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第59話 独白


 マガリ。

 貴女のその赤い瞳には、この世界がどう映っているのかしら?


 マガリ。

 わたしがうら若き聖女達の中で努力を、筆頭聖女になる努力をしていたのは、一族のためなんかじゃないわ。


 全て貴女の側にいる為なのよ、マガリ。


 貴女は疑う事を知らなすぎる。

 どうして、そんなにも純粋に善を信じられるのか。


 模範となる者として、皆を導く者として。

 ああ、ああ。


 可哀想なマガリ。

 可哀想で愛おしいマガリ。


 穢れを知らない少女は無理をして、大人びて導こうと足を進ませる。

 なんて、なんて、愚かで愛おしいのマガリ。


 聖総者。

 貴女のお父様がそうだからって思考を止めて、未来を押し付ける者達を貴女は疑うことなく導こうと努力し続ける。


 弱音を吐かず、涙ひとつ流すことを我慢して、我慢して我慢して。


 なんて憐れなマガリ。


 真面目で優秀でできてしまうから、更に更にと押し付ける奴ら。

 ああ、ああ。


 本当に馬鹿みたい。


 あの中で使えるのは守護者達ぐらい。

 他は思考を停止したろくでなし共よ。


 マガリ。

 本当はね。

 本当は、貴女はこんなことしなくたって良いの。


 悲しくて、大きな声で泣いて怒って、自分を守る為に全力で生きたって良いのよ。


 だって貴女は、ただただ純粋で努力家な可愛らしい女の子なのだから。


 あいつらは馬鹿げた奴ら、ろくでなし共よ。

 大の大人全員が、マガリに責任を押し付けて未来の不安を背負わせるなんて、どうかしている。


 それでも、歯を食いしばり導く貴女の姿は美しい。


 ああ、ああ。

 本当に、貴女は美しいわ。


 ねえ、マガリ。

 どうしてわたしが嘘を吐いていると思わないのかしら。


 貴女の瞳には、わたしがどう見えているの?


 わたしはね、マガリ。

 筆頭聖女という肩書が欲しいわけじゃない。


 ただ危なっかしい貴女の側には、わたしが必要だからなのよ、マガリ。


 貴女を本当に想っているのは、わたしだけなのよマガリ。


 マガリ。

 貴女はあんなにも我儘な子達に対して、一度も怒ることなく、教えを守ったわね。


 ねえ、マガリ。

 貴女は本当に、あの子達を家に帰して、それで良いと思ったのね。


 彼らは今でも祈りを捧げているのかしら?

 神に?

 それとも誰よりも気高く憐れな貴女にかしらね、マガリ。


 マガリ。

 貴女は知らない。

 わたしは教えない。


 わたしはねマガリ、筆頭聖女なの。

 貴女の側で貴女の導きの為に生きる者。


 そう。

 気高く憐れな貴女の為に、何時だって手を汚す者。

 それが貴女の筆頭聖女なのよマガリ。



「守護者は使えるもの」


 少なくとも純粋な少女に、ただ押し付けている大人ではない。

 少なくとも我儘を振りかざし、食糧を奪うだけの子供じゃない。


 孤児から集められた守護者達は、聖総者と筆頭聖女を護衛し戦う事だけを常に教えられて生きてきた盲目な者達。

 命を懸ける事が思考ではなく身体で覚えており、あの日、マガリのお父様の為に多くの守護者が犠牲となった。


 そうして、マガリに聖なる炎を渡す切っ掛けを作った守護者達だけは認めてる。


 でもね、マガリと守護者以外はゴミね。


「本当に要らない」



 ねえ、マガリ……

 嘘を吐いているわたしを、どう思うかしら?


 収納空間能力は確かに手に入れた。

 でも最初の大きさは大したことなんてなかったわ。


 倉庫に残る食糧なんてものも無かった。

 何も、何も。


 あの日、わたしが収納したのは貴女の意地悪なお父様に捨てられていたお揃いのお人形と、亡くなった守護者達が落とした武器だけなの。


 この能力って不思議ね。

 あの赤い赤い石を吸収する度に、少しずつ性能が上がっていくんだもの。


 マガリみたいに美しい炎は出ないけれど、わたし、この能力も気に入ってるのよ。

 だって、こうして奪われた食糧を取り戻して、わたし達が生きていく量を保管できたんだもの。


 今の収納空間は聖者館の倉庫くらい。

 時間経過は10分の1くらいかしら。


 周りには小屋程度と話してる。

 だって、教える必要はないもの。

 わたしが知っていれば良いのよ。


 

「そうね。マガリは知らないわね。貴方ももうすぐ知れなくなるわね」



 ***



 食糧は、この終末世界では黄金よりも価値がある。

 それを分け与えるマガリは本当に美しい。


 そしてわたしは、それを半分にして収納する。

 残り半分を与えた相手を守護者と少しばかり観察して、生かすか生かさないかを見定めている。


 傲慢であれば残りも収納し、そうでなければマガリの慈悲を渡す。


 マガリは恩を仇で返す人間の多さを知らない。

 でも良いの、これはわたしが知っていれば、それで良いのよ。


 残りの食糧も欲しがり、あまつさえ徒党を組んで襲うなんて、どうして同じような思考ばかりなのか。

「うふふ。変よね。家族の為にと恩人を殺しに来て言い訳ばかりするのよ」


 自分達の未来を必死に考えて、罪悪感はあるけれど仕方ないだなんて!

