第46話 消息
ザッ、ザッ、ザッ。
青い顔をしたリーガルを背後に、燃えて黒ずんでいる植物魔物の抜け道を通っていく。
「……」
リーガルは家や店舗内を探し回っていたが、信じたくなかったのだろう、目にしていながら避けていた道の前に立った。
この道は分かりきった答えだ。
子供達が能力者の手によって攫われたのだ。
「なんで……なんで……」
リーガルは酷く混乱しているようで、同じ言葉を繰り返しながら燃えて黒ずんだ間を震えながら歩いている。
「リーガル」
「ちがう……これは違う……」
「火の力を使う能力者に覚えはあるか」
ミランは前の道を見つめながら双剣を鞘から引き抜く。
「なんで……オレが出たから……?」
「リーガル」
ミランが足を止めて、もう一度名前を呼ぶ。
リーガルはミランの背に顔が当たり、ふらっと身が傾いて黒い燃えカスが広がる地面に尻もちをついた。
ドサッ。
「……?」
リーガルはミランに呼ばれていた事に気付いたようで、ぼんやりと顔を上げた。
「火の能力者の覚えはあるか」
同じ内容をミランは訊いた。
「火の能力者……」
リーガルは止まっていた思考を動かし呟く。
「新しい住民の……」
「新しい住民とは?」
「あ……その……1週間前ぐらいだったかな……新しく外から来た人達と出会ったんです……ラジオ放送を聴いて来た人達で……そこのリーダーが確か火を使うって……」
「火の能力者なら植物魔物も蜘蛛にも強いか……」
ゴーグル下の目を細め、アンダーパスをミランは思い浮かべた。
または調べてはいないが、地下鉄の道を使って来たのかもしれない。
そこは改造車は通れない為に、最初から除外していた道だ。
「で、でも……彼女はヒマワリの種とガムを交換してくれて……」
「ヒマワリの種とガムを? 交換したヒマワリの種の量とガムの量は幾つだ?」
正確な数を促され、リーガルは戸惑いの表情を浮かべる。
「えっと、ガムは姉さんの分を合わせて5枚……種は……持ってた分全部……これぐらい?」
リーガルは両手で大きく抱えるサイズを示した。
「……そうか。その後、再度……種との交換を持ちかけられたか?」
「え、うん……3日前、ヒマワリの種を収穫した、帰りに道に会って……」
「ガムと交換か?」
「次はラムネの粒を5個と……」
「全部と交換か……」
「うん……」
完全なカモだ。
リーガルが植物成長能力がある為に、正確な種の価値を分かっていない。
彼らは1度目は様子見で交換を持ちかけ、思いがけない量のヒマワリの種に味を占めたのだろう。
後を付けてリーガルの行動を探り、ヒマワリを育成している場所は先に奪われたと予測する。
リーガルは何ヶ所も小さなヒマワリ畑を持っている。
多分だが、荒らされたことに気付いていない。
「リーガル。能力のことは話したか?」
「え? 能力のことは話してないよ」
「ヒマワリの育成場はそれなりにあったな」
「ヒマワリ畑は、えーっと……」
リーガルは指で数える。
「見てない間に少し小鬼に荒らされたりするけど……増えたり減ったりで、今は多分30ヶ所かな」
「ははッ。素晴らしいな。ローテーションで回ってるのか?」
「うん。成長を促す程度だと疲れも少ないから……」
「だとしたら多くとも2ヶ所を取り、ここを3ヶ所目だと判断したか。それ以上のものを期待したか……なあ?」
ドォンッ! シュパンッ!
