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第60話 助言


 死体は落し物室にいるのも含めて40体前後。

 分裂した者達の半数は、もうフラワーホテルから逃げたようだった。


 マガリの仲間の内、4人が亡くなっていて、それは聖者と呼ばれる男性達だった。

 元仲間も含めて、深い祈りが捧げられ、マガリの炎で骨も残さず焼き尽くされるのをミラン達は見守る。


 眩しい。

 マガリが指先を伸ばし、青白い炎が伸びていく。

 その炎が意思を持って渦を巻いたかと思えば、死体を包み込む。

 その渦は白さが増して完全な白になった瞬間、中の死体は骨も残さず消滅した。


 それは美しい炎だった。


 短い時間だけの光景だったが、心酔している者達が聖なる炎と呼ぶのも分かる。

 彼らはマガリを聖総者と呼び、今までのことを悔い改めると自ら懺悔し、深い祈りを中庭で捧げだす。


 祈りは出来るだけ新鮮な空気がある場所でした方が良いらしい。

 しかし夕暮れ以降はフクロウの魔物が出る為に、日が暮れる頃には皆フラワーホテルの建物内に戻った。



 明日はマガリ達の猶予期間最終日だ。

 そんな彼女達が交渉する前に、ミラン達も一度話をし、その上で別の条件を出して同盟が組めないかと思っている。


 ミランはマガリの話を真剣に聞き、そもそもで餓死しそうな子供達を助け仲間になろうと、此処まで来た事を話した。

 リーガルの能力自体も素晴らしいが、モール側の話に聞いたコピー能力も素晴らしい。


 もし同盟が組めるなら良い事だし、今後は道を整えて貿易のようにしたって良い。

 高速道路を綺麗にして、アンダーパスもマガリ程の能力があれば比較的安全に片付くだろう。


 植物魔物はマガリが時折間引きで燃やせばショッピングモールは護られるし、周りに滞在する傘下の男達は細々とした魔物を狩っている。

 もし貿易が可能になるならば、彼らの食生活も、もう少し良くなるかもしれない。


 そして、その貿易に強い守護者達が動くならば、ミラン側としても食糧を運賃として多く渡せる。

 現状、改造車の燃料はユノに頼ってしまっているが、道が整えられるならば、中環地点で交換をするでも構わない。


 そうやって人が生きる為の基盤を広げていくと考えたら、未来に関しても希望が持てるようになるだろう。

 とりあえず、その同盟の為の交渉をアシストしてもらう為にも、ミランは持っている豆粉、野菜、果物、調味料をマガリ達に渡した。


「水耕栽培の為の種まで……しかも、リーガルさんが芽まで促してくれて……」

「へへ……オレが役立てるのこれぐらいだし」

 マガリは感動し瞳を潤ませそう言うと、リーガルが照れている。


「ミランさん、リーガルさん、本当にありがとう。明日の交渉がどうなるかは、まだ分かりませんが……これらを見せ、今後の話をすれば違う気がします」

「ああ、そうなるよう俺達も全力で頑張ろう」

 グリットが運転してきた改造車に、ミラン達は乗り、今の拠点に向かう。


 到着すれば楽しそうな笑い声が上がっており、そちらへ行けばアルトとモーツが部下の謎の芸を見て爆笑していた。

「モーちゃん……」


「モッちゃん!」

 バンはヤムクーから下りて、驚きながら駆け寄る。

 リーガルも瞳を潤ませて近付いた。


 モーツはアルトや部下に支えられて座っている状態だが、手を緩く叩いて笑っていたのだ。

 痙攣し、ほぼ機能しなかった腕がこうして動けている。


「おかえり〜!」

 モーツは、あのような状態でも人と向き合う時は明るかった。


 ミラン達も飢餓状態が続いていた経験があるから分かるが、そのような極限状態を明るくする精神力は凄まじいものだ。

 モーツは子供達にとって希望に近いのかもしれない。


「ミラン隊長お帰りなさい! モッちゃんが、皆が帰ってきたら蒸したサツマイモ食べたいって言ってたんで、待ってたんですよ〜」

「あはは。そうか、よし。君達は固形物を食べる時は、ゆっくり口にする事になるが、できるかな?」

 ミランがしゃがみ込んで子供達に訊くと、3人は嬉しそうに頷き返事をしたのだった。



 ***


 明日はモールの主であるラッセルと交渉する。

 その前に子供達と再会できた事をユノに口頭で伝えたい。


──……今、通話しても良いだろうか……


 今日は1日ユノとゲーム機内のやり取りをしていない。

 ゲーム機の明かりを点けて、通話が出来るか訊く文字を書こうとした瞬間に、文字が現れた。


 『ミランさんと通話がしたいです』

 ドクンッと心臓が跳ね、慌てて猫のトランシーバーを取り出して、ユノに通話を試みる。


