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第61話 曜日組・前編


 他の地区と比べると舞う粉塵が少ないフラワー地区。

 運河に囲まれ、内側では植物魔物が多く生え、他の魔物はあまり近寄らない。


 フラワー地区で暮らすのは植物魔物と共存する蜂魔物と、関係なしに何処にでもいる小鬼や黒狼ぐらいだろうか。

 夕方になれば、梟魔物が空を飛び徘徊する人間を求めては狩りをするが、アレらは住んでいるわけではない。


 また地下やアンダーパスにも魔物は存在するが、それらも植物魔物を嫌がり内側に近付くことは滅多になかった。

 フラワー地区外、地下、アンダーパスを知る者達にとっては、植物魔物自体は厄介でも、比較的安全と呼べる場所だ。


 植物魔物は他の植物の栄養を根こそぎ奪い取り、作物を育たなくさせる。

 また活発な時間帯は、共存以外の生物を襲う。


 しかし光合成をする昼間は活発でも、夕暮れから動きは鈍くなり夜はあまり動かない。

 あえて側に近付けば流石に襲われるが、そんな時に火で焼けば弱々しく萎れ、身を減らしていく。


 ただ、繁殖能力は非常に高く毎日燃やして間引きしなければ増え続けるので、日々の行動は欠かせない。

 魔物の駆除で、ショッピングモールの主から配給を貰える傘下の男達は、毎日コツコツと植物魔物を燃やしていた。



 今日も小鬼や黒狼、そして梟魔物を警戒しながら、植物魔物を能力の小さい火の玉で燃やしていた男が愚痴る。

「はー……良いよなぁ、土曜組と日曜組は女性達をあれだけ見付けたんだぁ。入居となったら更に物資が貰えるんだろぉー……?」


 四角い台車つきゴミ箱内のサラサラ砂を別の粉と混ぜていた男が、その言葉に返事を返した。

「おれ達だって、主様の特別祝いで2倍もらえたろ」

「そーだけどぉ……同じものが2倍なのとぉ、あんな風に良いご馳走の差異を見るとさぁ……」


「オレは、爺ちゃんに腹いっぱい食わせられたから充分だよ。そもそも外にいた頃は、こんな安定した配給なんて夢だったしさ」

 空を飛んで、壁に蔦になっていた植物魔物を剥がしていた青年は、戻ってきてそう答えた。


「そりゃあ、そうだけどよぅ……羨ましいもんは羨ましいんだよぅ……」

「気持ちは分かるよ」

 手を刃物のように鋭くできる男は、ザクザクと大き過ぎる植物魔物を切って、あえて砂にしている。

 下には空のゴミ箱台車を置いて、できるだけ直接砂を中に落としていた。


 男達は小さく息を吐き、10メートルは砂にした周辺を見る。

「まあ……おれらは、こんなに真面目なのに1回も女性を見つけられない半端組だしな」

「水曜組の事を半端組って自分で言うなよぉ~惨めが増すよぉ……」


 青年は、砂集め道具のレーキを使って広がっている砂をかき集めていく。

「どうせなら、月曜、金曜組より先に見付けたいよね」


 男は空の四角いゴミ箱を倒し、中に集まった砂を3分の1程入れていく。

「アイツら班長周辺以外は、気性が荒いの多いしなー」


「そういえばよぅ、組になる前に妹さん預けたんだっけぇ? 連絡は取れてるのぉ?」

 新しい粉の袋を手押し車の台車から取りながら、男が聞いた。


「うーん、まあ……こっちに来ると、いつ襲われるか分かんないしオレは向こうには行けないし、あんまかな。ただ1年ぶりに会ったら、ガリガリではなくなって、ムキムキになってたよ。毎日訓練して守備隊の1人になれたんだってさ」