ミランが黒い道の先に声をかけ、返ってきたのは銃声だ。
銃弾はミランの剣先で斬り裂かれた。
ザリッ。
「ッチ! 妙な車乗ってる奴らって能力者かよっ!」
「あ、アンタら……アンタらが皆を攫ったのかッ!」
リーガルは立ち上がって怒りで叫んだ。
「またヒマワリ畑かと思えば魔物の巣窟に行きやがって……」
そんなリーガルの怒りを無視して男は忌々しそうに言い放つ。
「カモなら、しっかり道案内だけしてろ!」
「マガリが泳がせって言うからしてたけど、ただのヒマワリ育ててるガキなんざ殴って吐かせりゃ良いものを……」
「でも、30ヶ所だとよ」
「肉だけじゃ飽きるからな」
人数は4人。
リーガルが戻るまで待っていたようだ。
マガリとやらはいないらしい。
「……ややこしいな。リーガル、そこで待っててくれ」
「ミラン?」
ズォンッ!
何かを抜ける音がしたかと思えば粉塵が舞い、ミランの姿がリーガルの眼前から消える。
植物魔物の黒い道先で舐め腐って喋っていた男2人は風圧に身が背後へと飛んだ。
「なッ!」
ミランが何かしらの能力者だとは思っても、距離が離れていた状態から銃器を持っている彼らは、簡単に捕まえられると思っていた。
しかし、それは傲りだ。
「ごッ」
慌てて銃を出した右手側に立っていた男は身がくの字に曲がり、唾液が溢れ出る。
「な、なんの能力……がッ」
左手側の男が言葉を言い終わる前に顔が横に向き、噛んだ口から血の混じった唾液が漏れ出た。
「お前達……普段の訓練を怠っているな……」
ようやく姿が見えて地面に尻もちを付いていた男達は、銃で狙い撃つがキンッ、カキンッと音がして銃弾は当たらない。
まるで空砲が繰り返されているだけといった雰囲気に、男達は全員戸惑いの表情になった。
「くそッ!」
顔を殴られた男の1人が悪態を吐きながら黒い道に入り込む。
燃やしたと思われるマガリの不在時に入るのを避けていたようだが、ミランに言われて動いていなかったリーガルに向かって走る。
リーガルを人質に取るつもりのようだ。
それを見てミランは大声で叫んだ。
「リーガル! 力を見せてやれッ!」
ミランが慌てるだろうと思っていた男3人は、その言葉にハッとして視線を奥に向ける。
見ればリーガルは植物魔物の中に飛び込む瞬間で、逃げる為に馬鹿な行動をしたのだと1人は鼻で笑った。
ドォン! ドォン! ドォン!
リーガルを捕まえに行った男は、改造銃を撃つが、迫りくる植物魔物の一部を抉るだけで先に弾が尽きる。
「急に魔物が暴れやがった!」
「くそッ! やってられるか!」
植物魔物が暴れるのを見て、男の1人が逃げようと走り出す。
しかし風圧を感じたかと思えば、身体が反対方向に飛ばされ、劣化している建物へ身がめり込み、男は気を失った。
「ひぃいいッ!」
もう1人の男は尻込みして地面の上で後退り、もう1人は諦めず銃を撃つが手から銃器が叩き落とされる。
「無駄撃ちをするな」
ミランに襟首を持たれると平手でバシンッ、バシンッと頬を叩かれた。
「お前にも話がある」
手元の男が気を失うまで高速平手で頬を叩き終わると、ハイハイで逃げようとしていた男の尻を蹴り、襟首を持って引きずり黒い道へ入る。
「なァアア〜!? なんでぇ中に入んだッ! 死ぬッ! 死ぬってッ!」
慌てる男を持ち上げて、頬を平手打ちすると黙った。
「ミランさん!」
「よし。流石だリーガル」
リーガルは植物魔物が触手で作った椅子の上に座り、銃を撃っていた男はギチギチに触手に身を拘束されて呻いている。
「とりあえず、全員を拘束したい。頼めるか?」
「はい!」
ミランの言葉に、リーガルは素直に頷いたのだった。
***
ザリッ。
足下の砂が靴裏で擦れた。
植物魔物の前側の裏庭。
庭に椅子が四つ並べられている。
