表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

第6話 軽食の用意

 秋と冬の間の季節。

 空気の冷える早朝。

 長ソファーに座って、膝を軽く抱きながら生活用通帳を手に温かい麦茶を飲む。


 コポコポ……カタンッ。


「ふぅ……」

 通帳を開き残高を眺めながら机の上に置いたスマートフォンのディスプレイに目を向ける。


 今使っているのは祖母のだ。

 自分のは、古き生き残りのガラケーだったので解約して祖母のを引き継ぎたいと通信会社に話し使っている。


「えーっと番号、番号……あった」

 祖母が入れていたアプリで名前とアイコンを探し数コール。

 最近のスマートフォンは顔横で喋らないみたい。

 横にしたスマートフォンに口元を近づけ、耳にはイヤフォンを着けて会話する。

「おはようございます。あ、はい孫のユノです。実はサツマイモを多めに買いたくて……」


 スマートフォンは知り合いの農家に繋がり芋を買えないか聞いてみた。

「へあ〜バイヤーが来なくて? 豊作だと逆に? それは困っちゃいますね……」

 サツマイモじいの軽い苦悩を聞きつつ話す。

「あ、でも私が買う分は、ありそうな感じですね! あはは。そう、結構な量が欲しくて……はい。10万円分です。ええ。10万円分で合ってます」

 金額を言うと繰り返し訊き返された。


「お、じゃあじゃあ、10万円分買えますか? ええ。実は知り合いの頼みで炊き出し用に欲しくて……」

 大丈夫なのか心配された。

 買ってはほしいが大金を使わすのに気が引けるらしい。

 でも説明したら納得してくれた。


「はい。あはは。あ、場所は私の家の倉庫で……うん。鍵は、ぱーぱーで入り放題です。あはは。じゃあ、その時に10万円、現金で渡しますね」

 まずはサツマイモを確保、出だしは順調だ。

「次は……お豆腐屋さんにも電話かけてみよ」


 出かける前の身支度をしよう。

 普段の義眼を右眼に装着しようとしたら何か合わない感じがしたので止めて眼帯を着ける。


 コスプレ衣装を作るネットで知り合った方に1作品1万円で作ってもらったお気に入りの品だ。

 今日は深い群青布にターコイズグリーンとミントグリーンの刺繍がされた眼帯。

 個人的に緑と水色の中間ぐらいが好きで、鏡を見て調節して気分を上げる。

「よしッ!」


 お金を下ろしに街へ行くとして、今日は賞味期限が常温で保ち栄養が高く腹にたまる物を大量に買う予定だ。

「とりあえず50万、下ろすかな〜。痛い出費だけど脚代としたら激安なんだよね~」


 脚の一生の治療が無くなって、長年切に求めていた軽減以上の健康的な状態なのだ。

 あまりにも最高。


 でも結晶石の存在が露見したら医療機関に衝撃を与えてしまうだろう。

 『他の世界の奇跡の薬です!』など言えないし秘密だが。

「そういえば漫画で読んだ賢者の石は赤い色って言ってたな〜。結晶石って、まさにそれっぽーい」


 ブロロロロ……。


 気分良く車を安全運転する。

 少し気になる事と言えば、車は片脚が使い難くても運転できる仕組みの許可制のものなので、診断書が出たら一般的な車に直さなければならないかもぐらいか。

 今のに慣れているので免許の部分にも少し問題が出るかもしれない。


 しかし、そんな問題を抜きにしても気分は良い。

 脚は完全に治った上に左眼の視力も、とても良い。

 妙に身体も調子が良い。

「その内に左眼視力のみでも、ばあちゃんみたいに猟銃の免許も取れたりして〜……」


 流れていく景色の中で思考は過去へと落ちていく。

 普段と違う調子の良い身体の裏には、ユノに消えない記憶を思い出させた。


 ──……山々、滑り落ち視界が回る。

 景色がぐちゃぐちゃに混ぜた絵具になって、すぐに半分、暗くなった。

 寒い山の夜。

 雨水を震えながら口を開け飲み込んで、見える左眼で暗い暗い山の中で僅かに光を持った自分の吐息が拡散していくのを、ぼんやりと見ていた……──


 軽い頭痛に頭を振って呼吸を調える。

 罠免許を取った頃の左眼の視力は若かったし、元々とても視力は良く、両眼3.0はあった。


 それは誇りだったし祖母と同じ猟師になる夢もあった。

