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第3話 買い物へ行こうか


 朝起きて、気になっていた収納空間の中を見る。

「ない……」


 丼の中身が消えていた。

 収納自体が食べたのだろうか。


 ドキドキしながら丼を取り出すと内側は綺麗に洗われていた。

 内に紙が1枚と何か妙に赤い石が数個。

 血が宝石になったみたいな色だ。


 石は触らず別の意思を感じる紙を開いて読む。

 『犯人は俺です。油そば最高に美味しかったです。俺の日誌も読んでみてください』と書いてあった。


 予想外に丁寧に書かれた文字。

 生物が収納できない空間に人間。

 なぜか収納空間に意思疎通ができる相手が存在する事実に目を見開き、少し固まるユノ。


 しかし10秒程して収納能力自体が飯を食べるよりは可能性が高いかと、誰も見ていない中で頷いた。

「日誌……あ、本当だ。あるッ!」


 ワクワクしながら大食い君の日誌を読む事にした。

「え……?」

 日誌には彼の世界の現状が書いてあった。


 終末世界。

 彼は食糧が日々ない世界で3年を迎えている。


「大食い君じゃなくて……ミランさん、か」

 ミランが書いた文字を指先でなぞり読み進めた。

「ミランさんは異世界の人で……皆とカレーを分けたの? 寸胴で作っておいて良かった……でも、足りないよね?」

 収納空間に特殊な誰かが入り込んだのかとも思ったが、それも違った。

 どうも互いの収納能力が繋がったようだ。


 ミランという人と同じ能力が繋がった現象は不明だが、元々不思議な現象なので今更だ。

「終末世界……お腹が皆ペコペコなのか……それは絶対に辛い……」


 薄っすらと祖母に預けられる前の自分が重なって、なんとも言えない気持ちになる。

「うん! ばあちゃんなら腹いっぱい食え! って言うよね」

 今からの行動は、ただの同情だ。

 偽善ではあるが、こうして知人となった今、家の中にある何かしらを渡すことにした。


 さて、一軒家というのは食べ切れない物が思った以上にあったりするものだ。


 ガパッ。


 一時保管用の食糧庫を開けて、棚に未開封で置いているお中元類に視線を向ける。

 これらは美味しい。

 しかし食べ切れない。


 祖母と暮らしていた頃から余りがちな素麺類だ。

 悲しいかな、去年の分もいっぱいある。

「お中元にもらった大量に余っている素麺類……めんつゆボトルと一緒に収納だ!」


 ユノは、そこまで良い奴では無いので未開封の去年のも送った。

 賞味期限切れでも日陰で未開封なので味が落ちたくらいだろう。

 煮麺にしたらまあ食えるはず、とは言って共に行こう精神は存在する。

 なので今日は古いのを最後に煮麺で一束食べよう。

 お腹を壊すなら、ユノも壊す。


「それと……未開封の唐辛子の袋、塩、砂糖、あ、胡麻とラー油……鶏ガラ、鰹節……胡麻だれも入れておこう」

 食糧庫の調味料が、どんどん消えていく。

 多分これだけあれば、ある程度味変して食べれるはずだ。


「素麺は百人前は多分あるかな? それにしても、その人数ってなると……これも1日ぐらいかな……?」

 悩みながら食糧庫を出て、ふと目に付いたミランがくれた結晶石という石を触る。

 彼の日誌で読んだ内容では結晶石を素手で握ると能力が向上されるらしい。

「わ……」

 温かい。

 温かい熱が身体の内側で全身に広がっていく。


 じわじわ……じわじわ……。


「お? ぉお……本当に吸収された感覚……ひえ〜……」

 さっき味わった感覚に驚いて、ぼんやりとしていたら、違和感にハッとする。


「あれ?」

 ソファーに座って投げていた右脚に視線を向け軽く揺らす。

「うそ……え? 本当に?」

 信じられない気持ちで膝を曲げ普段の感覚との違いに息を飲んだ。


 結晶石を吸収してから右脚の痺れと痛みが急に治まった。

 これは、どういうことだろう。


 日誌で読んだ通りなら、使うと能力向上が行われるらしい結晶石。

 ユノ個人の感覚だと収納の空間に変化は感じられなかったが、自分の脚が痛くないのは奇跡だ。


 子供の頃の事件から壊れた脚。

 一生治る事は無いと言われていた脚。

 もう治すことは完全に諦めていたし、過去求めていたのは出来る限りの痛みの軽減だ。


 しかし、祖母が亡くなってから痛み止めを病院に貰いに行くのも止めていた。

 ちょっと前まで全てが億劫だった。


 祖母の存在が消え、息ひとつも辛いのに脚など気にする暇なんてなかったのだ。

 不思議な繋がりがユノに変化と気力を与えている。


「動きにくいのは変わらないけど……薬を飲まなくても、痺れて痛くないのは最高すぎる……ぇえ……これは何か、お礼しなきゃだ」

 一生治らないとされていた怪我だ。

 結晶石を取り込んで、すぐに軽減するなんて嬉しすぎる。


「スーパーに行こう!」

 痛みが抜けて、感謝と奇跡にハイテンションになったユノは、そう決めたのだった。