『……ミランさん?』

「ああ、こんばんは」

 かけて直ぐに繋がった。


 心臓がドクン、ドクンっと鳴って不思議な気分だ。

『良かった……声が聞きたくて……』

「ユノ? 何か嫌なことでもあったのか?」


『嫌なこと……そうですね。とても嫌な夢をみて……とても……』

「嫌な夢を……それは内容を聞いても良いのかな?」

『……今って、長めの電話をしても大丈夫ですか?』

「ああ。もう用事は終わったからな。ゆっくり話そう」

 ミランは他に聞かれないように、少し場所を移動しながらユノの言葉に耳を傾ける。


『そうでした……子供達とは会えましたか?』

「ああ。無事に会えたよ」

『良かった……本当に良かった……』

「はは。ああ、本当に良かったよ……」

 ユノも喜んでくれて、喜びが胸の内から増していく。


「それと明日は、リーガルの姉を取り戻す為にモール側と交渉をするんだ」

『交渉を……モールは、ショッピングモールですよね?』

「そうだよ」

 ユノは少し黙り込み、スーっと息を吸い込んだ。


『そのショッピングモールの周りには、多くの男性達……数千規模の男性達がテントのような物で暮らしていたりしますか……?』

「ん? 話しただろうか……いや、話してないな……」

 ミランの足が止まった。


 大まかな予測はあったが、その詳しい情報は、今日知ったばかりの情報のひとつだ。

 知ってからユノと話すのは今が最初のはずだった。

『変な話なのですが、夢でみたんです……数千と思える多くの人達の視線が……そう、あれはミランさん達を見ていたと思うんです』

「俺達を見ていた?」


『建物に向かうミランさん達を少し不安そうな面持ちで見てて……』

 確かに武装した軍が歩いていれば、不安な気持ちにもなるだろう。

 ミランは、その状況を想像した。


『その……夢の最初は、金髪で空色の瞳をした綺麗な男の子がいて……その子は動く植物に腰をかけていて……』

 ユノには、リーガルの外見の話までしていない。

 男達の数はまだ夢が見せたものと考えられるが、類似性が増えれば増える程に、ただの夢ではない可能性ができてくる。


『私は多分……ミランさん視点で辺りを見ていて……最初は、その子と大きな建物に入りました』

「モールか……」

『多分……そう……』

 ユノの声が震えている。


「無理せず、ゆっくりで良い。何か飲もう、温かいものでも……」

『あ……そうですね、今用意を……』

「俺達ので良ければ収納から麦茶のヤカンを出して飲んでくれ。温かいぞ」

『あは、そうですね。じゃあ頂きます』

 歩く音。

 コップを持ち収納空間から薬缶が出され、麦茶が通話の向こうで注がれる音がした。


 ゆっくりと飲む音を聞いていると、身近にユノを感じる。

 それが少し、心地良いと思った。


『ふー……考えてみたら私、昨日の夜からさっきまで寝てたみたいです。喉も渇きますよね』

「何か食べながら話そう。うちの基地で作ったスープも多くある。好きなのを食べてくれ」

『あはは! じゃあ、飲んじゃおう。ありがとうミランさん』

「こちらこそ、いつも助けてくれて、ありがとう」

『ふふ……』

 ユノが器を用意して取り出したスープを盛ったようだ。


『わあ……具だくさんですね! いただきます! ん、美味しい!』

「ユノが食べったって話したら、調理担当が大喜びだな」

『私も大喜び中です』

「あはは!」

 ユノはトランシーバー越しで『ごちそうさまでした』と食事を終えると、ふーっと息を吐き、夢の続きを話しだした。


『夢は短い場面を何回も繰り返し見るもので……その夢では、モールの中にミランさんと誰か1人が一緒に入って行くんです』

 どうやら一晩の中で、繰り返し同じ夢を見続けたようだ。


『最初は金髪の子……多分、ミランさんが言ってくれたリーガル君ですね。その子と一緒にミランさんが入り、中には眼鏡をかけた綺麗な……女性教師みたいな人がいて……』

 確実にユノに伝えていないが、マガリ達から聞いた存在を言い当てた。


「受付を取り仕切っている女性だな。たしかカリンという名前らしい」

『カリンさんか……そのカリンさんの周りには毎回銃を持った女性達がいて……』

 そこも聞いた通りだ。


「銃は、どんな感じだったろうか?」

『銃は……映画よりリアルで……そっちの世界と同じかは分かりませんが大型の、サブマシンガンっていうのかな……短機関銃?』

「ああ、本当に似ている……わかるよ。それを持っていたんだね?」

『はい。カリンさん以外の女性全員が肩から下げてました』

 そこも聞いていた情報と全く同じだ。