 ある程度取りやすい砂をレーキで集めると、散らばっているゴミや瓦礫を柄が長く平たいスコップで分けていく。


 集めたゴミは燃やすか再利用する。

 炭になるまで燃やした灰も、後で砂と粉の中に入れる予定だ。

 ブロックは粉にするのは難しいので、邪魔にならない場所に寄せるだけになる。


「おわぁ……良かったなぁ……」

「今って、どれぐらいの数なんだろうな?」

 燃えている植物魔物の隣で、ゴミ箱の中の砂と粉を棒で混ぜる男達。


「前に話した時は……多分4百ぐらい? フードコートの席が埋まるみたいで、最初の頃より余裕をもって座れなくなったって話してたし」

「ほぇ〜」

「未来の為にも、いっぱい食べて元気に過ごしてもらわなきゃな」

「ケンさんも、知り合いがいるんじゃなかったけ?」

 ケンと呼ばれた男は、苦笑いを浮かべる。


「おれは従姉妹が市役所勤めでさ、終末になった後に、フラワー女学園やショッピングモールの事を市の通信機で教えてもらって来た感じかな」

「もしかして従姉妹さんは早めから?」

「みたいだな。最初は仲間ごと受け入れてほしくて、まあ喧嘩腰に話ちまって今は疎遠」

「あー……まあ、そこら辺はオレもかな。妹とじゃなくて、モール側に、めちゃくちゃキレちゃった」

 2人して苦笑いを浮かべる。


「まぁ〜ハーレム王者って思うよなぁ」

 新たに植物魔物を緩く燃やしている男はコクコクと頷く。

「ボクらはねぇ、ラジオ聴いてそう思って来たからぁ、まあぁ一時的に一緒だったバイト仲間はノリノリだったしぃ、バイバイよぉ……」


「あ、トントンの知り合いも入ってたんだね」

「ヤバいクモだらけのアンダーパス抜けるの、ボクは命懸けで頑張ったのにフラれちまったよぉ……悲しいよぉ……」

「トントン……」

「絶対、キスできるって確信してたのにぃ……」

「トントン……」

 青年はトントンの肩を優しく叩いた。


「アンダーパス側か。おれは船でだな」

「え! 運河の魔物ヤバくないですか?」

「まあ、船の数が多かったからな。気付いたら3隻しか残ってなくて、しかも停める暇なくて、そのまま突っ込んじまった!」

「うわ〜! よく生きてましたね」

「おれもそう思う」

 ケンはケラケラと笑った。


「ついでにキジュのも聞いとくか」

「アハハ、オレは……片道切符の飛行船ですね。燃料の問題で色々あって……飛行能力もってたんで、墜落中のから爺ちゃんと妹をなんとか支えて……着地は散々でしたけど、まあなんとか」

