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第43話 フラワー地区


 急くようにフラワー地区に繋がるアンダーパスを日が明るい内に抜けた。

 用意を始めたのは微妙な時間ではあったが間に合い、今はゆっくりと日が茜色に染まり始めている。


 終末前から普通の蜘蛛達は夜行性だ。

 我々の世界と似た存在は、大抵が似た習性を行う。

 違うのは巨大という部分だろうか。


 大きくなるだけと油断は禁物で、特に多くの虫は小さいからこそ人の脅威ではなかった。

 だが、巨大化した魔物は洗練された全ての筋力と習性で人を餌とする。

 きっと捕食される事になった人間達は多くいた事だろう。


 アンダーパスに入る前に一時休憩を行った建物があった。

 外も内も特に壊れた様子はなく綺麗で、そのまま1日過ごしても良さそうな状態の建物。


 ミランは、アンダーパス内を偵察するまでは就寝も視野に入れていた。

 休憩できる場所を見付けたら休憩し進んだ方が効率は良い。

 しかし直ぐにその思考を変え、通り過ぎる事を選んだ。


 魔物の巣が隣接した場所で建物が無事なのは余程の事だ。

 あの状況で予測したのは2点。


 終末が起き直ぐに離れたか。

 気付く前に静かに狩られたか。


 しかし離れたとしても建物が大して荒れていないのは不自然だ。

 この終末において生きようとする人々の必死さを見てきた。


 これは、ただの予測だ。

 世界が終末となる原因のゲートが開いてから、夜な夜な巨大蜘蛛達は移動し、潜み、食し、あの住処を見付けたのだろう。


 そして、ちょうど良い住処に隣接する人間達は脅威に気付く前に多くが餌になった。


 日が出ている時間帯であれば、巨大蜘蛛達は徘徊しない。

 しかし油断し、あのまま残って就寝していたら、餌になっていた未来が容易に予測できた。


 またあの密集したヒル達の存在だ。

 薄い酸でも大量に吐けば車に支障をきたす。

 それが僅かな時間だとしても、あの場所では致命的だ。


 ヒル魔物があそこを通る人間達を足止めし、蜘蛛魔物が楽に捕食する役割を担っている。

 ヒル魔物は大した強さはないが、より大きな餌を捕まえる為に共存する事を蜘蛛魔物が許可しているのだ。



 ブロロロ……。


 フラワー地区は運河に囲まれており水源が豊富だ。

 ミラン達が来た方向とは反対にツリー地区も存在する。

 名前の通りフラワー地区は花々に力を入れており美しい観光地として有名だった。


「おれの彼女、ここの名門フラワー女学園出身なんですよ」

 ミランにグリットは話しかけたが、それを聞いた後ろの部下達が、ワッと声を出す。


「えッ! グリットの彼女そうだったの!?」

「洗練された子が多いって聞いたけどマジ?」

「年に一度のフラワー祭を主催するのはフラワー女学園だよね? 前に観光した時、凄かったなあ〜……」


 周りからの言葉にグリットは過去を懐かしむ表情になった。

「仲が良い上司から貰った身内にだけくれるチケットで、一般公開でない日の学園で行うフラワー祭に行ったけど……本当に凄かった……あ、それで今の彼女に出会ったんだけどなッ!」


