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第4話 百人前のオカズ


 ゴクゴクゴクッ。


 家に帰ってシャワーを終えて林檎ジュースを飲みながら集中し、収納空間の中を確認した。

 朝入れておいた素麺や、買ったクリームパンの箱がない。

 『遠慮せずに食べてね』と添えていたから早速、食べてくれたようだ。


 残っているのはユノの日記と彼の日誌だ。

 ふと、彼の日誌に厚紙の手紙が挟んであるのを発見した。

 何が書いてあるのだろうと、取り出して開く。

「あ、ミランさん以外の人達?」


 どうやらミランはこの繋がりの事を基地の人達に話し、結果彼らは感謝の寄書きのような手紙を書いたらしい。

「わあ〜……賞味期限で罪悪感。あ、結晶石が今日もある! やった〜!」


 対価としてくれる結晶石。

 こんな良いものに対して、返しがあれだけで良かったのかとも思う。

 だが今は、結晶石を手の平に乗せた。

 朝と同じように結晶石が吸収されていく。


 内側に何か未知のものが入り込み、身体が熱くなって軽くなる。

「まさか……」

 熱い身体。

 心臓が興奮でドキドキと鳴った。

 じんわりとした熱は身体に変化を与えている。

 高揚し朱くなった顔で脚を見る。


 緊張しながら、ゆっくり腰を上げると立ち上がれた。

「立っちゃった……普通に立っちゃった……!」

 結晶石で脚の痺れが無くなっていても、これほどまでの変化があるとは思っていなかった。


 右脚が変じゃない。

 右脚が変じゃないのが変で、それは奇跡だ。

「うそ……本当に? 治ったの? 吸収したの、たったの2回なのに……?」


 試しに家の中をゆっくり歩き回り、変化をじっくりと味わう。

「凄い……本当に凄い……!」

 興奮してユノは無意味に家の中を周回してしまった。


 洗面所まで歩きに来て鏡に自分の顔が映る。

 顔色が良い。

「もしかして……」

 家で付け替えた医療用眼帯を外し、右の瞼を動かす。


 ぱちぱち……。


 右眼は暗い世界だ。

 今は義眼を入れていないので慣れた空洞がそこにある。

 今は目ヤニは無く炎症しておらず綺麗なものだ。

 空気に当てすぎると渇いて痒くなってしまうので気になるが閉じた。


 やはり右眼は内側にモノが無いから無理だろうが、左眼の視力が良くなった気がする。

 それは充分な変化だ。

「もう、ばあちゃんみたいに凄腕の猟師にはなれないって思ってたけど……罠免許は持ってるし今年もやろうかな……」


 祖母は猟師で、もの凄く格好良い人だ。

 冬の解禁の短期のタイプではなく、年中猟れる許可を持つ協会の副長を務めるパワフルばあちゃんだった。

 後、おじさま方にモテモテで、いつも野菜とかのプレゼントを貰っていた。

 祖母の武勇伝が懐かしい。

「ぁあ〜! 考えると涙出てくるッ! 違う事しよう!」


 食糧庫の奥にある電気代が高い原因の業務用冷凍庫3つには、祖母が生前狩った猪肉、熊肉、鹿肉、その他肉が残っている。

 この前の寸胴カレーは特殊な猪肉カレーだ。

 他は美味いが発情期の雄の猪肉だけは獣臭いので、毎回カレーにするしかない。


 あれを終末世界の皆さんは美味いと言って食べてくれた。

 頑張って臭みを消しながら作ったかいがあったものだ。

 空っぽは驚いたけれど正直、個人消化がキツすぎたので食べてくれて嬉しかった。


「どうにか消化しなきゃと……毎回、苦労するんだよね……」

 大抵は自分で責任を持つが、一部の猟師は安くネット販売という手も使っているようだ。


 しかし、これらの肉は生前の祖母が狩った猪肉なので責任を持って調理したい。

「渡した麺類に乗せるオカズとして、生姜や長葱で煮込にするか……先ずは圧力鍋だね」


 グツグツ……!


 鍋を3つ用意し、水を入れて沸かす。

 冷蔵庫に移して解凍しておいた猪肉をブロックに切り分け、沸騰させた鍋3つで灰汁抜きで煮て、茹で猪肉が出来たらお湯を捨て洗う。

「1種類のオカズだけど百人分は多いなあ……」


 目の前にあるのは大量の生姜。

 これを手ですりおろしにするのは大変なので電動のフードプロセッサーで適当に切った生姜を、ポイッと入れ細かくしていく。


 ゴガガガガガ……ッ!


「反発つよ……!」

 量が多かったので、ちょっと凄かった。


 そこから茹で肉をコーラと摩り下ろし生姜に浸けた。

 臭みが強すぎるので味を誤魔化すのだ。

「……コーラの方法は、ばあちゃんに教えてもらったんだよね……んんッ」

 つい感傷に浸ってしまう。


「できるだけ美味しく食べてはほしいし……」

 もちろん発情期の雄猪以外の猪肉では、ここまでしない。

 普通に焼いて食べたりする。


 浸していた肉が冷めた。

「お鍋にいれまーす」

 ブロック猪肉を圧力鍋に入れ清酒、醤油、先程の炭酸抜けコーラ&摩り下ろし生姜、唐辛子、ローリエ、長葱の棒を何本も入れて圧力鍋でグツグツした。


 1回冷ました肉と共に煮ると、とても良く周りの味を吸収する。

 そして圧力鍋で煮れば、それはもう肉を壊しまくって、独特なツーンとした臭みの影を消し去れるんじゃないだろうか。


 とても煮えた塊を、大きな銀バットに移しローリエは取り除く。

「あちち……」

 肉裂き器具を両手に持ち、柔らかくなった肉をほぐした。

 調味料と肉の香りが混ざった湯気が顔に、ブワッとかかる。

「あ、美味しそうかも」

 ほぐすごとに漏れてくる香りはとても良いので成功かもしれない。


 広い銀バット上に山盛りに盛られた味付きほぐし肉。

 生姜の匂いが凄い。

 これだけ調味料感が強いと腐りにくいかもしれない。


 そこら辺はとくには考えていなかったが調味料代わりに使うなら、その方が良いだろうな、と思う。

「そういえば……あっちの気温って、どんな感じなんだろう?」

 文字が同じだったように季節も似ているのだろうか。


「よし、とりあえず味見しようかな」

 肉裂き器具に付いていた残り部分を指で取って口に入れてみた。


 ぱくッ。


「ふう……まあ……うん……遠くにツーンとした雄臭……くッ! ここまでしてもなお……」

 出来上がりを味見してちょっと溜息を吐き、上に大量の黒胡椒を振りかけて味を誤魔化し収納する。

「これは……生姜と胡椒の肉っぽい調味料……味濃い濃いだー!」


 かけて混ぜてを繰り返し完成した。

 味の濃いほぐし肉だ。

「ふふ……共に食べて行こうぜミランさん……」


 残しておいた昨年の素麺を茹でて、煮麺を作り上に少し残しておいたほぐし肉を乗せて食べる。

「……いける。ちゃんと、食べれる」

 なんとなく調味料で誤魔化しが効き、食べ切る事ができたのだった。


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