 けれど事件によって右眼は潰され右脚も満足に動けない。

 罠免許を取った頃には左眼は1.2まで下がっており、年々下がり続け最悪だった。


 人をこんな風にした同級生達の1人は財力があり最初に慰謝料を一括払い。

 次に治療費も通院結果で計算され月で入金されている。

 ただし現在、ここ半年は治療に行っていないので支払いは無い。


「……気が向いたら脚と眼、診察してもらおうかな」

 右脚は明らかだが、右眼を無くしてから視力が落ち続けた左眼は、どれぐらい戻っただろうか。

 とても気になる。


 銀行に行って現金を50万下ろした。

 銀行の人に振込詐欺をさせられそうになっていないか確認された。

 『大量の食糧の買い出しです』と答え買いに向う。

「そうそう、ここだった」


 全国チェーン店の豆腐店に到着した。

 祖母がいた頃は買い物に来て豆乳ソフトクリームを食べていた想い出の店。


「すみません。電話で話した、おからパウダーを大量に買いたい道堂です」

 入店をして、店員に話しかけた。

「あ、店長を呼んできますね!」


 すぐに店長が来て倉庫に案内され、倉庫にある大袋を見せられる。

「今日は他からの予約もあるので……100キロ分なら売れます。2日待っていただけたらもう400キロいけます。どれぐらい買いますか?」

「500キロ買ったら幾らぐらいになりますか?」

「そうですね。道堂さまは、おばあ様の代から会員ですし500キロとなると、これぐらいで……」

 計算機を叩いて値段を見せられた。

 悪くない値段だ。


「400キロの方は家の倉庫まで配達は可能ですか?」

「はい。可能です」

「じゃあ全部買います」

「まいどありがとうございます!」


 500キロ分を現金で一括支払いして領収書を貰う。

 今回のおからパウダーは車まで台車で運び、店長が一緒に運んでくれて何とか全部乗った。

 台車を戻して挨拶してから車に戻り、全部空間へ収納し、今度は鶏舎へ向かった。



 街から田舎へ戻り鶏舎が見えた。


 ブロロロ……。キキーッ。ザリッ。


 庭へ入り砂利の空き空間へ車を止めた。

「お、ユノちゃん待ってたよ〜! 昨日、電話で言ってくれた通り千個の卵を用意したからね」

 鶏舎のおばさまが車の音に気付いてか、ゆっくりと出てきた。

 彼女は祖母の友達だ。

「ありがとうございます!」

 支払いをして車に入れた後で収納し家へ帰る。


 自宅へ到着。

 自宅の中で、まだまだある食べにくい発情期の雄猪肉を解凍しながら、どうするか考えていれば外で明るい呼び声。

 どうやら朝に頼んだサツマイモが届いたらしい。

 サツマイモが倉庫に運び込まれ10万円を現金で払い、届けてくれた芋じいは嬉しそうに帰って行った。


 すぐに収納しようと空間内を確認して声が漏れる。

「あれ? まだ出してないみたい……」

 卵は少し減っているけれど、おからパウダーは出してないようだ。

 出せない事情が出来たのだろうか。

 収納スペースには限りがあるので入っていれば時間は経たないが、限界までいくと詰めることは無理になってしまうだろう。


「あ……そうだ日誌に定期的に食糧調達で街へって……」

 手をポンっとして呟き、少し考える。

 きっと定期の食糧調達に出かけて、今は比較的すぐに食べれる卵を選んだのだろう。

 多分、茹で卵にでもしているんじゃないだろうか。


 だとしたら今は食糧の材料では無く、出来合いの何かが良いと思う。

「それじゃあ……外で食べれるように、こっちでサツマイモ蒸したの送ろうかな……」

 次いでにと思い、買ったばかりのおからパウダーの袋を取り出した。

 これも使って料理をしよう。

「蒸し器使うかな〜」


 じゃばじゃば……キュッ。


 ザルに入れたサツマイモを庭の水道でタワシを使って洗い、土汚れを落とす。

 ザザッと水切りしてから下に大きなボウルを重ねて、お湯を沸かし中の台所へ戻った。


 机にまな板を置き皮ごとざく切りにしていく。

「余ったら収納で持って帰ってもらえば良いよね」

 百人の腹を満腹にさせるのは難しくとも4人の腹なら、いけるかもしれない。


「まずはお芋からだ」

