。あれはうめぇからな……チッ!」

 散々急所を外されて殴られた小鬼は、耐えきれずに砂になっていた。



 ***


「ヒックッ、ンン〜班長〜! 木曜組がザリガニとウシガエル持ってきたぞ〜!」

 酔っ払っている男が班長を呼ぶ。


 火曜組班長は酒が入った鍋、かめ、壺、瓶の様子を見ていた建物から出て来て、外の天幕側にいる男達に顔を向けた。

「今日も真面目に酒作り、偉いねー」

「まあね。今日も酢と、どぶろくが欲しい感じ?」


 火曜組で唯一酔っ払っていない火曜組班長は、木曜組にそう訊ねた。

「おう。酢があれば保存食が多く作れるからな! 助かるぜ」

「塩がもうちょっと手に入ればと思っていた中で、今回の2倍のタイミングで、半年の奴らが2倍で塩もらえてさ。塩漬けも増やせそうなんだよ」

「うちらトマト缶諦めて、代わりに塩増やしてんのに足りないからなあ〜」

「泥川の魚は塩揉みしないとだもんな」


 ザリガニは、5カゴ。

 ウシガエルは3カゴ。

 ドブ貝は10枚。

 ヨモギとオレンジ葉で作られた手作りの紙煙草は2百本。


 火曜組の美味い料理でも良いが、味付けされたのは物々交換の質が上がり量が入らないので、火曜組は加工前ので交換するようにしている。

 塩はそこまで無いが、泥抜きさえすれば比較的ザリガニとウシガエルなら食べられるのだ。


「ザリガニ、ウシガエルの泥抜きさせる分は1カゴ、他は生け簀分に入れてね。ドブ貝は何時も通り貯水池に入れといてー」

「はいよっ!」


 またドブ貝は食べる用ではなく、水の浄化を試みてコツコツ溜めており、今は3百枚ぐらいだろうか。

 タナゴも気付いたら貯水池に多く生息しており、勝手に増えている。


 そしてドブ貝の数が増え大きくなったら、泥川に戻す予定だ。

 大きければ他の生物に食べられず、泥川の浄化が行えるとして、これに関しては木曜組と共同で行っている。


 そして紙煙草は部下への褒美や、他の組との交流で使えるので交換していた。

 部下が持って行くのを尻目に、分けられていた煙草の袋だけは火曜組班長が持ち軽く香りを吸う。

 ヨモギの香りは慣れているが、オレンジ葉は木曜組の所有なので、この煙草でしか今は感じられない。

「空の瓶か鍋はある?」

「おうよ!」


 酒作りの過程で失敗したものは酢になる。

 主に蜜柑缶詰から作った酒の残骸だ。


 酢は保存食や料理作りに良いとして、酒が出来た当初から交換している。

 火曜、木曜組は今は各400人前後の集団だ。


 土曜、日曜組も前は同じぐらいだったが、最近はあの水曜組が耐え切れずに半数が移動したらしい。

 真面目な水曜組のおかげで、火曜組と木曜組は自分達のしたい事に専念出来る。


 なので祝い時には礼を兼ねて、酒を飲むよう誘っていたが、やはり限界が来たのだろう。

 むしろ残り半数の精神力に感心する。


「本当は、もっと良い設備で酒造りに専念したいけど……まあ、こんなもんでもうちの奴らは喜んでるから嬉しいよ」

「あんた酒蔵の息子だったんだっけか?」

「うん」

 火曜組班長は、木曜組の男の言葉に頷きながら、空の瓶や鍋を回収する。


 代わりに、もう瓶詰めしている酢やどぶろくを用意していく。

 火曜組の数人も酔っ払いながら動いた。


「そっちの班長は1度も顔を見せないよなぁ〜!」

 1人が笑いながら箱に酢瓶を入れている。


「俺らの班長は、婆さんだしな」

「僕らが動かないとさ、こえーのなんの」

「ギャハハッ! そういやーそうだったな〜!」

 酒を飲みながら火曜組の男達が爆笑している。


「婆さん怒らすと、まかないが薄い塩粥のみになるんだよなあ……」

「まあ、婆さん達が作ると全部が美味いけど」

「こんな材料の中で、よくまあ、あんなに美味いもん作ってくれるよ本当」

 木曜組の班長は元名店の料理人だが、ショッピングモールの審査に最初から入らなかった人だ。


 歳は70代らしい。

 婆さん班長の周りには、他にも数十名の主婦がいる。

 40代から60代だ。

 非力ではあるが、今の時代でも生き残っている貴重な料理上手な皆さんだった。


「蜜柑で作った方の酒は良いの?」

「ああ、そっちは料理に使いにくいから良いや」

「交換するなら、数人でナマズや角砂糖でも集めてからにするよ」