 なんて図々しいのかしら!


「だから仇を返す者は全員、悩む必要をなくしてあげたわ」


 淡々と想いの独白をしていれば、老年の聖者が叫んだ。

 聖者や聖女は清い存在だなんて言うけれど、わたしにとって清いのは、貴女だけよマガリ。


「なぜ? なぜ今更話すのかって?」


 聖者が煩いので、歩きながら語るのを止める。

 縄で縛って、足から宙吊りにしているソレを覗き込んだ。

 廃工場の下の地面には、彼の体液がダラダラと落ちている。


「あら嫌だ。貴方が言ったんじゃない」


 死ぬ前に話がしたいって、そう言ったじゃない。

 少し前の話なのに、もう忘れたのかしら?


 宙吊りになると頭にどんどんと血が溜まって、下へ下へ落ちていく。

 こうすると普通の人間は1時間も保たない。


 絞り出す声が向けられて、肩をすくめる。

「あらあら、何が違うって言うの? 貴方の中では一体何だったのかしら?」


 慌てて彼は弁明について語り出すが、どうでもいい。

「ううん、興味無いわ」


 悪態を吐こうが懇願をしようが、関係ない。

 どうせ砂時計の砂が落ちきった頃には、貴方も等しく喋らなくなる。


「ええ、そうね、ゴミと言ったわね。そうよ、貴方のことよ」

 僅かな質問に頷く。

 そうすると、まるで偉大な者のようにわたしを諭そうとするのだ。


「わたし? うふふ」

 笑ってしまう。

「そうね、少なくともわたしはそうは思わないわね。 だって、こうしてマガリの1日が増えるんだもの」


 自分が聖者としての言葉を話していると思っているのだろう。

 あれがダメならこの手を使い、これがダメなら、その手を使い。

「うんうん。大丈夫、大丈夫」


 何を言おうと関係ないのだから、気にしなくて良いのよ。

「貴方は何も役に立たないからね」


 混ざった身体中の体液だけじゃない。

 赤い涙と共に目玉が落ち出している。


 何度も内側の巡りを戻そうと、腹に力を入れて起き上がろうとしているが、肥えた身体では難しいようだ。

 重い身体の内臓が落ち窒息するのが先だろうか。

 頭に溜まった血で意識を失うのが先だろうか。


 今日は本で読んだ新しい方法を試してみたけれど苦しそうね。

「あら、そうね、人にそんな言葉は言っちゃダメよね。わたしも、そう思うわ」


 柔らかい拍手をした。

「でも、これ貴方の口癖なのよ」


 可哀想なマガリ、役に立つのに罵られる守護者達。

 少なくとも、コイツより守護者の方が役立つのは明白だ。


 もちろんわたしも役に立っている自覚がある。

 魔の者を倒すマガリ、守護者達。

 荷物を収納し食糧を保管するわたしと、何もせずに罵り食糧を奪おうとする貴方よりは確実に役に立っているわよ。


 マガリと守護者達をあれだけ馬鹿にする自信は一体どこからくるのかしら?

 まるで自分の存在が必要不可欠と思い込んでいるなんて、おこがましいわね。


 どうしてなの?

 こんなにも調子にのってしまうなんて、その頭の中の思考回路が恐ろしいわ。


「そうね、そうね。マガリの為に守護者達が健気に集めた赤い石を盗もうとするなんて、なんておバカさんなのかしら……」

 自分が使うのが正しい権利だなんて、思い込みが激しすぎるのよ。


「貴方の精神論で終末は生きれないの」


 わたし達は教えを守るマガリの行進と共に生きているけれど、一等素晴らしいのはマガリ。

 マガリの聖なる炎は等しく魔なる者達を美しく燃やしていく。


 何度、何度も命を救ってくれるマガリ。

 あんなにも壊れそうな背中で、何度も何度も、あまりにも美しい。


「うふふ。マガリをお前如きが罵って良いわけがないでしょう」

 全くもって何に対して自信があるのやら、無駄口ばかり大きくなって癪に障る。


 どうして自分の言葉に気づけないのかしらね。

 可哀想な頭をしているみたいね。


「貴方が毎日毎日言っていた役立たずだなんて、そんな言葉は言ってはダメじゃない。ねえ?」

 嫌味を言ってみたら返事がなく、チラっと視線を向ける。


 もう喋ることは二度と無いようだ。



 倉庫を出ると守護者達が控えて待っていた。

 魔の者が砂になったようで、小さな砂山がいくつか出来ていた。


「良い子達ね」

 頭を撫でると彼らは子猫のように目を細めた。


 マガリには、おバカさんが食糧を持ち逃げしようとして魔の者に食べられてしまったと話そう。



 ***


「不思議だったのよね。こんな終末になって、わたし達のように少ない食生活で、あのように肥えた状態でいれるなんて……早く気づくべきだったわ……」

 マガリは少しショックを受けたようだが静かに頷いた。


「何時もありがとうリリン。貴女がいてくれるから、私は……前に進める……」

「マガリ……ッ、わたしだってそうよ……!」


 最高の誉に、ぎゅうっとマガリを抱きしめた。


──……愛しい愛おしいマガリ、わたしは何度だって共に生きるために手を汚すわ……

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