 水で洗った木製の蒸し器の中に、クッキングシートを敷いた後、切った芋を並べていく。

「これで……」

 ドンッと蒸し器を鍋に乗せ、弱めの中火にしたら次の作業だ。


「量あるなあ……」

 開けた10キロ袋の中身を、ぼんやり眺める。

 大豆の良い香りだ。

「豆は栄養高いしできるだけ入れたいな」

 おからパウダーは、どれぐらい入れようか。

 水と油を足せば、それなりの質感になるだろうか。


「12個は作りたいから200ホットケーキミックスで、100おからでいこう」

 水は多めに260、卵は1、サラダ油は大さじ2杯に決めた。


「しょっぱさを足そ」

 外で動く人は汗をかくので、塩気がいる気がする。

 ホットケーキミックスは最初から甘いので、甘じょっぱい風味の蒸しパンになる予定だ。

 ならなかったら芋が甘いので口のなかで自力で混ぜてもらおう。


 パカッ! ほかほか……。


 約40分後、蒸し器の蓋を開ければ、蒸されたサツマイモ達が広がった。

 ホクホクしていて甘い蜜が出ている。

「芋は出来た〜銀バットに入れて収納」


 キュ〜……! プシッ! プシッ!


 ヤカンが沸騰した音だ。

 蓋の隙間から蒸気が噴き出ている。

 火を止めて蓋を開け、すぐに麦茶用のパックを入れた。

 茶の味が出るはずだ。


 現状、向こうの季節や気温は分からないが夜は冷える事が多い、腹も温まるだろう。

 なので比較的、温かい状態で収納。

 湯飲みは4つ入れておいた。

 日誌には基本は4人で食糧調達をしに行くと書いてあったので、多分足りると思う。


「百均のお菓子作り用の……あ、あったあった」

 今はクッキーばかりだけどマフィン用に買ったクッキングシートの器型があった。

 そこに、ぽんぽん液体生地を7割ぐらいスプーンで入れて蒸し器内に並べていく。

 計13個できた。

 1個は少ないのでクッキングシートの手作りカップだ。

「うーん、バター乗せようかな」

 小さく欠片を上に乗せて3段蒸し器をセットした。

 最初の数分だけ強火の後に中火にして、10分後に上下を入れ替える予定だ。


 ぐうぅ……。


 小さく自分の、お腹が鳴った。

「あ、自分へのご飯を忘れてた。芋食べよ」

 サツマイモの先っぽは見た目が良くなかったので自分用に残しておいた。

 口に入れて、水道水で流し込む。

 サツマイモの先っぽは口の中の感触も良くないけれど、味は美味しい。


「そういえば、ミランさんの日誌読んでなかったなあ……」

 一息吐いて蒸し終わる間で読む事にした。


 パラリ……。


 綺麗な文字で日誌が綴られている。

 先ずは牛丼が最高だという想い。

 熱弁されていて前の日誌の項目の淡々とした書き方とは違い微笑ましい。

「ミランさんで専用牛丼、食べ切れたんだ……すごいな〜」


 読み進めると朝に雄臭猪肉で作った味が濃い肉を麺と食べたらしい。

 どうも皆、大興奮で大喜びだったそうだ。

 少しの罪悪感と消費出来た安心感が胸の内に広がる。


 臭みの強い特別な猪肉。

 その内、美味しい方の猪肉を食べたら驚くんじゃないだろうか。

 もちろん今ある食材を無駄にする気は微塵も無いが。


「今日はヨーグルト買ってきたから、これで一回、漬け置きしてみよう」

 解凍した猪肉を程良い塊に切り、フードパックの中でヨーグルトに漬けて冷蔵庫に保存だ。


 大量にあったので、している間に蒸しパンが出来たみたい。

 竹串を一番小さい蒸しパンに刺してみた。

「いけたかな?」


 香りはとても良い。

 さすがホットケーキミックス。

 ホットケーキミックスさえ入れたら大抵美味しい。

「あちち……ッ」

 13個中の小さい1個は自分が食べる。


 ペリ……ッ。もぐもぐ……。


「ほんのり甘いけど塩気が強いね。次は……卵蒸しパン……サツマイモの角切り入れて蒸しパンとかも良いなあ」

 熱いので、ちょっと指先を朱くしながら銀バットに並べて収納。


 自分の日記帳を出して今日の事を書いて就寝する事にした。

 朝に起きて収納の空間の荷物が減っていたら買ったサツマイモも入れていこう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