「タイミングが合えば、蜜柑酒とどぶろく合わせた、蜜柑どぶろくもあるから試してみてよ。人気なんだよ」

「あはは! 新酒か! そういやあ、前は苦いヨモギ酒作ってたよな」

「あれは、ちょっと大人の味すぎたね……まあ治療に使えるけど」


 木曜組が帰って行った。



「ふんふんふ〜ん♪ 次の酒は、どうしようかな〜♪」

 今回、新しい女性達が多く見付かり、その中でも求めていた2名が来たとの事で2倍の配給となった。

 しかも2倍の配給には、実は班長だけ好きなもの1点が貰える特典付きだったのだ。


 なのでモールの庭で育てている貴重な林檎をひと箱もらい、新たな酵母を作る。

「前のだけじゃ不安だったから嬉しいな」


 火曜組班長は鼻歌交じりで、乾燥ヨモギが入った瓶を見る。

「ヨモギ酒は時間がかかったけど完全薬だったね」


 次に焙煎したタンポポの根粉が入った瓶を手に持つ。

「次はタンポポ酒かな……お茶の味は悪くないし……珈琲酒っぽくなるかも」


 終末世界でも探せば生き残っている雑草は多い。

 使えるものは全部使っていこう。

「あ、苦さが駄目なら……次は蜜柑とヨモギ酒なら良いかな? あーあと、少しだけ林檎酒も良いよね。楽しみだなあ……」


 彼は酔っ払いではないが、火曜組で1番の酒狂いだった。



 ***


 自己流の食堂、販売店が並ぶのが木曜組だ。

 手作り煙草の売店も此処にある。

 貴重な角砂糖を1個渡して、ヨモギ煙草3本と交換している姿が見られた。


 元々は1種類しかなかったので、1番人気はヨモギとオレンジ葉だが、新商品のタンポポ根とオレンジ葉が出て、それも最近人気になっている。

 ただし、作る過程がヨモギ煙草より大変らしく、値段が高い。

 その為、角砂糖1個とタンポポ煙草2本の交換で悩む者は多く、熟考して買う喫煙者達。


 しかし今回だけは2倍配給のおかげで、2種類の5本買いをしてホクホク顔の者もいる。

「うめ〜!」

「2倍配給さまさまだぜ」


「火ぃくれや」

「はいよ」

 互いの煙草の先を合わせて煙を通し、火を渡し合う男達。


 手作り煙草の火渡しは失敗すると燃えすぎる事があるので、余程息の合った同士でしかできない。

 大抵は配給で手に入れたマッチやライター等で火を点けている。


「ん、タンポポ根にしたのか?」

 角砂糖2個で、4本のタンポポ煙草にした喫煙仲間にそう声をかける。

「ヨモギも美味いけどさ、タンポポ根を焙煎した煙草を1度吸うとなあ……前の味に似てんだよ」

「へえ、似てるのか……」

「時間もよ、ヨモギ煙草は3分ぐらいだけど、タンポポ煙草は4分は保つから、そこも良いんだ」

「く……タンポポ煙草もくれ!」

 残そうと思っていた角砂糖を男は出して、2本のタンポポ煙草と交換した。


 ヨモギ煙草の爽やかで軽い味わい。

 タンポポ煙草の焙煎された香ばしさと苦味は、重く深い味わいがある。


 これらの煙草の味の違いに、思い切って買った男は、至福の表情だ。

 この少しの時間を味わう為に、喫煙者達は貴重な角砂糖を毎週出しては、大切に大切に1本を味わっていた。


 そんな喫煙者の喜びは、吸わない禁煙者達にとってはイカれた感性だ。

 貴重な貴重な角砂糖。


 あのひと粒で脳のストレスが飛んでいく。

 そんな角砂糖を何故か食べれない嗜好品に使っているのだ。

 瞳を潤ませて、ほう……っと吸う男達を奇妙な目で流し見する者達も多かった。


「この通りは何時もこうだな」

「そ〜すね〜」

 そんな通りを月曜組班長とぽっちゃりが、ドスドスと歩いていた。


 ぽっちゃりの手には、生きたミルワームバケツ2杯。

 月曜組班長の腕には四角い箱と、綺麗な花束があった。


 喫煙者だらけの通りを抜けると、木曜組の班長が経営する巨大天幕と建物が隣接する場所が見える。

「おーい、婆さ〜ん! 夕暮れに予約していたフルコース食べに来たよー!」


 ぽっちゃりが厨房で料理を作っている婆さんに声をかけた。

「はいよ、はいよ。新鮮なミルワームだね。よし、この2人を部屋に案内しておやり」

「はい」


 50代の女性が優しく微笑んで、2人を専用のプレハブに案内した。

 このプレハブは、VIPルームとして用意してあるひとつだ。


 カチャ。