 元々、脚が動きにくくても車の運転は出来るように国に許可をとって改造されている。

 片脚と両手で操縦ができる改造車だ。

 出来なければ田舎暮らしは難しい。

 安全運転で田舎の、ちょい先の大型スーパーに到着した。


 ここのスーパーは、半ば業務用スーパーみたいにひとつの量が多い。

「とは言って何を買えば嬉しいかなあ……」


 ガラゴロ……ガラゴロ……。


 パスタ麺コーナーで大量買い専用の2箱をカートに乗せて、ツナ缶も2箱カゴに乗せた。

「ふむ……」

 買い物開始5分、現状でカートが埋まってしまった。

「めんつゆボトル増やしておこう。これがあれば大抵美味いし」

 それでも、めんつゆの元の特大ボトルを2本バランス良く乗せた。

 流石に諦めて会計に行った方が良い雰囲気だ。


 しかし、手で支えればいけると解釈し何か直ぐに食べれるパンも買おうと見に行けば、クリームパンの賞味期限が今日までで、全半額セールをやっていた。

「おお……!」

 これは運命な気がする。


 大量に品出ししている学生風な店員に声をかけてみた。

「すみません。この半額クリームパンって大量に買うって可能ですか?」

「え? あ、えっと……少し、お待ちください」

 若い店員はバックヤードに行って直ぐに大人の店員を連れてきた。

 パンの責任者だろうか。


「こんにちは。えーっと半額のクリームパンを買ってくださるようで……どれぐらい……?」

「3万円分なら出せます」

「やった! あ……ははは。実は発注ミスで大変な事になってまして……クリームパンは現状、580個、一応、他のお客様の分も考えて500個まで、いかがでしょうか?」

「はい、ぜひ。ちょっと人数の多い知り合いが、すぐに食べれるものが欲しかったんです」

「なる程、なる程。お車でお越しですか?」

「はい。台車貸してくれたら自分で入れに行きます。詰め終わったら台車返しますね」

「駐車場まで、この子が持っていきますよ。先に値段のバーコードだけ渡しますね」

 さっきの子がペコッと頭を下げ、男性は何かの機械でバーコードを印刷した。

 これをレジに持って行くと会計が完了するようだ。


「あ……お手数おかけします。ちなみに駐車場は屋上です」

「了解しました。では直ぐにご用意します」

 現金は5万円持ってきていたのでパスタ麺、ツナ缶、クリームパンを買って屋上へ向う。


 車の後ろを開けて入れるフリをしながら全部収納し終わると若い店員が2人台車でクリームパンを段ボールに入れた状態でやってきた。

「入りますかね……?」

 店員2人は車を見て戸惑った顔をした。

 本来なら車に入れるには難しい量だ。


 これは周りからは奇妙に映るだろうが、収納能力があるユノには関係が無い。

「ありがとう。地面に箱を置いて仕事に戻ってください。直ぐに知り合いが来て持って帰りますので」

 時に嘘も方便だ。


「あ、そうなんですね! お買い上げ、ありがとうございます!」

「実は発注ミスしたのオレなんです……80個のつもりがゼロひとつ多く打って800個って……今日までギリギリ売ってたけど……は〜……お姉さんマジで救世主っす!」

 少年の言葉に、ユノはにっこり微笑んだ。


「え〜? 君のおかげで、お腹が空いている子達全員に行き渡る量が手に入ったから、むしろありがとう。でも次は気を付けなきゃだ」

「うっす! 気を付けます!」

「あはは。じゃあね。仕事ファイト〜」

「「がんばりまーす!」」


 元気な2人は台車を押して帰って行く。

 ユノは少しの間見送り、箱を車に入れるフリをして全部のクリームパンを収納したのだった。


 帰り道、久々に牛丼屋に行って温泉卵付き並牛丼と豚汁を食べ終えた後、ミランに渡す分で超特大特盛を半熟卵3つ付きで注文した。

 特盛の3倍らしい。

 滅多に出ないらしく、ざわつかれた。

 ちょっと面白い。



 ブロロロ……ブロロン……。


 車を運転しながら助手席に置いたレシートが視界に入る。

「……百名分毎日は、ばあちゃんの遺産と慰謝料だけだと直ぐに無くなるよね……うーん」


 ユノは普通に暮らすなら金銭面に余裕がある。

 遺産、加害者からの賠償金、国からの援助など、それなりにあるので半年、ぼーっと過ごしていてもなんの支障もなかった。


 家も自分のもので祖母コミュニティで野菜や肉は多い。

 食費もそうして、あまり使ってこなかった。

 今は、ある程度は余裕があるが湯水の如くは使えない。


「ばあらぶ日記を描いてた頃はサイト収入が少しあったけど……もう描けないし……」

 車を運転しながら独り言をし、帰宅する。


 広い倉庫に車を止めて、ふと近所の農家の知り合いを思い出す。

「そういえば、今年はサツマイモが豊作って言ってたなあ。明日、買えるか聞いてみよっかな?」

 お店で買うよりも農家に直接買い付けの方が安い。

 大量に買ってできるだけ資金を減らさないなら、これが良いような気がした。


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