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第45話 魔物


 カサカサ……パリ……ぱくんっ。


 リーガルはミランから棒付きキャンディを貰って食べる。

 箱ごと大量に出されたので、トトンとグリットも好きな色を選んで口に入れた。


 リーガルが選んだのは薄緑色。

 マスカット風味だ。


「美味しい……」

 ミランから貰った蒸しパンも美味かったが、こうして香りと甘さだけのキャンディも脳にじいぃ〜んっと響いた。


 グリットはイチゴ風味キャンディを口に咥えながら改造車を運転する。

 自然に発揮される能力で天才的なハンドルを動かし、植物魔物に囲まれている街を眺めた。


「あー……彼女と初デートした公園も植物だらけ」

 グリットは残念そうに植物魔物に埋もれた元フラワー公園をチラ見している。


 元々は管理された噴水に、花畑や花のイルミネーションなどが広がり、花を使った軽食が食べれる店もあった。

 1度は行きたいデートスポットとしても有名な所だったのだ。


 トトンはオレンジ風味キャンディ。

 グリットの残念そうな言葉を聞きながら、トトンが何気なく呟く。

「……砂が思ったより少ないね」


 フラワー公園は植物魔物公園と化しているが、フラワー地区に入ってから共通しているのは、植物魔物がいる場所はサラサラの魔物の砂が少ないというものだ。

 現在彼らが見ている景色も粉塵が普段より少く視界が良い。


 ゲーム機を開いて、ユノに子供のリーダーであるリーガルと会えた内容を記入していたミランは、その言葉に街を見る。

「……確かに少ないな」


「少ないのって変なんですか?」

 リーガルが不思議そうな顔をした。


「ん〜? 言われてみれば何だろう? 違和感が……」

 グリットも地面が見える道路を走りながら呟き、ミランも言う。


「……今の世は魔物が倒されると砂になり、増えれば増える程に街は砂に埋まっていく……この街は、あまり魔物を倒していないのだろうか?」

「魔物を……オレは、たまにかな……うーん」


 リーガルは過去に討伐してくれた人達の姿や自分の行動、そして新たに街に増えていた大人達のことも考える。

「植物魔物はオレのことは避けるから……あーでも集まってくる大人達は大抵、燃やしてる気がするな」


「燃やす……燃やすか……」

 ミランは考えながら街を見渡す。


 粉塵はどこでもあるものだが、植物魔物が多く、どことなく砂の割合も少ない。

 蜂は植物魔物の花粉を食べたり蜜を飲み、攻撃はしあっていない。

 夜には梟の魔物が現れるが、倒すではなく隠れ逃げるが基本らしい。


「……燃やす」

 ミランは背もたれに身を預け呟く。


「燃やした場合、この植物魔物はいつ砂になる?」

 彼の言葉にリーガルは少し考える。


「水分がなくなって枯れて萎んで……でも根がはってるから生きているし……砂になる時はなるけど枯れて縮んだ時は、そのままかな?」

 リーガルの言葉にトトンとグリットも難しそうな表情をした。


「枯れるだけで砂にならない……?」

「そういえば花蜜を食べる蜂魔物って、なんか奇妙じゃないですか?」

「蜂が花蜜を食べるのは……いや、待てよ……」

 トトンの言葉にグリットは受けて少し考えた後に言う。


「そうか……死んだら砂になるのに生死でないにしても、餌として何故成り立つのかってことかッ!」

「そう! それッ!」


 ミランは空を飛ぶ大型の丸い蜂魔物を見て呟く。

「……ルールがあるのか?」

「ルール?」

 大人3人が妙に悩んでいるので、リーガルは首を傾げた。


「何か変なんですか?」

 リーガルが思わず言うと、ミランは淡々と言う。


「俺は今まで魔物は死ぬと全て砂になると思っていた」

「そうじゃないんですか?」

 リーガルが不思議そうな表情になった。


「リーガル。例えば俺が飛んでいるあの蜂を斬ったとする。砂になると思うか?」

「なると思います」


 ミランは満足そうに頷いて、リーガルに続きを話す。

「よし、じゃあ次に蜂の羽根だけを切った場合、砂になると思うか?」


「えーっと……多分……羽根が砂に……なると……」

 リーガルは無害な蜂魔物を切った事が無いので、予想で答えている。


「では爪先だけならどうだ?」

 ミランが続けて出す質問に、自信無さ気にリーガルが答えた。


「……多分、爪がなる?」

「では体液はどうだ?」

「体液? 蜂の……」