 キジュと呼ばれた青年は肩を軽く竦めて、そう答えた。


「空か。やるなあ」

「空の魔物に襲われて、ほぼ亡くなりましたけどね」

「空と水中はなあ……不利過ぎて逆に笑えるよ」

「数のごり押しと運ですよね」

 過去を思い出して、ウンウンと互いに頷いている。


 ガラガラガラ……。


 新たな空ゴミ箱と粉が入った袋を台車を引いて持ってきた男が、彼らに声をかけた。

「おーい、お! 綺麗になってるな。よしよし」


「あ、カイロ班長! 丁度、ゴミ箱と粉が少なくなってたんです。助かります」

「うんうん。真面目で宜しい。花丸、花丸」

 カイロ班長はニコニコだ。


「班長ぉ〜毎回ボクらが綺麗にしてるのってぇ、意味ありますかねぇ〜?」

 燃やし砂になった植物魔物の砂を横にしたゴミ箱に入れながら、トントンが唸った。


「あるさ。こうして綺麗にしておけば、また外から来た誰かが入って来やすくなって住みやすいだろ。砂埃も少なくなるしな」

 カイロ班長はニコニコ笑顔でそう言った。


「それに水害や運河からの魔物も、こうして砂で作る消波ブロックや土嚢で防げるようになる。未来の為の素晴らしい行為だ」

「そっかぁ……それなら頑張るかぁ……」

 愚痴りながらも、素直なトントンが頷いている。


「それに、他の組は半分以上の時間を女性探しに使ってるからね……僕らがちゃんとしておかないと、成長が早すぎる植物魔物は天幕の場所まで来ちゃうしさ」

「うぅ……」

「うーん。それにしても、月曜組と金曜組は酷くないですか? 他の組はまだ数を分けたり、合間に行動してるけど、あそこの曜日組は全く管轄区域を掃除してないですよ」

 ケンが新たな植物魔物の太い蔓を切り、ゴミ箱に落としながらそう発言した。


「そこはなあ……僕も班長会議で何度も何度も、それはもう何度も言ってるんだけどねえ……いやー全然聞きやしない! まあ女性を見付ける頻度が高いから見逃されているのかもね」