「ひえ〜」

「上司から身内チケット貰えるとか凄くね?」

「身内……まさか彼女って上司の娘さん?」

「そう。半分見合いみたいな感じでもあったなあ」

 グリットが嬉しそうに答えた。

「マジかよ〜!」

「羨ましい〜!」


「そっから、お付き合いが始まって……彼女が卒業したし婚約式に向けて準備してたらゲートでさ〜」

「うわぁ……」

「海のゲートって開いた場所が不明って最初の頃のニュースに何度かあったな……」

「まあニュースも、その内にしなくなったけどさ……」

 過去を想像したのか、部下達の表情が少し暗くなった。


 ミランはトランシーバーを点けると声を上げた。

「予定通り、このまま子供達の拠点の1カ所に向かう。そこで持ってきた通信機器を起動し連絡と休憩をとるとする!」

『『了解ッ!』』


 2班、3班から返答が聞こえ、背後の部下達にもミランは声をかける。

「急ぐぞ。遅くなりすぎると子供達の就寝時間になってしまうからな」


 ミランの話逸らしに部下達はスッと背筋を伸ばし、気持ちを切り替え、声を上げたのだった。

「「「はいッ!」」」



 フラワー地区は広く、乗り捨てられた車や徘徊する魔物もいる。

 それらを退けながら、子供達に教えられていた拠点に辿り着いた。


 ミラン達は子供達を迎えには来たが、直ぐに対面はしない。

 彼らの心が土壇場で変わる事もあるからだ。


 自分達は知らない大人だ。

 警戒は随分と取れてはいるが、それでも初対面は怖いものがあるだろう。


 持ってきた通信機器をセットした。

 部下達は拠点の中に魔物がいないか調べたり、周辺を調べる。


 調べた結果は脅威は無い。

 そのまま夜に向けての就寝の準備も並行して行われた。


 カチッ。


 ダイヤルを調整して繋がるかを待てば少しして交信が適う。

『……怪我してない?』


 リーガルの最初の言葉に頷きながら、マイクに言葉を返す。

「ああ。俺達は強い。無傷でフラワー地区まで来たぞ」

『『おおー!』』

 子供達から歓声が上がった。


『前に植物魔物が多いって話したけど……他にもフラワー地区の内側には、蜂っぽい魔物がいるよ。ただ、蜂魔物は人は食べず植物魔物の花蜜を食べてるみたい』

 リーガルの言葉から新たに知り、ミランは眉を上げた。


……──花蜜を食べている……? 砂になる魔物の花蜜を……


『植物魔物は近づきすぎた人間を捕まえて食べるけど、移動は全然しないから比較的静かかな』

『リーガルの能力とは相性良いよね』

「相性?」


 ミランが呟くとアルトから言葉が返ってくる。

『僕らは魔物の花蜜は食べられないけれど……魔物蜂は花蜜が好きなので、植物魔物を成長させれば、そちらに殺到するんです』


『植物もさ、リー君が水無しで成長させ過ぎたら一気に枯れるしな!』

 バンも浮き足立った声で便乗した。


『アイツらも覚えたみたいで、絶対にリーガル君だけは攻撃しないんです』

 アルトも説明を補足する。

「攻撃をしない……?」


 それは予想外な発言だ。

 魔物の学習能力。

 それは知識と言える。


 小鬼が股を隠す事も、半魚人が人を生け簀にする事も、巨大蜘蛛が獲物を狩る為に共存し潜む事も知恵のひとつだ。

「……」


 ミランが少し思考の中に行っていれば、子供達の会話は続く。

『ねえねえ、今どこ?』

『早くサツマイモ食べたい!』

『うんうん。お腹すいたねモーちゃん』

「今は教えてくれた拠点の博物館の中にいる」

『あ〜あそこか』


 博物館はフラワー地区の歴史が展示されており、食糧は無い。

 飲水は無理だが、トイレや電気系統がエコを意識した設備で現状使えるという利点が素晴らしい。

 しかし、それ以外にあるのは過去の歴史だけ、食糧を求める人々はあまり寄り付かない場所だ。


『そこって年中、温度が変わらなくて夏に良い感じなんだよね』

『冬は温度調節してあっても広いから寒いけど』

『今みたいに寒い時期は狭めの方が温かいもんな〜』

 子供達は共に3年過ごしていく中で循環方法を覚えたようだ。


「君達と対面は直ぐにしたいと思っているが、大丈夫だろうか? 俺達と会うのが怖ければ、最初から全員で会うのを避けようと思う」

『……怖くないかと言われたら怖いよ』

 リーガルが通信の向こう側で呟いた。


『だけど今は腹が減って仕方がないんだ。オレは大きいから、まだ大丈夫だけど3人は……』

『僕も、まだ大丈夫。ただ、モーちゃんとバンには食べさせてほしい』

 アルトも通信の向こう側で呟いた。


「ううう……良い子達……ッ」

 言葉を聞いていたトトンが横で涙を滲ませ出した。


「よしッ! じゃあさ、おれが運転をして通信をよくしているトトン、ミラン隊長で会いに行きましょうよ」

 側で聞いていたグリットが、そう意見を出す。


「拠点で会うのが嫌なら、新たに指定してくれた場所でも良いしさ。どう?」

『会うなら最初はオレが会う。リーダーだからね』

 リーガルが向こう側で意を決して、そう言った。


 どうも夜に蜂の魔物は落ち着き、光合成の問題か、植物魔物も比較的静かになるらしい。

 しかし逆に女を探す人間が闇夜で動き、時折小鬼と黒狼も徘徊するようだ。


 そして夜に特に厄介なのが、梟に似た魔物達。


『黒狼は率が低いし、小鬼は大して問題ないんだけど……人間は拠点を覚えられたら、もうそこは使えなくなるから会わないよう気を付けてるんだ』

 アルトが苦々しく呟いた。


『そんで、でけー梟は夜目が凄くて静かに来るんだよね。おれらはリーガルいるから昼間は平気なんだけど、夜は無理』

 バンも補足をする。

「分かった。では日が顔を見せた早朝に会おう」


 明日の朝、リーガルと会う事が決定した。

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