『それで……入ってから彼女達は銃を撃ってくるんです』

「ん、出だしでいきなりか?」

『はい。毎回、そうですね……最初はリーガル君が亡くなるシーンでした』

 そうなると、交渉も同盟もあったものではない。


『ただ、女性達は毎回怯えていましたし、カリンさんも怖いのを我慢して笑顔のようでした』

「本意ではないか……」

『次は大きな斧を持った屈強な男性……多分アスさんですよね? アスさんが水色髪のガスマスクの人に水の魔法みたいな……能力って言えば良いのかな? それで身体に穴を空けられて……』

「アスの身体にか……余程強い威力の水能力者だな……」

 アスの身体は能力で頑丈だ。


 アスは能力で筋力増強が行える。

 そして元々丈夫だった身体は今や鋼と変わらない。

 そんなアスの身体を貫通する水能力は、恐ろしい能力者といえる。


『カフスイヤリングの青年は避けて、後ろの柱に穴を空けていました』

「そうか、多分イヤリングのはヤムクーだな。それじゃあその水能力者があちらのリーダーか……」

『あ、いえ、多分ですが紫髪のガスマスクの人がリーダーじゃないかと思います』

「もう1人か」

 ユノの言葉にミランは確信した。

 これは、夢では無い。


 情報では2人のガスマスクの男がいて、片方がマガリ達の知り合いなのだ。

 その知り合いは紫髪との事だった。


 何も知らないであろうユノ相手に、職務と同じようなやり方で聞き出すのは気が引けるが、信憑性は高まった。

 何か特殊な事柄が起き、そして、それは非常に重要な内容だと予測できる。


『アスさんもヤムクーさんも毎回命を落とすのは、紫髪のガスマスクの人で起きてるんです』

「ラッセル……」

『え?』

「モールのリーダーの名はラッセルだ」

『ラッセルさん……その人は顔に数字の入れ墨がありました』

「数字の入れ墨……」

 ユノは随分と鮮明な映像を見たようだ。

 予知夢なのだろうか。


『ミランさんは、その人に勝つとガスマスクを取って、そして夢が繰り返される度に顔の刺青……刺青の数字が変わっていくんです』

「数字が変わる……? その数字は覚えているかな?」

『33038が最後の数字です。途中から何度も数えたので……下の数字が3千に繰り上がってからは数えやすかったですし』

 ユノは、どれだけその残酷な予知を見たのだろうか。


『でも終わりが来ました』

「終わり……俺が死ぬ夢かな?」

 予想していた内容を呟けば、少しの沈黙。


『……最後は……男の子と女の子が2階のエントランスホールにいて……その子達は、銃を突きつけられていて……2人は通路の両側にいたから……2人を助ける為に、ミランさんは自分の命を差し出す選択をしたみたいでした』

「そうか……」

 そうなれば、その行動をする事になるのは想像できると、ミランは思った。


『だけど、ミランさんは死んでいません』

「?」

『銃を突きつけられて……顔を上げた時、何故だろう……あの時、私はそのラッセルさんに問いかけて……うーん。夢なんですかね……言葉が通じるはずがないのに聞いたみたいで……』

「ユノの声を聞いた……?」

 予知夢だと思っていたが、少し違うのだろうか。


『それで……何故かラッセルさんが自分を撃って亡くなって、私は目覚めたんです』

「夢から覚めた……」

 予知夢。

 予知夢だとしても、数字の変化は何を意味するのだろうか。


『あ! そっか! ずっと違和感があったんです!』

 ユノが何かを思い出したらしい。


『ラッセルさんの行動が、ずっと変だと思っていたんですけど今考えてて、ここです!』

「ここ……?」

『ラッセルさんは、ずっと、ずーっと、死ぬことを一切躊躇っていないんです!』

「それは……なるほど……」

 少し考える。


――……もしかして、ラッセルの能力は……


 沈黙が続き、ユノが呟いた。

『すみませんミランさん……』

「ん? どうした?」


『こんな急に、悪夢を見たからって長々と話して……なんだか恥ずかしくなってきました……』

 通話の向こうで恥ずかしそうにしているユノを想像する。


「いや、これは話してくれて良かった。そもそも何の話でも、ユノと話せるのは嬉しいよ」

 思わず笑顔になって言った。


『ひゃ! あ、ありがとうございます!』

「え、ははは! こちらこそ、ありがとう」

 ユノと話すと毎回楽しい。


 明日の交渉について考える必要はあるが、こうして話せたことは、とてもありがたいと思った。


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