 リーガルは無害な蜂の体液を考え、『なぜ?』と視線をミランに向けた。


「本来の蜂蜜は植物の花から集め、花粉と蜜で出来ている。花は枯れず蜂は食として蓄えることができたのは何故か。本体から離れたのにだ」

「あ……ほんとだ……離れたのに砂じゃない……」

「これは魔物同士で循環が可能なことを意味していると思わないか」


 ミランの言葉に、リーガルは外の蜂や植物魔物達を見て不思議そうな瞳を向けた。

「……あれ? 魔物って倒したら砂になるけど……もしかして魔物同士だと違う?」


「そう。これは……俺達が生きることに必死で、今まで気づかなかったルールなのかもしれない」

 ミランの言葉に、リーガルはごくっと唾を飲み込む。


「この街は植物魔物に埋まっているが、ある意味では他の街より生き延びられた理由も、元々の生態系が上手く回っていたからだろうな」

「……」

 リーガルは自分の手を握り植物だらけの街に瞳を向けた。


「リーガル」

「は、はいッ」

「ここの植物魔物達は君を覚え、君だけは無害だ」

「……そう、ですね」

 リーガルが何とも言えない表情になった。


「もしかしたら、リーガルは……この街の循環のひとつになり得る可能性があるな」

「え?」

 ミランの言葉に戸惑うリーガル。


「ミラン隊長……」

 トトンが不安そうに声をかけ、ミランはハッとした表情になり、フー……と息を吐く。


「すまない……少し興奮していた。そうであろうと子供達だけで生きていくには過酷なのは変わらない。忘れてくれ」

「……」

 ミランの言葉にリーガルは静かに思考するが、結局は飴の味が美味しくて言葉と共に甘い唾を飲み込んだのだった。



 ***


 ブロロロロ……キキーッ!


 現拠点の雑貨店は植物魔物に囲まれている為、少し離れた位置に改造車を停めた。

 トトンとグリットを残し、ミランとリーガルが向かう。


 これは、リーガルにしか出来ない、植物魔物を使った防御構造だ。


 リーガルが通る事で植物魔物は大人しくなりミランを襲う事もしない。

 そうして雑貨店の駐車場に入ると、廃車ではないものの、古びた車が何台かあり、奥に店舗があった。

 少し大きめの雑貨店のようだ。


「ここはバンの家族の店でさ、可愛い小物から機械的な雑貨品も色々あって……それで試しに通信機を組み立てたら使えたんだ」

 雑貨店に入ると色々な物が所狭しとあった。


「普段は姉さんと決めた日に通信を取り合ってて……今は何故か繋がらなくなっちゃったけど……」

 リーガルは少し不安そうに呟き、ミランは並ぶ卓上ゲームの上の砂埃を手で軽くはらいながら言う。


「そのことも必ず調べよう」

「うん……ありがとうミラン」

 リーガルは不安な気持ちを、ぐっと飲み込んだ。


 数多い卓上ゲームにリーガルも視線を移し、ひとつを手に持った。

「これらとも、お別れか……」

 リーガルが残念そうに呟き、ミランは笑みを浮かべ言う。


「リーガル、俺の能力は収納だ。持って行きたいのがあれば言ってくれ。車1台分ぐらいは余裕がある」

 リーガルは一瞬固まった後に、わッと言い出した。


「えッ! あ……そうか……わー……諦めてたけど良いんだ? え〜じゃあ皆にも言わなきゃ!」

 リーガルは子供らしく瞳をキラキラさせて、他の子達を呼ぶ。


「おーい、皆ー!」

 腕に抱えていた大事な箱をレジカウンター上に置いて、更に呼ぶが返事がない。


「上かな?」

 1階にいない為、2階に向かう階段を上がり、途中の硝子窓の前でピタッと止まるリーガル。


「リーガル?」

 彼の顔が一気に変わって慌てて階段を駆け下り、ミランを無視して裏口に向かう。


 ダダダダダッ!


 ミランも後を追いかけると、リーガルは裏庭に出て、そこには一部が焼け焦げた民家があった。

「……」


「アルト! モーちゃん! バン!」

 リーガルは民家の中に入り、ミランも中に入れば酷く荒れている印象がある。

「どこにいるの? 帰ってきたよ! ねえッ!」


「……」

 ミランは燃えて黒ずんでいる壁に触れ位置を確認する。

 それは自然に燃えた印象では無い。

 燃えている位置が高すぎる。


 割れて、ひしゃげている窓も黒ずんでいる。

 そして窓の先には燃えた跡のある植物。


 視線を向ければ、裏庭の植物魔物の間に、黒焦げた獣道程度の隙間が出来ていたのだった。

「能力者か……」

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