椅子を並べた上に座っているのはリーガル、ミラン、グリット、トトンだ。
植物魔物に拘束されているのは7人。
ミランとリーガルが車で待機している2人に事情を話に行けば、3人のゴロツキを倒し終わった所だった。
どうやら改造車を奪おうと催涙弾等で、ちょっかいをかけてきたらしい。
だが元々、砂よけでゴーグルをしてマスクもしているし車の中は多少充満しても大した事は無かった。
「荒業ですけど水蒸気で中のも外に弾き飛ばしておきました」
「素晴らしい。よくやったな」
「はい!」
ミランに褒められてトトンは嬉しそうだ。
「おれも運転して跳ね飛ばしました!」
「うん。車は無傷だ。素晴らしい運転だな」
「はい!」
グリットもミランに褒められて嬉しそうだ。
二人して肩を組んで笑っている。
改造車はリーガルの能力で、彼に従う植物魔物の触手で敷地内に、わっしょいわっしょいと入れられた。
その様子を見ていたゴロツキ達は、全員顔を真っ青にする。
一通りの用意が終わり、まずはミランが口を開いて彼らに訊いた。
「では最初に訊くが、子供達をどこへやった?」
「ハッ、教えてほしけりゃ、それなりの態度ってもんがあんだろーがよッ!」
男の1人が叫んだ。
「態度とは?」
「まずはこの拘束を解け! そして土下座して詫びろ! あと車だッ! その車に、そのガキも渡せば」
パァン!
「いッ!」
植物魔物が男の尻を引っ叩いた。
リーガルの指示だ。
「てめえッ! ガキ共がどうなってもぎゃッ!」
ズボンが脱がされ顕になった尻が再度叩かれた。
「こ、この程度でッ」
パァンッ! パァンッ! パァンッ!
「やめ……ッ、やめて……やめてください……ッ」
何発目だっただろうか。
リーガルに任せて、大人組はそれを静観していた。
ゴロツキの男達は、しくしくと泣きながら言う。
「話します……話しますから……」
尻を叩く。
それは親が子供を罰する時にする行動だ。
ゴロツキ達も最初は痛くとも舐めて発言をしていたが、叩くのは人間じゃ無い。
疲れを知らない、体力が変わらない植物魔物だ。
植物魔物の触手部分は固くしなる鞭と似ている。
力加減の無い鞭で尻が何度も何度も叩かれれば、皮はむかれ傷は抉れ、身は爛れた痕だらけとなっていく。
拷問とは、何度かは耐えられる程度が永遠に続くと分かった時に意味を発する。
リーガルが無意識に拷問を行い、彼らが自白するのを淡々と待ったのだ。
とても優しい少年をここまで怒らせたゴロツキ共は、舐め腐った状態から今は恐怖と後悔に涙を流している。
最初から情報を吐いたとして、これが無くなったかは別の話だが。
植物魔物。
現在リーガルで脅威とはなっていないが、成長した植物魔物は、本来厄介な魔物だ。
小さい時は弱く大したことはないが、建物を飲み込む程に成長した植物魔物は随分と厄介で、その建物全体を燃やして片付きはするが、共存は不可能とされている。
繁殖力が強く、生命力も強い。
根の広がりも尋常じゃなく元々あった畑の栄養も飲み込んでしまう。
そんな状態でヒマワリ畑を作るという奇跡を起こしていたリーガル。
リーガルは気付いていないだけで、何時でもこの街の王者になれる素質を持っていた。
とても優しい少年が武力方面に思考が向かなかっただけで、彼はこの終末世界での、とんでもない強者なのだ。
「よし。話す気になったようだ」
ミランは怒りで眼がギラギラとしているリーガルの頭を撫でるとゴロツキ達に言う。
「リーガルがとても優しい子で良かったな、お前達」
ミランの言葉に泣いている男達は、意味不明な言葉を向けられたと憂鬱そうな瞳を向けた。
「五体満足でいたいなら決して嘘を吐かないように、そして嘘だと分かる度に大事な場所を失うと思え」
ミランの言葉に、ヒクッと喉を鳴らすゴロツキ達なのだった。