「どうぞ、お入りください」

「アニキ〜! 良い匂いッス〜!」

「おう」

 部屋の中には先に用意出来る料理は用意してあり、こんな終末世界でも豪華なラインナップだ。


「1番良い席は此処だな」

 アニキは用意されていた背の高い椅子の上に箱を置くと、中から小さな骨壺を2つ取り出して丁寧に置く。


「この花は花瓶に生けてくれるか。食べ終わったらアンタが持って帰って良い」

「ありがとうございます」

 女性はお辞儀をして花束を受け取り、予め用意していた数個の花瓶に丁寧に飾った。


「オフクロ、アン、綺麗だろ? 飯も腹いっぱい食おうな」

 1番良い席の周りを囲むように置かれた花瓶の花を、2つの骨壺に話しかけながら見せてから、アニキは椅子に腰を下ろした。


「オフクロさん、豆料理好きでしたよね? オイラが盛りますね」

 ニコニコしながら、ぽっちゃりは用意されていた豆料理やおから料理を皿に盛っていく。


「アン、良かったな。お前が好きなデザートもあるぞ」

 蜜柑寒天の大皿を、そのまま引き寄せて骨壺のアンに勧めるアニキ。


「アニキ〜、アンちゃんがスプーン用意してって言ってますよ〜」

「あー……そりゃそうか、すまんすまん」

 2人は穏やかに笑いながら、料理を勧めている。


 コンコン……ッ。


 プレハブの扉がノックされた。

「どうぞ〜!」

 ぽっちゃりがニコニコしながら扉を開けた。


 扉前には女性達がいて、それぞれが料理を持って立っている。

 中に入ると銀蓋がされていた料理の蓋が開けられ、美味しそうな匂いと、白い湯気が広がった。


「美味そうッスね〜!」

「オフクロ、アン、どれが良い?」

 ヨモギの天ぷら、大葉の天ぷら、タンポポ花の天ぷら、ウシガエルの唐揚げは、米粉をまぶしてナマズ油で揚げたものだ。

 塩や酢醤油で食べる。


 キムチ入り味噌豆乳鍋もある。

 貴重な古漬けキムチを使っていて、ナマズの身とも合い美味い。


 米粉で包んだサバトマト塩、または味噌の蒸し餃子もあり、皮はヨモギ混ぜと2種類で色合いも綺麗だ。

 これは味が強いのでタレはない。


 カエル肉と豆乳チーズを大葉で包み、揚げ焼きされたのも美味い。

 好みで塩を振って食べる。


「うんま〜いっ!」

 また、ザリガニの身に薄く塗った味噌と豆乳チーズで焼いたものは絶品で、これらが並ぶと急に今が終末だという事を忘れてしまう。


 飲み物にはタンポポ茶や黒豆茶もある。

 また水耕栽培で育てられた貴重なサンチュ、あえて米粉で作った麺。

 豆関連の料理やデザートまで豊富にあるのは素晴らしい。


 最後に一口ずつ飲める、お猪口に入ったどぶろくを4つ置き、彼女達は静かにプレハブから出て行った。


「アンちゃんも、やっぱりザリガニっすよね? うんうん、オイラこれが大好物でして……」

「ンハハ! オフクロ、何時もありがとう。おう、美味い飯は家族で食わねえとな」



 プレハブから出た彼女達は、外でそっと月曜組班長がいる方に視線を向けた。

 彼女達は布を取り出して、目元を拭っている。


「またファンさん、お母さんと妹さんに生花を用意したのね……」

「あの姿を見ると、もうわたしダメ……」

 1人はボロボロ号泣している。


「何度、息子だけでも生かしてほしかったと思ったことか……」

「うちの孫はモールに入れて幸運だったけど……娘夫婦は……」

 彼女達は死者を尊ぶ2人を見ると、毎回過去の状況を思い出し、感情が緩んでしまう。


 この後、貰った生花はドライフラワーにして、共同墓地に添えられる。

 それが普段の流れだ。


 感慨深く慰め合う彼女達を物陰から眺める姿が数人。

 その数人はプレハブに視線を向けた。


 ここ周辺は良い匂いが強く、そしてあのプレハブからは特に良い匂いがする。

 彼らは持っている武器を、ぎゅうっと握りしめたのだった。

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― 新着の感想 ―
やっぱこんな世界だから誰も彼もどこか壊れてるんだよな・・・それがある意味縋る物になってるからまだ人でいられるんだろうけど。
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