「はあぁ……女性見付けるとご馳走にぃ……食糧百倍……」

「最近は流れるのが多いのもね……」

「そうだな。今日も移動者は3名出たよ」

 カイロ班長は悲しそうに頷いた。


「うわ、だからなんだか人数が……ん? 水曜組って今どれぐらいですか?」

「150前後かな」

「ぎゃ〜! もう減りすぎですって! 今週で半分減ってるじゃないですか!」

 キジュが叫んだ。


「ただでさえ少ないのにヤバいな……」

 ケンが遠い目をしている。

「土曜組、日曜組の成果を見て、心が変わったんだろうさ」

 カイロ班長は苦笑いだ。


「はぁぁ……」

 トントンが深い溜息を吐いた。


「ま、まさかトントンも……?」

 キジュが不安そうに言うと、トントンは残念そうに言う。

「ボクはぁ、話せるの君らぐらいだからぁ……他の組に行ったらイジメられるしぃ……」

「トントン……」

 キジュが瞳を少し潤ませた。


「気合いが入るように僕らの所でも1回ぐらいとは思うが、仕事が忙しいからね。休日ぐらいしか探せないよ」

「まあ、そうなりますよね……」

「ボクら他の埋め合わせで夜とか関係なくしてますもんね……」

 本来植物魔物は夜に弱まるが、彼らは明るい内でも作業を行い、他がしない分までコツコツ行っている。


「植物魔物の侵入を抑えないと、秩序は一気に崩れて祝い品どころじゃなくなるからね」

「はぁ……」

「偶然に期待するしかないか……」

「ご馳走食べたぁぃぃ……」

 全員が土曜組と日曜組が食べていたご馳走を想像して、溜息を吐いたのだった。



 ***


 【曜日組(ようびぐみ)】


 フラワー地区にあるショッピングモール周辺を囲み、暮らす男達の総称をそう呼ぶ。

 終末世界で4千名以上は生き残る彼らは、モール主達から各自決められた曜日で食糧を貰っている。


 その配給曜日は、入ってきた曜日で最初に分けられる。

 自己申告で他の曜日に半年に1回、変わる事は可能で(初回は即時可能)、もし気に入った曜日があれば班長に挨拶しに行き、そして曜日変更を行う流れだ。


 モール側には班長が報告して、その曜日に1週間分の食糧が個人に配給される。

 人気の曜日は、月曜組と金曜組。


 彼らは元々強い集団の集まりで、前は数のバランスが良かった曜日制度をおかしくしてしまった。

 どちらも千人規模でいるようだ。


 火曜、木曜、土曜、日曜はそこまで差はない。

 ただ水曜組は不人気で、その理由が真面目に仕事をし過ぎて、全然女性を見付けないからという。


 女性を1人見つけたら祝い品が貰える。

 決まりはあるが、女性の年齢が基準内なら、1人で百人分の食糧が貰えるのだ。


 皮肉なものだ。

 真面目に任せられた仕事を行い、住みよい環境を作っている。

 これは元々求められている内容なのに、不人気な理由になっていた。


 それでも少し前までは3百前後はいた。

 だが、土曜組と日曜組が多くの女性達を見付け、さらにちゃんと分配を行うと聞き、そちらが急上昇の人気曜日となったのだ。


 今入れば、数日後に決定する女性達の入居祝いとして、褒美分配が貰える。

 悩んだ結果、変更者が続出した。


 仕方ない事だと思う。

 目先の分配が確定しているのだ。

 それに、水曜組は1番真面目で堅物な集まりなので、月曜組と金曜組以外は、すんなりと入れてくれる。


 月曜、金曜組は終末世界になったからか、好戦的な者が多く、実力主義な過酷なヒエラルキーが存在する。

 そんな組なので、子羊のような者達や争いが苦手な者達は、逆に避け気味だ。


 また組同士で仲が良かったり悪かったりとある。

 月曜組と金曜組は好戦的な者同士、非常に仲が悪い。

 よく組同士の喧嘩を見かける。


 逆に土曜組と日曜組は、とても仲が良い。

 あそこは元々フラワー地区に住んでいた者達で構成されているらしい。

 仕事も半数は時間制で活動し、半数が女性達を探し、効率良くノルマをクリアして時折女性を見付けては食糧を手に入れている。


 火曜組は悪い人達ではないが、酒好きが多く、なにやら作っているようだ。

 酒を飲みながら仕事をし、雑な部分が目立っている。

 ただ愛想は良く、女性を見付けて食糧を配給された日には、何故か水曜組にも祝い酒を飲ませてくれるのだ。


 キジュ個人は、不人気なヨモギ酒を瓶で貰った。

 飲めない不味さだったので、傷口消毒に使っている。


 木曜組は程々に仕事をして、なんとなく女性を探しながら、泥川で釣りばかりしている。

 全部、勝手に作った食堂や、物々交換の店の経営に回しているようだ。


 火曜組に泥川で見付けた食糧と酢や酒の交換を持ちかけている姿をよく見かけ、自由感が強い。

 水曜組にも女性を見付けた祝い鍋の時は、スープを分けてくれる。


 彼らの組は各4百人ぐらい。

 ただ今回の事で、水曜組の僅かな150人が、土曜組と日曜組に分散されてしまった。


 実は日曜組と土曜組も、今回先に貰った祝いの品の飴を何故か水曜組に分けてくれたのだ。

 1人1粒、皆が喜んで口に入れた。

 あれにより、半数が心変わりしたとも言える。


 久々の角砂糖以外の甘味は美味かった。

「爺ちゃーんただいま〜」


 仲間達とは、まるで曜日を移動しないふうに会話したが、正直な話キジュは惹かれていた。

 正確に分けてくれるという食糧分配は強い。


 聞いた話では20人以上の女性達。

 さらに、その中の2人がモール主の探していた女性2人だったのが強い。


 見付けたのみの祝いで、全ての傘下に普段の2倍配給が行われた。

 さらに、まだ正式な仲間になっていなくとも、前段階の祝い品は土曜、日曜組に与えられ、それが普段と違ったらしい。


 多くの曜日組が覗き込んでいて、トントンの話では、それはそれは豪華な食事だったらしい。

 漂ってきた匂いだけなら、キジュも嗅いだ。

 美味い匂いだった。


 この雰囲気だと、正式に仲間になった際の女性1人で百人分、要は百倍貰える食糧に、色が付きそうだ。

 もしかしたら、モール内で飼育しているらしい鶉の卵や肉が貰える可能性だってある。


 ぐううう〜……!


 考えるだけで腹が鳴る。

 トマト缶1個で日替わり定食1食だ。


 今日は2倍配給のトマト缶2個を持って、木曜組の食堂に祖父と行っても良いかもしれない。

 贅沢だが、今ならそれが出来る。

「キジュ……悪意が近付いておるぞ」

「え?」


 キジュが食事の妄想をしていれば、足の悪い祖父が呟いた。

 祖父は元々よく当たる占い師で、終末になっても祖父の勘が冴えていた為に、キジュ達は助かった。


「爺ちゃん……ど、どんな……?」

「ここの秩序を壊そうとする者達は……人が作った悍ましい道具を持ち……禁忌を広げる」

「秩序を壊し、悍ましい道具、禁忌を広げる……」

 祖父の言葉を慌てて紙にメモして、キジュは、うーんと頭を捻らせたのだった。

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